これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A34V:夏季休暇の一幕を過ごす。

 

夏季休暇が訪れ、私たちはいつものように避暑の為ザルトヒェン村へ行くことになった。今年はミゼリア姉も一緒に来るのだという。すっかり両方の親から公認され円満カップルと化したベーセル兄たちだけれど、ベーセル兄はドイツの大学に通っていて、ミゼリア姉はロートキイルで学生生活の真っ最中だ。二人の時間は実はそんなに取れていない。

 

「ベーセル!」

「おおっと、危ないなあミゼリア」

 

 昨日も夜までベーセル兄と一緒だったのにミゼリア姉は嬉しそうにベーセル兄へ駆け寄って抱き付きに行く。ベーセル兄もまんざらでもなさそうにミゼリア姉を受け止め笑う。美男美女のカップルだから、のろけきっていても絵になるのが見てて少し腹が立つ。

 

「はあああああ、見てらんないわ。フィエーナの部屋に入れてよ」

 

 ラブラブっぷりが癪に障ったらしい従姉のリミ姉は私の手を引っ張って二階に上がる。私の了承なくベッドに倒れ込み、そのまま私の膝の上に頭を乗っけて寝転んでしまった。

 

「もうリミ姉、私は枕じゃないよ」

「ん~? でもいい匂いもするし、抱き心地もいいし~……フィエーナは私専用の抱き枕になってよ」

「何それ」

 

 私は苦笑しながら、リミ姉の肩甲骨まで伸びた艶やかな白銀の髪を撫でる。毛先の跳ね一つない髪は普段からしっかり手入れしているのだろう。とても触り心地がいい。

 

「んへえ……気持ちいいわ。もっと撫でててフィエーナ……」

 

 リミ姉の綺麗な顔立ちがリラックスして緩む。普段から凛としていてキリッとした美人さんのリミ姉が、眠たげにしていると何処か淫靡な魅力があった。

 

 そのまますやすやと寝息を立て始めるリミ姉を撫でていると、私まで釣られて眠たくなってくる。

 

「おーい、フィエーナ? そろそろ出発するよ?」

「はっ!?」

「あはは、今寝てたでしょ」

 

 ベーセル兄のふんわりとした笑みが私に向けられていると、さっきまでの苛立ちがすっかり吹き飛び私も口元が緩んでしまう。

 

「リミは心地よさそうに眠ってるね」

「きっと移動の疲れが出たんだよ、毎年こうだもん」

「それじゃ起こさないようにしてあげないとだね」

 

 私はそろりと慎重に膝上に乗っかっているリミ姉の頭を除け、ベッドから降りた。

 

「リミ姉、行ってきます」

 

 小さく別れの挨拶を残し、私はベーセル兄と一緒に階下へと降りていく。その際、ミゼリア姉がベーセル兄を見上げて手を振ってきたのが何だか癪に障ったので、私は前を歩くベーセル兄が最後の一段を降りたのを見計らって背中に飛びついた。

 

「うわ! 危ないよフィエーナ!」

「危なくないよ、もう階段は降りたもん」

「屁理屈言わない!」

「はーい……ミゼリア姉、ベーセル兄に叱られたよー」

 

 わざとしょぼくれてミゼリア姉に飛びつくと、ミゼリア姉は口元が笑っている作り物の怒り顔でベーセル兄を睨む。

 

「駄目よベーセル、妹は大事にしなさい。ほら、よしよしフィエーナ」

「参ったな」

 

 困り顔のベーセル兄を見て、罪悪感にさいなまれた私はミゼリア姉の歩みを誘導して二人でベーセル兄の胸元にしなだれかかった。

 

「ごめんねベーセル兄」

「悪い子だねフィエーナは」

 

 私の謝罪が軽い口調だったのに気付き、ベーセル兄はくしゃくしゃと私の髪を乱すように頭を撫でて来る。

 

「ベーセルったら、酷いわ」

 

 時々嫉妬が抑えきれないけれど、私はそれでも二人の関係を今では良しとしていた。二人の関係が変わっても、私にとって大事な兄と姉であることには変わりがない。

 

 

 

 俺がザルトヒェン村での避暑から帰ってきてから数日して、遥もまた家族の元から帰ってきた。

 

「フィエーナ! 会いたかった!」

「私もだよ遥、久しぶり」

 

 道場での修行を終え、帰ろうと支度をしていた道着姿の俺目掛け子犬のように駆け寄ってきた遥はそのままの勢いで胸元に飛び込んで来る。

 

「日本はどうだった?」

「すっごく暑かったよ……こっちは冷房いらないから好き。んー、フィエーナいるから好き」

 

 

 歓喜に満ちた蕩けた顔つきの遥はフィエーナの胸元に顔を埋めて、さらに顔をどんどん押し付けて来る。左右に顔を振りながら押し付けて来るせいで、道着がはだけ始め俺は慌てて注意の言葉を口に出す。

 

「あはは、ありがとう遥。でも、このままだと脱げちゃうから離れてね」

「あっ、ごめんねフィエーナ」

 

