想像以上にこの小説が人気で驚いています。
でも、もっと感想ちょうだい(涙目)感想って意外とモチベ上がるんですよ?
さて、今回で長ったるかったメンバー集めは終わり、月城との交渉も今回で終わらせてしまいます。
文字数が少なく淡白に感じるかもしれませんが、これが私の限界でした。
8/19:不足していた情報があったので、補足しました。
3月ももうすぐ終わりを告げる。いよいよ3年生がこの学校を去る時が近づく。そして、オレたちが進級すると同時に新1年生が入学する。
一体、3年生たちはどんな心情でいるのだろうか。Aクラスで無事卒業できてホッとしているのかもしれないし、確実に進学・就職する権利を手に出来ず悔やんでいるかもしれない。
オレたちが卒業するときには、何が見えているのだろうか。
あれから2日経ち、オレたちは春休みの真っ只中にいる。外を出歩けば、私服姿の生徒が目立つ。
休みなのをいいことに、毎日娯楽に興じて散財するのだろう。
そして午後8時、オレは公園にある人達を呼び出していた。
奥にいくつかの人影を発見した。それはオレの方へ歩み寄ってくる。
「来てやったぞ、綾小路」
龍園翔が、いつものメンバーを引き連れてやって来た。オレがそう指示したのだ。龍園の背後にはアルベルト、石崎、伊吹、椎名の4人。
それぞれ個性は強いが、十分に使い道のある顔ぶれだ。
「で、話ってのは何だ。長居したくないんだが」
3月の夜の空気はまだ冷たく、昼の服装のままでくると肌寒さを感じる。
「分かった。じゃあ、お前たちは今回の件、どこまで知っている?」
「綾小路くんが須藤くんに殴られた、と聞きましたよ?」
「俺もそんなもんだ」
5人が賛同を示す。だが、やはりオレが新しいクラスを作ろうとしていることは知らない。
昨日啓誠から話を切り出したのは、オレが事前にそう伝えたからであり、易々と外部に知れ渡らないようには気をつけている。
高円寺には、軽井沢に吹き込んでもらった。
あの日の夜、まず軽井沢に計画を伝えた。そして高円寺に接触し、情報を伝えるように言った。
だから昨日高円寺は現れ、オレたちに接触してきた。
堀北とあれだけ早く接触したことだけが、嬉しい誤算だった。
他は概ね順調だ。
だから、龍園たちが知らないことは必然であり、オレがそう聞いたのは確認のためだ。
「そうか……なら、
「おい、何だあの話ってのは」
オレがなかなか話を進めないからか、少しばかり苛立ちを覚えている様子。
ただ、オレにとっては必要な会話だ。
「オレが新しいクラスを作ろうとしている話のことだ」
「……クク、クククッ、綾小路、お前面白いことするな」
龍園は高笑いをしていたが、椎名以外は唖然とした表情をしている。椎名は相変わらずの表情だった。
「綾小路くんがそんなことをするとは。私もちょっと驚きです」
だが、内心では驚いていたらしい。
今まで目立った行動を起こしてこなかっただけに、驚くというのは無理もないのだろう。
「……だが、今更なんだ? 俺はもう身を引いたんだ」
「だからこそだ。はっきり言うが、お前は今Cクラスではお荷物状態だろ?」
「おい、綾小路!」
「落ち着け石崎。綾小路は何も間違ったことを言っていない」
「龍園さん……!」
声を荒げる石崎を龍園が制する。あまり龍園を貶しすぎると、周りからの反発を買って交渉に支障が出る。不注意な発言は大きな命取りになってしまう。言葉選びは慎重に
「その龍園を新しいクラスに引き入れようってこと?」
「まあ、端的に言えばそういうことだ。今のCクラスは宝の持ち腐れのような状況になっているからな」
龍園は能力だけ見れば運動面において十分に高いものがある。須藤よりも高いだろうし、悪知恵はよく働く、工作員のように使うのもアリだ。
一人で難しいなら、石崎やアルベルト、伊吹らを使えばいい。
「オレのクラスに来れば邪魔者はほぼいなくなる。うちのクラスからはオレや堀北たちが抜けている。Bクラスは断念したが、Aクラスは坂柳、神室、橋下、葛城を引き抜いた。先導者が居なくなって混乱するだろうから、そこを狙って叩き潰せばそれでAクラスはどんどん落ちていくだろう」
「また龍園さんの活躍が見れるってことか!?」
「そういうことだ」
石崎は目を輝かせている。さっきの怒号から大きく手のひらを返してきた。
何とか好印象を持たせられたようで良かった。
「4月はcpが0だから多少節約は必要だが、その後は確実に増える」
特別試験で勝ちを積み重ねれば、意外と早くAクラスに昇格できるだろう。
Dクラスは300ちょっとだったが、このメンバーなら一年と少しで達成できるだろう。
それでも龍園は協力の姿勢を見せない。ならば、俺が取るべき手段はただ一つ。暴力だ。
「じゃあ、オレが勝ったらEクラスに入ってもらう。オレが負けたらこの話は無しだ」
「クク、いいだろう。あの日のリベンジが出来るってことだからな」
予想通り、龍園はオレの話に乗った。泥臭く勝ちを目指す龍園なら、乗ってくれるに違いないと見ていた。たとえ龍園が恐怖を知ろうが知らまいが、オレに復讐の炎を燃やしているのは想像に難くなかった。
「大丈夫なんですか、龍園さん!」
「黙ってろ、石崎」
以前、石崎やアルベルト、伊吹も束となってオレに戦いを挑んできたことがあった。結果は言わずもがなオレの勝ちだ。
それ故に、石崎はあの時のように龍園が痛めつけられるのを心配しているのだろう。
