青春は恒星のように輝いて 作:orchid
「来夢さんは、目玉焼きに何をかける?しょうゆ派?塩派?それともソース派?」
「私は……マヨネーズ派かな」
「おぉ、まさかの第4勢力!?」
私はわざとらしく驚きの声を上げましたが、来夢さんの意見には大いに賛成です。
ですが、卵にマヨネーズが合わない筈は無いと思うんですけど、案外マヨネーズと答える人は少ないんですよね。
そもそもマヨネーズが万能調味料だからかな。
あれは卵でなくとも、何だって合いますからね(独自の好みを押し付けていくスタイル)。
マヨネーズは森羅万象。永久不滅。天下無双。
誰か、共感してくれる人いないかなぁ……(笑)。
過剰摂取は危険ですが。
まぁ「何もかけない派」もいるらしいですね。
素材の味を楽しみたいだとか。
理由や好みは人それぞれです。
チョコミントアイスも然り(葵ちゃん好き)。
因みに私はこしょう派です(唐突なマヨネーズへの裏切り)。
「来夢さんって、日頃は何やってるの?」
「んーと……お絵描きしたりとか、音楽聴いたりとか……アニメとかも観るかな」
「へぇ、いいなぁ!」
話してみるまでは分かりませんでしたが、来夢さんって、結構普通の女子高生ってイメージなんですね。
いつも暗いイメージがあるので、何となく、そういう物とかからは対極に存在しているのかと思ってました(超絶失礼)。
テレビとか観なさそうだなぁ、とか考えてたけど、実際テレビ観ない人って少ないのかな……。
でも、ニュースとかであれば、スマートフォンでも見ることは出来ますしね。
このご時世、テレビが無くたって新聞読まなくたって、携帯電話が有れば必要ないですもの。
私は持ってませんけど。
必要性がありませんから。
……やっぱり私ってズレてるのかなぁ。
最近はつくづく思います。
「どんな絵を描くの?」
「割と色々……かな。名探偵コ○ンのキャラとか、浦島坂○船とか……」
「え、すごい!来夢さんの絵、見てみたい!」
私がそう言うと、来夢さんは、机の中から一冊のスケッチブックを取り出しました。
そのスケッチブックには、どのページにも、綺麗な色で塗られた、柔らかいタッチの絵がありました。
沢山の、色とりどりのキャラクターがいます。
来夢さんって、意外と沢山のアニメを観てるというのが、見て分かりました。
「可愛いなぁ……」
おっと、つい心の声が漏れてしまいました。
ですが、そのキャラクター達は本当に可愛くて、クオリティもかなり高い物だと思います。
私など、来夢さんの到底、足下にも及びません。
以前、私の描く猫は犬と区別がつかない、と言われた事があります。
あれはショックでした。
事実ですけど。
どうやら、彼女の描く絵の殆どが、彼女オリジナルのイラストらしいです。
素直に驚嘆です。来夢さんって、絵の才能があるんでしょう。これなら将来イラストレーターの道も歩めるのではないでしょうか。
おぉ、これは月下の奇術師様ですね。この人は知っていますよ。町でちらほら見かけます。
本屋さんとか。
今年の映画も確か、この人と格闘家の人が看板だったような記憶があります。
そんな純白の怪盗さんのページを
緑、紫、赤、黄色。
この4人が、さっき来夢さんが言っていた人達でしょうか?。
「これが……浦島○田船だよ」
なるほど、この方々ですか。来夢さんの推しキャラは緑色の方だそうです。あ、このたぬき可愛い。ペットなのかな。
「私は音楽つながりで好きになったんだ」
「へぇ~……じゃあ、歌手さんなの?」
「うん、歌い手さんって言うやつだね」
歌い手さん。今どきはそういう言い方をするんですね。
昔から、歌い手という言葉はありましたけど。
来夢さんはCDも持っているらしいです。残念ながら、ライブのチケットは手に入らなかったそうですけど。
今度調べてみましょうかね……たぬきさん。
因みにたぬきさんはやまだぬきという名前だと、来夢さんが教えてくれました。
「どんなアニメ観たりするの?」
「何でも……かな……。東京喰○とか、○ナンとか、イナ○レとか……」
ほうほう。雑食なんですな。
やっぱり、アニメは好きみたいです。
しかし、私はあまりアニメには詳しくないので、話にのる事が出来ませんでした。
残念です。
しかし、好きな物について話す時の来夢さんは、心なしか、ちょっと明るくなっているような気がしました。
来夢さんと話す為に勉強しようかな……。
そんな感じで、席替えをしてからというもの、私と来夢さんはそこそこに話すようになりました(当然、猫のぬいぐるみを介してですけど)。
いつもは1人だった休み時間も、最近は2人です。
楽しいです。
本当に楽しいのですが、1つ、気にかかる事があります。
それは、時折見せる、彼女の暗い表情。
いつも通り。
それを言ってしまったら、それまでの話なのですが。いつも暗い表情だからこそ、私は不安になるのです。
そのくせ、私と話してるときには明るい表情になるのですから、無理をしてるのではないかと、疑ってしまいます。
話してる内に分かってきたのですが、来夢さんは優しい人です。
だから、きっと、私が「私の事、嫌い?」と尋ねたって、彼女は否定するでしょう。
私を傷つけようとしない為に。
それに、そうやって聞いたところで、より面倒な奴に思われてしまうだけでしょう。
相手のパーソナルスペースにずけずけ入り込むのも、あまり良い人とは思われないですし。
故に、私は待つのです。
もっと話して仲良くなって、向こうから話してくれるまで。
向こうが、話してもいい人と思えるまで。
私は、待つのです。
その日は、何の前触れもなくやってきました。
私は今でも、後悔しています。
私はなんて、愚かだったのかと。
彼女の本当に望んでる事に、気付けなかった。
──
6月上旬の金曜日。青林高校は週5なので、明日明後日は休日です。
いつもと違って、今日は雨が降っています。
梅雨の時期ですね。蒸し暑いのは苦手です。
雨は嫌いじゃないですけど。
雨に打たれるっていうのは、何となくテンション上がるんですよね。
自分でもよく分かりませんけど。
いつもと違うのはそれくらいで、他に特筆すべき事はありません。
いつも通り、時間に余裕を持って登校して、いつも通り授業を受けて、
あー。来夢さん本当に癒やし。
見てるだけで浄化されていく。
こういうの何て言うんでしたっけ?
