みんなで持ち込んだ料理が天幕を広げてリビングから一直線に伸びたテーブルにずらりと並んだところでクリスマスパーティは開幕する。これでもかと沢山並べられた料理を各自が思い思いに皿に取っては好き勝手に食事を始める。ケーキも肉も、野菜も果物も取り放題で、今日ばかりは何をどれだけ食べても文句を言われることもない。
各々が持ち込んだクリスマスプレゼントは、翌日開封するお楽しみの一つだ。クリスマスツリーの周囲を二十人以上が用意したプレゼントが全周を包囲し、山を形成している。成人男性ほどの高さがあるクリスマスツリーは、プレゼントの山によって半分くらい姿を隠してしまっていた。
一同の中でひときわ幼いレードは、明日の楽しみの中心であろうツリーに置かれたプレゼントを何度も眺めては目をキラキラと輝かせている。果たして、フィエーナの用意したおもちゃは気に入られるのだろうか。
大人たちは早速お酒を呑んで陽気に笑い合い、子供たちも遊びの片手間に食事を食べても今日だけは怒られない。
そんなどんちゃん騒ぎもフィエーナの母親がピアノを弾き、ベーセル兄貴がバイオリンを奏で、それに俺が歌い始めるとみんな押し黙ってクリスマスらしい雰囲気のある聖歌に耳を傾ける。
だが、そんなしんみりとした雰囲気も最近の流行歌をリクエストされていくうちに崩れていき、また再び賑やかなどんちゃん騒ぎに回帰していく。
冬の短い日の光があっという間に落ちて、外が真っ暗な夜になってしまっても煌々と照らされた室内は暖かくて明るいままだ。
一年ぶりの再会とあって、一年間たっぷり温めた様々なエピソードをそれぞれが開陳し、それをみんなでやんややんや言いながら盛り上げていく。話のなり手は大人だけという訳じゃない。レードが幼いなりにつっかえつっかえ最近サッカークラブであった試合に話をしては、サッカー経験者のウェル兄貴を初めとする男子たちがレードにアドバイスを始めたり、最近のサッカーリーグの話題に飛んではレードのお気に入りの選手について語り合ったりしていく。
夜が更けて、深夜になっても今日だけは寝なくてもいい。まだ小さなレードは喋りつかれてベッドに寝かしつけられてしまったが、俺やアリス、エマはそこらの会話に加わり続けていた。
それでも年少組は十二時になったあたりから徐々に睡魔に負けていき、十五歳になって今月からお酒が飲めるようになったグスタフ兄貴もぐったりとソファに倒れ込んでしまう。
一日中起きていいてもいいとはいえ、俺も多少は寝ようかなとグスタフ兄の寝るソファの隙間に身を潜り込ませようとするとベーセル兄貴がやってきた。ワインのグラスを片手に少し服のはだけているベーセル兄貴には、妙な色気があった。
「フィエーナも流石に疲れた?」
「そうだね、ちょっと眠たい」
そういった傍から、欠伸が出てしまう。
「そんな狭いとこで寝たら体痛めちゃうよ。二階のベッドでちゃんと横になりなよ」
「でも、もう動きたくないんだ。ここでいいよ」
グスタフ兄貴はとても男には見えないので、何となく大丈夫なような気がするのだ。
「ほら、わがまま言わない。おんぶしてあげるから」
ソファに倒れようとする俺の腕を取り引っ張って来るベーセル兄貴。そういうならと俺はのそのそとベーセル兄貴の背に伸し掛かった。
「大丈夫? 酔ってるのに……私そんなに軽くないよ」
「フィエーナくらい持ち上げられるよ。それ」
お酒のせいか一瞬だけふらつくものの、確かな足取りでベーセル兄貴は俺を背に歩き出す。俺は心地よい疲労に身を委ね、思考を蕩けさせながらベーセル兄貴の背中にひっついた。
「んー、ベーセル兄の背中暖かいね。もうここで寝ちゃおうかな」
「じゃあ僕はフィエーナが起きるまでちゃんと支えておくね」
「んーん。もう一緒に寝ちゃおうよ。ちょっとくらい寝ておいた方がいいよ。どうせ今年も明日は教会に行くんだから」
教会なんてほとんど行かないアルゲン家も、流石にクリスマスくらいはお祈りに行く。親戚総出で近所の教会まで行って、俺たちのクリスマスは終了するのだった。
