これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A21V:親戚一同が集まってクリスマスを祝う風習らしい(前編)

 

 

 

 いつもより賑やかだった我が家だが、流石に早朝は静かだ。物音ひとつしないひっそりとした空気の中で俺はいち早く目を覚まし、自室を抜け出す。人感センサーを備えた足元灯が真っ暗な廊下をぼんやりと照らすと、何処かホッとした心持ちを覚えてしまった。

 

「メリークリスマス、フィエーナは今日も早起きだね」

「ベーセル兄、メリークリスマス。いよいよクリスマスだね」

 

 今日は十二月二十四日。この日から二十五日にかけてフィエーナの家族は毎年祖父ちゃんの家に行き、親戚一同と一緒になって暮らすのが習慣になっている。

 

 フィエーナにしてみればもう十三度目になるクリスマスだが、俺にとっては初めてのクリスマスだ。やばい、楽しみで仕方ないぞ。心の浮つきを抑えることができない。軽率な行動に移す前に、日課のランニングで体を動かし心を落ち着けないと。

 

「何だかそわそわしてるね」

「だってクリスマスだよ、ベーセル兄。今日もランニング行くよね? 早く行かないと私この場で走り出しちゃうよ」

「こらこら、父さんが起きてくるまで待つよ」

 

 俺が腕をランニングフォームにして走り出す素振りを見せると、ベーセル兄は笑いながら頭を掴んで来る。つられて俺も一緒になって笑ってると、寝室から髪の毛を掻きながら父親が出てきた。そのすぐ背後には眠たげにぼんやりしている母親もついてきている。

 

「メリークリスマス、フィエーナにベーセル。朝から楽しそうだな」

「メリークリスマス、父さん。フィエーナが今にも飛び出しそうだったから抑えてたんだよ」

「何だ今日もランニングに行く気なのか? クリスマスくらい休んだらどうなんだ」

 

 そうは言うけれど、この男は毎朝走らないと落ち着かない性分のはずだ。実際その口調には真面目に諌める様子は見られない。

 

「えー、じゃあ私一人でも行っちゃうよ。今日の私は心躍ってるから」

「待て待て。俺も今から準備するから一緒に行こう」

「フィエーナもパジャマのままで出かけたら凍えちゃうよ。ほら、着替えないと」

「はーい」

 

 朝の支度をいち早く終え、俺が二階からリビングに降りるとレードがうつらうつらしながら母親に温かいお茶を飲ましてもらっていた。

 

「メリークリスマス、レード。早起きだね」

「メリークリスマス、フィエーナお姉ちゃん」

 

 母親の手を借りてお茶を飲むレードの口調はもごもごしていた。寝起きできっと意識がぼんやりしているのだろう。

 

「私たちが起きて動き出したから起きちゃったみたいなの」

「そっか、まだ寝ててもいいんだよ」

 

 ソファに座るレードの目線に合わせて努めて優しく話しかけてやると、レードは首を横に振る。

 

「起きる」

 

 そう言ってお茶の入ったカップに口をつけるレード。三分の一ほど残っていたお茶を一気に飲み干してカップをテーブルに置いたレードは、ソファから立ち上がり俺の腕を引っ張り始める。

 

「ねえ、一緒に遊ぼう」

 

 全く元気な奴だ。だが、男の子なら朝っぱらから走り回れるくらい元気な方がいい。どれ、ちょっと外に連れ出してやろう。

 

「ねえお母さん、レードを外に連れ出してもいいかな」

「いいけど、ちゃんと着こませないと駄目よ」

「そうだよね、それじゃレード。私は今からお外に行くけれど、付いていく?」

「行く! ボールも持ってっていい!?」

「いーよー。それじゃ、寒いから着替えようね」

「うん!」

 

 遊びに行くと分かると途端に動きが機敏になりだすレードを見て、俺と母は顔を見合わせて笑い合う。

 

 さあついて来いレード。昨日のフィエーナよりも俺はもっと暴れまわるからな。

 

 

 

 お昼頃、叔父であるヴェラホルドの妻と一緒にクリスマスのご馳走を作り終えた俺たちは揃ってジーク祖父ちゃんの家へと車で向かった。市内にはオットフリット祖父ちゃんの家もあるのだが、毎年交代でどちらかの家に集まることになっている。

 

「あー、また今年も天幕が広がってるね」

 

