夏に咲くスノードロップ   作:Eクラス

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〇11〇 宣戦布告

 天文白金野球同好会の初ミーティングが終わり、すっかり日が落ち始めた頃。

 

 球磨蒼士(くまそうし)七々扇泉(ななおうぎいずみ)というギャルに呼び出されマックにやってきていた。夕飯前だが小腹が空いていたこともあり、フィレオフィッシュを注文する。育ち盛りな男子高校生にとって、これぐらいおやつ感覚だろう。

 

 

「ねーあれ、天文白金の制服じゃない?」

 

「元女子高の? 2人ともレベルたっか……」

 

「元女子高だけにあんなイケメンがいたら倍率も高いはず。しかし、彼女は特上をゲットした……つまり彼女は一体何者なのよ!?」

 

「キー、悔しいわ……っ!! ブサ面彼氏と交換してくれないかなー??」

 

 

 などと、他の客から注目されるワケだけども。いつものことだった。七々扇の気分は上々。

 

 

「ねぇ、球磨。あーしら、カップルだと思われてるみたいだし」

 

「あっそ」

 

「テレてんの?」

 

「テレてねーっての」

 

 

 こうやって仏頂面の彼をからかうのも七々扇の楽しみの一つである。

 

 2人は付き合ってはいない。2人はクラスメイトなだけであり、友達以上恋人未満といえば怪しい。ただ時たまマックに来て少しお喋りをして過ごすだけの旧知の仲。中学の頃、一度だけ球磨の家にお邪魔したことがあり、既成事実を謀ろうと強硬手段に出てみたも運悪く妹の大魔王が居合わせて失敗に終わったぐらいしか、2人の間に色恋沙汰はなかった。

 

 ただ、小学校からの付き合いであり、腐れ縁に近く今は同じ1年F組なんだから、たまにはマック行こうぜーと七々扇から誘いで、球磨の気分が乗れば成立する。

 

 これが他の女子からのマックの誘いだと球磨は断るのだから、七々扇としては鼻が非常に高い限りである。

 

 

「それはそうと、球磨。貸し1つね」

 

「あ? 何の??」

 

 

 七々扇はフライドポテトにケチャップをどっぷりつけて、つけるだけじゃ飽き足らず、かき混ぜては「にひひっ」と笑う。

 

 

「アンタの代わりに野球同好会のミーティング行ってきてあげたし」

 

「誰も頼んでないんだがな」

 

「それでも貸しは貸しだし」

 

「じゃあ、そのポテト代でチャラだな」

 

「いやいや、ポテト代で今日の分は清算できないし。思ってたより激ヤバな内容だったし」

 

「ふーん」

 

 

 球磨は興味なさそうにフィレオフィッシュを完食して包み紙をくしゃくしゃに丸めた。

 

 七々扇には、球磨がとても気になっているようにしか見えなかった。といっても、詳細を語るほど優しくはない。七々扇自身も、あのミーティングで思うところがあった。

 

 

「あーしは球磨のしたいようにしたらいいと思うし……球磨の意思を尊重する」

 

「………」ズズズゥー

 

「まーでも、野球しないのならそれもありっしょ。あーし的にマックで驕って貰えるし役得?って感じ~」

 

「………」ズズズゥー

 

 

 球磨はドリンクを底まで飲んで返事を濁した。カップに残ったの氷をストローでかき回して溶かして水になったところをまた吸い上げる。とりあえず、七々扇に睨みつけるをしたが効果はないようだ。

 

 

「でも、やっぱりマック行くなら昔みたいに雪那も誘って3人で行きたいし……」

 

「………」ズズズゥー

 

 

 球磨は思った。もう昔に還ることはできないんだ……と。

 

 そして、スマホが一回震えた。三女。光葉からラインがきた。

 

 

『蒼くん、お腹空いた。今どこ? 早く帰ってきてご飯一緒に食べよ』

 

 

「あーしとのデート中にスマホ見るなし」

 

「え………」

 

