低次元サッカー   作:おこのみ

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作者はサッカーの事が分からない上にゲーム版しかやったことがないです。


引退試合

「先輩、必殺技覚えて下さい」

「へっ?」

 

へっ?じゃないよ。2年生の副GKがなんで技1つも持ってないんだよ。いっそ辞めろ。

と、言ったことをオブラートに包みながらグチグチと問いただしている一年生、名を祠堂要(しどうかなめ)と言う。容姿端麗、文武両道。才能に満ち溢れた彼は中の下に近いタダの公立校に進学していた。

 

天才ながらも、普通の家庭に育ち兄との関係も良好だった彼は兄の敵を討つためにこの風門中でサッカーをやりたかったのだ。

 

「技覚えろって言っても・・・ウチ、監督居ないし」

 

風門中のサッカー部は弱小。コーチを呼ぶ予算も無く、グラウンドこそきちんとあるもののサッカー経験のない顧問が居るのみで必殺技を磨く環境としては適していなかった。

 

そんな背景もあり、必殺技なんて物に縁がなかった彼は無理だと言った。

 

「だーい丈夫ですって。ほら、騙されたと思って見てて下さいよ」

 

要は、部の中で唯一必殺シュート『グレネードショット』を放つ事の出来る3年先輩FWのところへ行き、シュートを打ってもらう約束を取りつけた。

 

弱小とはいえ一応は必殺技。キャッチ系の技で無ければ止めることは難しい筈だが・・・。

 

『グレネードショット!』

 

スゥゥ・・・!

 

『タフネスブロック!』

 

ドォン!

 

とてもボールが人体に当たったとは思えないような音を響かせている。そして、先輩の放った必殺技は要の『タフネスブロック』によりしっかりと止められていた。

 

「・・・えっ?それ必殺技?」

「必殺技です」

「タダ気合い入れて腹で止めただけj」

「必殺技です」

「・・・」

 

2年生副GK「大円 剛」はキャッチ技『タフネスブロック』を習得した!

3年生FW「阿木 哲平」は属性不利を克服する為シュート技『スパイラルショット』を習得した!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「木戸先輩、マジック得意でしたよね?」

「・・・それがどうかしたのか?」

 

「先輩のマジック、試合でも見たいなぁ・・・」

「は?いや、あんな真剣勝負の時にマジックなんてやってるひm」

「見たいなぁ・・・」

「・・・」

 

2年生MF「木戸 和樹」はドリブル技『マジック』を習得した!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「龍獄せんぱーい」

「あ?んだよ。気安く話しかけてんじゃねぇぞオラ」

「先輩にしか使えない必殺技があるんです」

「は?俺はサッカー部は名前だけのb」

「あぁ、これさえ使えたらもう即レギュラーでモッテモテなのになぁ・・・」

「・・・」

 

2年生DF「龍獄 顎門」はブロック技『キラースライド』そしてブロック技『スピニングカット』を習得した!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「要」

「はい!」

「お前、最近好き勝手し過ぎだ。チームの為と思ってくれているのは嬉しいが、一年生に・・・と思っている奴も居る。そこの所、少し考えろ」

「す、すみません・・・」

「ところで、だが・・・俺にも覚えれる技は無いのか?」

「・・・」

 

3年生キャプテンMF「主将 始」はドリブル技『たつまきせんぷう』そしてブロック技『コイルターン』を習得した!

祠堂要は複数の技を程々に使えるようになった!

モブはドリブル技『ひとりワンツー』を習得した!

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Fーワイルドパーク 3ー4ー3ー1の攻撃的なフォーメーション

 

FW阿木 哲平Lv10

FW祠堂 要Lv4

FW模部井Lv8

MF木戸 和樹Lv11

MF主将 始Lv15

MF模部二Lv7

MF模部佐Lv8

DF龍獄 顎門Lv9

DF模部詩Lv6

DF模部後Lv8

GK花紋 平米Lv12

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

さ、試合のはじまりはじまり。3年生にとっては引退試合だね。キャプテンも気合が入ってて、ミーティングもしっかりと喋ってる。

 

「相手の和南中はウチと同レベルのチームだ。しかし、それは去年までの話。要の知識で必殺技を覚えた俺達は去年よりも遥かに強い!勝つぞ!」

 

『オオオオオオ!』

 

「事前に調べた限りでは相手の10番がシュート技を五番がブロックとドリブル技を覚えているみたいです。後、GKはタフネスブロックを」

「だ、そうだ」

 

おい

 

 

 

 

 

『試合開始!』

 

阿木先輩のキックオフ。少し前進しながら受け止めた。ゆっくりドリブルをしながら進み、俺にマークが近付いてきたタイミングで阿木先輩へと戻す。そして球は模部井先輩へと渡り、先輩はその間に敵陣に走り込んでいた俺に対し綺麗なロングパスを渡してくれた。先輩はコントロールが良いのだ。

 

「速っ・・・!?とっまれ!」

 

横から突っ込んできたのは五番のユニフォーム。ブロックの必殺技は確か・・・キラースライド。

 

分かっていれば、小学生でも避けられる。ボールを浮かせ、軽くジャンプでもすれば相手は下をすり抜けていく・・・。容易いぜ。

 

「「うぉぉぉぉぉぉ!」」

 

2・3番の2人組。突破も簡単だけど・・・1発見せとくか。動きやすくなるし。

 

口の中に仕込んでいたアイテムを砕き、息を吹き出す。

 

『どくきりのじゅつ!』

 

紫色の見るからに危ない気体をモロに吸い込んだ2人、色とは裏腹に咳き込む程度の軽い毒性だ。しかし試合中には致命的な隙、容易く2人を突破して俺はゴール前へと躍り出た。

 