 俺は乱れた道着を急いで整える。フィエーナの奴は、スポブラなら見られても恥ずかしくないからって肌着すら着ていない。親面してる俺としては、そんな無防備でいるのは心配だ。性的欲求を抱く前に死した童貞野郎の俺だが、それでもフィエーナの肉体がそういった魅力に溢れていることは理屈として理解していた。もっと自分を労わってくれよ……まあ、どうせ夏は暑いから仕方ないとか言い訳してくるんだろうな……。

 

「ねえ、久しぶりに一緒にお風呂入ろうよ。フィエーナも汗かいてるからいいでしょ?」

「いいアイデアだね遥」

 

 遥の提案は汗でべとべとの俺にとってはあまりに魅力的で思わず飛びついてしまう。幸恵さんに許可を貰ってから俺は意気揚々と遥と共にお風呂へと向かった。衣服なんてさっさと脱ぎ捨てて、俺は早速シャワーを頭から浴びる。

 

「うああああー」

 

 火照った体の表面を温水が滑り落ちていくと、疲労も一緒に落ちていくような気がする。思わず口から間抜けな声が出てしまうのも、三時間みっちり体を動かした成果と思って許してほしい。

 

「もう、フィエーナ子供みたいだよ」

「あはは~」

「体洗ってあげるね」

 

心地よい疲労にぼんやりとしていた俺は、いつの間にか遥に体を洗われていることに気が付いた。頭頂部からゆっくりと遥の手は下へと降りていく。

 

「遥、下はいいよ。自分でやるよ」

「疲れてるんでしょ。いいよいいよ私がやってあげるから!」

 

 遥も息が荒いし、白い頬に朱が差している。長い時間移動して疲れているのだから、無理をしなくていい。俺はそう諭し、代わりに遥の体を洗ってやる。相変わらず、遥の体は髪にしても、肌にしても触り心地がいい。触っていられるならずっと手の平を当てて撫でつけていたいと思えてしまう。

 

「ふぃ、フィエーナ……そこはいいよ?」

 

 遥の喜びが見え隠れする焦り声に俺はハッとすると、いつの間にか俺は遥の胸にまで手を伸ばしていたことに気が付く。遥の肌触りがあまりに心地よく、無我夢中になってしまっていたらしい。フィエーナのたわわに実った胸とは正反対の辛うじて膨らんでいるかどうかといった胸から、俺はサッと手を引く。

 

「あはは、ごめんね遥」

「あ! で、でもやってくれるなら私嬉しい!」

「いいの?」

 

 他人に全身洗われるなんて赤子のようで恥ずかしくはないのだろうか。俺はそう気遣い問いかけるが、遥の方にそんな意識はないようでこくこくと首を縦に振って来る。

 

「じゃあ洗っちゃうね」

「う、うん……!」

 

 生唾をごくりと呑み込む遥に俺は苦笑する。やっぱり恥ずかしいんじゃないのか? だが本当に我慢ならなければ遥の方から言ってくるだろう。

 

「ん……っ……!」

 

 俺としては懇切丁寧に洗っているつもりなのだが、どうしても遥は口から小さく喘ぎ声を漏らしてしまう。うーん、これ以上力を弱めたらそもそもスポンジが持てないレベルで、俺はどうしたらいいか分からなくなってしまう

 

「遥、私下手くそでごめんね。もうやめようか?」

「やめ、ない、っ……で!」

 

 目を潤ませ、懇願するような口調で言われてはやめるにやめられない。もうこうなったらゆっくりじわじわでなく丁寧かつ高速で済ませてしまおう。そう思いゆっくり慎重に動かしていたスポンジを素早く鼠蹊部に滑らせると、遥の体がビクリと震え俺にしがみついてくる。

 

「だ、大丈夫遥?」

「う、うん???? むしろ心地いいくらいだよ……?」

 

 遥もまた自身の状況を理解しきっていないように見えた。困惑で首をこてんと傾げる遥には、今まで見たことのない妖艶な雰囲気がにじみ出ていて俺は正視することができなかった。濡れた黒髪が上気して赤く染まった頬に張り付き、普段は凛としている目付きはいつになくトロンとしている。乱れた吐息の一呼吸一呼吸を吸い込むと、ジンと体の内側から何かが染み出すような感覚が生まれて来る。遥の挙動の一つ一つがどうにも俺に感じさせたことのない感情を呼び起こさせそうで、それを考えてはいけないと俺の中でブレーキがかかる。

 

このままだと何だか危うい。上半身を洗い終えたところで俺は手を止め後は遥自身に任せることにした。遥も自分自身の変化に何か察するものがあったようで、俺たちは何処か気まずい雰囲気のまま体を洗い終えた。

 

お互い無言のまま、一緒にお風呂に入る。林原家のお風呂に入れてもらう機会は中々ないから、だからこそこの心地よさには敵わない。さっきまでのことを俺はすっかり洗い流し、心地よいお湯の熱に身を委ねた。

 

「ふへぇ」

「フィエーナの顔が蕩けてる」

 

 遥に指摘され、俺はいつのまにか開いていた口を閉じる。おっと、リラックスし過ぎかな。だが、そういって俺の緩みを指摘する遥の表情もまた人様には見せられないようなだらけた表情だった。

