本気の戦いを   作:青虹

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始動、そして行先は
滅びの始まり


 太陽が真上で痛いほどに輝き、それでも薄暗い校舎の影の下。明らかに異様な集団があった。一人を複数人が取り囲むその様は、まるでいじめのようだった。

 輪の中心にいる須藤健が、綾小路清隆に激しく詰め寄っている。

 

「おいどういうことだ綾小路!」

「どういうことって言われても、オレはそんな話知らないんだが」

 

 尋問の対象、綾小路はそれでも無表情に冷静に、自身の無実を主張する。対して、須藤は怒り心頭。罪を認めないことに腹を立てていた。

 

「ふざけるな!お前って証拠はあんだよ!」

 

 須藤が見せつけた写真は、確かに()()()()()()()()()()()()()()()()。坂柳と仲睦まじく歩く様子が映されている。

 

「綾小路くん……」

 

 立ち直ったばかりの平田が、裏切られたとばかりに冷たい視線を向ける。

 それは他の生徒も同様で、平田の声を耳にすると、罵声を更に強めた。

 

「お前……またDクラスに落ちたからって見捨てたのか!」

 

 須藤が綾小路の胸ぐらを掴み、今にも襲いかからんとしている。一触触発であるが、誰も止めようとしない。止める立場の人間がどこにもいないのだ。

 そんな須藤を見た綾小路は、はぁ、と小さくため息を漏らすしかなかった。

 綾小路の能力の高さは未知数。だが、その余裕っぷりからして、須藤よりも高いのは手に取るように分かる。

 

(変わったと思ったが……やっぱり()()()()()()()()()()()()()()()())

 

 須藤健は、怒りの沸点が低くすぐに暴力を振るう男だった。それでこのクラスに幾度も迷惑をかけた。しかし、堀北の尽力もあり、ここ最近は鳴りを潜めていた。

 平田洋介は過去に縛られて理想を見過ぎていた。誰もが傷つかないという、絶対に達成不可能な理想を掲げていた。平田は綾小路によって立ち直った筈だった。

 ……いや、立ち直ったからだろうか。彼は今、()()()()()()()()()()()()()()のかもしれない。

 

「ねえ、どうしてくれるの?」

 

 冷たい声音で、まるで奴隷に鞭を打つような言葉の槍を投げつける。

 声の主は篠原さつき。無人島試験の時もトイレでどうこう騒いでいた。

 人数としてはほぼ全員。いないのは……啓誠、明人、長谷部、佐倉、みーちゃん、高円寺、そして堀北。それ以外がここに来ている。()()()()()()()()()()

 あの日の試験の後、確かに綾小路は坂柳と二人で帰った。だが、綾小路達は月城に妨害された戦いの続きをし、坂柳を一人で帰らせるのは悪いと思って一緒に帰ったまでのこと。今後に関わるような話は一切していない。

 なのに、なぜ彼らは浅はかな考えで勝手に事実を捏造してしまうのか。

 

「おい綾小路、なんか言えよ。オメエ殴られてえのか、あん!?」

 

 須藤が詰め寄ってもなお綾小路は無表情を貫く。

 その目は光を映さず、その目は虚空へ向けられ、すぐ目の前にいる須藤すら興味がないようだ。

 

「お前、ふざけんじゃねえぞ!」

 

 須藤の拳が、綾小路の頰を撃ち抜いた。

 鈍い音と強烈な衝撃が綾小路を襲い、壁に打ち付けられ、激しく咳き込む。

 頰が赤く腫れ上がり、痛々しさを物語っている。

 

「須藤くん、それはちょっとやりすぎじゃ……」

 

 誰かが小声で呟いたが、大半は嘲笑を向けるばかりだ。

 

「このアホにはこれくらいしねえと気が済まねえんだよ」

 

 もうこんな汚物を見たくないというように、須藤は足早に去っていった。

 平田も、綾小路を一瞥し、何も言わず去っていく。他の生徒もそれに続き、遂に綾小路は一人取り残された。

 

「はぁ……」

「清隆!」

「恵か」

 

 どこからか話を聞きつけてやってきた軽井沢恵が心配そうに駆け寄った。そして、真っ赤に腫れ上がった頰を見て、慌て始めた。

 

「清隆、頰が腫れてるけど!」

「大丈夫だ、対して痛くない」

「で、でも──!」

「ちょっとヒリヒリするくらいだ。何も問題はない」

 

 実際、綾小路にとって須藤の一撃は()()()()()()()()()。ホワイトルームでの事を考えればただのかすり傷だ。

 

「本当なの?無理してないよね?」

「ああ。でも、心配してくれたのはありがとう」

「べ、別に……」

 

 軽井沢は顔を赤くしてそっぽを向いた。綾小路の唐突な感謝に照れ隠しをしているのだが、言った本人は全く気づいていない様子。

 

「じゃ、じゃああたしはもう行くから!あんたも早く帰りなさいよっ!」

「あ、ああ」

 

 逃げるように走り去っていった軽井沢を綾小路はただただ見つめていた。

 

「はぁ……」

 

 何かを決心したかのように、大きくため息を漏らして立ち上がった。その目は何処を見据え、どんな未来を想像し、どんな結末を思い浮かべているのか。あまりにも無表情なせいで、本人以外には理解できようがなかった。

 

 

 

 ー▼△△▼ー

 

 

 

 自分の部屋に戻った綾小路は、何か行動を起こすわけでもなくベッドに腰掛け、思考に溺れていた。

 屍のごとく硬直し、動く気配は全くない。部屋の壁は音を遮り、室内は静寂に包まれている。

 世界が動いていないように見える。

 この日は修了式で、1学年を終えた。明日からは休みである。浮かれた気分で娯楽を求めて友人と外へ繰り出すのは当たり前の光景というべきだろう。

 逆に、ベッドに座ってただただ思考に耽る方が珍しい。

 

(2年からは俺の居場所なんてないだろうな……)

 

 殆どのクラスメイトから冷たい視線を向けられれば、嫌でもその結論に至る。

 どちらにせよ、クラスメイトをクラスメイトとして見ていない綾小路にとってはそんなことは些細な問題でしかなかった。

 4月からは他人とのつながりを極力避け、目立たない行動をとればいい。一年前に比べれば、表面上はマシになっているだろうから。

 それに、無理してAクラスを目指す必要など全くない。茶柱先生から圧力をかけられていただけであり、綾小路自身は平穏に生活できればそれでいいのだから。ひっそりと授業を受ければいい。龍園のように、端っこで誰の邪魔にもならないようにしていればいい。

 ただ──綾小路がその結論に至ることはなかった。

 勿論、一つの手としてそれは考えた。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 結局、綾小路自身のプライドの問題だった。それに、月城という()()の人間に対し、負けっぱなしの無様な姿を見せるわけにはいかなかった。

 今後月城を始め、父親との戦いが増えてくることだろう。一年生も入ってきて、関係性はより困難になる。

 負けっぱなしでは、思うように駒を使えない。

 

「フッ」

 

 無音の空間に嘲笑が高らかに響く。

 結論を出したのか、一度思考を切り上げ、冷えた麦茶を飲んだ。

 そして、端末を操作すると、誰かに電話をかけた。

 全生徒が浮かれる中、男は闇の中で暗躍を始めた。

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 戦いにフライングはない。誰かが動き出せば、そこでピストル音が鳴り響く。それに気づかなければ、後手に回るだけだ。




今後の展開を模索するのにかなりの時間を要します。
特に、オリジナル展開で進んでいくので、特別試験の流れは困難を極めることでしょう。
そのため、投稿間隔はかなり空くと思います。というか、空きます。
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