これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A02:三丘高校を事前訪問しました。

 学校から帰ってきたら一年前滞在していた外国の友人が家にいて、出迎えて来る。そんなシチュエーション、きっと遥でなくても驚くだろう。

 

 奈緒さん譲りの美しく整った顔立ちを驚愕に染めて、遥はフラフラと両手をこちらに伸ばして近寄って来る。テレビ電話で毎日のように顔を合わせていたけれど、画面越しでない遥からは一年間の成長を感じる。

 

 私が別れた時より三センチも身長が伸びたから相対的な差はないけれど、遥も一センチくらいは背が伸びたように見える。制服越しでも分かる華奢な体躯は剣術の修行に加え退魔師としての戦闘経験のおかげで細いのに健康的で、奇跡的なプロポーションを実現していた。

 

「フィエーナ……」

 

 嬉しさを前面に押し出して迫って来る遥の腕の中に私は入り込み、遥を受け止め抱き返す。一年と少しの時間は決して短くなかった。久方ぶりに遥と抱き合えて、私はつい涙腺が緩んでしまう。

 

「は、遥?」

 

 それなのに遥というと私の抱擁の中でもぞもぞと動いて胸元に顔を移動させ、埋めてくるのだ。まるで母乳を求める赤ん坊のようで、私は苦笑してしまう。

 

「ん~……前よりおっきくなってる」

 

 すんすんと匂いを嗅ぎながら私の胸の感触を確かめるように顔を押し付けて来る遥の表情は蕩けきっただらしのない表情で、さきほど感極まって抱き付いてきた奈緒さんを彷彿とさせた。いや、奈緒さんとは比べ物にならないレベルに人前には出せない表情だけど、親子なんだなとは思わせてくれる。

 

「あら……遥あなた! 変態みたいな真似はよしなさい」

「へ、変態……」

 

 自覚がなかったのか。ショックでのけぞり硬直している遥の頭を私は撫でてあげる。

 

「大丈夫だよ遥。遥が変態でも私は友達だからね」

「フィエーナ!? 変態は否定してよ!」

 

 ごめんね遥、そこはちょっと無理だよ。心の中でだけ呟いて、私は曖昧に笑って見せた。

 

 

 

 奈緒さんが用意してくれたお昼ご飯をそそくさと食べ終えると、遥はちょっと見たことのない不思議な格好に身を包む。黒色で描かれた不可思議な紋様が黒地の生地からうっすらと伺い見える、肌をなるべく覆うように作られている真っ黒な衣服。全身を黒ずくめにして、蒸し暑いのに膝まで裾があるロングコートに身を包んだ遥はこれが退魔師としての戦闘服なのだと教えてくれた。

 

「このグローブも、コートも魔之物の攻撃をある程度無力化する素材で出来ているの」

 

 玄関でこれまた暑苦しいロングブーツを履いて玄関に立つ遥の顔つきはこれまでに見たことがないものだったけれど、私の前世であるヴェイルはよく見た表情だった。これから戦いに出向く人間の顔つきだ。

 

 私の前では心痛に顔を歪めていた奈緒さんは遥の前では笑顔ともつかない神妙な顔で娘を見送る。

 

「それじゃ、行ってくるねママ。それにフィエーナも」

「……行ってらっしゃい遥ちゃん」

「またね、遥」

 

 私がヴェイルだったら、せめて魔力でもあれば遥と一緒に戦えたのに。けれど遥は魔力無しでも私と互角の戦闘力を既に有していて、魔力による【身体強化】でその戦闘力は数十倍に跳ね上がる。もう、手の届く場所に遥はいないのだ。

 

 ちょっと心持ちに暗いものが漂うけれど、そんなんじゃいけない。戦闘で助けになれなくても、せめて心を支えてあげようって私は思い遥々日本までやってきたのだ。

 

