第5話 無欲と強欲
『からくりピエロ』
「待ち合わせは〜2時間前で〜」
ボカロに分類されるこの曲は、前世で初めてボカロというジャンルを自分に開拓させた。ちょうど失恋した時に聞いてしまったせいか、あの時は荒れに荒れた。学校で授業も聞かずにケータイゲーム三昧。...よくあの学校自分に推薦出したな。
「もうやめだ〜ここで君を待つのは〜」
「操ってよ〜」
「この世界にはボカロもなかったな、やはり寂しいものなのだよ自分だけが残されているようなこの喪失感は」
アニソンやボカロをメインで聴いていた身としてはこの世界はつまらない。かと言って、
「自分が作ったと言って世に出すのも嫌なのだよ。」
これは、前世で作った人の想いが詰まっているものだ。いくら世界が変わったとは言え、そんな事は自分が許容出来なかった。
「王手。」
「まだなのですよ。」
「懲りたまえ」
「.........................負けました」
やはり、勝てない。玄三さんに勝てたことはないが悔しくはない。何故ならそんな欲求はないから。しかし、それは堕落を意味しない。欲求がないとは言え、それとこれとは別問題だ。
「しかし、君も強くなったものだな」
「いえいえ、まだまだです。」
「そういうことにしておこう」
「む、すまない利文君。私の代わりに差し入れを持って行ってくれないかい?」
「差し入れですか?一体誰に?」
将棋もそこそこに終わし、縁側で寛いでいたところに玄三さんはケータイを見てそう言ってきた。
「あぁ、蘭がこれからライブなんだが、あいにく急な用事ができてしまってな、頼めないかな?」
「構わないですよ。して?場所は?」
「ここから近いライブハウス『CIRCLE』というところだ」
にしても、蘭がバンドを組んでいたとは知らなかった。自分のことは話さない性格だが、これくらいは話しても良かったのではないか?
「にしても、ライブか。前世でも行ったことがないな。やはり、首とか振るんだろうか?流石に偏見か?」
「さて、着いたはいいが受付に渡せばいいんだったな。ん?あれは、」
ライブハウスに入ると、近くのテラス席に5人の姿が見えた。
「蘭。差し入れなのだよ」
「うわぁ!びっくりした、って!利文!?なんでここに!」
「蘭のお父さんが、代わりに持って行ってくれないかと仰ってな、代わりに持ってきたのだよ。にしても、バンドをしていたとはな、びっくりしたのだよ」
「あれ?言ってなかったっけ?そうだよ、Afterglowって名前でやってる」
「利文お爺ちゃんは知らなかったのか〜モカちゃん悲しい...」
「モカ、そんな嘘泣きしなくても...」
「すまなかったのだよ。グッズはあるか?今すぐ有るだけ買ってくる」
「いやいや待って!利文!CDぐらいしかないから!あとそんなに買ってどうするの!?」
「あはは、なんかお爺ちゃんに強請る孫みたいな感じだね」
「利文さんもなんでそうなるんだろうな?」
「なんかもうカオスだよ...」
そんなことをしていると、
「あ!蘭ちゃん達いた!ちょっと〜!」
「どうしたんですか?まりなさん?」
「蘭ちゃん達のバンドの次が、トラブルで、遅れるらしいから伸ばしてほしいんだけど...」
「と言われても、まだできる曲が4曲しかありませんから、一曲しか伸ばせませんよ?」
「一曲か...難しいねそれは。んじゃさ!知り合いでいないかな?できる人?」
「えっと、ほかのバンドの方々に伸ばして貰えばいいんじゃ?」
「今回のイベントは、初心者ばかりが多くてさ、みんな演奏する三曲しか持ち合わせがないみたいでさ、だからAfterglowに頼みにきたんだけど、どうしよ」
何か、トラブルのようだな。しかし、ライブか...見ていくのも一興というものか、自分が自由に弾いているものとどう違うのか、勉強するのもアリだな。
「ねぇ?利文?私のギター貸すから二曲分私達の後にやってくれない?」
イベントの要項を見ていると蘭が声を掛けてきた。
「なんのことなのだよ?」
「なんか、トラブルでさ、つなぎとしてやってほしいんだ」
「しかし、このイベント女子限定ではないのか?」
参加者の覧には見事に女子の名前しかなかった。
「あー、たまたまここら辺ではガールズバンドが人気でね。その影響で、女子しかいないんだよ。」
「なるほど。してあなたは?」
「あ、私、月島まりな。ここのスタッフだよ。よろしく!」
「どうもなのだよ。」
「で、やってくれない?利文」
「しかしな、」
難色を示していると、
「モカ」
「利文お爺ちゃんおねが〜い」
「任せろ。ギターを貸すのだよ。40秒で準備する」
にしても、モカちゃんのお願いで、まさかつなぎとはいえライブに出るとはな。しかし、心配なのは
「みんなありがとう!Afterglowでした」
さて、蘭達が終わったなでは行こう。しかし、出てしまったな。
パリン
こうして利文の中で何かが弾け、目の色青から赤へと変わった。しかし、変わったのは、外見だけではなかった。
「Are you ready?」
会場にそんな声が響き渡る。
「できてるよ!」
こうして彼の演奏が幕を開ける。
『イマジネーション』
「揺れる陽炎、滑り出す汗、響き渡る声、叩き合う肩」
いいね!なってきたぜ。最近出てこれなかったからな!サイコーだぜまったくもっとだ!もっと暑く熱く熱くなっていけ!
☆10
ヨッシー☆さん、紗霧さん
☆9
パンデモニウムさん、ヤタガラスさん、にゃるさーさん
評価ありがとございます!
また、感想をくださった霧佐波提督さんありがとうございます!