これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A19:遥の親友が電話をかけて来ました。

 

 

金曜日、今週は土曜授業がないのだそうで週で最後の授業となった。来週がテスト週間とあって先生方がテストを意識した発言や問題を出すこともあって、授業を受けるクラスメイト達も週初めより何処か真剣な雰囲気を醸し出していた。

 

「今日はテストのお話が多かったね」

「分かんないトコあったら私が教えてあげるからね」

「ありがとう遥」

 

 勉強時間があまり取れなくなっても問題なく授業についていける遥なら、きっと頼りになることだろう。胸の前で両手をグッとする遥のやる気に満ちた表情に私は微笑みを返した。

 

「私はこれからスパートかけてくよっ!」

「私もスズと一緒に追加授業を受けていくわ。結構頑張ってきたし、ここでくじけてられないもの」

 

 遥以上にやる気満々な鈴子はやる気が先走ってピョンピョンとその場で跳ねている。栗色の長髪が跳躍の度に宙を舞っては広がる様は何処か芸術的で小柄美少女な鈴子の可愛らしさを飛躍的に向上させていた。これは智恵が抱き付きに行くのも分かる。何処か張りつめていたクラスの空気も鈴子によって和らいでしまった。凄い。

 

「頑張れよ~!」

「ん、頑張るよっ!」

 

 案の定智恵が現れ、中空に浮いている最中だった鈴子はそのまま抱きすくめられてしまった。

 

 

 

 遥が退魔師として出撃し、そして疲れ切って帰ってきた夜。夕食もお風呂も終えて後はもう寝るだけといった調子の遥が私の部屋にやってきてベッドでごろごろと時間を潰す。

 

「遥はお勉強はいいの?」

「んー、今日はいいの」

 

 デスクに向かって勉強する私に構うでもなく、いつもなら眠たげに頭をフラフラさせている遥はスマホ片手にそわそわと何かを待っているようだった。

 

 今日はもう、勉強はいいかな。そう思い私がデスクを片付け、遥のいるベッドに腰掛けると寝そべってスマホをいじっていた遥がにへらと顔を満面の笑みに変えて匍匐前進して腰に抱き付いてきた。

 

「ふぃえーなー」

「んー? 私、今日はもう寝るけど遥はどうする?」

「ちょっとだけ待ってもらってもいい?」

 

 私のお尻に顔を埋める遥は顔の上半分だけを覗かせる。その瞳は寂し気で、私は抗う気になれずにいいよと返答した。

 

「何かあるの?」

「うん……今日ね、私の幼馴染が電話をかけてくるの」

 

 遥の幼馴染か。一体どんな人なんだろう。私が聞くと、遥は何処か誇らしげに答えてくれる。

 

「凰島美真っていうんだけど……自信満々で、とっても綺麗なんだ。何か、ズゴゴゴゴォって感じ」

「何それ」

「お家も近くて、幼稚園も小学校も一緒で……ずっと一緒に遊んでた。今は忙しいから会いに行けないけど、ちょっと前まではお茶しにこっちまで時々来てくれてたんだ」

 

 凰島美真という子との思い出は遥にとってとても大切でかけがいのないものなんだろう。私に色々と思い出話を語ってくれる遥の表情は上半分しか伺えないけれど、瞳が生き生きと輝いていた。

 

「それでね、私と凛は止めたんだけど美真はそのまま強行して……凛、か」

 

 凛。その名前には私は聞き覚えがあった。かつて遥と一緒に避暑旅行に行った時に遥が私に事情を打ち明けてくれた時に、名前が挙がった気がする。確か……一緒に肝試しに行った親友だった、かな。

 

「凛のこと、フィエーナには話したっけ?」

「うん。昔、一度ね」

「そっか。覚えてたんだね。凛は……美真に凛、それに良助の三人には私は昔から嘘を吐いたことなかった。隠し事無しでずっと付き合ってきたの。だから、私は退魔師の話をした。悪いのは全部、悪魔のせい。そう思って私は真相を全て話した。そうしたら、私を肝試しに連れ出したからって、凛は気に病んじゃった」

 

 かつての情景を思い浮かべているのか、しばらく目を閉じていた遥が再び物憂げに目を開き口を開く。

 

「言うべきじゃなかった、のかな……凛は責任を感じて私との付き合いを辞めちゃった。私は……そんなつもりじゃなかったのに……」

 

 後悔に沈む遥は口をつぐんで顔を私のお尻に押し付けて表情を隠してしまう。私が簡単に口を挟めるような事柄じゃなくて、私は何も言うことが出来なかった。私に出来るのはただ、落ち込んだ遥を慰めることくらいだ。私は遥の頭頂部に手を乗せ、ただゆっくりと撫でるしかなかった。

 

 しばらくそうやって静かにしていると遥の手に握られていたスマホがブルブルと振動を発する。

 

