銀の蛇と白い猫のお話 作:アマゾンの奥地
やってはいけないことだと自覚していても、どうしてもやめられない事はある。
あぁ。自分でも解ってはいるんだ。
しかしやめられない。
どうしようもない中毒者の戯言だと思って、気にはしないでくれ。
いくら我慢しなければいけないと押さえつけても、こればっかりは無理なんだ。
一度知ってしまった快感からは一生逃れることはできない。
自分がしていることが、世間一般で言う『悪い事』の部類に入っているのも理解している。
理解しているのだが、俺の身体は理性とは関係なくソレを求める。
鼻に刺さる鉄の匂いが、手に残る肉の感触が。
もう一度と俺の理性を溶かしていく。
セラに頼み込んで、罪を犯して死を待つだけの悪魔たちを集める鳥かごをつくった。
そこでだけは俺の行為は正当化される。
塔に響き渡る悲痛の叫び。
腐敗した肉の悪臭。
『死』を間近に感じさせるソレらは俺にとって絶好の環境だ。
湧き出る多幸感のまま、新鮮な肉に手を付ける。
熱い血しぶきをまき散らしながら生を懇願する肉塊たちが、俺の手によって冷たくなっていく。
あぁ。何度やめなければと思っても。
気がつけばここに足を運んでいる。
こんなことはやめなくては。
これっきりにしなくては。
そう、何度も思った。
しかしもう遅い。
俺にとって殺人は快楽を得るための行為ではない。
殺人は人生なのだ。
そう思ってしまうほどに、俺は終わっているのだ。
いつかだったか、誰かがこんなことを言っていた。
戦争で百人殺せば英雄だが、一人殺した私は犯罪者だ、と。
そうだ。
たとえどんな罪のある者であろうが、殺した時点でそれは罪に他ならない。
たとえ正義の皮をかぶって百人殺そうが、悪意のままに一人殺そうが、それは変わらない。
あぁ。結局のところ、俺は犯罪者に変わりないのだ。
命を奪うことはそれほど重いことなのだ。
ソレに快感を感じてしまう哀れな蛇が俺だった。
ただそれだけの話。
*
報告というのは大切なことだ。
上下間での意思疎通も、横のつながりでの意思疎通も必要不可欠なことだ。
もちろん、何でもかんでも誰かに言えばいいというわけではないが。
言わなくていいことだってあるだろうし、よけいな情報が多いと、かえって相手が混乱してしまう。
ようは大事なことだけを伝えればいいのだ。
「シロからの報告だ。リアス嬢が今代の赤龍帝を眷属にしたらしい」
『えぇ~!?リアスちゃんが!?すごいな~☆ねっ、すごいよね☆』
報告は大切なことだ。しかし、それは双方がそう思っていなければ意味を為さない。
たとえば情報を欲していない人にソレを話しても相手は聞いてくれない。
相手側に聞く意志がなければ、いつまでたっても情報は伝わらない。
もしかしたら、報告に一番必要なものは、他者との意思の共有だったのかもしれない。
あぁ。いつものことながら面倒だ。
近頃は人間界の生活が災いして機嫌が悪いってのに。
セラは相変わらずか。
まあセラに人の気持ちを読み取って考えろ、なんて言っても無駄だろうけど。
.....無視して話を進めようそうしよう。
「これで堕天使側が白龍皇を、悪魔側が赤龍帝を所持したということになる。そろそろ動いてもいい頃合いだと思うが」
もしも。もしも仮に電話の相手がシロだったら気分もいくらかは良くなったんだが.....。
あの娘は今リアス嬢の警護及び監視で忙しいからな。
なるべく早めに片付けて寝よう。
あんまりストレス貯めると、無関係の人までヤっちまいそうだ。
『もうっ!ちょっとは私に構ってくれてもいいんじゃない?せっかく久しぶりに話すんだから』
ハァ。言ってるそばからコレだ。
こういう輩には関わらないのが一番だ。まあ無視でいいだろう。
「そうだなわかった。それで今後のことだが.....」
『ちょっと!!ジャックはちょっと私に厳しいよ!私のこともあのネコちゃんみたくもっと甘やかしなさい☆』
「なるほど、つまり電話を切れと。そういう事でいいんだな」
あぁ。コイツ、人を無意識のうちに煽ることにかけては世界一だな。
やはり電話を切ろう。そしてこの受話器を二度と持つものか。
