夏に咲くスノードロップ   作:Eクラス

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〇10〇 悩め、青春!!

 天文白金野球同好会の初めてのミーティングはこれにてお開きである。

 

 

「あーなんだかむしゃくしゃしてきた! カエルの血が滾るというか、ちょっくらここであのヤンキーくん一発シメなておかないとボクの気がおさまらないのだぜ!!」

 

「オー、ソウシ探しにいくのデスカー! なんだか面白そうなのでワタシもお供しマース!!」

 

 

 そういって、一番に理科室から退出マシロ先輩とソニアたんであった。仲いいな、あの二人。しかし、この時間帯、帰宅部のヤンキーくんは果たして学校に居残っているだろうか。

 

 他の生徒たちもそれぞれ解散していく。あの試合を観て、入部をどうするか相談し合ったり愚痴だけを言うだけ言いあったりしながら退出していく。中には、私には無理だとすすり泣きしてしまう者がいたり、それを爽やかイケメン先輩が慰めていたりと、いろいろだ。

 

 そんな中、あの三人組はまだ席を立っていなかった。三船達もあの試合を観て、これから3人でどうするか相談するのだろう。

 

 

「あの女だ……」

 

「三船氏?」

 

 

 三船小太郎(みふねこたろう)の声は震えていた。この世の終わりだと言わんばかりにテンションが低い。

 

 

「あの女だよ、うちの中学の頃にいた恐ろしい女って話したべ……」

 

「あぁ、お前が野球やめた理由になった女子か……」

 

「忘れもしないべ。いや、思い出したくなかった……」

 

 

 三船にとっての黒歴史。

 

 たとえば、兄妹喧嘩で代わりになるキャッチャーを探していると後輩美少女に涙ながらに相談された童貞はどうなるだろうか。じゃあ、俺がキャッチャーするべ!と志願して、いざ少女のストレートを受けてみけてみようと構えたら剛速球が飛んできて痛い思いしたり。そして、使えないからポイされたとか……。

 

 

「まさか、同じ県内に……てっきり関西の強い高校にでも行くかと勝手に淡い期待をしていたのだが、いや、あの女の実力を考えれば常勝無敗の王者・琉惺学院は妥当だった。くそっ、あまりに軽率だった。あれを倒して甲子園行くだって? 冗談じゃないべ」

 

「でも、俺たち丸坊主までもうしてるんだよなー。退路を断たれたって感じだわ」

 

「魔王を倒せばソニアさんに良い歌プレゼントできるかもしれないんだよね……」

 

「ぐぬぬぬ、ソニアさん。俺たちはどうしたらいいんだ……っ!!」

 

 

 悩め、青春!!

 

 

 〇

 

 

 空がすこし薄暗くなり始めたころ。

 

 葵は千草を連れて学校の屋上へ足を運んでいた。夜になるその瞬間を待つかのように、沈みゆく夕日を見つめていた。いや、睨んでいたというべきか。

 

 

「葵、ちゃん……」

 

 

 いつもと違う雰囲気を千草は感じ取った。でも、仕方がない。あの試合を観れば誰もがショックだ。それが当事者であり親友が酷い目にあったのだから、葵の心境は当事者じゃない自分には推し量れるはずもなく、不用意に慰めの言葉などをかけることはできなかった。

 

 

「チーちゃん、ごめんね。あんな試合見せてしまって」

 

「ううん。その、怖かったけど、葵ちゃん達のことを知れてよかったと思ってる」

 

 

 葵の活躍している姿を見れて本当によかったと思っている。葵の親友がどんな人なのか確認できてよかったと思っている。そして、葵が何故野球部のないこの学園に来たのかも少し理解できた気がした。

 

 

「あの試合を観るたびにね、悔しい気持ちになるんだ……」

 

「………うん」

 

 

 夕焼けに染まり憂いの少女の頬を撫でるかのように、心地よい風が通り抜けていく。

 

 

「私ね、あの日、試合が終ってからあの人を追いかけて問い詰めたの。試合前に燕ちゃんと何を話してたの?って」

 

「試合前に……2人は会っていたの??」

 

「うん。試合前に中々戻ってこない燕ちゃんを心配して探してみると、偶然2人が一緒にいて何か話していたんだ。でも、遠くの方からしか確認できてないから会話は聞いてないんだけどね。燕ちゃんに訊いても教えてくれなくて……絶対に何かあると思ったの。だから、問い詰めたんだ」

 

「そ、それで、球磨さんは……なんて言っていたの?」

 

「燕ちゃんは自分が野球していることを許してもらうために会いに行ってたみたい」

 

「許しに……??」

 