「美真だ。もしもし?」

『遥ァ! 久しぶりですわねぇっ!』

 

 遥がスピーカーモードにしたスマホから勢いよく声が流れ出すと、元気のなかった遥の顔にぱああっと笑顔が戻った。ベッドに倒れ込んでいた体勢から一気に立ち上がり、佇まいを正して私の隣に座り込んだ。

 

「んー! 美真は元気そうだね」

『ほっほっほっほ! あたくしが病気にかかったことなんてありまして?』

「流石美真だね」

『当然っ! ですわっ!』

 

 こんな口調の人が現実にいるとは。てっきり、里奈の持っているマンガの中にしかいないと思っていた。ちょっとした衝撃を受けていた私を遥が美真へ紹介してくれる。

 

「今日はフィエーナも一緒だよ」

「えぇと、初めまして。フィエーナ・アルゲン、今は遥の家にホームステイさせてもらってるんだ。よろしくね」

『あらっ、綺麗な声ですわねっ! あたくしは凰島美真。遥とは幼少からの幼馴染ですの。あたくしのことは美真と気軽に呼んでいただいて構わなくてよ』

「分かったよ。じゃあ私のことはフィエーナって呼んでね。よろしくね、美真」

『ええっ! 遥とは上手くやってますの? 何かあったらあたくし、相談に乗って差し上げますからねっ?』

「ちょっと美真ー?」

 

 からかい交じりの美真へ、遥もまた半分笑いながら言い返す。昔からの信頼があるみたいで、ちょっとうらやましい。

 

「あはは、遥とは上手くやってる……よね?」

「すっっっっっごく仲良しだから心配いらない」

『あらぁ? それなら何よりですわっ』

「美真の方もそろそろ期末考査、だっけ? 大丈夫なの?」

『ぐっ。ま、まああたくしは』

 

 言葉に詰まった美真へ滔々と遥はお説教を開始する。

 

「ちゃんと勉強しなきゃ駄目だよ。美真はお勉強さえしたら成績良くなるんだから」

『ぐぬうう……遥ァ! お兄様みたいな口振りはやめなさいっ! 流石にテスト前くらい机に向かうくらいできますったらっ!』

「本当? 後で良助に確認しちゃおうかな」

『いいですわっ! 何を隠そう良助に勉強を習っているんですものっ!』

「そっか。安心した」

「美真にもお兄さんがいるの?」

『ええっ! 二人おりますわっ!』

「そうなんだ、私にも一人いるんだよ~、どんなお兄さんなの?」

『あたくしのお兄様たちも優秀ですのよっ! 加えて卓お兄様はとても紳士的でよくオモテになられてますわねえっ! それに引き換え健お兄様ったらすぐあたくしにちょっかいをかけてきて、聞いてくださるぅ!?』

 

 そこから怒涛の勢いで愚痴を吐き出す美真。忘れ物をした美真に届けて一言皮肉を告げたり、テスト前なのに友達と長電話をしていて諌められたり……美真の瑕疵が原因で、それも心配してくれているのは美真自身も理解しているようだった。

 

『だとしてもっ! あそこまで罵倒される必要があるとお思いかしらっ! 体重なんて関係ないじゃないっ!』

「健さんは口が悪いんだ。美真のこと考えてるのは分かるけれどね」

 

 スマホから距離をおいて小声で話す遥。ひとしきり愚痴を言い切った美真はすっぱり感情を切り替えて遥の近況を尋ねて来る。

 

『何だか最近は調子がいいんじゃありませんこと? 返信もすぐ返って来るようになりましたわね』

「うん。フィエーナが元気を分けてくれるの」

「あはは、一緒にいるだけなんだけどね」

『そう……あたくしも転校しようかしら?』

「嬉しいけど、美真のお頭じゃ……」

『ぐぬう……』

 

 凛の話題が出ると通話の向こうの美真もシンと静かになる。

 

「凛は……相変わらず?」

『そう、ですわね……向こうの学校の友人によると学校の中でもあの調子みたいですわ』

「そっ……か」

『ごめんなさいねフィエーナ。関係ない話をして』

「ううん、気にしないで。それとも私、席をはずそうか?」

「離さない。一緒にいて」

 

 私が少し体をベッドから浮かせる素振りを見せただけなのに、遥は先んじて私の腰に腕を回してぎゅうとくっついてくる。ちょっと心配性じゃないかな。

 

『遥?』

「あ、いや。フィエーナには私のことで隠し事をしたくないんだ」

『へえ、そこまでの仲ですのね』

 

 向こう側にいる美真の笑みが通話越しに聞こえて来る。遥の無事を喜ぶような、そんな声だった。

 

『暇が出来たら一度お茶でもしましょう? いいお店を知ってましてよ?』

 

 

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