 魔之物との戦闘の激化で遥と遊びに行ったりする時間は確保できないだろう、それでも家にいる僅かな時間に多少心安らぐ時間を作ってあげたりは出来るはずだ。

 

「奈緒さん、私も遥を支えます。一緒に遥を応援しましょう」

「ありがとうフィエーナちゃん。そうね、一緒に遥ちゃんを助けて行きましょう。えい、えい、おー!」

 

 元気よく片手を天に突き上げる奈緒さんがさあ一緒にやってとばかりにこっちへ目線を向けて来る。

 

「おっ、おー! あのこれ……何なんですか?」

「んふふ、掛け声があった方がいいじゃない?」

 

 お茶目にウインクしてくる奈緒さんが可愛くて、私は細かい追究をせずに納得してしまった。

 

 その後、身支度を整えた私は奈緒さんにも一緒に来てもらい手続きのために三丘高校へ向かう。遥は単純に家から近いから選んだそうだけれど、奈緒さん曰くそんな理由でお手軽に入れるような高校じゃないそうだ。

 

「遥ちゃんは昔から成績優秀だったのよ。仁悟さんに似たのね」

 

 遥の父親は自動車メーカーに勤務しているとは聞いている。数回テレビ電話に顔を見せて会話をしたこともあったけれど、優しそうな人だった。

 

「それでね、小学三年生で英検の一級にチャレンジしたんだけどね遥ちゃんったらもうあっさり合格しちゃったから私もまさかって思ったんだけどね」

 

 高校に着くまでの十分ほど、奈緒さんは遥がいかに素晴らしいのか口早に喋り続けていく。頭が良くて、運動神経も良くて、奈緒さんの誕生日を忘れず祝ってくれて、毎日のご飯にも感謝を忘れなくて、どんどん遥のいいところを私に教えてくれる。

 

「本当に遥ちゃんはいい子なの。悪いことだって全然しない、それなのに……」

 

 一瞬目を淀ませた奈緒さんは過去の恐怖が思い起こされたのか、身を震わせる。私は咄嗟に奈緒さんの手を握った。奈緒さんの手は握った私の手に強く力をこめ、爪が手の甲に食い込んでくる。

 

 ほんの一瞬のことで、すぐに奈緒さんは我に帰り慌てて力のこもり過ぎた手を脱力させる。

 

「ごめんなさいフィエーナちゃん! 爪痕が……」

「気にしないでください」

 

 私は奈緒さんの正面に立って奈緒さんを抱きしめる。遥より少しばかり小さな奈緒さんの額が私の頬に当たった。数秒だけ抱擁を交わし、私は奈緒さんから頭一つ分の距離を取り安心させるように微笑む。

 

「いいんです、いいんですよ奈緒さん」

「フィエーナちゃん……」

 

 恐怖に歪みかけていた表情が呆けてこちらを見つめて来る。しばらく見つめ合った後、奈緒さんは小さくありがとうと呟いた。

 

「何だか遥ちゃんがフィエーナちゃんが好きになった理由が分かった気がするわ」

 

 

 三丘高校は一ヶ宮家から歩いて十分ほどの場所にある。武骨なコンクリート製の校舎が四角くそびえ立つ風情も何もない近代的な学校に見えるけれど、屋内プールや食堂などの充実した設備に優秀な教師陣などの魅力が周辺の学生たちを望んで受験に向かわせるのだそうだ。

 

 武骨な代わりに小奇麗で機能的な校舎内を案内され、私は奈緒さんと一緒に祥子先生との面会を果たす。四十代半ばのやり手キャリアウーマンといった風貌の彼女こそ、私が三丘高校に留学する機会を認め、制度構築にも尽力してくださった恩人でもある。

 

「よく来ましたねフィエーナさん。こうして直に顔を合わせたのは初めてですね」

「祥子先生。このたびは受け入れに尽力いただきありがとうございます」

「いいのですよ、困ってる友達のためだけにアーミラー中等学校と我が三丘高校に交換留学制度を構築してしまう行動力は称賛しましょう」

 

