20人の方から評価を頂き、お気に入りも150件を突破。ランキングにも載って、私も調子に乗ってます()
もともとお気に入り100件突破しましたイェーイって書こうとしてたら、あっという間に150件超えてるって何よ......3話を投稿してから100件以上増えるとか快挙なんですがそれは。
これからもエタらないように頑張ります。学生である以上、更新頻度は不安定ですが、読者の皆さんに最高の作品をお届けできるように頑張ります!
太陽は落ち、月が覇権を握る夜分。オレたちは一日中歩き回って買った荷物を両手に持って帰宅していた。
もうすぐ寮に着く。そんな時、ふとこんなことを思った。
「なあ坂柳、葛城はどうするんだ?」
葛城の処遇についてだ。ちょっと前まで派閥争いをしていたものの、徐々に坂柳に呑まれた結果忠臣弥彦を失い、坂柳の軍門に下った不憫なスキンヘッドの男。
「葛城くんはとても優秀な駒として使えますので、連れて行きましょうか」
要するに残しておいて得はない、ということか。坂柳が居なくなった後のAクラスを上手くまとめてしまったら月城に集中できなくなる可能性もある。その可能性はそう高くないと思うけどな。
逆に連れてこれば、堀北と同じく大きな戦力となることだろう。
「そうしてくれると助かる」
「綾小路くんも、頑張って
「……まあ、それなりにはやっておく」
現時点で確定しているのはまだ10人にも満たない。これでは苦労が増えるだろう。特に、特別試験においてはかなり不自由が発生するに違いない。
そう思っていると、目の前に人影が現れた。
「おやおや、そこにいるのは綾小路ボーイとリトルガールではないか!」
「私は幼女じゃありません!」
「高円寺か。何か用か?」
頭を金色に染めたガタイのいい男、高円寺六助。将来大手企業の高円寺コンツェルンを継ぐことが決定しており、今まで唯我独尊を貫いてきた男だ。
自ら話しかけてくるなど、堀北以上に珍しい。
「君たちが面白いことをしていると聞いてねぇ」
面白いこととは一つしかないわけだが、その情報はどうやって伝わったのか。おそらく、小耳に挟んだくらいのことだろうが。
確かに他の女子生徒よりも身長は小さいですし……などと一人でブツブツ呟いている坂柳をよそに、オレは話を進める。
「それで、お前に何か関係があるのか?」
「フフッ、落ち着きたまえ綾小路ボーイ。この私が君の計画に興味を示しているのだよ」
「……つまり、高円寺をメンバーに加えろ、と?」
「その通り。もし私が君の計画に参加したら、全力を持って協力しようと思うのだが、どうだね?」
高円寺の実力は未知数である。しかし、その片鱗は所々に現れていた。
4月の水泳の時には須藤を抑えて優勝。しかし、本気を出していたわけでもなさそうだった。
無人島での試験の時にはツタを伝って猛スピードで進み、畑を見つけ出していた。
高円寺からは常に余裕を感じる。それはまるで、本気を出せば相手にならない、そう言っているようだった。
「ダメです!私をバカにするような人と同じ教室の中にいるなど許せません!」
「……」
珍しい。高円寺のいじり一つでここまで動揺するとは。今までそんな素振りは見せてこなかったはずだ。
坂柳の中で何かしら変化があったのだろうか。
しかも、動揺のせいからしくない発言が飛び出している。
「一回落ち着け。物事は冷静に判断すべきだ」
「むぅ」
オレが制止すると、不服そうに頰を膨らませたものの、一旦落ち着いてくれた。
「それで、高円寺はオレの計画に協力してくれるんだな?」
「さっきからそう言っているじゃないか。この私が加われば、百人力は間違いない」
能力の観点からすれば、これ以上ないほど申し分ない。ただ、問題は
その条件を満たせば、高円寺を加えるのは大いにありだと思っている。
「高円寺、今回は真面目にやってくれるんだよな?」
「もちろんさ。綾小路ボーイに興味が湧いたからね。紙に書いた方がいいかい?」
「いや、そこまではしなくていい」
高円寺がそこまで言うなら必要はないだろう。それに、今ので十分言質はとった。
「では、私を加えるんだね?」
「ああ、よろしく」
「納得いきません……!」
あくまでも、決定権はオレにある。未だに不満げな坂柳はスルーすることにした。
「では、私はこれで失礼するよ」
「ああ」
暗がりの中、やけに輝いて見えた高円寺を見送った。
「いいんですか?あの男が真面目に取り組むところを見たことがないんですが」
「どうだろうな」