 双方の親戚を合わせると二十人を超える。それだけの人数を一つ屋根の下に収容するのは大変だ。なので、ジーク祖父ちゃんは軍隊が使うような天幕を自宅の庭に設営してしまっていた。天幕はリビングとも直結していて、双方のスペースを合わせれば二十人を超える親戚一同を余裕を持って迎え入れられるようになるのだ。

 

 暗緑色の天幕にはクリスマス装飾がこれでもかと盛り付けられ、派手で陽気なクリスマスが演出されている。天幕には採光用の透明な箇所があり、そこから内部で人が動き回っている様子が窺えた。もう結構集まっているみたいだな。

 

「フィエーナおねーちゃーん!」

「おー、レード。元気だね」

 

 俺が車を降りると、両親の乗る車に乗っていたレードが駆け寄ってきたので屈みこんで受け止めてやる。子供特有の高い体温が一気に冷たい外気を押しのけてしまった。これはいい暖房だ、屋内に入るまで抱っこして持ち歩くことにしよう。

 

「すっかり懐かれたね」

「レードと私は仲良しだよね?」

「うん! 僕ね、フィエーナお姉ちゃんと結婚するの!」

 

 七歳児らしからぬ物言いに周囲の一同の顔が笑顔になる。生温かな笑みが大半だけれど、俺の傍に寄ってきたレードの姉二人の顔にはからかうような意味合いが混じっていた。

 

「レードじゃフィエーナ姉に釣り合わないわよ!」

「そんなことないもん!」

 

 長女であり私の二歳下のアリスから否定され、むきになるレードへさらにもう一人の姉であるエマからの追撃が刺さる。

 

「えー? でも抱っこされてるじゃない? それじゃフィエーナお姉さんの旦那さんにはなれないわよ」

「降りる! 先に行こ、フィエーナお姉ちゃん!」

 

 ぷんすかとした調子で俺から降りたレードは、手を握ってずかずかと歩みを進めだす。

俺は苦笑しながらレードに付き合ってやった。

 

「ねえ、フィエーナお姉ちゃんは僕のお嫁さんになってくれるよね!」

 

 正直言って、俺はそういった付き合い事をする気は毛頭なかった。そういうのはフィエーナが惚れた相手とするつもりだった。しかし、きっとフィエーナが好きになるのは男だろう。そう考えると、将来フィエーナが結婚した時に俺は苦渋の決断に迫られそうだ。まさか、フィエーナが女と結婚するはずもないだろうしな……。

 

というか、男相手に求婚されるなんて経験が俺にあるはずがない。だから俺はフィエーナがいつもやるようにお馴染みの台詞を吐く。

 

「そうだね、レードが立派な大人になったら考えてあげようかな」

「駄目なの?」

「結婚は大人がすることだからね、レードが立派な大人になってくれたらデートとか一緒に住んだりしてさ。生涯一緒にいたいって思えるようなカッコいい男になったら結婚しようね」

「ねー、駄目なの?」

 

 だがレードは、誤魔化しを許してはくれない。イエスかノーのどちらかを聞くまで引くつもりはないようだ。

 

「ねーねー、いいの? 駄目なの?」

「んー、じゃあ今はいいけど……」

「やったー! ねーねー! フィエーナお姉ちゃんが僕のお嫁さんになってくれるって!」

 

 俺の返事を全て聞き終える前にレードは俺の手をすり抜け大喜びで駆けだして、少し後ろを歩く二人の姉の方へ行ってしまう。

 

「待って待って、まだ全部言えてないよ! レードがちゃんと立派な大人になったらだからね!」

「だって、レード? 勉強サボってお友達とサッカー行くようじゃ駄目なのよ?」

「お姉ちゃんたちが疲れてても無理やり手を引っ張って遊ぼうとするようじゃ駄目なんだってよ?」

「じゃあもうしないもん!」

 

 当分レードは二人の姉にいいように言われ続けるのだろう。しかしレードの奴、立派な大人って部分ちゃんと耳に入っているのか心配だ。言っておくが、俺のお眼鏡にかなわないような大人になったらフィエーナと結婚なんて許さないからな。

 

 図らずも先頭を歩いていた俺は、ドーク祖父ちゃん家の玄関に一番先に立っていた。ならばとブザーに手を伸ばしかけたところで、扉が勢いよく内向きに開く。

 

「久しぶりだねフィエーナ! ハッピークリスマス!」

「リア姉、メリークリスマス」

「んんー! 一段と綺麗になっててお姉さん感無量だよっ!」

 

