これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A15V:猥談を聞く羽目になった。

 

 

 いつも眠っている自室の空気とは異なる違和感に目を覚ますと、自我がフィエーナから俺へ変遷していた。

 

静謐な空間内では、すうすうと寝息を立てる遥とクーラーの立てる微かな駆動音だけが耳に音を届けて来る。

 

 既に太陽は昇っているようだ、枕元だけを照らす光量の少ないナイトスタンドの光のほかにカーテンの隙間から朝の陽ざしが差し込んできている。

 

 薄暗い室内をぼうっと見つめていると、ここはいつもいる自宅ではないのだとしみじみと自覚する。日本か、思えば遠くまで来たものだ。

 

 どうにも外の景色が見たくなり、カーテンを開くと三丘市の街並みが目に入る。まだ早朝で人気のない街並みはロートキイルとは建物の形式からまるで違っていて異国感を覚える。

街のあちこちに張り巡らされている電柱と電線、標示がまるで異なる道路舗装等々……独特の景色だが、俺はこの日本の地方都市の街並みを気に入った。

 

 街の空気も吸ってみたい思いに駆られたが、昨日フィエーナがうだるような暑さに参っていたのを思い出し踏みとどまる。俺はフィエーナよりは暑さに強いが、それでも好んで熱所に突っ込んでいく馬鹿ではない。どうせすぐにランニングに出かけるのだからその時に味わうとしよう。

 

「おはようふぃえーな……どうかした?」

「ううん、何でもない。おはよう遥」

 

 遥……今は起きたばかりで寝たげに目を半開きにしているが、毎日あの細く華奢な体で戦っているのだ。この俺が何も出来ずにただ、見守るだけしかできないとはな……。俺は戦えない者になどなりたくなかった。魔力、あるいは滅魔さえあればと力を欲する思いに駆られる。

 

駄目だな、もう俺はヴェイルじゃない。フィエーナなのだからと思って諦めなくてはいけないのだろう。だが、フィエーナと違って俺は諦めが悪い性格をしている。

 

「ねえ遥……私は魔之物と戦えないくらい弱いのかな」

「フィエーナ?」

「私って、そんなに弱い? 一緒に戦って……」

 

 思わず口を出てしまった言葉は、憐れむような目をした遥に抱きしめられ止まる。

 

「フィエーナは弱くなんかないよ。でも、魔之物は魔力を持つ人にしか退治出来ないの」

「そう……だよね。ごめん、変なこと言っちゃった」

「ううん、フィエーナが私を想ってくれてるのは伝わった」

 

 フィエーナは同じ思いを共有しているが、口に出さない自制心があった。翻って俺はどうだ? やっぱり俺は馬鹿だ、フィエーナに尊敬されるような英雄じゃない。

 

 ああ畜生、俺に考え事なんてさせるものじゃない、頭脳労働はハリアやヨーキ、ラフィテアに任してしまえばよかった頃が懐かしい。もやもやとした思いを抱え込んでおくと先々よくない、さっさと日課のランニングに行くことにした。

 

 

 

 三丘高校に通うようになってまだ三日目だが、それでもある程度の流れは掴んできた。登校してからの四時限授業を恙なくこなし、さあお昼休みといったところで遥のスマートフォンに不愉快な連絡が入る。

 

「緊急事態、すぐ行かなきゃ」

 

 クラスメイト達がいる手前、俺にのみ聞こえるように素早く呟いた遥は荷物を手早く片付けクラスルームを出る。さっきまで友人たちに囲まれ和やかだった遥の表情が能面のように硬くなるも、それを見られる暇を与えない素早い所作はクラスメイト達に違和感を察せられる前に姿を消すことに成功していた。

 

 友人たちの意識の隙間を上手く付いた結果、遥がクラスルームから消えた十数秒間は誰も遥が消えたことに気付きすらしなかったほどだった。

 

「あれ? あれえ? 遥ちゃんがいなくなってる!」

 

 ようやく気が付いた鈴子が遥の席を指さす。

 

「さっきまでいたと思ったんだけどねえ」

「何処に行ったんだろうな……フィエーナ?」

 