「止めた方がいいんじゃないの?」
「俺は決めてんだ。あの日俺に恐怖を植え付けた綾小路をボコボコにして鎖を断ち切ってやんだよ」
そう言うと同時に、龍園は一気に間合いを詰める。繰り出された拳を体を反らして回避する。そのままの勢いで飛んでくる蹴りも避ける。
オレにとっては遅い連撃だった。
「チッ、やっぱり不意打ちも通用しねえか」
「お前はそんなものか?」
「久々に燃えてんだ。こんなんじゃねえよ」
「怖くはないのか」
「ああ。全くな」
龍園は挑戦的な笑みを浮かべた。それだけの自信があれば少しは期待できるかもしれない。
オレは攻撃をすることなく守りに徹することにした。龍園という男の実力が知りたかったから。恐怖を知った龍園の実力が見たかったから。
だが、龍園の殴りや蹴りがオレに届くことはなかった。ホワイトルームに比べれば、アイス並みに甘い。
オレが攻撃しないことへの怒りからか、龍園の攻撃が少しずつ荒くなる。
拳を左手で受け止め、龍園は無防備となる。
「お前は相当な自信家らしいな」
あの時と同じように、胸ぐらを掴んでそう言う。
場所は違えど、構図は同じ。龍園の顔にはっきりと恐怖の色が見えた。
龍園は恐怖を感じたことがない、と言ったが、それは決して龍園が恐怖という感情を持ち合わせていないわけじゃない。今まで龍園が恐怖を感じるようなものに出会わなかっただけだ。
実は恐怖を植え付けるのは簡単だ。恐怖は生物が生き残ろうとする防衛本能の一つだからだ。
「そういえば、決着はどうやってつけようか。降参するまでか? それとも、どちらかの意識が刈り取られるまでか?」
過去の恐怖を引き摺り出し、更に追い討ちをかける。痛みを知っているからこそ、本能が後者を拒絶する。
それだけでも十分だが、右手を振り上げて更に恐怖を植え付ける。
そうすることで、オレに従いやすくなる。
「……分かった、俺の負けだ。お前の計画とやらに乗ってやる。ただし、お前がヘマしたら協力しねえからな」
「オレがヘマすることはまずない」
「なら、決まりだ」
これで龍園がオレのクラスに加わった。後ろの4人も概ね賛成のようだ。
暴力による支配。今まで龍園自信がやってきたことでオレに支配されることになろうとは思いもしなかっただろう。
「詳しいことはまた後日知らせる」
「分かった。寒いし俺はもう帰る。じゃあな」
龍園たちはにげるように先に帰っていった。しばらくしてオレも立ち上がる。
かなり先に、龍園たちが歩いているのが見えた。
その後ろをオレが歩いている。街灯に照らされた桜は、あの日よりも一層色づき、いよいよ満開を目前に控えていた。
ー▼△△▼ー
4月初旬、一通りメンバーを集め終えたオレは、諸々の準備をしてあの場所に来ていた。
出来れば顔を合わせたくないのだが、クラス設立にあたっては避けては通れない道だ。
コンコン、と扉をノックする。本当は蹴破って入りたいくらいだが、月城は理事長代理なので、それなりの礼節をもって向かわなければならない。
「入りなさい……って綾小路くんですか」
月城理事長代行は、柔和な笑みでオレを迎えた。だが、オレがその流れに乗るつもりはない。
あの対局を邪魔した代償は大きい。いつか、その口を黙らせる。そのために、今は耐え忍ばなければならない。
「今日は何の用ですか?」
「新しいクラスの設立に関する話だ」
「ほぉ、それはそれは。とても面白いことを言いだしますね」
子供の戯言だと認識していると取るべきか。
「これは、私への反抗、と捉えていいでしょうか」
「いや……少し違うな」
「では、誰に?」
「Dクラス──オレが所属しているクラスだ」
月城は、驚きもせずただ興味深そうにオレを見つめる。一体何を見ているのか。細いその目から読み取ることは難しい。
「しかし、ホワイトルーム出身の君が目立つ動きをするとは思わなかったですよ。そこは素直に感心です」
平穏な学校生活を送りたい。それだけの理由で、外部との接触を断てるこの学校を選んだ。
オレはもう、あそこに帰るつもりはさらさらない。誰にも縛られず、自由に生きていく。
それがオレの夢であり、目標だ。
「いいでしょう、承認します。目立つ行動をするということは、もう実力を隠すつもりはない、ということでしょう? 綾小路先生が育て上げた君の実力とやらを是非見てみたいですしね」
完全にオレを見くびっている。月城の実力が分からないので、どうかと言える訳ではないが。
「条件は……cp0、Eクラスからのスタート……では、1000万いただきましょう」
「分かった」
事前に集めた1000万pptを払う。もう少し高く設定するかと思ったが、案外安いものだ。
「何度も言うが、オレは戻るつもりはない」
「君がどう言おうとも、ホワイトルームに戻るという運命は変わりません。これ以上は君の大切な友人を巻き込むことになりますよ?」
オレは、それに返事することなく踵を返す。
オレに友人などいない。あるのは、
「オレに友人などいない。そこを間違えるな」
「その割には随分と親しくしているようですね?」
「オレの指示を通りやすくするためだ」
承認してくれただけで十分。こんなところに長居するつもりはない。
豪勢な扉を閉じ、視界から消した。
「──フッ」
部屋に漏れる乾いた笑いを聞くことはついになかった。
課題に追われているので、もしかしたら間隔空くかもです。ご了承ください。