 今年で二十歳になるリア姉は女性にしては高い百七十七センチの体躯で以て俺を抱き上げてしまう。俺だって百六十二センチはあるのだが、果たしてここまでは大きくなれるのだろうか。

 

「ああ~、フィエーナは可愛いなあ~」

 

 すりすりと頬を寄せ付けて来るリア姉の顔はとろけきっている。ちょっと異性に見せるには刺激のある表情で、だからこそ俺は反応してしまい思わず目を背けてしまった。

 

「恥ずかしいから降ろして、リア姉」

「あはぁ、その顔つきもいーねっ!」

 

 そう言いながらも無理強いはしないリア姉は俺を降ろし、後ろにいたレードを早速抱き上げていた。

 

「レード、一年ぶりだねっ! ハッピークリスマス!」

「リア姉ちゃんメリークリスマス! ねえねえ、もっと高い高いして!」

「いーよっ! ほうら、くーるくるくるーっ!」

 

 七歳になるレードを平然と持ち上げて、バランスを崩すことなくその場で回って見せるリア姉。

 

「あはははははーっ! ねえもう一回もう一回!」

「ちょっと待ってねレード! 今レードのお姉ちゃんたちとも挨拶してくるから!」

 

 リア姉がアリスたちにも抱き付きに突撃しにいくと、二人からも楽し気な嬌声が響いてくる。リア姉は相変わらず優しくて愛嬌のある自慢の従姉だ。

 

「何だ玄関が騒がしいな!」

「お祖父ちゃん、メリークリスマス!」

「おう! メリークリスマス! レードもいるな、元気にしてたか!?」

「う、うん」

 

 ドーク祖父ちゃんに怯えたのか、レードは俺の足に縋りついてくる。だが、そんなこと知ったことかとドーク祖父ちゃんは豪放磊落な笑顔でレードを抱き上げてしまった。

 

「おお、おお! 大きくなったじゃねえか! 今体重は何キロだ、ええ?」

「二十六キロだよ」

「そうかそうか! でかくなったな! 身長も伸びてるか? 今どのくらいだ?」

「えとね、百三十センチ」

「そりゃ、すげえ! 去年より六センチは伸びてるな!」

 

 ドーク祖父ちゃんが笑みを絶やさずレードを撫でてやると、レードの顔つきからおどおどとした部分が姿を消す。一年ぶりに会ってちょっと接し方を忘れてただけのようで、そこからはレードもドーク祖父ちゃんと嬉しそうに喋り始めた。

 

「おい、ゾフィ! レードが来たぞ!」

「あれまあ、大きくなったねえ」

「本当! でもまだ可愛らしいわ」

 

 のっしのっしと室内に入っていくドーク祖父ちゃんの掛け声に釣られ、ゾフィ祖母ちゃんにツェーラ伯母も姿を現す。リア姉の母親とあって、ツェーラ伯母の身長も百七十センチほどある。おまけにフィエーナの父親の兄であるメルツ伯父の身長は百八十センチ越えなので、メルツ伯父一家は全員高身長な家系となっている。

 

「お、フィエーナ久しぶりじゃねえか。お前随分綺麗に……つかでかくなったな」

 

 玄関辺りが賑やかになったからか、見上げるような身長と筋肉質のがっしりとした筋骨隆々な青年、ウェル兄貴が姿を現した。ウェル兄貴は父親の身長も越え百九十センチほどまで背が伸びている上に、サッカーで鍛え上げた肉体、さらには綺麗に刈り上げた白銀の顎鬚も相まってとてもベーセル兄貴の一個上とはとても思えない。

 

 かつての俺に近しい体躯を持つウェル兄貴はだがしかし、フィエーナのたわわに実った胸部をぶしつけにも凝視してくる。せっかく厳つくてカッコいい顔つきをしているのに、そんなだらしない表情をしていちゃ台無しだ。

 

「何処見て言ってるのさ、ウェル兄。メリークリスマス」

 

 俺は内心の呆れを隠すことなく声音に乗せ、上目遣いで睨み付けてやる。というか、厚手のセーターを着こんでいるからそこまで目立たないと思うんだがな。

 

「にーちゃーん! 誰が来たの? あ、フィエーナ……め、メリークリスマス」

 