 俺の表情もまた、日常をいきなりかき乱した魔之物への苛立ちで硬くなっていたらしい。事情を察した智恵は席に座る俺の傍に屈み、小さく沈鬱な声で囁いて来る。

 

「フィエーナはさ、遥の事情は知ってんのか?」

「ごめん、私の口からは言えないよ」

「あ、そういうつもりじゃあなくてさ……知ってんなら支えてやってくれよ。見てらんねえんだよ」

「うん。そのために私は来たから」

「そっか……んじゃ、頼むぜ?」

 

 智恵の伸ばした拳に俺も拳を軽くぶつける。畜生、こんな時に何も出来ない俺自身に虫唾が走るぜ。

 

「ちょっと電話させてもらうね」

 

 居ても立っても居られなくなった俺はクラスルームを飛び出し、今どうなっているのか吉上先生に問いただすことにした。人気のない校舎外に出ると、一気にむわりと暑さに全身が囚われるが今はそんなことどうでもよかった。

 

 スマホを操作し数コールもせず、吉上先生は電話に出てくれる。迷惑だろうにそれは表に出さず吉上先生は俺の質問に答え続けてくれる。

 

「吉上先生、こういったことは頻繁にあるんですか?」

「残念ながら、徐々に増えているのは確かだよ。四月に一回、五月に三回、そして今月はこれで八回」

「そんな……」

「何か突破口が見つかればいいんだけど……ごめん、頼りない大人で」

「吉上先生は何も悪くないです」

 

 自然現象をどうこうすることは人間には出来ない。だが、せっかく遥が取り戻そうとしていた平穏を脅かさないでほしい。遥はもう十分辛い目に遭い、それを乗り越えてようやく前に進もうとしているんだ。やめてやってくれよ。

 

 結局、ないものねだりでお願いおねだりしかできないのが今の俺だ。フィエーナ、せめて遥をしっかり支えてやってくれ。親友のお前なら、心の支えになってやれるだろう。俺も短い時間お前の体を借りるが、出来る限りはするさ。

 

 決意を新たに、人目のつかない校舎の隅から智恵たちの元へ戻ろうとしたところで、俺の耳に微かな声が届く。フィエーナの名が聞こえたような気がした。誰かがフィエーナのことを探しているのだろうかと声の方へと歩いていく。だが、近づいていくにしたがって人気が減っていき、そして会話の内容が明らかになっていく。

 

「フィエーナさんいいよな~、おっぱいあれどんくらいあんのかな~」

「日下先輩よりは小さいからJの一つ下かね?」

「博士の見解はどうなんすか?」

「ふむ……恐らくカップサイズ自体は同等と見ていいだろうな。だがアルゲンさんはかなり細身の体をしている。一方で日下先輩はスタイルは男好みの豊満形体……その差が服の上から確認可能なサイズ差として見えるのだろう」

「さっすがおっぱい博士。詳しいすね~」

「ふん、褒めるな」

 

 く……くだらない……さっきまでの俺の悩みが吹っ飛んでしまうレベルに低俗な話だ。それだけに俺の気は少し楽になる。あまり気負ってもよくないか。

 

「あれくらいでかけりゃ、埋まるよな……」

「ああ、挟むというより完全に呑まれるだろうな……」

「私の見立てではハンドボール程度の容積があると見ている」

「マジかよ!」

「モデル張りにスレンダーな体にも関わらず、胸部だけが大きく主張しているアルゲンさんの肢体……性的、というよりも一種の芸術品の如き感動を与えてくれるだろう。一度見てみたいものだ」

「けどそのギャップがエロいんしょ~?」

「否定はしない」

「スレンダーって博士はいうけど、お尻も結構よくないか?」

「む、確かに。訂正しよう」

 

 だが、同時に俺の愛娘的立ち位置にあるフィエーナを妄想のネタとして使っているのは看過出来なかった。俺が探索者時代にうっかり見てしまった性交シーンと比較しあまりにマニアックな内容の数々……恐らくフィエーナの胸なら出来そうなのが余計に苛立ちに繋がった。フィエーナは確かに出来るかもしれないが、そんなことする子じゃないぞ!

