これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A04:ヴェイルの過去の記憶はやっぱり超絶カッコよかったのでした。

 

 

 

 翌日、私は遥のことが気になり学校で留学生クラスに顔を出してみる。私の住むヴェルデ市はロートキイル王国のウィーネンナッハ経済都市圏内で一番日本人に住みよい環境が作られている関係上、日本人が比較的多い。クラスに一人か二人程度は日本人が混ざっているのが普通だった。

 

「あ、フィエーナちゃんだ」

 

 私のクラスの日本人と仲のいい里奈が私を見つけてやってくる。まだロートキイルに来て半年も経っていない里奈は、この留学生クラスで集中的にロートキイル語の勉強を受けている最中だった。だから時々私はSNSで、ロートキイル語で分からないところを質問されたりしていた。

 

「おはよう里奈。転校生っている?」

「いるよー、ほらあそこ」

 

 窓際の席に座り、心ここにあらずといった目付きで外を眺める遥。見た目がいいのでそれだけで絵になるけれど、あれじゃクラスで浮いてしまう。

 

「一ヶ宮さん、何か辛い目に遭ったのかな? 何かそんな感じがする」

 

 おや、里奈も気付いていたのか。あれだけ感情のない表情を見れば、案外みんな分かるのかもしれない。

 

「どうしてそう思ったの?」

「震災に遭った人が似たような顔してたんだ。そんな気がするだけなんだけど」

 

 そういえば日本は地震が多いのだったか。

 

「ほっとけない感じするよね。フィエーナちゃんも心配で見に来たの?」

「まあ、そんなところ」

 

 里奈と一緒に遥の座る席の隣に立つ。

 

「おはよう遥」

「あ…………おはよう、ございます」

 

 消え入りそうな声で挨拶を返す遥には生きる気力が感じられない。取り繕うように最後浮かべた笑顔が逆に痛々しかった。何があったから知らないから断言はできないけれど、これはゆっくり心の傷を治す必要がありそうだ。

 

 私は予備の折り畳み椅子を教室の隅から引っ張り出して遥の隣に座った。

 

「おーいフィエーナちゃーん。ここ違うクラスだぞー?」

 

 困惑する里奈にはサムズアップを返しておく。任せて里奈。私にはヴェイルの記憶があるから。

 

「あの……フィエーナさん?」

 

 戸惑う遥にもサムズアップを返す。私は口が上手い訳でもカウンセラーの資格もない。だけど避難して疲れた子供たちは、一緒にいて笑い返してやるだけで次第に感情を取り戻していった。理屈はよく分からないけれど、一緒にいて安心感を常に与え続けるのがいいのだと思う。

 

 という訳で私は笑顔でじっと遥を見つめ続けることにした。それだけじゃあんまりなのでどうでもいいような世間話を一方的に私がしゃべり続ける。努めて暗い話題は避けて、遥の表情に注視して会話を続ける。

 

 そうして観察していると家族関係の話になると動揺するのが分かったので話題から外す。途中から里奈も加わり、無駄話を続けているとすぐに授業時間になってしまった。

 

「また来るよ遥!」

 

 

 

 それ以来、私は専ら遥の元に通い続けていた。クラスメイトからは恋人だなんだとからかわれたけれど適当にあしらい、一緒に居続ける。下校の際には一緒に道場に行ってそのまま修行に入った。

 

 私が話をしている間、遥の表情が少し穏やかになっている気がするのだ。無表情の仮面の向こうに隠された苦痛を癒してやれるのならばと、私は話し続けた。

 

 ただ、話すネタが枯渇しつつあった。なので、私はヴェイルの記憶をさも自分が考えた仮想の物語のように話してみた。

 

「あるところにね、ヴェイルっていう男の子がいたんだ。その子は魔物が巣食うダンジョンを探検することを夢にしていたの」

 

 今思えば、無謀極まりない。ただの一農家の次男坊が抱く夢じゃない。けれど、英雄物語に出て来るダンジョンは当時の男の子にとって未知が詰まった空想の的になっていたのは確かだ。

 

 憧れだけで村の大人たち顔負けの剣の腕を身に着けたヴェイルは、道中出会った夜盗も苦も無く撃退する。そしてその野党たちは探索者たちも恐れる高名な野党集団だったこともヴェイルの自信を悪い方向に向かわせた。

 