高円寺が仕事をしてくれるか、はっきりとした確証は持てていないのが現状。切り捨てたところで、いつも通りの唯我独尊を貫くだろうし、あまり害はないように思える。
オレが高円寺を取ったのは、仕事してくれた時のメリットに大きな価値を見出しているからだ。
「寒くなってきたし、そろそろ行こうか」
「そうですね」
手応えのある一日だった、そう思った。
******
翌日、オレは昼からいつものグループでボウリングに行く約束をしていた。
彼らはあの写真を見てもあまり動じていなかった。
クラスメイトがああして反感を抱いていたのは、実はオレのことをあまり知らなかったからなのかもしれない。
しかし、それは憶測に過ぎず、あの日の事実は覆らない。だから、オレの取るべき行動も覆ることはないのだ。
「清隆、おはよう」
「おはよう、早いな」
集合時刻より15分ほど早く着いたのだが、そのオレよりも先に啓誠が来ていた。ボウリングに行くことを決定した時は一番乗り気ではなかったはずだが。
「他はまだ来てないのか?」
「ああ。だが、もうすぐ来るとは聞いている」
建物の屋根のひさしに入り、残りを待つこと3分。明人と波瑠加、愛里がやってきた。
「おはよう!……あれ?ゆきむー来るの早くない?」
「ほんとだ。この前はあれだけ嫌がっていたのにな」
「集合時間に遅れたら迷惑だろ。だから早く来たんだ」
「あー、ゆきむー顔真っ赤だ!」
「ほっとけ」
そんな会話を横目に、施設内に入っていく。至る所からピンの倒れる快音が響いてくる。
シューズを借りて指定されたレーンに向かうと、それぞれ球を手に取っていよいよ開始。
一番目は明人。一投目で7本倒し、スペアのチャンス。残りも比較的右側に固まっていて、狙いやすい位置だ。
投げた球はピンの方へ一直線。しかし、若干内側な気がするが……
「あー、一本残しか!」
「惜しかったね!」
「次はうまくいくと思うよ……」
しかし、なかなかの腕前であることは確かだ。弓道部だからか、集中力や腕力は秀でているのだろう。
二番目は愛里。運動は苦手だが、転んだりしないだろうか。
「わわっ!?」
投げたタイミングで滑って転んでしまい、ゆっくりとしたスピードでガーターへ一直線。
「愛里、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ。ありがとう、清隆くん」
「力まず落ち着いて投げてみたらどうだ?真っ直ぐ投げることだけ意識すればいい。ピンは当たればいくつか倒れるからな」
「うん!ありがとう……!」
オレのアドバイスのおかげか、二投目はガーターに落ちることなくピンに当たり、5本倒れた。
愛里は真っ先にオレのところに来て、目をキラキラさせてぴょんぴょん跳ねて全力で喜びをアピールしていた。
「やったよ、清隆くん……!」
「おめでとう。その調子で頑張れ」
「うんっ!」
次はオレ。そう思って席を立った。が──
「きよぽん愛里ちゃんと仲良いね。もしかして
「そそそ、そんなことないよ!」
「ああ」
そう否定したはいいものの、愛里が顔を真っ赤にして胸の前で手を振り、慌てた様子で否定したからか、波瑠加がそれに目を光らせて愛里へ迫る。
「何か隠してるんじゃないの?」
「べ、別にそんなことはないよ……!私が清隆くんとなんて……」
「本当に?愛里かわいいんだし、いいもの持ってるんだから、もっと自信もちなよ」
「う、うん……」
今のは聞かなかった方が良かったかもしれない。……男として。
場が一旦落ち着いたところで、改めてオレの番。腕をリラックスさせ、
理想のコースより少し左にずれて進み、2本残しで一投目を終える。
「きよぽん上手くない?」
「そうか?」
「もう少しでストライクだったじゃないか」
二投目はピンを掠れて一本も倒れず、8本止まり。
「あちゃー、惜しかったね」
「もう少しだったな」
「清隆くん、次は上手くいくよ」
「ああ、ありがとう」
四番目は啓誠。こちらも運動は苦手だが……
勢いよく助走をとり、そのままの勢いでレーンに突入、案の定滑って転倒。これには苦笑いするしかない。しかも、球が離れていない。
「そんなに助走はとらなくてもいいんじゃないか?」
「で、でもそっちの方が勢いが──」
「その勢いのせいで自滅してるじゃないか」
「うっ」
「ゆきむー、もっと力抜いて投げるといいよ」
「わ、分かった」
二投目。さっきよりも短めの助走から球が放たれ、転ぶことも無かった。