「うん……私も初めて知ったんだけどね。燕ちゃん、過去に交通事故に遭っていたみたいで、その時、助けてもらったのが球磨くんだったんだって」

 

「球磨くん、が……」

 

「3年前、球磨くんが交通事故に遭って足を負傷して野球をやめたことは噂で知っていたけど、まさかそこに燕ちゃんが関係していただなんてね……あの人に、言われたの。親友なのに、そんなことも知らなかったの?って……」

 

「そう、なんだ………」

 

「怖かったんだと思う……。私たち、小さい頃に約束してたんだよ。野球上手になったら球磨兄妹と対戦しようって。甲子園目指して戦おうって。でも、燕ちゃんは私たちの夢を自分の手で壊してしまったと思ったんだと思う。だから私に相談することはできなかったんだと思う。それから、あの人の言い分としては、球磨くんが野球をやめた元凶が野球やっているのが気に入らないらしい。兄妹の夢まで壊しといて野球続けられていられたわね、って……それを燕ちゃんはずっと抱え込んでいたんだと思うんだ」

 

「3年間も、独りで……」

 

 

 数字で見れば短いようだが、中学生活を3年間引きこもり気味だった千草なら、わからなくもない過去を経験していると思われる。誰に何も言えず、辛い思いをしてきたんだと理解することはできた。

 

 

「私は燕ちゃんの親友なのかな……って、今でも自信を無くすよ。いつも隣にいたのに、バカみたいに野球のことばっかりで燕ちゃんの気持ちにも気づいてあげれなくて……何も助けてあげられなくて、それが本当に悔しいよ」

 

「でも、葵ちゃんが燕ちゃんの隣にいたから、燕ちゃんも3年間頑張ってこられたんじゃないかと私は思うよ」

 

「そう、なのかな……」

 

「きっとそうだよ! 中学に友達のいなかったこの私が言うんだから間違いないよ!!」

 

「チ、チーちゃん、たまに凄いこと言うね……でも、ありがと。そう言ってもらえて嬉しいよ」

 

「どういたしまして……!」

 

 

 ふんす、と千草は深く鼻息を荒く息を吐いた。

 

 

「それで、球磨さんは燕ちゃんが謝ったけど、許さなかったんだよね……あの試合を観る限りそう思うしかないよね……」

 

「うん。一生許すことはないって。野球をやめてほしいって。でも、そうしても燕ちゃんは自分が野球をする価値を試合のプレイで証明たかったんだって……だから賭けをすることになったらしいんだ」

 

「賭け。野球勝負ってこと………?」

 

「燕ちゃんが勝てば野球を続けることを認める。でも、負ければ野球をやめない限り燕ちゃんの大切なものを奪っていく。そういう勝負になったらしいね」

 

「そんな、ひどい……」

 

 

 たぶん、葵が雪那の投げる意図を読み三振を狙いにいっていたら、雪那は葵はデッドボールにしてでも出塁させていただろう。

 

 何が何でも燕を打席に引きずり出させていたはずだ。

 

 

「最終回の燕ちゃんの打席、初球からワイルドピッチになったでしょ?」

 

「う、うん……暴投のことだよね??」

 

「そう。あの時、ピッチャーのあの人はホームベースまでカバーに入っていたんだ。そこで、燕ちゃんに何か声をかけたのは私、一塁ベースから見てたんだ」

 

「そ、それも何か聞いたの?」

 

「もちろん。その一言で燕ちゃんはゾーンに入った。トリガーとして十分だった。あの人は燕ちゃんに負けたら次は赤毛の子ねって言ったらしいよ……」

 

「赤毛の子って………」

 

「うん。燕ちゃんが野球をやめない限り、次は私がターゲットになるから。だから、燕ちゃんは最後まで独りで戦って野球をやめたの……」

 

 

 泣きそうになったのは千草の方だ。野球というのはこれほどまでに人を傷つけるスポーツだっただろうか。辛い思いをするスポーツだっただろうか。千草が知っている野球は違う。だからこそ、千草は葵を抱きしめた。そうじゃないと、自分が耐え切れないから。

 

 

「一通り話しを聞いて、私、流石にあたまにキてあの人を思いっきりブってやったんだ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「国宝級の頬っぺたをビターンとね……あー、もう、あれで完全に目を付けられたよねー。あははー……でも、それでもいいと思った。燕ちゃんには悪いことしちゃったけど」

 

「でも、そっか……それなら燕ちゃんが野球続けても一人で負い目を感じることないんじゃ……」

 

「うん。私もそれが狙いで、私がこの手であの人の攻撃対象になった。あの人への宣戦布告は当に完了済みだよー……だから、燕ちゃんは野球を続けてもいいと思うんだけどね」

 

