これTS? 憑依?   作:am56x

25 / 77
T/APo01:閑話

 

 

 

 フィエーナという少女の護衛を僕は担当している。ふわふわと柔らかそうな白銀のボブカットに赤紫色の瞳を持ち、厚着をしていても目立ち始めている大きな胸が少女らしい幼い顔立ちと相まって魅惑的な魅力を僕に抱かせて来る若干十三歳の女の子だ。

 

彼女の魅力は簡単には言い表すことはできないけれど、僕が彼女の護衛についているのは何も彼女に纏わりつく虫を追い払うことが目的じゃない。それはあくまで副次的な目標であって、本義としては彼女の父親の就いている仕事に関係している。

 

フィエーナの父親であるベーレム・アルゲンが務めているのは王国警察内部でもテロリズム関係を担当する機密度の高い部署だ。ロートキイルは欧州で最も治安がいい国と言われているが、それでもテロ事件と全くの無縁という訳ではない。だからこそ、ベーレムの近しい人物に対しては内密にではあるけど、身辺護衛が付けられているのだ。

 

 この任務にあてられた当初、はっきり言って僕は不満たらたらだった。警察官の中でも危険の大きな要人警護を担当する部署に入るのには苦労したし、それだけの努力を僕は続けてきた。それなのに与えられた任務は特に直近で危険が迫っている訳でもない少女一人を遠巻きに監視するだけなのだ。

 

 とはいえ与えられた仕事なのだから仕方ないと前任者からこの仕事を引き継いだ際、彼からあるアドバイスをもらった。

 

「くれぐれも自信をなくさないようにな。あの子は絶対こっちに気付いてくるから」

 

 何を馬鹿なと最初は思った。僕のことを訓練しかしていない新人と勘違いしているのではないか。これでも僕は特殊部隊を引退する前に幾度も自身の気配を潜め、犯人を尾行してアジトを突き止めた経験があった。国内ばかりじゃない、国外でも通用したこの技量は隊内でも随一を謳われたものだった。

 

 そう、僕を見つけられる人間なんて僕が意図して見つかるようにしない限りいないはずだったのだ。それなのに、度々フィエーナは僕のいる方を見つめては手を軽く振って来るのだ。そして口ぱくでこう伝えて来るのだ。

 

「いつもありがとうございます」

 

 感謝の念を持ってくれるのは仕事にやりがいを持てるけれど、何もこんな形で表明されるとは思わなかった。はっきりいって、自尊心を傷つけられたたし、技量が落ちたと疑ってフィエーナ以外の警護任務に代わってもらったこともあった。

 

 しかしやはり、誰がフィエーナを担当してもしばらくするとフィエーナから感謝を受けるのだという。部署内でも有名な話で、誰を送り込んでも結果が変わらないのでもうフィエーナ本人から隠れるのは諦めているのだとか。むしろお近づきになれない制限から、フィエーナに対して畏敬に似た感情が抱く者が現れ、警護部内の守護聖人扱いまでされているありさまだった。

 

 上層部としても隠匿の技量に優れた僕を鳴り物入りで送り込んだ経緯があると風の噂で聞いた。僕もそう知ってからは期待に応えるべく一層励んで背景や自然の風景、通行人に紛れ込む努力を続けたのだけれど、効果は上がらなかった。

 

 

 それでもフィエーナが僕を発見するまでにかかる時間は、僕が技量を磨くごとに長引いていった。僕は開き直り、さらなる技量の向上の試し相手としてフィエーナを利用するようになっていった。

 

 そうやって懸命にやっていくうちにいつの間にか、僕はこの任務を気に入ってしまっていた。というよりか、護衛対象であるフィエーナに魅せられてしまっていた。フィエーナの見せる一挙手一投足を誰よりも長時間見ていられることに充足感を抱いてしまっていた。季節によって変化する服装はフィエーナの新しい魅力を発見させてくれ、フィエーナにも劣らない可愛らしい友人たちとの絡み合いはフィエーナの表情に多様な変化を与えてくれる。そして何よりも僕はフィエーナの目付きに惚れてしまっていた。希少な赤紫の瞳の色すらどうでもいいと思えるほどにフィエーナの目付きは魅惑的で、性別すら超えて周囲の人間達が魅せられていく様を僕は遠巻きに何度も見続けていた。

 

 そして何処を向いているか分からないフィエーナの双眸が確実に僕を見つめていてくれるのが、僕を発見して感謝を伝えてくれるその瞬間だった。僕は見つけてくれることにいつしか喜びを覚え、フィエーナの瞳と僕の瞳が重なり合う瞬間を最高の喜悦としてしまっていた。

 

これでは数多いたフィエーナを付け狙っていた不審者の精神構造と変わらないのではと自覚しているが、これは上層部から与えられた任務なのだから僕は仕事をしているだけなのだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。