「はれー? フィエーナおんぶされてるー!」
「うわ、リア姉さん人を担いでるときにぶつからないで」
「ごめんごめんベーセルゥ……あはははははーっ! 私も抱っこしてー!」
リア姉もお酒を呑んで普段以上に陽気になっている。酔っぱらったリア姉が腰辺りにひっついてきて、ベーセル兄貴は身動きが取れなくなってしまった。
「おいこら姉貴、困ってるんだから放してやれよな」
こつんと優しくリア姉の頭を拳で叩いたのは、リア姉の弟であるウェル兄貴だ。
「悪いなベーセル。こいつ年々酒癖がひどくなってきててな」
「あはは……」
「うわあん、弟にぶたれたよー! フィエーナ慰めてー!」
背中に負ぶわれていた俺を簡単に引きはがし、リア姉は近くの床に倒れこんで俺を抱き枕のように抱きしめて来る。リア姉の息は酒臭く、相当呑んでいることが伺える。俺もあと二年あれば酒が飲めるんだが、ここまで酩酊したらフィエーナに後でどう思われるか考えると自制しないとな。
「ふわあ……何だか私も眠たいな、一緒に寝ちゃおうかフィエーナ」
「せめてベッドで寝ようよリア姉。床は硬くて嫌だよ」
「床は硬いけどさー、フィエーナが柔らかいから私はオッケーだよー!」
そう言いながら胸に顔を埋めて来るのは止めてくれ。
「おい、俺が背負ってやるからさっさとフィエーナを放してやれって」
「んむー! フィエーナと一緒にいたいのー! ウェルは筋肉でカチカチだけど、フィエーナはおっぱいおっきくて柔らかいからこっちの方がいい!」
「ったく……おいベーセル。もう二人まとめて運んじまおうぜ」
「それは危なくないかな? ねえ、リア姉さん。僕はフィエーナにベッドでゆっくり休んでほしいだけなんだ。手伝ってくれないかな?」
「んむ? フィエーナはベッドで寝たい?」
「うん、ベッドで休みたいよ」
「んー、じゃあお姉さんが運んであげるね!」
そういうなり俺を抱っこしてリア姉はふらふらと歩き始める。危なっかしいリア姉をベーセル兄貴とウェル兄貴の二人で補助して、ようやく俺はベッドにたどり着くことが出来た。
「ほうら、ベッドだよフィエーナ。ゆっくり休んでね」
「ありがとうリア姉」
「いいよいいよ! どんどん私に頼ってくれていいからね! にしてもベッドふかふかだあ……」
あっという間に寝息を立ててしまうリア姉を見て、俺は二人と顔を見合わせ笑いあう。
「ベッドの数も足りねえから、フィエーナはそれと一緒に寝てくれ。何かあったら俺に言えよな」
「おやすみフィエーナ」
「うん、二人ともお休み」
一日中喋り続け、何度も歌のリクエストを聞き続けていた結果、俺も案外疲れていたらしい。ベッドに横になるとすぐに眠くなってしまった。
俺が喉の渇きを覚えて目を覚まし、壁に掛けてあった時計を見ると朝の五時。四時間くらいは眠ってしまっていたようだ。隣では未だリア姉がうつ伏せの体勢のまま眠り込んでいた。
俺が部屋の扉を開け、廊下に出ると階下ではまだ話し声が聞こえて来る。フィエーナの親戚連中はアルゲン家にしてもライエナハウ家にしても軍人やら警察官やら体力がないとやっていけない職に就いている者が多い。一日の徹夜くらい大した疲労には入らないのだろう。
「おや、起きたんだねフィエーナ」
「ベーセル兄は徹夜?」
「まあね」
特に疲れた様子も見せず、ベーセル兄貴は微笑んでくる。
「おーいフィエーナ。こっちに来なさい」
「はーい、お父さん」
その後、俺も会話の中に加わり喋り続けていると徐々に眠っていた連中が起き出してくる。朝食はご馳走の残りを食べて、太陽も八時を過ぎてやっと顔を見せ始めた頃には全員が起きていた。
「そろそろ教会にいこうかね」
そうゾフィ祖母ちゃんが切り出したのは、九時ごろ。支度をして教会に向けて歩き始めると、同じ目的の人が多いのか段々と人通りが増えて来る。
十時のミサに間に合わせた私たちは一時間半ほど、教会で聖歌を歌ったり聖書の一節に耳を傾けたりして時間を過ごした。荘厳な雰囲気のある教会内で聞く聖歌や聖書が、一年の終わりと新しい新年の始まりを感じさせた。