これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A19:クリスマス会の後、遥が家を訪ねて来ました。

 

 

 二階に上がっていくエリナを見送り、私は一階をそのまま進んでいく。

 

 クラスルームは隣同士なのだけれど、クラスルームだと一クラスが集まって立食したり音楽演奏したりするには少し狭苦しい。だから、クリスマス時期になると多目的室や音楽室などの好物件は取り合いになりがちだ。中等学校は五年生から十二年生まであるので、好物件は上級生に取られる……かと思いきや、下級生には一階とかのスペースが優先的に与えられるので助かった。一番不憫なのは真ん中の九年生とか十年生あたりだろう。

 

 ワルター委員長は今回、一階にある技術工作室を私たち向けに獲得していた。普段はのこぎりや電動ドリル、卓上ボール盤などが置いてある工作室はクリスマス模様に室内が装飾で飾り付けられている。騒音対策もされていて騒がしくしても問題ないと聞いたクラスメイトがいそいそとバンド仲間と一緒にドラムを設置しているのを横目に、私はケーキを所定の場所に置く。

 

 ようやく太陽が昇り始め、窓の外が徐々に明るくなっていく。この時期は太陽が昇るのが八時を過ぎてからで、十六時には再び暗くなってしまう。こうも日照時間が短いと、日を浴びるのがありがたく感じる。

 

 普段は七時半から始まる授業前には全員が集まる真面目なクラスだけれど、今日は八時くらいには来てねってくらい緩い。それでも大体のクラスメイトは普段の習慣が抜けないみたいで、既に登校済みだった。

 

「キアリー来ないね」

「遥、心配しないで。キアリーはイベント好きだからもうじき来ると思うよ」

 

 いつも朝の授業で眠たげにしているキアリーが登校時間の縛りを解かれたなら、こうなるのは予想が付く。

 

「今日は多分はしゃぎまくってうるさいから気を付けるのよ」

「今日くらいいいだろ。一緒に面倒見ようぜ」

 

 遥へ耳打ちするアメリアの背中からトヨが肩越しに顔を出す。遥も含めてみんなちょっとおしゃれをしている。私も今日は気を使っておいてよかった。

 

「ふああ……みんな~おはよ~」

 

 話をすれば大きくあくびをしながらキアリーがやってくる。ともあれ、これで全員がそろったのでワルター委員長の司会の元、パーティーが開始される。といっても、そんな格式ばったものでもないのだけれど。

 

音楽を趣味でしている年配の担任教師がノリノリでサクソフォンを奏でて喝采を浴びたり、結成して一年ほどのバンド仲間三人の演奏を聞いたり、ワルター委員長が電子オルガンで一人オーケストラしてみせたりと場を定期的に盛り上げる音楽がある程度で、それ以外はみんなで持ち寄った食べ物をあれこれおしゃべりしながら摘まんでいるだけだ。

 

 私も合唱団で習った曲や最近の流行歌、個人的な好み、応えられるリクエスト曲を歌って場の盛り上げに貢献する。歌っている間、クラスメイトのみんなが食べる手を止めてこっちを見て聞いてくれるのはありがたい。何度もアンコールをくれるのも嬉しい。けれど、十二月に入ってから歌を歌い続けて正直喉が疲れているので一時間ほどで歌を切り上げることにした。

 

「もっと聞きたいのに……」

「後、一曲だけ!」

 

 私の歌声は、あまり聞きすぎるとそれなしでは生きられなくなってしまうと合唱団の先生に言われたことがある。真面目な先生が珍しく冗談を言っていると思ったら、あまりに真剣な声で言われたので忠告は守っている。つまり、あんまり長くは聞かせてはいけない。

 

「ごめんね、休憩させてね」

 

 ちらっと壁の時計に目をやるとあと一時間半くらいで、後片付けに入らないといけない。これならのらくらと時間を稼げば、もう歌わなくてもいいだろう。歌うのは好きだけれど、今日はこの後も合唱団で歌う予定もあるし喉を労わらなくては。

 

「フィエーナの歌は流石ね! 私もフィエーナくらい上手くなりたいわ」

「ありがとう、アンナ」

 

 アンナに熱のこもった目で両手を掴まれる。同じクラスメイトで、バンドを一年前から始めたアンナは目標に私を掲げていると公言している。もっと上手い人はいくらでもいると思うんだけど……まずは身近な人からってことだろうか。

 

「ねえ今日の私の歌はどうだった!?」

「いい歌声だったよ」

「ありがとうフィエーナ! でもフィエーナと比べたらまだまだだと思うの!」

 

 興奮したようにまくしたてるアンナの後ろに遥が見える。その瞳は怒りや嫉妬のないまぜになったような感情を強烈に光線としてこちらへ照射してくる……ような幻視をしてしまった。アンナも感じ取ったみたいで訳も分からず後ろを振り返る。

 

「え? な、何だったのかしら……」

「フィエーナ! 疲れたでしょ、何か飲もう?」

 

 私の隣で微笑む遥にさっきまでの感情は見られない。気のせい……いや、でも? あれ、どうなんだろう。今の遥はとても清楚で愛らしい美少女にしか見えない。あんな目をするようには見えない。

 

「そうだね遥。アンナ、話はまた後でね」

「う、うん?」

 

 寒気がしたのか両手で自らを抱きしめるアンナから離れ、私は遥と一緒にその場を離れる。

 