まったく、なぜ俺はこんな奴の下についてしまったんだ。
『あ~!待って待って!!ゴメンちゃんと話すから切らないで!!』
「.....次はないぞ」
セラも少しは反省したか.....。
まあ、習慣になりつつあるこのやり取りを今更やめるなんてことは、たぶん一生できないんだろうが。
いつもの軽口を経て、俺たちは本題へ入ることにした。
あまり本題を引き延ばすと後が怖いからな。
「それで、結局はどうするんだ?俺は動くには絶好の機会だと思うが.....」
『動くって、三勢力間で同盟を結ぶってやつ?ジャックはそれに反対じゃなかったっけ』
「別に反対してるわけじゃあない。ただ、つまらない世界になったと思うだけだ。まあ気にするな。お前は俺たちの王。お前が命令したことに関しては基本従うさ」
『う~ん☆でもなぁ~まだちょっとムリかなぁ~。こっちから同盟を持ち掛けるだけのキッカケってのがないのよ。こればっかりは私たちじゃどうにもならないし☆』
やはり会話は双方が同じ方向を向いてこそだ。
先ほどまでと違い、話が進んでいるのがよくわかる。
セラの方も口調自体は変わっていないが、しっかりと話題を前に進めている。
まあ、本来なら最初からこうなっていても良かったんだが。気にしないことにしよう。
「わかってはいるが早々に手は打っておけよ。長引かせてもいいことはなにもない。特にこういうことは尚更だ。早く動かないとそのうち本当に動けなくなるぞ」
『大丈夫だよ。その辺はサーゼクスちゃんもしっかり考えてるから☆それよりそっちはどうなのさ。なにか事件とかなかったの?特にコッチ側に情勢が傾くような』
「そんなものがあるわけがないだろう。あったら真っ先に報告してる。それにだな、もしも情勢が動くほどの大事件なんて起こってみろ。ココを管理してるのはまだ成人すらしてないような娘たちだ。悲惨なことになるのは目に見えてるだろう」
とは言っても確かにそれぐらいのことはあってくれないと、八方塞がりなのも事実。
なにかそれなりの大きさの事件が起こってくれればいいんだが。
あぁ、そういえば。シロの報告のなかから使えそうなネタがあったな。
たしかセラの妹の新しい眷属の話だったか。
「あぁ。そういえば一つ思い出した。たしかお前の妹も神器持ちの人間を眷属にしたらしい」
あまり詳しくは聞いていないから、そこまで情報量がないが。
セラのことだ。気になったら自分でも調べるだろう。
『えっ!ソーナちゃんも!?ねえねえどんな子だった?男の子?女の子?』
「男だったはずだ。神器はなんだったか.....まあ記憶にないってことはその程度のものなんだろう。あとは気になるならシロに聞け」
まあ聞いてもマトモな答えは返ってこないと思うけど。
シロは魔王さまのことが嫌いだからな。
このことに関してはセラもかわいそうだと思わなくもないが。
『でもなぁ~あの娘ほとんど私と話してくれないんだよね~。どうしてだろ、どうしてだと思う?』
「セラの
あの娘は嫉妬深いからな。
どうやら俺の身体の中にセラの物が入っているのが我慢ならないんだとか。
俺としてはそこまで言ってくれて嬉しいんだが、如何せん周囲に迷惑がかかるのが、なぁ。
『むっ☆ネコちゃんの嫉妬かぁ~。それなら仕方ないねっ☆』
「それ、本人の前で言うなよ」
『わかってるって☆貴方のネコちゃんは怒らせると大変だしね~』
「本当にわかってるんだろうな.....」
いや、コイツ絶対に分かってない。
きっとシロに会った瞬間にもうこれでもかというぐらいに煽るんだろうな。
ハァ。
『あ!そういえば貴方のネコちゃんだけど、たぶん近いうちに戻ってこれるよ☆』
「.....セラにしては珍しく行動が早いな。どうしてだ」
シロにも言われたばかりだったし、こちらとしてはいいタイミングだ。
しかし、セラが動くにしては些か早すぎる気がする。
『いやぁ~タイミングが良くてね☆リアスちゃんに許婚がいるってのは知ってるでしょ?』
「知らないな。あいにく人と人の関係を把握するのは苦手なんだ」
「なんで知らないのよ.....まあいいわ☆兎に角、リアスちゃんには許婚がいるの」
へぇ。それはおめでたいこと、なのか?
