これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A15V:遥と映画を見に行った。

 

 

 秋季休暇が終わりに近づいた頃、フィエーナの母親から映画のチケットを貰った。チケットには如何にもといった風情の軍人たちが戦車と共に映っている。そして、題名はライエナハウ旅団。

 

「ライエナハウってお母さんの旧姓だっけ? また映画化したの?」

「そうなの。折角だからってお父さんがくれたんだけど、ベーセルの分が一枚余っちゃったのよね」

 

 フィエーナの母親、その家族であるライエナハウ家には国民的英雄が存在する。フィエーナの記憶によれば、フランスがあっさり敗戦したせいで防衛線の裏側を付かれ大敗走したロートキイル軍の中で唯一、戦車を主体とした実験旅団が防戦に獅子奮迅の活躍を見せたのだとかで、その指揮官が母の祖父であるデレク・ライエナハウなんだとか。

 

まあ結局ロートキイルはドイツに降伏するんだが、それで諦めるデレク・ライエナハウじゃない。イギリスに亡命し機会を窺い、連合軍の欧州逆上陸の際には自由ロートキイル軍の指揮官としてロートキイルの地を真っ先に解放した英雄だ。

 

 度々テレビドラマの題材になったり、映画の題材になっていてその度に関係者である母の父親のオットフリットお祖父さんには試写会やらなんやらのチケットが送られたりするのをフィエーナは覚えていた。

 

「よかったらお友達誘って見に行ったら? もらった四枚全部あげてもいいわよ」

「そんな、いいよ。二枚だけもらっとくね、ありがとうお母さん」

 

 俺としては是非見たいものだが、さて誰を誘ったものか。幼馴染のエリナは見るの嫌がるだろう。ベーセル兄貴とだったら気軽に見に行けたんだろうが、三日前にドイツに戻っちゃったしな。

 

 フィエーナの部屋を出ていった母を目で見送った後、俺はベッドに背中から倒れ込みスマホを掴んで誰を誘おうかなとリストに目を通し始める。

 

「遥は……こういうの好きなのかな」

 

 今ではすっかり明るくなってクラスでも友達を何人も作っているほど馴染んだ遥の心の傷を刺激したりしないだろうか。聞くだけ聞いてみてもいいかもしれない。電話を掛けてみると一コールもしないうちに遥は電話に出た。

 

「もしもし! フィエーナどうしたの?」

「あ、遥? 実は映画のチケットを貰ったんだけど、戦争映画って見れる?」

「フィエーナと映画!? 行く行く! 絶対行く!」

 

 案外乗り気だ。じゃあ遥と一緒に行くか。秋季休暇は今日で終わってしまうので、早速今日のお昼に近所の映画館に行くことになった。

 

 遥に土地勘がないので一旦フィエーナの家で待ち合わせすることになり、バスを乗り継いで遥は家を訪ねて来る。

 

「こんにちは、遥です」

「こんにちは遥。うわぁ、今日はおめかししてきたね」

「ど、どうかなフィエーナ」

 

 恥ずかしそうにこちらを上目遣いで見て来る遥はいつもより可愛らしくて、俺は思わず感嘆してしまう。こっちは普段着の上にただブレザー羽織っただけだが、遥はワンピースの上におしゃれなカーディガンを羽織ってる。頭の上の帽子も、足元の靴も、パーティードレスほど堅苦しくないのにセンスがいい。

 

「似合ってるよ!」

「ありがとうフィエーナ!」

「あら! 遥ちゃん今日はすっごくおしゃれね!」

 

 挨拶の抱擁を交わした後、遥の格好を見たフィエーナの母親も興奮して何枚か写真を撮られてしまう。おかげで出発が十分は遅れてしまい、俺は遥に早歩きを強制させる羽目になってしまった。

 

「ごめんね遥、ちょっと時間取られちゃったね」

「ううん、気にしてないよ」

「十分もかからないところにあるんだ。だから、ちょっとだけついてきて」

 

 今日の遥がヒールの付いた靴とか履いて着ていたら危なかったが、多少早く歩く程度なら遥も体力付いてきているし問題ないはずだ。俺が先を進もうと歩みを進めると、後ろに伸ばした手を誰かが掴む。

 

「フィエーナ! おいてかないでよ?」

 

 遥は心配性だな。誘った俺が置いていく訳ないじゃないか。

 

「大丈夫だって、さあ行くよ!」

 

 安心させるよう後ろの遥かに笑って見せた後、俺は頻繁に後ろの遥へ振り向き、話しかけながら映画館に歩き続けた。俺の計画では映画が始まるまでに二十分は余裕を残して到着するはずだったが、ちょっと歩みを速めた程度で十分の遅れが取り戻せるはずもない。

 

「あと十分か……」

「全然余裕だったねフィエーナ」

 

 混んでたら危なかったが、今日は幸い人がそう多くない。俺と遥は数人の列に並び、チケットを受付に提出し席を取る。

 

「あと五分はあるね。売店で遥は何か買う?」

「うーん……私は飲み物だけ買う」

 

 二時間半の映画だ。俺も飲み物くらいは買っておこう。普段のフィエーナならチュロスを買ってさらにコーラを飲んでいる。悪いが俺はそんな甘ったるい組み合わせを食える気がしない。ただ、炭酸飲料は口の中の感触が新鮮で面白いから買ってしまう。ふと隣を見ると遥はブラックのアイスコーヒーを頼んでいた。

 

「苦くない? それ」

「えー? 苦味がいいんじゃない。フィエーナは苦手?」

「うーん、どうだろう」

 