勘違い……かな。疲れていたから、きっと誤認もあり得る。それでもちょっとあまりにも衝撃的な光景で、笑顔で話しかけて来る遥からさっきの印象が薄れるまでに時間がかかった。

 

「フィエーナは歌が上手いんだね」

「ありがとう遥、ワルター委員長の伴奏もあってこそだけどね」

「そんなことないよ! 私、フィエーナの歌のファンになっちゃったよ!」

 

 遥は私の歌のファンでもあり、回顧録のファンでもあるのか。ケーキも美味しいって言って一人でワンホール全て食べてしまったし、このままいくと私の創り上げたもの全てのファンを自称しだすかもしれない。

 

「私もフィエーナの伴奏が出来たらな」

「遥は楽器かなにか出来るの?」

「ピアノなら、やってたよ……今はないからしてない」

 

 一瞬遥が寂しげな表情になる。ほんの僅かだったけれど、そこからは郷愁が読み取れたような気がした。そっか、日本ではきっと楽しくピアノを弾いていたんだろう。

 

「ねえ遥、私の家にピアノあるんだ。よかったら弾いてみる?」

「いいの?」

 

 期待と遠慮が見え隠れする遥に私は笑顔で頷いた。きっとお母さんなら許してくれるだろう。

 

 

 

 クリスマス休暇に入って早速、遥が家に遊びに来た。私が事前に遥にピアノを使わせていいかと相談すると母は笑顔でオッケーを出してくれた。

 

「それにしても遥ちゃんがピアノを弾けるなんて知らなかったわ。何歳からやっているの?」

「四歳からです」

「じゃあもう九年もやっているのね」

 

 艶やかな黒が美しいアップライトピアノは、二階の防音設備が供えられた部屋に置かれている。ピアノを見た瞬間、遥の目が子供らしく輝く。

 

「うわあ、これを使ってもいいんですか?」

「もちろんよ」

 

 傍から見ても分かりやすく上機嫌になった遥は、母から簡単に説明を受けて鍵盤に触れる。

 

 私にはピアノの弾き方は全く理解できないけれど、遥が奏でる音はとても心地のよい響きをしていた。興が乗ったのか、色んな曲を弾き出した遥の独奏会はしばらく続き、遥が一息ついて演奏をやめると私と母は惜しみない拍手を遥へ送った。

 

「遥ちゃんすごい上手じゃない!」

 

 ピアノ経験者としての血が疼いたのか、母は興奮冷めやらないまま立ち上がり勢いよく遥に抱き付く。遥も褒められてまんざらでもないようだ。照れ臭そうに顔を笑顔にしている。

 

「フィエーナはどうだった?」

「感動して目が潤んじゃったよ」

 

 私が目を拭って見せると遥は満面の笑みでこっちを見つめてくる。

 

「これだけ上手なのに林原家でピアノが弾けないなんてかわいそうだわ! 遥ちゃん、いつでもうちに来ていいからね!」

「ありがとうユミアさん!」

 

 その後、ベーセル兄が帰って来るので母は迎えに車を出していってしまった。するとさっきまで明るかった遥の表情に陰が差す。

 

「フィエーナには話しておこうと思うの。私、明後日から日本に帰るんだ」

 

 折角の帰郷というのに、遥の顔は浮かない様子だ。事情が事情だから、単純に喜べないのだろう。私の座る椅子の隣に座った遥は肩に寄りかかって来る。そして正面を見つめながら淡々と話し始めた。

 

「両親とも会うことになっているの」

 

 遥の両親は深い精神的苦痛を浴びて、病院に入院していると聞いていたけれど父親の方はもう退院して仕事に復帰しているのだそうだ。

 

「今はね、お父さんとは電話で話もしているの」

 

 ぎこちないながらも、徐々に昔通りの関係へ戻りつつあると遥は心底嬉しそうに話してくれる。

 

「でも、お母さんはまだ駄目みたい」

 

 もしかしたら面会が許されないかもしれない。そう話す遥の目からは涙が零れていた。立ち上がった遥は無言でピアノの前に座り曲を弾き出す。今の遥の感情を表すように、物悲しげで穏やかな曲が流れる。

 

「この曲……お母さんが好きなドラマの主題歌なの」

 

 自称天才物理学者と自称天才奇術師のコンビが様々な怪奇現象に出会う、日本では人気のあったドラマシリーズの曲らしい。

 

「他にもお母さんとは色んな曲を聞いたし、ドラマも見たんだけど……今無性に弾いていたい気分」

 

 何度も何度も同じ曲を弾いた後で、遥は曲を変えた。穏やかで明るい調子、それなのに無性に心が悲しく引き裂かれるような思いに駆られる。

 

「ふふ……同じアーティストさんつながりだよ」

 

 耐え切れなくなった私は背後から遥を抱きしめる。弾くのに邪魔になるだとかそんな配慮なんて思わずかなぐり捨ててしまった。同じ曲が、少し救われるような調子に変わったように思えた。

 

「ありがとうフィエーナ。傍にいてくれて本当にありがとう」

 

 ピアノを弾きながら遥は呟く。ピアノにかき消されそうになりながらも、確かに遥の言葉は私の耳まで届いた。

 

 曲を弾き終えた遥は晴れやかな表情で私を見つめて来る。

 

「私、行ってくるよ」

「うん、戻ってきたらたくさん遊ぼうね」

「うん!」

 

 負けないで遥。遥ならきっと、乗り越えられる。

 

 

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