夜になり、俺は遥に何度もせがまれて部屋に連れ込まれる。
「フィエーナ、こっち」
歌うような調子で機嫌よくフィエーナの名をさえずる遥にぽんぽんと横に誘われ俺は遥のすぐ隣で寝転がる。
「んふー」
俺が寝転ぶと途端に身を寄せて来る遥は心底嬉しそうだ。ここまで慕われてしまってはまんざらでもない。俺は遥の頭を優しく撫でてやる。サラサラの黒髪にフィエーナの細い指が埋もれ、ふんわりと遥の匂いが鼻をくすぐる。美少女ってのは体臭も不快にならないとは、お得だ。
俺がダンジョンに潜っていた頃なんて……おっと、あまり面白くない思い出に浸らないでおくか。顔に出てからじゃ、俺の話術では上手く誤魔化しきれる自信がない。
「ふぃえーなー」
「んー?」
「んふふー」
幸い、気付かれなかったか。それにしても遥はフィエーナの名を呼ぶのが好きだな。ただ、生返事をするだけでも喜んでくれる。
しばらくこっちを見ながらニコニコしている遥を見ていると、何を思ったかもぞもぞとシーツに潜っていき、フィエーナのお腹に顔をぐりぐりと寄せてくる。フィエーナの時にも、よく顔をフィエーナの体のどこかに押し付けるのがお気に入りになっている。何だか犬みたいと言ったら、怒るだろうか。
「遥、早く寝ないと駄目だよ。ちゃんと睡眠時間取らないと疲れが取れないよ」
「はーい」
フィエーナが一ヶ宮家を訪問してから最初の二日くらいは元気そうにしていたような気がするんだが、火曜あたりから疲労が取れないのか遥は寝起きにフラフラ、何もない時にぼけーとしている。ロートキイルにいた頃は暇そうにしていてもこんなことはなかったんだが……。
「ね、フィエーナ」
「どうしたの?」
シーツの間から顔を覗かせる遥はちょっとばかし表情が硬くなっていた。何か、頼み事でもされそうな雰囲気だ。
「私ね、考えたの。フィエーナのお胸に包まれて寝たら安眠出来るんじゃないかなって」
「え?」
この、十五歳にしては……いや大人と比較してもフィエーナより胸が大きい女の人が見つかるかってくらい大きく成長した胸に遥の視線が注がれる。物欲しげに目を煌めかせ、遥は不意の思い付きに自信を覗かせている。
「いいよ、来て」
しかし、今更どうしたというのだろう。一緒に寝る度に遥は胸に顔を突っ込んでいたような気がする。
少し疑念を覚えつつも俺は両腕を広げ遥が来るよう促すが、遥はゆっくりと首を横に振った。
「服、脱いで欲しい」
「え?」
は?
「服越しじゃなくて、直接包まれたいの」
「遥、それは……恥ずかしいかな」
「駄目?」
別にやってやれない訳じゃあないが……しかし、なあ。ベッドの上で上半身曝け出すのは一緒に風呂に入るのとは違う気がする。時と場所が違うだけで、こうも忌避感が生まれるとは遥に迫られて思い知らされた気分だ。
「お願い」
「ん~……困ったな」
シーツの中からずりずりとフィエーナの体の上を這いあがって来る遥に頼み込まれ、俺は悩む。これが俺自身の体なら、どうぞと気楽に言えるんだが娘同然のフィエーナだと容易く頷く訳にはいかない。
だが、まあ俺からすれば遥も子供のようなものだ。ここは、母の温もりを求める子だと思って我が儘を聞いてやってもいいのかもしれない。
「駄目?」
「……分かった。いいよ」
「フィエーナ好きぃ♥」
ぎゅうと抱きしめられて俺は苦笑する。仕方のない子供だ。俺はさっさとパジャマを脱ごうとボタンに手を掛けるが、それを遥の手に抑えつけられる。
「遥?」
「私がやってあげる!」
「じゃあ、お願いしようかな」
要求が通って張り切る様が微笑ましく、俺はつい了承してしまった。だが、遥の様子がおかしい。呼吸は荒く、手だけでなく全身が小刻みに揺れているのが馬乗りされている俺にはよく分かってしまう。
それだけでない、フィエーナが遥の失態として受け流した先の自慰行為の時と同じ目をしているのだ。欲望に憑りつかれたようなはしたない顔つきは、遥の清楚な顔つきを猥らに変貌させてしまっていた。
はだけ始めた胸に遥の吐息が吹きかかる。緊張と思わしき感情が俺にも映ったのか、いつの間にか溜まっていた唾を俺は思い切り呑み込む。
これ、おかしくないか?
