本気の戦いを   作:青虹

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お久しぶりです。......ほんとすいません。

ここまで遅くなるとは思っていませんでした。日刊一位も既に1ヶ月半前の出来事。時が流れるのは早いですね。
次回はもう少し早く更新できたらいいなぁ。

6話に修正を加えました。時間があれば見直しついでに確認していただければ幸いです。


交錯する思惑

 迎えた当日、オレ達は照りつける太陽の下改めて特別試験の概要を説明を聞いていた。

 説明を続ける真嶋先生の額には既に汗がうっすらと浮かんでいて、5月なのにも関わらず異様な暑さであることをはっきりと物語っていた。

 

「──以上が今回の特別試験のルールだ。野球の第一試合はこの後1時間後の9時45分から開始だ。それまでに各クラスで準備運動をしておいた方がいいだろう」

 

 以前聞いたことのある説明が続き、それで解散になった。

 今日行われる種目は野球。5回で終わる事以外はルールに変更点はない。

 各クラス集まって準備運動を始める。比較的リラックスしているようだが、こちらに向けられる視線は少なくなかった。

 集まった顔触れや、異様な人数の少なさ。注目を集めるだけの理由は十分にあった。

 オレは平穏な生活を送ろうと思っていただけなんだが、どうしてこうなってしまったのだろうか。

 卒業したらまたあそこに戻る。今だけは大人しく俗世を楽しませて欲しいものだ。

 

 クラスメイトと雑談を交わしながら、来るべき時に備えて入念に準備をする。

 オレがここで生き残っていかなければならない以上、一回たりとも負けは許されない。

 

「綾小路くん」

 

 声をかけてきたのは、坂柳だった。今後の月城対策において欠かせない人材の一人だ。

 

「綾小路くんの本気、楽しみにしていますよ」

「それなりには頑張るさ」

 

 他クラスを見る限り、オレが100%を出す機会は多くないだろう。

 出来れば過度に目立つのも避けたい。

 

「ところで、今回の試験で月城理事長代行はどう妨害してくると思いますか?」

「審判は学校側で用意するらしい。月城が付け入るのはそこしかないだろうな」

 

 人間は自分に都合がいいと判断すれば、それがどれだけ間違っていようともそちらに転がってしまう都合のいい生き物だ。

 月城が多額の資産を保持しているのは想像に難くない。審判員に賄賂でも渡せば完全に月城の傀儡と化す。

 

 残念ながら、それに対抗する案が思い浮かばない。

 生徒に対して平等に接することに定評のあるAクラス担任の真嶋先生は、それが仇となって交渉は難航するだろう。

 

 たとえ月城がグレーラインを攻めてきたからと言ってオレもそれに倣うと後は月城の思うがまま。後ろ盾がない今、表立って月城への攻撃は仕掛けられない。

 

「私としても綾小路くんが退学となってしまうのは残念でなりません。綾小路くんはここで負けるとは思っていませんが……」

「オレだって退学するつもりはない。やっと手に入れたしばしの安寧なんだ。簡単にやらせはしない」

 

 一年生にホワイトルームの刺客を送り込んでいるのは想像に難くない。

 四方八方から狙われることに間違いはない。

 だが、()()()()()()()()

 静かな高校生活を送りたいはずだったのにこうなってしまったのは計算外だ。だからと言って今もそれを願って止まないのは事実。その為なら、しばしの間注目を集めてしまうのは仕方ない。そう割り切るしかなかった。

 

「そろそろだな」

 

 初戦はオレたちは休み。他のクラスの偵察でもしながら適当に暇を潰せばいい。

 

「頑張ってくださいね、綾小路くん」

「ああ」

 

 横を歩く坂柳と共に炎天下に繰り出す。戦いの舞台は整った。

 

 さあ、始めよう。本気の戦いを。

 

 

 

 ー▼△△▼ー

 

 

 

 初戦のAクラス対Bクラスは、Bクラスが勝利した。

 Bクラスは未だに誰も欠けていない。対するAクラスは、絶対的な指導者を失っている。どちらが優勢かなど明白だった。

 一方のCクラス対DクラスはDクラスが接戦を制していた。

 当初平田は雰囲気が最悪だと話していたが、何があったのかそれなりにまとまりを見せていた。

 オレという共通の敵を作り上げたのだろうか。どちらにせよ、ボロボロの矢が何本集まったところで折れてしまうのだが。

 

 そして2戦目。Eクラスの相手はAクラス。初戦を見る限り、一方的な展開になるだろう。

 

 試合序盤からオレの予想は的中した。Aクラスの攻撃は何度かピンチを作ってしまうもなんとか0失点で抑え切った。

 ライトにポジションを取ったオレの元に弾が飛んでくることは殆どなかった。

 

 一方のオレたちの攻撃。堀北がヒットを放って出塁すると、それに続いて後続の明人と龍園が続けてヒット、ツーベースヒットを放ち先制。

 オレが打席に立った時に見たAクラスの生徒は既に諦めの表情を浮かべていた。

 だからと言って手を緩めるわけではない。緩いストレートを芯で捉え、高々と上がった打球はフェンスの奥へ消えて行った。

 

「すごいじゃん、清隆!」

「ああ」

 

 ベンチに戻ったオレを恵が迎え入れた。その後も更に2点を追加し、初回に5点を先取。

 

 その後も一方的な展開が続き、オレたちは無事勝利を収めた。

 

「まずは一勝ね」

「ああ。だが、オレたちが目指すのはあくまでも全勝だ。今の試合は勝って当たり前みたいなところがあったから、本番はこれからだろう」

 

