これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A10V:生まれ変わると、超絶美少女に生まれ変わっていたんだが・・・・・・?

 

 

 ズキンと一瞬頭が痛み、フィエーナの記憶が今、何が起きているのかを俺に知らせる。俺は死んで、蘇った? フィエーナとして……だが、何故今さら俺が自我を持ってこの体を動かしているんだ? もう、俺は記憶の中にあるだけの存在だったというのに。

 

 鼻腔に漂う微かな血のにじむ匂いが、酸素を求めて伸縮する肺が起こす空気の流れが、手に持っている木刀の感触が、確かに俺が今ここで生きている実感を与えてくれる。

 

 フィエーナから見れば何でもありの魔法の世界に生きた俺だって、こんな荒唐無稽な出来事に当事者として出会うなんて予想外だ。

 

 意識を走査してみると、フィエーナが消え去った訳ではないようだ。安心した。

 

本気の本気を出そうとして、一気に疲れが出て眠りに付いてしまったように感じた。こういった出来事に詳しくはないが、一日たっぷり寝れば自然とフィエーナの意識は目覚めるだろう。

 

 しょうがない、それまでどうにかフィエーナとして振舞うほかないようだ。

 

「互いに、礼!」

 

 混乱しきっている俺は、林原先生の号令で陽人と礼を交わしながらも自身が取り乱さないようにするだけで精いっぱいだった。

 

 そのせいで、陽人の様子が普段と違うことに気付けなかった。試合終了後、陽人は無言で道場を走り去ってしまった。一瞬視界に写った陽人の顔は耐えがたい敗北で歪んでいた。

 

 俺は状況に理解が追いつかないながら、陽人を放っておいていいのか判断つかず背中を追いかけようと駆けだす。

 

「待て、フィエーナ」

「林原先生」

「しばらく一人にしてやれ。あいつも気持ちを整理する時間が必要だ」

 

 逡巡したが、俺は林原先生の言葉に従うことにした。フィエーナの記憶を見て、陽人が一度や二度の敗北で捻じ曲がる性根の男じゃないと思えたからだ。

 

「フィエーナ驚いたよ。まさか本気の陽人に勝って見せるなんてね」

「正直、よく覚えていないん、です……無我夢中で、気付いたら勝ってた、んです」

 

 ロートキイル語の丁寧語がスラスラと口から出るのに我ながら驚きを覚える。帝國語じゃまともに丁寧語が話せずお偉いさんの前では突っ立ってるしか能がなかったというのに。それでも俺が丁寧な言葉遣いをしているのがどうにも落ち着かない。

 

そもそもからして、俺が喋っているのに少女の声で出力されるのも俺を混乱させて来る。

 

「無我の境地か。俺もいつかはその域まで到達してみたいもんだ」

 

 肉体の酷使と精神的混乱。何だか疲れてしまって、俺は天を仰ぎ眉間に指をあてる。ただし、眉間に触れた指はごつごつとした太い指でなく、フィエーナの綺麗な細い指だった。

 

「疲れているみたいね。鳳二さん、フィエーナをお風呂に入れてあげてもいいかしら」

「おお、折角だし日本の風呂に入ってみろ。気持ちいいぞ~」

「私が案内してあげる!」

 

 張り切って俺の手を取り先導する遥を見ていると、初めて会った時見た機械のような無表情っぷりが勘違いだったように思えてくる。フィエーナは俺を真似しただけというだろうがとんでもない。フィエーナ、お前は立派だよ。

 

「遥、先に着替えを取りに行かせて」

「あ、そうだね。じゃあ私の部屋行こうか」

 

 今日俺は、遥の部屋の一角を間借りして寝かせてもらう。和室に布団を敷いて寝るなんて初めてだ。フィエーナは楽しみにしていたが、残念だったな。まあ、俺の記憶を見れば体験できるからそれで我慢してもらおう。

 

「どうしたの? 忘れてきたの?」

「いや、そうじゃない……けど」

 