まあ祝えと言われれば祝うのもやぶさかではない。
人が幸せになるのは良いことだからな。
「それで?俺は祝辞でも送ればいいのか。あーあーセラフォルー・レヴィアタンさまの女王よりご祝辞を.....」
『いやいや。そんなことしたらサーゼクスちゃんに怒られちゃうわ☆そもそもリアスちゃんはその婚約を嫌がってるの!』
えぇ。そうなの.....。
相手によっぽど問題があるんだろうか。
いやまあ結婚なんて個人の問題が俺なんかに分かるわけはないんだけども。
「じゃあなんだ。ご愁傷様とでも言えばいいのか?この度は望まぬ結婚をされたようで、とか言って」
『.....なんで貴方ってそう人を煽るのかな』
お前にだけは言われたくない。
いつも人を煽り倒してるような奴にだけは。
「冗談だ気にするな」
『ハァ.....まあいいか。それでね、サーゼクスちゃんが妹ちゃんのお願いをなんとかして叶えたいって言ってね、婚約者さんとレーティングゲームをすることになったの』
それは.....いくら魔王といえども職権乱用では。身内に甘すぎると思うんだが。
相手側も大変だ。
魔王の血縁であるグレモリー家に嫁ぐチャンスかと思ったら、いきなりお前は嫌だって言われてゲームで今後を決められるんだろう。
「婚約者かわいそう。人の都合で勝手にそんな大事なこと決められて.....」
『そっち側に肩入れしないでよ☆まあ気持ちはわからなくもないけどさ!』
セラもだけどサーゼクスのシスコンっぷりは相当なモンだな。
もう少しは自分が魔王だっていう自覚をもってほしい。
「で、それがどう繋がるとシロが帰ってくるなんて話になるんだ」
『ほら、小猫ちゃんって首輪付きだからホントはリアスちゃんの眷属じゃないじゃない。だからリアスちゃんがレーティングゲームをする時にね、たぶんそれを理由にして帰ってこれるよ☆』
.....案外マトモで驚きを隠せないぞ。
これを考えたのは本当にセラなのか。実はアジュカ辺りが手を貸してないか。
まあいいか。
シロが帰ってくるならそれに越したことはない。
「いやーさすが我らがキング。頼りになるなー」
『その棒読みは心にくるぞっ☆』
「悪いな。感謝しているのは本当だ。ありがとう」
『もう☆分かりにくいんだから!まあ、ジャックは私の女王だからね。頑張ったよ!』
今日のセラは機嫌がいいな。
なんかついでで二、三の頼みを聞いてくれそうなぐらいには。
「なあセラ。頑張りついでにもう一つ頼んでもいいか」
『いいよいいよ!何でも言ってみて☆』
本当に機嫌がいいんだな。
これなら俺のストレス解消もできるかもしれない。
「人間界に長いこといたせいで溜まってるんだ。はぐれ悪魔かなんかを用意してほしい」
最近は全然だったからな。
久しぶりにあの肉の感触を味わいたい。
あんまり長いこと肉から離れると頭がどうにかなりそうだ。
「はぐれ悪魔なんてそんなに出るもんじゃないんだけど.....あっ」
受話器越しから書類をゴソゴソと探る音が聞こえる。
何か問題でもあったのだろうか。
「どうした。問題でもあったか」
「ううん。ちょうど駒王町にはぐれ悪魔が逃げ込んだって報告がきてて」
「それはなんて都合の良い.....で、いいのか?」
ここで駄目だと言われた日には民間の人間が犠牲になるかもしれない。
期待感がここまで高まった今、何もせずに待機なんてのは俺には到底できないぞ。
俺は今、とてもヤりたい気分なんだ。
「う~ん.....まあ大丈夫か☆好きにして良いよ。下にはコッチで処理したって言っておくから」
こういうところがあるからこそ、俺はセラの
融通が利くからな。俺もある程度は自由に動けて良い。
「じゃあ電話を切るぞ。また何かあったら掛ける」
「またね~☆」
さあ久しぶりのご馳走だ。
蛇は静かに笑いながら闇の中に消えていった。
*
「部長。先ほどのはぐれ悪魔の件ですが、上で処理をするから私たちが出る必要はない、と」
「.....妙ね。朱乃、今までにこんなことは?」
「もちろんありませんわ」
「.....そう.....」
「どうするんですか部長。行くにしてもやめるにしても、一度他の子に伝えないと」
「行くわ。こんなこと、怪しすぎるもの。杞憂ならそれに越したことはないけれど、行って確認した方がいいでしょう」
「わかりましたわ。では部のみんなにはそのように。あ、イッセーくんはどういたしましょうか」
「連れて行くわ。もともと、今日はイッセーに
「そうですか。それでは、イッセーくんも呼んできますわ」
「朱乃、頼んだわよ」
「なにも.....起こらなければいいのだけれど」