 フィエーナは好きじゃないが、俺は苦い食い物が嫌いじゃない。記憶の中ではブラックコーヒーにいい思い出はないが、俺の時だけ飲めるようになるものだろうか。

 

 支払いを済ませ、売店から少し離れた休憩スペースに移動したところで遥がコーヒーの入ったコップを差し出してくる。

 

「一口だけ飲んでみる?」

「いいの?」

「いいよ、はい」

 

 差し出されたストローからコーヒーを吸い出し、口内に留めて味わってみる。うーん……いや、やっぱりこれは無理だ。俺を見る遥はおかしそうに笑っていた。俺は自分のコーラを一口飲んで口内からコーヒーを洗い流した。

 

「私はこっちでいいや」

「ふふ、そうみたいだね」

 

 ちょっと雑談していたら、上映まで数分になっていた。慌てて二人で館内に入りスクリーンの前に座る。公演からまだ数日しか経ってない平日の午後で、席は三分の一が埋まっている程度か。これって採算は取れているのか?

 

 やがて周囲が暗くなり、映画が始まる。国内資本で作成された映画だが、結構気合の入った作りで俺は楽しんで見られた。確かドーク祖父ちゃんのところのヴィッカース戦車とKPZ.39も何処かに混ざっているはず。ほかにも欧州諸国の実働車輛や実働機を出来る限り陸上航空どちらも使うようにしていると謳っている通り、結構車輛のシーンは迫力がある。

 

俳優もまあ結構真に迫った演技をしているが、唯一デレク・ライエナハウが本人と似ても似つかないのが引っかかってしまう。オットフリット祖父ちゃんから本人の写真たくさん見せてもらっているからな……まあこれは映画なのだから割り切って見よう。

 

 映画の序盤、堂々と部隊の威容を見せられた後にドイツ軍によって無様にもやられていくロートキイル軍。正面も側面も折角猛攻に耐えていたのに、肝心の後方を守るフランス軍が総崩れとなって後方から無慈悲にもロートキイル軍は壊滅していく。そのシーンではフランス軍へ当てつけにも近い罵倒が差しはさまれていた。

 

 急降下爆撃機が爆弾を投下し、機関銃の発砲音がけたたましく鳴り響き、ドイツ軍戦車がロートキイル軍人の死体の間を縫って無慈悲にキャタピラの音を鳴らして進んでいく。恐らく最初の見せ場シーンなのだろう。爆発も派手だし、人間もバンバン兵器に殺されていく。映画とは分かっていてもおぞましく思えるリアリティたっぷりの映像だ。

 

 ちょっと刺激が大きかったのかもしれない。再び遥は俺の手に自らの手を重ねてきた。これはしょうがないよなあ……俺は安心させるようにもう一方の手で遥の手を包んで安心させてやる。

 

 横目に遥を見ると、その目は食い入るようにスクリーンへ釘付けになっていた。手は震えているのに見るのは止める気がなさそうだ。大丈夫、か?

 

 遥が限界なら途中退席もやむなしだが、遥の顔は好奇心と恐怖心がないまぜになっている。これなら問題はなさそうだ。

 

 映画はデレク・ライエナハウがアメリカ第十二集団軍の助力を得つつ故郷の地を踏み解放したところで終わり、観客たちは盛大な拍手で映画を讃えて終わった。

 

「はー……すごかったね」

「うん、結構いい映画だと思うよ」

 

 圧倒されたように席で座ったままの遥に俺も賛同する。ドーク祖父ちゃんに傑作戦争映画を見せられているフィエーナの歴代ランキングで、トップテンに入る出来だ。

 

頑なにCGを拒むばかりでなく、要所要所少ないシーンに限る代わりに本物そっくり仕上げていて迫力もたっぷりだったし、ロートキイル人にとっては祖国が舞台でヒロイックに仕上がっていたし、これは興行収入もいい線いくかもしれない。

 

 暗くなっていた館内は再び照明が灯り、観客たちは思い思いに語りながらゆっくりと席から立ち去り始める。俺たちもそろそろ帰らないとな。

 

 ゴミはゴミ箱まで持って行かなければと思い、コップを持ちあげると予想よりも重たい。

 

「あー、結構残ってるね」

 

 上映途中から遥の手を両手で包んでいたから飲む機会を失ってしまい、結構な量が残っていた。このまま捨てるのはもったいない。

 

俺は氷の解け始めたコーラを一気に飲み干す。ちょっと薄味になったコーラが喉を潤してくれる。こっちの方が俺は好きだな。

 

「遥はそれ飲み終えた?」

「あ、まだあんまり飲めてない」

 

 遥のコーヒーを覗いてみると、中身がほとんど減っていないのに気が付く。あまり喉が渇かなかったのかな。

 

「遥も飲めるなら飲んじゃいなよ」

「あ、う、うん……」

 

 どうしてだろう。遥は頬を僅かに染めてコーヒーを一気に飲み干した。

 

「じゃ、帰ろっか」

「そう、だね……」

 

 映画館に向かう時と同じように俺は後ろに手を引かれる。案の定、遥が俺の手を掴んでいた。

 

「どうかした?」

「う、ううん。何でもない。何となく」

 

 成る程、実は映画が怖かったから手を繋いで欲しかった訳か。言い出すのが恥ずかしくてちょっと照れていたんだな。

 

遥はまだ十三歳、誰か甘える相手が欲しいんだろうが林原家や吉上先生にはあまり迷惑をかけられなくて遠慮しているのかもしれない。

 

しょうがない、俺が親代わりになれるなら代わってやろう。

 

「いいよいいよ、このまま帰ろうか」

「……うん!」

 

 俺の言葉を聞いた遥の笑顔は、一瞬こちらが見惚れて固まってしまうほどだった。

 

 

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