「え、じゃないし。これがデート?みたいなワザとらしい顔もするなし。ちょームカつくんですけど……とりあえず、あーしにも見せてみ」

 

「………」ズズズゥー

 

「あーあー見たくないもの見せつけてんじゃねーぞこのシスコン!」

 

「………」

 

 

 七々扇も球磨の光葉からの内容を確認してキレた。このあと、不毛なやり取りが行われるが少々お付き合いください。

 

 

「ちなみに聞くけど、あーしと光葉さんだったらどっちを彼女にしたい?」

 

「なんだ、その2択。ミツバ姉は いとこ だろ」

 

「じゃあさー、いとこ じゃない設定だったら?」

 

「ミツバ姉の方がいいな」

 

「即答っ!?」

 

 

 やはりこのシスコンは駄目だ。この男、優しくされた姉しか女を知らないシスコンだ。いや、女を知らないという表現は語弊でしかないのだが、七々扇は十分にそれだけで戦慄を覚えた。この事実を光葉に伝えてあげたら本人は喜ぶのだろうが、あくまで2択でしか回答できなかったわけだから、これ以上何も言うまい。

 

 またの機会があれば『球磨は一体誰が好きでしょうか選手権』でも開催するであろう。

 

 

『今から帰る』

 

 

 とりあえず、球磨は光葉にそう伝えて、ドン引きしている七々扇を家まで送り帰宅した。帰宅というか実家に帰ったというべきか。ご飯を食べに一時帰宅的な。

 

『東雲』の表札。プロ野球選手を2人も排出した東雲家はちょっとした豪邸だったりする。そもそも小さい頃から、ここに住んでいた。長女と次女がプロ野球選手になってから建てた豪邸というわけでもなく、叔母たちの財力で豪華な家に住めていたのだから……甥と姪の面倒も見れるのだから、さすがの球磨も舌を巻くしかない。

 

 今、この豪華な家で暮らしているのは叔母と三女の光葉だけである。叔父は海外赴任だそうな。

 

 両親がいなくなってからは全員一緒に暮らしていたのになー……としんみりしてしまうのだが、大人になるということはこういうことなのだろうと受け入れるしかない。いずれ、子供は親元から離れ巣立ちするのだ。それが遅かれ早かれなだけだ……ガレージ横の扉を開き、コンクリートの階段を上がり、無駄に伸びる玄関前ポーチを歩いて、ようやく玄関に辿りついた。

 

 

「………」

 

 

 玄関横に置かれた、叔父が海外から送ってきたよくわからない置物がとても強烈だ。球磨はこれが女性のお尻にしか見えないので早く処分したいところだが、叔母がえらく気に入っていて捨てられないのだ。叔母はこれを海外版の設樂焼と絶賛しているのだから、捨てられない。

 

 まぁ、そんなことよりもだ。

 

 玄関を開けて中に入れば、いつもの我が家に帰った気分になるのだが……靴が、いつもより多いことに気が付いた。

 

 2人分……

 

 叔母とお客さんの分かともおもったが違う気がする。

 

 一瞬、次女が帰ってきてくれたのかなと淡い希望を持ったものだ。しかし、長女も次女も遠征中のため、それはまずない。じゃあ、この靴は誰のだろうと思うのだが、どこぞの女子高生の革靴だと何となく予想できる。可能性があるとしたら、光葉の友達が来ているのだろうか。でも、それならお客さん来てるということをラインで知らせてくれているはずだ。

 

 それで球磨の頭の中に過ったもう一つ、最悪な予測をしてみた。寮生活をしているはずの妹の雪那が一時帰宅しているという予想だ。現在もなお兄妹喧嘩は継続しており3年間も続いている。

 

 だから、高校生になってからは妹は琉惺学院の近場に最近建てだした寮で暮らしているし、球磨もここ実家ではなく、長女がチームの寮からマンションに引っ越したので、強制的にそこに住むよう叔母から命令された。妹と顔を合わせる機会が減ったので万々歳なのだが、結局お盆や正月には顔を合わせることになるだろう。今の球磨はそれを頭の片隅に置いて、そこでプチ1人暮らしを満喫している。