俺のシュート技は『スパイラルショット』、山属性の『タフネスブロック』とは相性がいいが・・・。

 

おっと、4番が後ろから追い付いてきていた。好都合だ。

 

「阿木先輩!やっちまって下さーい!」

 

斜め後ろへのパス、オフサイドにならないギリギリを走ってきていた先輩はフリーになっていた。

 

「わりーな・・・お前に止められた訳じゃねーけどよ。タフネスブロックには因縁があんだよ!『スパイラルショットォォ!』」

 

ボールの端を踏み付け、強烈な回転により浮かび上がったボールをボレーシュートでゴールへと叩き込む。俺が大円先輩の時に阿木先輩の『グレネードショット』を止めた事が余程腹に据えかねた様で、先輩は相手が『タフネスブロック』を使うと聞いて直ぐに

 

『俺にシュートを打たせろ!』と言ってきた。先輩方には悔いの残らないように引退して貰いたいので、できる限り先輩に花を持たせる様に行動する事を決めている。

 

『タフネスブロック!』

 

相手のGKもこんな序盤で点を取られる訳には行かないと技を繰り出す。しかし相性が悪い。更に腐っても風門中のエースストライカーである阿木先輩のキック力は相手のガードを上回っていたようで、大した拮抗もせずにゴールネットにボールが突き刺さった。

 

「・・・いよぉぉっし!!きめたぞーーー!」

 

「「ナイッシュー!」」

 

底辺争いをしていた風門中が、同格だった筈の和南中に速攻を決めたのだ。強くなった実感が欠けていた風門中にとっては素晴らしいゴールだった。

 

これによって自信を付けた風門イレブンは快進撃。1回戦、そして2回戦もギリギリながら中堅所の学校に2ー2で延長戦。前半五分で要のループシュートが決まり勝利を収めた。

 

3回戦では去年敗北した神戸中。前半先制点を決めるも、後半25分に同点の1発。延長戦でも勝負が決まらずPK戦へともつれ込み、敗れた。

 

「ごめん・・・ヒック、お、俺がっ。止めていたら・・・っ!」

 

花紋先輩・・・

 

「先輩のせいじゃねぇよっ!俺だ!後半、体力が残ってなかったっ・・・。せっかく『スピニングカット』も覚えたのにっ!こんな、こんな気分になるなら真面目にサッカーしてりゃ良かった!」

 

龍獄先輩まで・・・。初めは不純な動機でやる気を出した先輩も、試合ではカットにカットを重ねて、相手のシュートチャンスを何度も潰してくれた。最近では誰もが認める風門中1のDFだ。

阿木先輩もドリブル技で何度も敵陣に切り込んで、シュートを放っていた。この大会で3得点。人生で1番シュートを決めたと笑っていた。

花紋先輩はスタミナが切れてからも身体を使って全力で球を抑え込んでくれた。土壇場でゴールをずらし始めたのはどうかと思ったけどそれでもアリらしい。

木戸先輩、子技で奪ったボールを得意の『マジック』で前線に届けてくれた、そのお陰で何個のシュートチャンスが出来たか。

他の先輩方も、各々精一杯、やれる事をやり尽くし、自分の思いつく限りの全てを注ぎ込んで戦って・・・負けた。

 

「すみ・・・っ、すみません、でしたっ!」

「お、おいおい。要が謝る事じゃないだろう」

 

主将先輩。覚えたてながら強力な『たつまきせんぷう』で複数の相手を巻き込み、攻め込まれた時は遠くからでも『コイルターン』を発動し、チームの危機を救ってくれた。負担も大きい筈なのに、その素振りなんてひとつも見せずに、笑顔で。

 

「俺・・・俺っ調子に乗ってたんですっ、今でも先輩よりも上手いって、中学に入ってから何も成長してませ、・・・んでした」

 

先輩達は大なり小なり成長した、技も覚えたし基礎的な練習だって欠かさなかった。

そりゃ、自分もサボってはいなかった、でも3年生の先輩の必死さを欠片も理解してなかったんだ。技も進化してない。付け焼き刃の技を見せびらかして喜んでた。そんなもの試合で通用するはずも無いのに。

 

3回戦になって、ようやくその気持ちに気がついた時にはもう遅かった。俺如きのシュートなんて、全部をつぎ込んでも相手のゴールネットを揺らすことは無かったし、何度もドリブルを失敗してチームの足を引っ張った。後半なんてもう何をすればいいのかも分からなかった。先輩は最後まで諦めずに、泥臭くても喰らい付いていたのに。

 

どうしようもなく、俺は調子に乗ってたんだ。

 

「・・・要、泣くな。それに、俺達はお前に感謝してる」

「・・・えっ・・・」

 

「考えても見ろ、俺達は2回戦に出れたら御の字。そんなチームだったんだぞ?まぁ、3回戦に出たって言っても対して変わらんかもしれんがな、それでも俺達は2回勝って、なんなら3回戦ももう少しだったんだ」

 

見渡すと、3年生の先輩は皆頷いていた。俺に、感謝?俺、上から目線だったのに・・・。

 

「それにな、お前はまだ1年だろ。龍獄も、木戸もそうだ。大円も来年からは正GKだな。お前らはまだ来年があるんだ。負けたのは3年生が不甲斐なかったからだ、断じてお前達のせいでは無い。それでも今回自分の欠点が見つかった奴もいるだろう。なら後1年、2年。全力で直してみろ何度でも言う、お前達はまだ次がある。そして、来年は今年よりも強い風門サッカー部にしてくれ」

 

そう言い切るキャプテンに、兄の面影が重なって見えた。

 

「要はなるんだろ?仲間も泣かせないキャプテンに。なら、お前が泣いてちゃダメだ」

「っ!・・・はいっ」

「よしっ。さぁ、帰るぞ。また・・・今度な」


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