 一か月ちょっとで何もない状態からどうにか出来たのは私だけの力じゃない。ロアック大伯父さんにも力を借りたし、道場の受講生にいた教育委員のレエールさんなど多くの手助けを借りた結果だった。

 

 校則の説明など予習済みの事柄をパッパと済ませ、最後に学校生活に必要な教科書や制服を祥子先生は渡してくれる。こういったものも本当は指定のお店に行くなりする必要があるそうだけれど、祥子先生が手配してくれていた。いつか何らかの形で恩返しが出来たらと思う。

 

「制服は聞かされたとおりの寸法で作ってありますが、着てみてください。合わなければ仕立て直します」

 

 面談をしている部屋から奈緒さんと祥子先生には出て行ってもらい、私は着て来た服を脱いで制服へと着替え始めた。白いブラウスに赤いリボン、紺色のスカート。遥と同じデザインを着ることになるとは、お揃いの服をきているようでワクワクする。

 

 今まで履いた事のない短さのスカートにどぎまぎしつつ、腰にベルトを締め、新品の匂いがするブラウスに袖を通し、首元でリボンを結う。それにしたって膝が丸見えなのは気恥ずかしい。足首までスカート丈があってはいけないのかと思ってしまう。

 

「着替え終わりました。どうですか?」

 

 この部屋には鏡を置いていないようなので、室内に招き入れた二人に感想を求める。私を見るなり奈緒さんは興奮気味に飛びついてきて、キラキラと目を輝かせる。祥子先生も一瞬目を丸くした後、相好を崩して頷いてくれた。

 

「うわあ、フィエーナちゃん綺麗ねぇ。こんな同級生がいたらみんな放っておかないわ!」

「似合っていますよフィエーナさん。何か気になる点があるなら、今のうちに言ってください」

「胸がきついです」

 

 寸法を伝えたのは二週間前のことだから、胸囲の成長は関係ない。きっと、いや絶対メーカーによって同じサイズ表記でも多少の差があるからそのせいに違いない。おまけに三丘高校の制服は腰にベルトを締めてスカートにブラウスの裾を入れるように校則で求められている。そのせいで余計にきつく感じてしまった。

 

「確かに、サイズが合っていないようですね」

「あー……水丘先生、これじゃフィエーナちゃんが注目の的だわ」

 

 祥子先生に釣られて胸元に目を向ける奈緒さんの視線に意味が分からない。

 

「ええと、何かおかしいですか?」

「あっ、フィエーナちゃん自分では見えないのね。大きすぎて」

 

 奈緒さんが鞄から手鏡を取り出してくれて、ようやく事態を把握した。胸元のボタン部分が押し広げられて下着が見えてしまっている。鎖骨から胸の頂点に至るまでしか見えない私ではこれは発見不可能だ。

 

 鏡を頼りに、試しとばかり指を指し込んでみるとスッと入って胸とお腹の境目まで指は到達してしまった。普通のブラジャーは頼りないから私はいつもスポーツ用のしっかり固定されているものを着用している。見た目もブラジャーというよりかはスポーツウェアにしか見えない代物なので、見られて困るものではないけれど公序良俗には反しているとは言えるだろう。

 

 それに見られて恥ずかしくないからと言って、見せたいわけでもない。こんな隙間が空いていてははしたないしみっともない。気恥ずかしさを覚え、私が胸を支えるような形で腕を組み隙間を隠して見せると祥子先生がぼそりと呟いた。

 

「……あなたが着ると随分煽情的になってしまいますね」

「……それはどういう意味ですか」

 

 何もそこまでではないと思うのだけれど……面と向かってエッチな子だと言われたような気がして、私は余計に恥ずかしくなる。

 

「ま、いいでしょう。月曜までにはどうにかしておきます」

 

 私はそそくさと元の服に着替え、三丘高校を後にした。

 

 

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