 

 まぁ、いつも家に1人な光葉のお願いもあって、毎日とはいかないがほぼ毎日ご飯を食べにここに一時帰ってくるわけだけども……とりあえず、ここで長考していても仕方がない。とりあえず、中に入って様子を伺い雪那がいたら即刻退散しようと心に誓い……靴を脱いだところで光葉が出迎えてくれた。

 

 

「蒼くん、おかえり」

 

「おう」

 

 

 いつもの当たり前のやり取り。光葉は表情豊かな方ではない方なのだが、今この時だけは微かに嬉しそうに見える。で、対してこの世話のかかる弟もどきはそっぽを向いているがな。

 

 

「客、来てるのか?」

 

「あ、うん……」

 

 

 どこか、気まずそうに返事をする光葉。

 

 光葉はおろした髪を束ねてぐるぐるとヘアバンで起用に括りつけて頭の上にうんこ型のヘアスタイルを披露してくれた。とても器用なことだが、何故うんこ型なのか…球磨は理解に苦しんだ。

 

 光葉はよくヘアスタイルを変える。モデルの仕事もあるからだろうが、いろいろ大変なのであるとは察しつくけど、いつも感想を求められる球磨としては正直今回も困ってしまった。

 

 

「ど、どうした、いきなり……それって、うn……ソフトクリーム?」

 

 

 スルーしたいが、一応、聞いてみた。

 

 

「うん。私、ちょっとは反省していますって意味を込めたソフトクリーム型ヘア」

 

「そ、そっか……」

 

 

 この人、たまに天然だ。そしてこの人も七々扇と同じ金髪だ。金髪なので、どうしてもう〇こ型にしか見えない球磨であるが黙っておこう。

 

 三女・光葉は新しいヘアスタイルを獲得した。とにかく、反省していますアピールをする時に使えるのだとか……。

 

 そして、

 

「蒼くんにお客さん」

 

「は? オレ?」

 

 

 てっきり、妹が帰ってきたのかと思った。妹が帰ってくるのを知っていながら、そのことを知らせてくれなかったから反省してますアピールをしたのかなとも思った。でも、違った。脱出ルートの確保など想定した脳内シミュレーションは無駄になったようだ。杞憂に終わる。

 

 しかし、それとは別の、最悪な展開だと球磨も流石に予測できなかった。反省はしているけどもごめんなさいとは言わない三女に手を引かれリビングに移動した。

 

 球磨は今も思う。何故家に入れたし……

 

 

「あ、球磨くんおかえり! 待っていたよ!!」

 

「ご、ごめんね、球磨くん。流石に私は止めたのだけど……」

 

「違う。2人は何も悪くないよ。外で待たすのも可哀想だから、私が入っていいと許可した」

 

 

 ス、ストーカーはついにここまでやってきた。というか、隣で三女がピースサインしている。反省の色はまったく見えなかった。

 

 まったく悪びれることのない赤坂葵と、家に押しかけた後ろめたさで気まずそうにしている姫路千草のこの違いってなんだろうか……

 

 

「球磨くん、宣戦布告にきたよ! 明日、放課後に野球しよ!」

 

「よし。わかった、とりあえず警察に通報するか……」

 

「「ふぁっ!?」」

 

 

 ポケットからスマホを取り出し110の番号を押そうとした。しかし、光葉の説得もあり通報することはなかった。ただし、用件の終えた2人を早々に家の敷地内から追い出す球磨であった。塩も一応撒いておいた。

 

 もうウンザリだ。どこまで自由なんだあの女は……ここは雪那も帰ってくる家でもあるのだ。タイミング悪く鉢合わせたらどうなっていたことやら。そういう予測も考慮できないほど馬鹿なのだろうか。執念深いがゆえにあの笑顔がとても恐ろしい。

 

 だから、球磨は葵の宣戦布告に受けて立つ。

 

 明日、決着をつけて全て終わらせよう。

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