 

「遥だってニマニマしっぱなしじゃない」

「えへへ~、だって久しぶりにフィエーナと一緒なんだもん」

 

 弾んだ口調でそう言い放つ遥は本当に嬉しそうに俺の肩に頭を乗っけてきた。上目遣いでこちらを見ている遥と目と目があった。すると遥は心底幸せそうに笑みを浮かべる。よかった、いつもの調子を取り戻せたようだ。

 

「フィエーナ……」

「ん~?」

「えへへ、呼んでみただけ」

 

 このやり取りを今日だけで何度繰り返しただろう。飽きもせずに遥は幾度もフィエーナの名を呼んでくる。そんな遥の喜びようを見ていると俺まで何だか気分が上向いてくる。

 

「ねえ、フィエーナ」

「ん~?」

 

 さっきまで空気とは違う、遥の平静でいようと装った呼び声に俺は気が付く。何か大事な話をするつもりらしい。俺が遥と目を合わすと、その瞳には寂寥の念がこもっていた。

 

「私ね、二月には日本に帰るよ」

「そっか」

「お母さんから、帰ってきてって言ってくれたの。本当に嬉しかった……やっと、元に戻れたんだ」

 

 何でもないような話しぶりで遥は口を動かし続ける。

 

「日本は四月から新しい学年が始まるから、その準備もあるから、二月には帰ろうって決めたんだ」

 

 途中から遥の口調は震え出し、瞳からは涙が零れだしていた。その涙には喜びも悲しみも混ざった複雑な思いが籠っていた。

 

「寂しくなるね」

「ありがとう、フィエーナ。今まで、全部ありがとう……」

 

 お湯の熱さに融けた思考の中で、俺は遥の体を正面から抱き寄せる。白い華奢な遥の背中に腕を回し、肩甲骨のあたりに手を添える。ただでさえ熱かった体が火照った遥の肌と密着し、俺はもうロクに思考できそうにない。それでもぼんやりとした頭の中でようやく遥は日常に帰っていくのだと、そう思った。

 

「フィエーナとは別れたくないよ。でも、パパとママとも一緒に過ごしたいよ。どっちかしか選べないのはひどいよフィエーナ」

 

 分かり切っていることだというのに、遥はぶつくさと無茶ぶりな文句を言い始める。言葉を切る直前には微笑みかけてきて、遥はおどけて見せる。それでも隠し切れない悲しみが漏れ出ていて、俺の心にも突き刺さるような痛みが走った。

 

「遥と私は友達じゃない、ちょっと距離が遠くなるだけだよ」

 

 俺のいた世界と違って交通網が全世界的に広がるこの世界なら、会おうと思えばいつでも会いに行ける。直接会う以外にも交流を続ける手段もいくらでもある。

 

自分自身に言い聞かせるように、そして遥を元気づけるように俺は言葉を紡ぐけれどやはり直接会うことが出来なくなる事実を突きつけられると、寂しさが心を冷え冷えとさせていく。

 

「ロートキイルと日本じゃ遠すぎるよフィエーナ……フィエーナも日本に持って帰れたらいいのに」

 

 さっきと違い、真顔で言い放ってきたので俺は遥が本当に私を持ち帰りたそうにしているようで笑ってしまう。フィエーナは物なんかじゃないぞ、遥。

 

「あはは、冗談に聞こえないよ遥」

「ちょっと本気」

 

 抱き寄せていた遥は自ら離れていったかと思いきや、俺の額に自らの額を当て目と目を突き合わせてくる。ちょっとどころじゃない、真剣そのものな遥の眼差しを真正面から見せつけられ、俺は愛おしさを覚えた。そこまでフィエーナを好いてくれるとは、フィエーナも結構な友達を持ったものだ。

 

「私、フィエーナと離れちゃうの本当に悲しい」

 

 唇を寄せてくる遥を俺は思わず身を退いて回避してしまう。しかし、背中には湯船が当たった。次は強引に遥を引きはがさないと避けられないだろう。

 

「遥?」

 

 俺は遥の真意が読めなかった。一体どうして遥はキスなんてしようとしたんだ? 愛情相まっての行動なのか? 今まで日常的にキスなんてしていなかった父親に対し、いきなり愛娘がキスを迫ってきたような心境を俺は抱かされる。五歳児とかなら友達の真似をしたくなったとか理由も推測できるが、遥はもう十三歳だ。

 

 まだ、幼児染みた甘えっこな感情を抱いてもおかしくはない年齢でもあるし、独り立ちし始めてもおかしくはない。うーむ、やはり俺には理解できそうもない。フィエーナ、後で正解を導き出しておいてくれ。

 

「ごめん、フィエーナが欲しくなっちゃってつい」

「それ、どういう意味なの?」

 

 混乱する俺にさらなる追い打ちをかけたうえで、答えを教えてくれず遥は背を向けてそのまま湯船から上がってしまう。

 

「ちょっとのぼせちゃったみたい。先に上がるね」

「……うん」

 

 残された俺は唇に指を添え、遥の真意を図りかねてしばらく湯船に浸かり続けた。

 

 

 

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