 遥の部屋に置かせてもらっているバッグから着替えを取り出す。当然、パジャマも下着も女物だ。ど……どうする俺!? というか、道着はともかく今の俺も中に付けている下着は女物じゃねえか。

 

 再び眉間に手が延びる。やべえ、フィエーナちょっと変わってくれないか。俺の願いは空しく、意識がフィエーナに移り変わる様子はない。

 

「大丈夫? ちょっとここで休む?」

「あ、いや大丈夫だよ。さっ、お風呂にしよう!」

 

 遥の部屋から少し歩き、浴場に到着する。ガラガラとスライドする扉を開くと、籠が入った棚と姿鏡、数人が横に並んで使える鏡付きの洗面台、それに体重計の置かれた空間が広がっていた。

 

「まるで旅館のお風呂みたいだよね」

「旅館って何?」

 

 遥によると旅館というのは日本におけるホテルのようなものなのだそうだ。その上でこんな大きな脱衣室を備えた家は日本でもそうはないと教えてくれた。

 

「こっちがお風呂場だよ」

 

 遥が擦りガラスで出来た扉を横に開くと、お湯がたっぷりと張られた浴槽からもうもうと湯煙が浮かんでいた。フィエーナの家にある陶製の浴槽とは比較にならない、古代ローマ人の邸宅にありそうな規模の広々とした大きな木製のお風呂だ。

 

 思い返せば、俺のいた世界では貴族でも碌に風呂には入っていなかった記憶がある。平民の俺は水で体を洗う程度だった。今あっちに戻ったら悪臭に耐えられないかもしれない。

 

「広いね。私なら四人か五人は入りそうだね」

「ふふっ、フィエーナがいっぱいだね」

「じゃ、先に入っていいのかな」

「うん、どうぞ」

 

 遥が脱衣室から出ていった後、俺は道着に手を掛け少し迷う。果たして俺が見ていいのか? だが、フィエーナと俺は一心同体なのだ。その気になればいくらでもフィエーナの記憶から覗き見れるのに、迷う必要が何処にある。

 

 意を決し脱ぎ始めるが、道着を脱いだ後で目に着くのは可愛らしい女向けの下着。途中からこんなもの着ていられるかという気持ちの方が優ってポンポンと景気よく脱いでいってしまった。

 

「うわ……」

 

そうして裸になってみて、改めて全身を眺めてみるとかつてとの違いに思わず唸ってしまう。

 

 顔はまだ少女然としていたフィエーナだが、体つきはとっくに大人に迫っているようだ。フィエーナの身長は百六十一センチ。俺のいた世界に女で、それも十二歳で百六十一センチってのはいなかった。今がこれだとフィエーナが大人になる頃には俺のいた世界の平均的な男とタメを張れるだけの背丈が得られそうだ。

 

 姿鏡で全身を確認する。白銀の髪は、ハリアを思い起こさせる。ただ、あいつは癖毛でいつもどっかしらの髪が飛び跳ねていたな。フィエーナの髪はふんわり纏まっている。櫛を入れなくても手で簡単に整えられるのを見たらきっとハリアは嫉妬するだろう。

 

 紅紫色の瞳はロートキイルでもあまり見られない目の色だ。多分、ヴェルデ市ではフィエーナとベーセル兄貴の二人だけだろうし、国内でも十人いるかどうかってところだろうな。

 

 目尻の垂れた目付きは、物憂げでミステリアスな魅力を放っている。紅紫色をした瞳の珍しさも相まってフィエーナを非日常の存在であるかのように見せかけていた。フィエーナが度々街中で呼び止められて、目を見せてほしいとかモデルにならないかなどと言われるのも納得する。

 

 顔立ちも整っていて、可愛らしい。今でも美少女だが、成長すればさぞや美人になるだろう。何処を取っても一流といっていいが、俺個人としては目付きが好きだな。鏡越しに見ているのに惹きこまれるような魅力が感じられる。だが、妖しく誘ってくるようなこの目付きを見過ぎていると魅了されかねない恐ろしさを感じ、俺は自覚した瞬間に慌てて目を逸らした。

 