パワースポットでしたっけ?
「来夢さんって、ほんとに可愛いですね……」
「……そんなことないよ」
「えー、ほんとですってばー。来夢さんは可愛いですよー」
「……ないないですよ」
来夢さんはどうやら、すぐに自分の事を否定する癖があるみたいです。
彼女は自身のことが嫌いなのでしょうか。
「……来夢さんは、かなりネガティブですよねー。もっと自分に自信持って良いと思いますよ」
「……」
ありゃ、沈黙を決め込まれてしまった。
どうやってフォローしようかな、と思った瞬間に
『キーンコーン』
と、次の授業の予鈴が鳴った。
あ、次の授業の準備しなきゃ。えーっと、次は現代文か……普通。良くも悪くもない、って感じです。
小説や、本を読むのは大好きですから。
それでも、授業でやる現代文って、何となく堅苦しいから好きとは言えない。
まぁ、嫌いじゃないから良いか。
授業中に隣を見ると、来夢さんはずっと上の空だった。
ノートはしっかり採っているのだけど、先生の話はあまり聞いていなさそうだった。
指されることも無かったので問題はなかったけど、今日は一段と暗い気がした。
何か、別の事を考えているような。
私の思い違いかもしれませんけども。
ふと窓の方を見ると、雨は
──
夕日が照らし出す道に、影が2つ。
二種類の音色を奏でる、足音のデュオ。
今日は特筆すべきことはないと言いましたが、あれは嘘でした。ごめんなさい。
何故なら、私は今、帰り道の途中なのですが、今日は来夢さんと一緒だからです。
実は先ほど、勇気を出して(半分くらい冗談のつもりで)、
「来夢さん、今日は一緒に帰りませんか?」
と言ったら、まさかまさかの承諾を頂けたのです。
やっふーい♪。
彼女は途中まで帰り道が同じだということを、お話してる内に知っていたので誘ってみたのです。
受け入れてくれるとは思っていませんでしたけども。
良いのかな……こんな私なんかと。
そんな事を考えていると、気付かない内に、私の口からは言葉が零れていた。
「……来夢さんは優しいね」
「……え?私、何もしてないよ?」
彼女は苦笑いをする。
まぁ、突然言われても困るよね。
「だって、こんな私と一緒に帰ってくれるし、話し掛けたら、返してくれる。とっても優しいよ」
私は正直に言いました。嘘を
でも、私は多分、間違っていたんです。
ヒントは沢山有った。
多過ぎるくらいに。
あからさまなほどに。
私はいい加減に、気付くべきだった。
「……あはは。スピカちゃんの方が優しいよ。」
あぁ、私はきっと、彼女にどんな風に罪を
私のせいで、彼女に、こんな顔をさせてしまったのだから。
彼女は、確かに笑っていたけど。
それは、ヒビが入っているくらいに。
見え見えの、作り笑いだったから。
「ごめん、私、家、こっちだから。またいつかね」
「え……あ、うん。またね……」
私はそれ以上、何も言う事が出来なかった。
彼女の声が、震えていたから。
こうして、私と来夢さんは別れた。
彼女の家はこの道ではなく、もっと先に行った道の方が近い。
だから、彼女が嘘をついていたのは、分かってた。
でも、私は追い掛けることはしなかった。
来夢さんと過ごす時間を、気付かない内に『いつも通り』なんて呼んでいた私に。
私なんかに、彼女の手を取る資格なんて、なかったから。
私は
ただ茫然と、彼女の背中が見えなくなるまで、立っていた。
夕焼けの中、遠くで響くサイレンを。
固まったままで聞いていた。