「言って、駄目だったの?」

 

「うん。もう野球やりませんって駄々こねて病室から脱走しようとしたりで困ったもんだよ……」

 

「あ、はは……げ、元気はいいんだね……」

 

 

 3階から脱走しようとした際に足をやらかしさらに2か月プラスの入院生活を余儀なくされたのだが。皆まで言うまい。

 

 

「あのね、前からずっと葵ちゃんに聞きたかったことがあるの……球磨くんがこの学園に入学することを知っていたから、葵ちゃんは球磨くんの後を追っかけて入学してきたんだよね?」

 

「うん。我ながらストーカー行為も凄いと思っているよ。推薦とかの話も少しあったんだけど、それも蹴って来たんだよね。まぁ、後悔はしていないよ」

 

「その……燕ちゃんの、仇を取るために??」

 

「もちろん」

 

「やっぱり……そうなんだね」

 

「理不尽にも、球磨くんが足怪我しても野球続けていれば、こんなことにならなかったのにって……今でもたまに思うことがあるよ」

 

「……うん」

 

「実際、もう足の怪我治って野球できてたし」

 

「え、そうなの……!?」

 

「そうなのって、チーちゃん入学式の日見てなかったの? 球磨くん、打席立ってスイングしてたじゃん。おしくもファーボールだったけど、ちゃんとホームラン級の球を打てたよ」

 

「あ……言われてみれば、た、確かにそうだよね……」

 

「ボスから聞いた話だと、球磨くん、こっそりリハビリは頑張っているらしいんだ。誰がどう見ても野球をやりたくてうじうじうじうじうじしているのよって言ってたんだ……見た目ヤンキーなのに、笑っちゃうよね」

 

「あ、はは……葵ちゃん」

 

 

 そうだ、球磨蒼士はバットを振れる程に回復している。どれほどリハビリを頑張っていたのか、何のためにリハビリをしていたのか考えれば一目瞭然だった。本人がそれを否定しようと周りは確信していたのだ。

 

 

「球磨くんって、たまにかわいいとこあるよね」

 

「う、うん」

 

 

 からかったら、ぶっきらぼうになるところとか。

 

 

「球磨くんって、カッコいいよね」

 

「うん」

 

 

 シスコンらしいけど。うじ虫くんだけど。

 

 

「私達って、球磨くんのこと全然知らないよね」

 

「……うん」

 

 

 好きな食べ物も何も知らない……

 

 

「ねぇ、チーちゃん。やっぱり球磨くんと野球したいね」

 

「うん……っ!!」

 

 

 彼と野球がしたい。この気持ちに嘘はなかった。

 

 

「私もマシロ先輩と同じで、確かに復讐なのかもしれない。燕ちゃんの仇を取るために球磨くんを利用しようと思ったのは事実だよ。今もそれは否定しない。でもね、私は球磨くんと野球がしたい。あの球磨兄妹の兄の方と同じチームで甲子園目指すなんて人生で一度きりだよ。この先、来世に渡ってもできないことだよ」

 

「そうだね」

 

「だから、球磨くんを何が何でも野球をさせる。うじうじ言っているうじ虫くんをグランドに引きずってでも野球をさせるんだ」

 

「うん」

 

「それでね、球磨くんを野球同好会に入れて、燕ちゃんに報告をしよ。球磨くんが野球を再開したら燕ちゃんも野球を再開してくれるはずだよ。だからチーちゃん、球磨くんを連れて一緒に燕ちゃんに会いに行こうよ」

 

「うん、うん……っ!!」

 

「そして、目指せ、甲子園!! 打倒・球磨雪那さん!! あの人に野球の楽しさをもう一度、私達で教えてあげよう!! だから、私に力を貸してチーちゃん!!」

 

「勿論だよ葵ちゃん!!」

 

 

 葵の方針は決まった。ちょっと忘れかけていた大切なことを思い出すために。リトル時代に見た球磨兄妹のように野球を楽しもう。

 

 だから、

 

 

「チーちゃん、もう一軒付き合ってくれない?」

 

「いいけど、それだと居酒屋に行くOLみたいだよ……葵ちゃん」

 

「私達ってもう飲み仲間じゃ~ん」

 

「お酒は20歳になってからだよ……っ!?」

 

「よーし、この勢いで球磨くんのお宅に突撃だー!! 宣戦布告しに行くよー!!」

 

「いきなり宣戦布告ーー!? 駄目だこの酔っ払い……ねー葵ちゃーん!! ストーカー行為も相手の家までいったら犯罪だよ~……あ~ん待って~~~……っ!!」

 

 

 犯罪のニオイもしなくもないが、これも青春っ!!

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