大野 利文おおの としふみ
転生しだが、お爺ちゃんみたいな性格のためもはや老後の延長のような生き方。趣味は知っているアニソンを引くこと。
美竹 蘭
利文の従兄妹。利文のまえだと割と雰囲気が柔らかい。
第1話 枯れている男
自分は俗世に何を見るのだろう?少し賢そうに言っているが、俗世に興味がないわけではない。ただし、周りのように強く渇望するものがないのだ。周りに認められたいとSNSで自己顕示欲を満たしたりしないし、誰よりも上でいなくては気が済まないというナルシストでもない。人にある欲求の強さが他人と比べると明らかに少ないのだ。なので、することが家の縁側でお茶を啜りながらの日向ぼっこぐらいしかない。これを数少ない友人である従兄妹に言ったところ、
「うちのお父さんもお爺ちゃんぽいけど、あんたは本物のお爺ちゃんみたいだね」
と、言われてしまった。まぁ、自覚があるからダメージは少ない。しかし、それは仕方ないことなのかもしれない。自分は、俗に言う転生者であるが、ただの一般人に過ぎない。凄い力を持っていたわけではない、元から凄かった訳でもない、そんな人間。なんでこんなに枯れているかというのもこれが理由でもある。前世で、童貞を卒業してからというもの、人間の三大欲求の睡眠欲以外が全部削ぎ落とされたのではないかと思うくらいになってしまった。そんな自分に周りが付けた渾名は「仙人」。そんな自分でも、興味を少し引き立てられるものがあった。
音楽である。
前世で言うアニソンはこちらの世界には無いものである。この時は、少し悲しく思った。日本が世界に誇れるものであったアニメが存在していない。こちらの世界で初めて聞いていいと思った曲もあるが、前世のアニソンの曲達の方が、しっくりくるので基本的にそれを引いている。ちなみに演奏する楽器は、アコギかエレキを変わりがわり弾いている。だがどちらかといえば歌う方が好きだ。前世は音痴で声が低すぎるという最悪な声だったが、今は少し平均より高いぐらいで、色々な曲が歌えて嬉しいばかりだ。こればかりは生まれ変わらせてくれた神様に感謝する。今日は、この曲にしよう。
『僕らの合言葉』
「その小さな体で〜君は僕を励ます〜」
この曲は、地球を侵略しにきた5人の小隊のアニメのエンディングである。これを歌うと、少し絆というものが羨ましく思えてくる。
「遠く離れていても〜心はひとつ〜」
「やはりいい物だな音楽は、こんな自分でも思わず心が高鳴ってしまうな」
少しばかりではあるが。すると、
「相変わらず上手いね。で、なんで正座して縁側で日向ぼっこしながら引いてるの?」
と、声がした方を向いて、
「ここでないと落ち着かないのだよ蘭。君こそ、どうしたのだよ」
従兄妹の蘭が来るのは珍しいとまでは行かなくても、あまりなかったはずだ。数年前に、幼馴染とクラスが違かったとは泣きついてきたことがあったが、突然来たのはその時ぐらいだ。はて?何かあったのかな?
「少し様子を見てきてってお父さんに言われてさ、両親今いないんでしょ?」
たしかに今自分の両親は、結婚記念日で一ヶ月ほど溜まりに溜まった有給を使って、バカンス中だ。
「そこまで、心配するほどなのか?自賛ではないが家事はできるぞ」
「て言って、前回同じ状況でご飯を食べないで倒れかけていたのは誰だった?」
「むぅ...」
そこを突かれると痛い。自分は、睡眠欲以外はそこまでないため、食事を疎かにし過ぎたのだ。結果、縁側で倒れていた。蘭に助けられた時の状況を説明すると、
「いくらお爺ちゃんぽくても、死に方も老衰ぽくなくても」
と、言われてしまった。
「だから、一ヶ月はうちで過ごすんだってさ利文は」
「自分は何も聞いていないのだよ?」
「叔母さんが頼んできたようちに」
「はぁ〜何故そんな重要な事を自分に言わないのだよ両親は」
「お世話になります」
「遠慮はしないでくれ利文君。さ、お茶でも飲みながら将棋でも、」
「では、一局」
「なんで歳が離れてんのに息が合うの?」
自分が、年寄りくさいからさ。
あれから、蘭の家でお世話になることになり普段となんら変わりない生活をしていた。
「あれ〜、蘭の家に男の人がいる〜」
「「「え?」」」
君たちは誰だね?
はやくも、厄介ごとになったかもしれない。