荒げられた遥の吐息がふうふうとついに露わになったフィエーナの胸を襲う。生ぬるい風が掛かるたびに、肌を襲う刺激が妙に意識に残った。俺が今まで感じたことのない感情だ。
「じゃ、じゃあ……脱がすよ♥」
「待った」
震えの激しくなった遥の手を俺は抑え込んだ。期待感に満ちていた遥のだらしない笑みが硬直する。
「え」
「遥、調子がおかしいよ。どうかした?」
「あ、え? そ、そうかな?」
あからさまに目をそらすが、真っ赤になった顔は誤魔化せるものではない。
「熱でもあるんじゃない? 体温計、探してこようか?」
もしやこのおかしな行動は病によるものではないか。俺が上に跨る遥を慮ると、急に遥は目に涙を浮かべて下着姿になった上半身に顔を埋めて来る。
「ヤダ! フィエーナ行っちゃヤダ!」
「何処にも行かないよ」
病に伏せると人恋しくなるものだ。俺は優しく抱き付いてきた遥の背に腕を回してゆっくりと撫でてやる。いい子だ、いい子だから我慢してくれ。
「えい!」
「あっ」
何と器用な真似なのか。フロントホック式のブラジャーを遥はまさか口だけで外して見せる。咥えたブラジャーをペッと投げ飛ばすと、ブラジャーに抑え込まれていたフィエーナの絹のようにきめ細やかな肌質の胸が、その大きな威容を見せつけるように、或いは極上の柔らかさを主張するように震えて姿を見せつけた。
「わああ♥ フィエーナの、おっぱい♥」
喜色満面とはこのことだろうか。嬉しさに顔を蕩けさせた遥は躊躇いなく再び顔を胸へと押し付けた。
「……ん! フィエーナ♥ ここ、硬くなってるね♥」
さきほどとは少し違う何処か淫靡な雰囲気を纏わせた遥が、責め立てるような嗜虐的な笑みでこちらを見つめて来る。
「あはは、エアコンがきいてる部屋で遥が脱がせるからでしょ」
「え? あ、そっか。そう、なのかな?」
「そーだよー」
まあ、どちらにせよ病気ならさっさと寝かしつけた方がいいか。
「ほら、これで満足したでしょ。熱があるかもしれないんだし、さっさと寝るんだよ」
元気そうに見えるが、案外ってこともあり得るのだ。胸越しに遥の顔の体温が伝わるが、確かに普段よりも温もりを帯びているように思えた。
「う、うん……」
さきほど遥が暴れて振りほどかれてしまった手を再び遥の頭に持っていき、額に当てる。額は平熱、かな。これはただ遥が興奮してるだけかもしれない。寝る前にはしゃいだから体温が上がって眠れなくなってるだけだな、こりゃ。
「ほら、よしよし。遥は毎日頑張ってて偉いよ。よく寝なさい」
「うん……」
あー、何だか胸に遥を抱きしめているとこっちの方が心が温かくなってリラックスしてきてしまった。これが母性って奴なのかもな。俺はもう寝ちまうが、遥も早く寝るんだぞ。
私が目を覚ますと、寝る前にヴェイルがやったように上半身が裸にされていて胸の中で遥がスヤスヤと寝息を立てていた。
何て恥ずかしい!
私は一気に顔に血が上って来るのを自覚し、急いで何かを身に付けようと手を動かす。けれど、とても幸せそうに眠っている遥をどかすのは憚られてしまい、手は止まってしまった。
うう、うう……遥が起きるまでどうしたらいいのだろう。
結局、ランニングの時間が迫っているのを言い訳として遥が寝ぼけている間に私は慌てて逃げ出す羽目になったのだった。
けど、ヴェイルのやったことだからこれが正しいのだ。まだまだ私はヴェイルの深意にはたどり着けそうになくて、鍛錬を積むべくマンションを駆け足で出ていった。起きた時を思い出すと無性に恥ずかしくて、歩いていられなかった。