 夜盗を壊滅させた功績を引っ提げ探索者に登録されたヴェイルは単身でありながらダンジョンを次々に踏破していく。苦戦なんてしなかった。だって俺には滅魔の力があったから。触れただけで魔物を紙のように斬り裂く唯一無二の力。むしろ魔物でない防具を着こんだ夜盗の方が斬るのに苦労したほどだ。

 

 そう、二十階層までは苦も無く踏破できたのだ。もうこの頃の俺は完全に慢心していた。僅か十五歳の若造がベテラン探索者でないと足を踏み入れることの出来ない領域に易々と到達したのだから、無理もない。

 

 けれど三十階層から一気に敵が強くなり、苦戦するようになった。その頃俺は周囲からも期待の新星と持ち上げられ、嫉妬の目線も向けられ、苦戦した事実を認められなかった。俺なら高位探索者でないと進めない魔境、五十階層にだって辿りつけるとがむしゃらに突き進んだ。

 

 目をつぶりながら若き日の苦い思い出を脳裏に浮かべて口に出していると、むずがゆいと同時に郷愁の念に駆られてくる。自分自身の体験談なのでついつい語りすぎてしまった。

 

「変な話聞かせてごめんね」

 

 道場で修業を終えてからほんの数分だけ遥の顔を見て帰るつもりだったのに自分語りが過ぎていつの間にか七時を過ぎていた。これはいけない。急いで帰らないと、母に怒られてしまう。

 

私は軒先から腰を上げ、地面に着地する。そして一緒に座っていた遥に別れを告げようと振り返ると身を乗り出してこちらを見つめて来る遥がいた。

 

「ねえ、その先はどうなるの」

 

 初めて、遥の方から話しかけてくれた。無表情だった顔には好奇心に満ちたきらきらとした目が輝いている。

 

「ふふ、今日は遅いからまた今度ね」

「うん! ま、待ってる!」

 

 私が手を振ると、遥もぶんぶんと手を振り返してくれた。

 

 

 

 次の日、学校に行って早速遥の元へと向かってみる窓から外を眺めぼうっとしている遥がいた。今までの遥とは違い無機質な人形のような表情ではなく、目の中に煌めきを帯び何か楽し気な想像に耽っているように見える。

 

 何か嫌な目に遭い心を閉ざしている。そう聞かされ気遣ってくれる周囲のクラスメイトたちも様子の違う遥に気が付いているようで、何人か遥へ話しかけようとしている者も見受けられた。遥はとっても可愛らしい。良くも悪くもクラスの雰囲気に影響を及ぼしているようだった。

 

「遥、おはよう」

「フィエーナさん、おはよう」

 

 私がいつものように挨拶すると、何処か挙動不審に挨拶を返してくれた。

 

「ねえ、そ、その。昨日の続き……」

「ん? いいけど、ここじゃちょっと恥ずかしいなあ」

 

 私の中では実体験として土の匂い、風の感触まで記憶にある。けれど、周囲からすれば脳内で物語を創っているとしか思われない。今思えば他人に聞かせるのは軽率だったと後悔していた。ただそれでも怒涛の人生を歩み、そして死んだヴェイルの生き様をこのまま風化させたくなかった思いもあった。最近、記憶が薄れてしまわないようにと日記帳に書き綴っているけれど、あれは絶対に誰にも見つかってはいけない。

 

「話して?」

「う、うーん、じゃあ昨日の続きからね……」

 

 有無を言わせぬ上目遣いに私は負け、ゆっくりと回想を始める。記憶を引き出すために目を閉じて、昨日の続きから再び昔語りを私は始めた。

 

 しばらく遥相手に話していると、ちょいちょいと肩をつつく者が現れる。目を開き振り向くと、昨日の遥のように目が輝いている里奈が鼻息荒くしてこっちを見つけていた。

 

「ねえねえ! 何今のお話! 何かの小説!? 私結構日本のは読んでるけど全然知らない! ロートキイルだと人気の物語なの!?」

「え、いや……恥ずかしながら私が考えただけなんだ」

「えー!? すっごいじゃーん!」

 

 普段大人しい里奈がここまで興奮するなんて珍しい。眼鏡越しに目が輝き、ポニーテイルがぴょんぴょんと跳ねている。

 

「ねえねえ私も聞いていい? 聞いていいよね!」

「あ、うん、いいよ」

 

ぐいぐいと食いついてくる里奈の勢いに負け、私は頷いてしまっていた。そして、その日から里奈も私の昔話に付き合うようになっていた。

 

 

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