 長い手足はフィエーナを実際の身長よりもスラっとした印象に見せかけている。筋肉はあるが、ごつごつした印象はない。むしろ柔らかく、しなやかな体躯は猫科の肉食獣を連想させる。実際、腹部に手を這わせてみるとすべすべふにふにしていた。

 

 俺がフィエーナの将来……それも剣術を続けさせる上で心配になるのが、片手で握ると手がいっぱいいっぱいになってしまう程度に丸く膨らんだ胸だ。フィエーナの母親を見るとこれでもまだこの程度で済んでいると思えてしまうが、実際のところ下着の補正がないと動いていて違和感が半端ない。

 

 ちょっとその場を歩いてみると揺れて体の重心移動がとんでもなくぶれぶれになってしまい、俺は苦笑した。こりゃ、厄介な重量物が付いてきたものだ。さっき投げ捨てた下着の恩恵は偉大だったことに気付き、今更ながら丁重に扱ってやることにした。

 

 あれこれ考えているが、ふとまるで子供を持ったようだなと思い再び苦笑してしまった。現状、俺自身がこの体を意のままに操れるが、このまま俺が俺として生きようとは思えなかった。

 

 

 紛れもなくフィエーナは俺自身ではあるのだが、しかし俺はもうフィエーナの一部に過ぎないのだ。今は疲れ切ったフィエーナが休んでいるから、代わってやっているだけ。

 

 姿鏡に映る俺はかつて大剣を意のままに操った大男としてではなく、人を惹きつける見目麗しい十二歳の美少女であり、こいつを俺として動かそうとは思わない。俺の魂に新たに生まれたフィエーナにこそふさわしい体だ。

 

「あれ、フィエーナ裸で何してるの」

「遥!?」

 

 俺が感慨深い感情に浸りながら全裸で姿鏡の前に立っていたところに、ガラガラと音を立てていきなり遥が入って来る。馬鹿野郎! いきなり入ってくるなよ!

 

 変な奴と思われたらフィエーナに恥をかかせてしまう。顔に血が上るのを感じながら、俺は慌てて籠の上に置いたタオルを引っ掴み、顔より下を隠すように垂れ下げた。

 

「ごめんねフィエーナ。もう浴場に入ってるかと思ってたの」

 

 くるりと背を向けて謝罪する遥は、俺の反応を裸を見られたからと解釈してくれたようだ。

 

「別に後ろなんて見てなくていいよ、それより何の用?」

「あのね、一緒にお風呂入ってもいいかなって聞こうと思って」

 

 一緒にお風呂? 確かにここのお風呂はでかいから、数人が同時に使っても問題はなさそうだ。だが俺のいた世界では裸は猥らに他人へ見せるものじゃない。ロートキイル人としても、他者と裸でお風呂に入る習慣はない。サウナはあるが、あれは水着で入るものだ。

 

「それって日本だと普通なの?」

「普通! タオルは付けるけどね。あっ、でもね、湯船に入る時は取らなきゃ駄目なんだよ」

「うーん……でもなあ」

「駄目?」

 

 正直言って、断りたい。遥が嫌いとかそういう訳じゃないが、文化的に受け付けないというか、理屈じゃないんだがやりたくないという思いが強い。

 

 だが、物欲しそうにこっちを上目遣いで見つめて来る遥を見ていると甘やかしてやりたくなってしまうのだ。フィエーナにもその気はあるが、俺も頼まれると余程じゃない限りはどうにかしてやりたいと思ってしまう。

 

 そういえばベーセル兄貴も何度かここに泊まった時、陽人と一緒にお風呂に入った話をしていたような気がする。ベーセル兄貴にも出来て俺に出来ない道理はない。

 

「まあ……いいよ。一緒に入ろうか」

「ありがとうフィエーナ! 背中洗ってあげるね!」

「あ、ありがとう遥」

 

 裸のままの俺に抱き付いてくる遥に、俺は思わず引きつった笑顔になってしまう。ええい、覚悟を決めたぜ。この際日本流の入浴法を身に着けてやろうじゃないか。

 

 

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