 兄の後ろからひょっこりと顔を出したのはウェル兄貴の弟であり、アリスと同じ年であるマハンだ。兄に似た厳つい顔立ちだが、まだ少年のあどけなさも残している。だが、去年会った時よりも随分と背が伸びていた。流石メルツ伯父の家系だ、二歳年下のくせに俺よりも五センチほど背が高い。

 

 やんちゃな声を張り上げて兄の背中から出てきたと思えば、かぼそい声で俺に挨拶してくる。三年くらい前までは割かし元気いっぱいに絡んできた覚えがあるんだが、どうしてしまったのやら。

 

「メリークリスマスマハン、久しぶり。スケベなウェル兄みたいになっちゃ駄目だからね」

 

 親戚同士なら普通抱擁くらいするのが普通だが、ウェル兄貴は無視してマハンとだけ抱擁をする。

 

「はん、十三歳でそんな体つきのお前にゃ言われたくないわ」

「どういう意味さ」

 

 口を開きかけたウェル兄貴だが、何かに怯えたように口をすぼませてしまった。

 

「レディに対して不躾がすぎるぞ、バカ息子」

「へーい……悪かったなフィエーナ」

 

 後ろから凛々しい男前な声がすると思ったら、いつのまにかメルツ伯父が立っていた。四十代半ばでありながら息子であるウェル兄貴よりも力強いがっしりとした肉体に、射殺さんばかりの鋭い目つき、顔に刻まれた皺からは年を経て培ってきた年季を感じさせるカッコいい中年男性だ。

 

「メリークリスマスフィエーナ。元気にしてたかい?」

「はい、メルツ伯父さん。伯父さんも相変わらずみたいですね」

 

 抱擁を交わすと、見た目に違わず鍛え抜かれた肉体を触れて感じ取ることが出来た。こいつはすごい、生半可な鍛え方じゃここまではならない。フィエーナの父親といい、メルツ伯父といい、ドーク祖父ちゃんの家系は戦う男の血筋のようだ。

 

「よう兄さん! 最近出世したんだって?」

「久しいなベーレム。おかげさまでな」

「お久しぶりです、ますます頼もしくなられたようで」

「ヴェラホルドか。君も今はヴォールト航空基地でトーネード航空群を率いているそうじゃないか。いざという時は航空支援を頼むよ」

 

 和気あいあいと軍隊トークに映る三人を見ていると、今更ながら軍人率の高さを思い起こさせる。というかむしろ、軍人じゃないフィエーナの父親が例外じゃないか。

 

「ああもうメルツったら! 今日はクリスマスなのよ、そういう物騒なお話はまた今度にしてちょうだい」

「そうはいうが、ツェーラ。クリスマスくらいしか会う機会がないんだから仕様がないじゃないか」

「はいはい、まだパーティの準備は終わってないのよ。ほら、ユミアさんたちが持ってきた料理を運ぶのを手伝うわよ!」

「参ったな」

 

 困ったように頬を掻くメルツ伯父を見て、ヴェラホルド叔父がニヒルに笑う。

 

「山岳旅団長殿も奥方には頭が上がりませんか」

「そりゃ、ツェーラにはいつだって敵わないよ」

 

 豪快に笑うメルツ伯父たちだったが笑っている暇があったらさっさと動きなさいと再び小言を言われ、慌てて外に止めてある車に向けて掛け足で向かっていった。

 

 その後、みんなでクリスマスの準備に追われているとオットフリット祖父ちゃんが長男であるデレク夫妻と一緒に訪ねて来る。

 

「お久しぶりです、参謀総長」

「はは、元ですよ。今はただの退役軍人です」

「先月ぶりだなメルツ。山岳歩兵のくせに戦車旅団に刃向った無謀な奴め」

「デレクか。戦車乗りは図が高くて足元がお留守だからな。相手取るのは簡単だったよ」

 

 好戦的な応酬とは裏腹に、二人の顔は親し気に笑みを浮かべている。確か、二人は同期で士官になっていたはず。同期としての遠慮ないやり取りなのかもしれない。

 

二人はバシンと勢いよく握手を交わした後、荒々しく抱擁を重ねる。背中をベシベシと叩き合い、何というか俺も昔は探索者連中と一緒にあんな真似をしたなと懐かしく思える荒々しさだ。

 

「ふん、今日は呑み明かそうじゃないか」

「望むところだ」

 