 Aクラスとはいえ、今の状態だとDクラス並みかもしれない。指導者の欠損は、それだけクラスに大きな影響を与えていたのだ。

 

「次はBクラスね。一番厄介じゃないかしら?」

「そうだな」

 

 オレたちはそのまま連戦でBクラス戦に臨む。一之瀬が率い、Aクラスよりも団結力がある。その上、ここまで誰も欠けることがなかった唯一のクラスだ。

 Aクラスよりは強敵であるが、力量はこちらの方が上。負ける要素はない。

 

 オレの心配事が当たらなければ、確実に勝てる。

 だが、そう簡単にことが運ぶはずもない。

 

「おい、今のアウトだろ!」

 

 一回表、オレたちの守備での場面。セカンドからの送球を受けた龍園が審判に向かって吠えるのが確認できた。

 遠く離れたオレの目でも、ファーストを守っていた龍園の方がBクラスの走者よりも先にミットに球を収めていたのを確認できた。足がベースから離れていた訳でもなかった。それなのにも関わらず、審判はセーフの判定を下した。ギリギリの判断ではあったが、アウトであることは間違いない。やはり、予想通り月城が介入している。

 

「龍園、落ち着け。ここで退場処分になったら元も子もないぞ」

「……チッ」

 

 須藤に似た部分を感じるが、龍園の方が感情を抑え込めるのは上手いかもしれない。

 それ以上に恐怖による支配が効いているのだろうが。龍園が暴れたら、また暴力で恐怖を植え付け直せばいい。それを繰り返せば、見事なポーンの完成だ。

 

 所々に審判の誤審と思われる判定が入ったものの、無事に無失点で乗り切った。

 

「何だよあの無能審判」

 

 龍園が不快を露わにする。まだ一回表、それなのにこの誤審の多さ。ただの球技大会にそこまでを求めるのは違うかもしれない。だが、オレの退学とクラスポイントがかかっている以上、一般的な学校の球技大会よりも審判の重要性は増す。

 それなのにも関わらず誤審の数は異常だった。

 

「まあ落ち着け。怒りはバッターボックスに立ってからぶつけてくれ」

 

 ここで騒いだところで、どうしようもない。試合途中に審判を変更することはできないだろうし、そもそも月城が最低限しか用意していない可能性が高い。見る限り、審判はそれなりに経験を積んだ人が務めている。学校の教師では代わりにはなれない。

 オレたちは不利な状況で勝たなければならないのだ。

 

「やはり月城理事長代行は妨害してきているようですね」

「ああ。厄介極まりないな」

 

 金属バットが高い音を響かせる。球はセカンドの頭上を通過していった。

 

「だからと言って負ける理由にはならない。これは想定内だからな」

 

 明人がバッターボックスに立つ。ここで出塁すればチャンスとなる。

 

「そうですね。リスクを負った妨害をしてこなければ、の話ですが」

「……あの男に早く連れ戻すように指示されているならやりかねないな」

 

 それにオレが乗った瞬間、退学の条件が揃ってしまう。乗らなくても危機的状況に追い込まれることには変わりない。

 そのためには、ここでの優勝が鍵となる。

 

「ストライク!」

 

 明人がベンチに戻ってくる。悔しさと怒りが混じった表情をしている。

 

「審判の判定おかしくないか?」

「クク、鈴音は出塁してるじゃねえか。お前の方が下手だけだったってことだろ」

「……かもな」

 

 バットを担ぎ、揚々とバッターボックスへ向かう龍園。ある程度感情のコントロールは出来ているようだ。

 

「次はあんただっけ?」

「ああ」

 

 3球目、龍園がストレートを捉えた。高々と上がった球はフェンスを越えていった。さっきの怒りをうまくぶつけられたようだ。

 

「ナイスホームラン」

 

 グラウンド上ですれ違った龍園にそう声をかけたが、何も言わずにベンチに腰を下ろしてしまった。

 

 ピッチャーの方を一度見る。恐らく球速はストレートが130ちょっと。変化球はカーブとシュート。名前は知らないが、野球部であることには間違い無いだろう。

 

 ……遅い。

 

 投げられた球を見てそう思った。ストレートなのに、こんなに遅いものなのだろうか? 

 

「……なっ!?」

 

 初球を芯で捉えた。当然、ホームランだ。ランニングでベースを周る。

 

「綾小路くんすごいね!」

「ああ」

 

 サードのポジションについていた一之瀬に声をかけられた。

 最後のストレートもジョギングで進み、ホームベースを踏む。

 

「あんた本当に何者なの……?」

 

 恵に呆れ顔で言われた。

 

「流石ですね、綾小路くん」

「私にはあなたの実力の底が見えないわ……」

 

 坂柳にも、堀北にもそう言われた。

 それ以外にもオレを褒める言葉が何度も聞こえてきた。

 

 ホワイトルームでは()()()()()()()()()()だった。故に課題をクリアしても褒められることはなかった。突破したら再び課題が与えられ、それをこなす。毎日がその繰り返しだった。

 ホワイトルームは、内装が白いだけではなかった。人の内面まで全て真っ白だった。

 

 褒められると言うこと自体が初めてに等しい。それに対して心の何処かで()()()と思っているオレがいた。

 

 真っ白なキャンパスに極僅かながら色が塗られた気がした。

 

「清隆、行ってくる」

「ああ、頑張れ」

 

 5番の葛城がヒットを放ち、順番は恵へ。

 

 オレの心に巣食う白は何重にも塗り固められている。黒にも染まらないほどの、分厚い白。

 けいはどんな気持ちであそこに立っているのだろうか。そう思いかけたところで、そんなことはどうでもいい、と思考を中断させる。今一番大事なのは月城を排除する方法なのだから。


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