 

「一ヶ宮さんも美少女ではあるんだけどな……アイドルでもあのレベルはいないくらい可愛いのにおっぱいはまるでないのがな~」

「おや、俺はあれはあれで好きだよ? 大きさだけで判断するのはよくないなぁ」

「いや……大きさつうか……一ヶ宮さんからは膨らみを感じられないんですが」

「見る目がないね君は。水着姿の目撃者の証言を私は得ている。彼女にも膨らみそのものはあるぞ? 着衣状態では目立たないレベルなのは確かだが……」

「マジか!? 博士は流石すねえ……」

 

 性欲を一概に否定はしないが、しないがだな……。遥にまでそういう目を向けるとはこいつら死にたいらしいな。

 

「フィエーナさんが来る前までは智恵っちが一組最胸だったんすけど、今じゃちょっと物足りなく見えますな」

「そうはいうが、Gカップであのスタイルと見た目。あれほどの好物件はそうはいないぞ」

「三丘には日下先輩がいるからな~。感覚麻痺しちゃうよな」

「……高身長な橘さん、俺は好みだが」

「雄二は背が高いすもんね~、身長差からすりゃちょうどいい組み合わせっすよね」

 

 何だか聞いた事のある声があると思ったら葛西に、尾頭もいるのか。おいおい、明日のランニングの時は覚悟しておけよ?

 

「春前さんと野崎さんは身長と同じくおっぱいもないよな」

「あの身長でおっぱい大きかったらちょっと犯罪的じゃありません?」

「野崎さんはむしろあれでいいでしょ。癒されるんじゃ~」

「分かるわ……ずっと一緒にいてえなあ」

 

 鈴子にもし性欲を抱いていたら今ここであの世に送っていたかもしれない。あの子はそういうこととは無縁な見た目をしている。

 

「春前さんは確かにロリっぽい見た目だけどさ、妙な色気あるよな」

「あの見た目に欲情したらやばいって思っても悔しい! むらむらしちゃう!」

「馬鹿! まだ午後に授業があるんだぞ!」

「つか全員可愛いよな、やっぱ類は友を呼ぶって奴なのかね?」

「三丘はそもそも全員レベル高いよな。見た目も性格もさ」

「そうそう、三丘は偏差値だけじゃないよな。みんな、優しい女の子ばっかで……俺ここに入れて幸せだわ」

「入るのに苦労するけどさ、それに報いる三丘は神ですわな」

「でも、一番は俺ら一年一組だよなあ?」

 

 数人が反論を述べようとするも、うめき声に終わる。

 

「雪乃平君。確かに……四組の私としては認めがたいが、三丘高校で最強なのは一年一組だろう。だが、三丘の普通が他校では上位クラスに相当するのを忘れてはいけない。三丘で感覚を麻痺させて世間に出るとうかうか彼女も作れなくなるぞ」

「つか、顔でレベル付けって失礼だろ雪乃平くうん? 彼女の一人も持ったことのない雪乃平くうん? だから彼女がいないんじゃないの雪乃平くうん?」

「すまなかった! 悪かったから俺への攻撃を今すぐ中止してくれ! 精神に直接攻撃はやめてくれ!」

 

 もういい。これ以上は見苦しい。俺がこの集団に終わりを告げてやろう。

 

「私の友達をどうこう言ってた君たちが言える台詞なのかな~?」

 

 俺が姿を見せると一気に場の雰囲気が凍り付く。あからさまに怒りの感情は見せてないはずだが、全員が俺を見て怯えているようにも見えた。

 

「ふぃ……フィエーナ、さん? いつからここに?」

「そうだね、私の、その、胸について話してた時からかな」

「すっ、すんませんした……」

「そういう話をするのは自由だけどさ、もっと人目の付かない場所でやろうね? 高校の敷地内じゃ誰がうっかり聞いちゃうかもしれないんだから」

「は、はい……」

「あの、俺たちがこの話をしていたのは……秘密にしていただけると……」

「私と君たちだけの秘密だね? いいよ、でも私のお願いはちゃんと聞いてくれたらだよ?」

「それは、もう! 絶対守りますとも!」

 

 葛西と尾頭ににっこりと微笑みかけると顔面を蒼白にしてあらぬ方向を向く。今更ガタガタと体を震わしても無意味だからな。覚悟しておけ。

 

 

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