ただ──問題の球はガーターに一直線。残念な結果となった。
「くそっ、なぜ真っ直ぐ行かないんだ!」
「もう少し手元を見て真っ直ぐ方がいいんじゃないか?」
「みやっちの言う通りだと思うよ。投げた時に手が曲がってると、すぐに落ちちゃうからね」
「わ、分かった……」
「ゆきむー、次は私の番だから、よく見といてよ」
ボウリング経験者だという波瑠加の一投目。本人の言ったように真っ直ぐ押し出し、その通り球も真っ直ぐ進む。
プロは曲げているのだが、オレたちがそこを目指す必要はない。ガーターに落ちないように真っ直ぐ投げれれば十分だ。
「どう?ゆきむー」
「なるほど。次からは意識してみる」
一投目で8本倒した波瑠加は、二投目でスペアを獲得、まだ一巡目だがトップは波瑠加となった。
その後、ボウリングは2ゲーム目に突入し、それも終盤に差し掛かっていた。
啓誠や愛里は息が上がり始めていたが、特に波瑠加は元気そうだ。
啓誠が
「そういえば、この間は大丈夫だったのか?清隆」
「あー、須藤くんがきよぽんを平手打ちしたとか聞いたよ」
「ええっ!?」
「それなりには痛かったが、もう大丈夫だ」
流石に須藤の平手打ちだ。軽井沢には見栄を張ったが、実際結構痛かった。
だが、あいつがしてきた仕打ちに比べれば幾分マシだ。
「それと、何やら裏で行動を起こしているらしいが」
「え?なにそれ気になる教えて!」
ボウリング場は周りの音が大きい。公衆の場とはいえ今は人も減ってきているので、話をしても問題はないだろう。
「正直、今のクラスについてどう思っている?」
「どう、とは?」
明人がイマイチピンと来ないのか、オレに聞き返す。説明が悪かっただろうか。
「今のクラスにどんな印象を持っているか、ということだ」
「なるほどな、ありがとう」
今まで少しずつ確実に成長してきた。
もしかしたら、平田も変われていないのかもしれない。大衆の味方につき、自らの安全を守る。中学生のあの時と取っている行動は同じ。だから、また後悔する。
しばらくして最初に口を開いたのは、波瑠加だった。
「私は、ちょっと残念かな。せっかく、須藤くんは手を出さなくなったと思ったのに。でも、またきよぽんに暴力を振るったんでしょ?ちょっと許せないかなー。それに、他の子も須藤くんに乗っかったわけだし」
「俺も、悲しかった。あの写真だけでそこまで妄想を広げるのは違うと思うし、あそこまで酷い仕打ちをする必要はなかったはずだ」
明人も続いた。目を伏せて語るその姿には、憤りが滲み出ていた。
「わ、私も悲しい、な。清隆くんはいつもすごく頑張っていたから──それだけで酷いことをするのは……」
愛里は、涙を浮かべて言葉を振り絞った。
性格上、そういうことを口にするのに大きな勇気が必要だったのだろう。
「俺も納得がいかない。清隆がそんなことするはずないだろ」
俺が坂柳と密通していた──あの写真からそう取られたらしい。
しかし、そんな証拠はどこにもない。明人言う通り、あれはクラスメイトの思いよがりだけで起こったことだ。
だからこそオレも、みんなも失望したのだ。だからオレは、新しいクラスを作り、徹底的に叩き潰す。
本当の強者というものを知らしめるのだ。
「そこでオレからの提案だ。オレが今裏で行動を起こしているというのは、新しいクラスを作るために人を集めているというものだ。だから、みんなもそっちに入らないか?」
「俺は賛成だ。あんな奴らと一緒にいようとはもう思えない」
「きよぽんグループも失くしたくないしね」
「俺も賛成だ」
「私も……いいと思うな」
みんな賛成の意を示した。なら、決定だろう。だが、
「ちなみに、他は誰がいるんだ?」
「うちのクラスからは堀北、軽井沢、高円寺。あとはAクラスから坂柳と神室、橋下、葛城だ」
「うわぁ、なかなかすごいメンバーだ……」
「お前いつの間にそんな繋がり作ってたんだよ」
「まあ、いつの間にか、な」
これで12人。予定ではあるが、Cクラスも加えると最大で17人といったところか。20人に届かないのは少々不安だが、個々の能力を見れば何ら問題はないはずだ。
「オレからの話は以上だ。まだ三巡残ってるんだし、気持ちを切り替えて楽しもうか」
「そうだねー。きよぽん、本気出すんでしょ?」
「……あんまり見られたくないんだが」
「そんなに人いないんだしいいじゃん!」
「……はぁ、ちょっとだけだぞ」
この後、残り全てを一発ストライクに沈め、逆転勝ちをした。みんなが引いていた気がするのは気のせいだと思いたい。