 そして二十人を超える親戚同士で延々と抱擁を交わしていく。数人程度ならすぐにすむこの行為も、この人数だとただ抱擁しあうだけでかなりの時間を取られてしまった。まあ、年に一回くらいしかないのだからたまには悪くないかもしれない。

 

「久しぶりだねレオン兄。メリークリスマス!」

「フィエーナ久しぶり。去年より綺麗になったね」

「ありがとう」

 

 不躾なウェル兄貴と違ってデレク伯父の長男であるレオン兄貴は、気質がベーセル兄貴に近い。オットフリット祖父ちゃんの血筋は何処か紳士的な振舞いをさせる何かがあるのだろうか。それにしてもドーク祖父ちゃんのアルゲン家本筋が内務省勤めの文官家系で、オットフリット祖父ちゃんのライエナハウ家が代々の軍人家系なのは興味深い。何だか反対のような気がする。

 

「グスタフ兄も元気にしてた? メリークリスマス!」

「あ、う、うんまあね。メリークリスマス」

 

 俺より二つ年上のグスタフ兄は分かりやすいくらい緊張して俺と抱擁を交わす。まあ、分かる。フィエーナは可愛いものな。俺だって動揺するよ、うん。

 

「昔からグスタフ兄は私とだけぎこちないよね」

「そ、そうかな? あははは……」

「こいつはフィエーナに惚れてるからな」

「ちょ、兄さん!」

 

 前髪に隠れ気味の碧い瞳が分かりやすいくらい挙動不審になっていた。ここまで分かりやすいと最早親戚の間では公然の秘密となっているしグスタフ兄貴も知られているのは承知の筈なのだが、それでも改めて指摘されると恥ずかしいのだろう。

 

「レオン兄、駄目だよからかっちゃ。悪いお兄さんだね」

「ごめんごめん、許してくれグスタフ。でも俺だってフィエーナなら付き合いたいくらいだけどね。どう、付き合わないかい」

「あはは、今の私の恋人を知ってるでしょ?」

「剣術のことか。もうずっと続けているよね。何年になるんだっけ」

 

 五歳の頃からずっと続けてきたから、もう八年はやっているのか。思えば随分長いものだ。フィエーナはへこたれずよく頑張ったと俺は褒めてやりたい。

 

「八年か。もう円熟した夫婦みたいなもんだね」

 

 前世も含めれば二十年を軽く超す。二十歳で結婚してももう四十代になるレベルだ。そんな長い付き合いを易々と引きはがせるとは思わないことだ。

 

「そうだよ~? だから諦めることだよ」

「参りました。グスタフも降参する?」

「ぼ、僕は、その……母さんが料理運ぶのを手伝ってくる!」

 

 足を踏み外し、転びそうになりながらグスタフ兄貴は外へと駆けて行ってしまった。フィエーナも罪な女だ。美少女だとしても、ハリアレベルにぼっちと無口と無愛想を極めればこんな問題も起きないんだろうが……代わりに一人も友人を作れなくなるかもしれないからハリアみたいにはなってほしくはないが。

 

「グスタフ兄、見た目はいいから普通に彼女作ったりしてないの?」

 

 男らしさは感じさせないどころか、一見だと女に見間違えられそうな整った顔立ちは優し気で穏やかな風貌をしている。そのくせ運動神経は結構いいし、俺以外とは明るく打ち解けられるコミュニケーション能力もある。これでモテないはずはないと思うんだが。

 

「あいつはフィエーナ一筋だから、告白されても眼中にないみたいだよ。諦めを知らないのがあいつの美点でもあり欠点でもあるから」

 

 そこまで思いを寄せられる女がいるとは幸せなのだろうか。だが、当のフィエーナにその気がなさそうなのが悲しいところだ。俺としては一回付き合っちまってもいい気もするが、まだフィエーナには恋愛以外にやらないといけないことが山ほどあるんだろう。

 

俺もまあ、探索者目指しての修行に次ぐ修行を終えてその後はずっとダンジョンに潜りっぱなし。カディアを復活させちまってからは七大魔王との戦いに駆り出されていたので恋愛なんてしたことがない。フィエーナにどうこうアドバイスできない立場だ。

 

 死ぬ間際にハリアとちょっとそれっぽい雰囲気にはなっていたんだが、帰ったらハリアから何か話すことがあると言われた直後に死んじまったからな。あいつ、俺に何を言うつもりだったんだろうか、そこは前世での気がかりの一つだ。

 

 

 

 

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