これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A26:先代様と面会しました。

 

 

 黙々と灼熱の炎天下で私たちが抱き合っているとスクールバッグの中に入っている遥のスマートフォンがブルブルと震え出す。しばらく無視していた遥だったけれど、長々と振動を続けるものだから無視し続ける訳にもいかなくなったらしい。

 

「有江さんだ」

『遥無事だったかっ! 先程発生した銀の風だがっ、遥も感じ取っただろうかっ!?』

 

 私にもはっきり聞こえるくらいの大声が鳴り響き、遥は思わず耳に添えていたスマホを離す。有江さんの大声が途絶えるのを待ってから再びスマホを耳に当てた遥は、何か月も自信を苦しめていた元凶を退治した偉業を何でもないようにさらっと口にする。

 

「それ、私がやった」

『……え?』

「ここいらの魔之物、全部祓ったはず」

『え、ええ! そう! そうなんだっ! 今まであんなにいた魔之物が全て消滅して……え、遥がやった……!? えぇ!?』

 

 一切自慢とか驕慢の垣間見えない自然な口調で話すものだから通話の向こう側にいる有江さんがすごく困惑している。遥に限らずベーセル兄とか、すごい人ってすごい事をサラッとやってしまう。

 

「会って話そう? 有江さん」

『わ、分かったっ! 通学路の途中にいるようだなっ、そこで待っていてくれっ! 五分以内に到着するっ!』

「有江さん、凄い慌ててた。あと声がうるさかった」

「そりゃあ、今まで大苦戦してたのに遥が一掃したらびっくりするよ」

「私がやったけど、私だけの力じゃないよ。フィエーナから流れ込んできたこの力のおかげ」

 

 愛おし気に遥は左手に嵌った指輪を撫でる。金属には見えないけれど、光を反射して硬質な白銀色を返してくる不思議な物体で出来ている無装飾のリング。

 

「それ、何なんだろう」

「眠っていたフィエーナの力の具現化された結晶」

「ヴェイルの力……」

「確かにヴェイルの滅魔に似てる。じゃ、この力は滅魔って名付けよう」

 

 そうじゃないんだ、遥。多分それは、かつてヴェイルが持っていた力だ。私には扱えず眠ってしまっていたんだ。それを遥が扱ってくれるなら、私としても嬉しい。私の至らなさ故にヴェイル自身に扱ってもらうことは出来なかったけれど、ヴェイルも遥になら託してくれるよね。

 

 それにヴェイルの滅魔はあんな大それた広域浄化なんて出来なかった。魔王カディアの助力があった時でさえ、遥がさっき見せた一撃には及ばなかった。凄いよ遥は……私なんかより、よっぽどヴェイルを継ぐに相応しい。

 

「フィエーナ、上」

 

 遥が唐突にそういうものだから、さっきの荒事を思い出して私が慌てて上を見ると、六角形の金属板みたいなものに乗って宗一先輩が高速でこちら目掛け飛翔していた。上空数十メートルにも関わらず飛行に使っていた物体を躊躇いもなく消滅させると、すっと仁王立ちで着地する。遥程じゃないけれどすごい身体能力、流石退魔師だ。

 

「今のは誰がやった! フィエーナ・アルゲン、貴様か!?」

「私」

「一ヶ宮遥、貴様が……馬鹿な、あれは、あの力は……」

 

 愕然とした表情の宗一先輩は遥の指に収まる白銀の指輪に釘付けになる。

 

「その指輪……何処で手に入れた」

「これは、私とフィエーナの愛の結晶」

「やはり貴様か! フィエーナ・アルゲン!」

 

 ずんずんと大柄な体躯で迫って来るものだからちょっと怖い。そんな私の内心を読み取ったのか、スッと遥が私の前に立って宗一先輩に立ちふさがる。前までだったら遥だけに任せてられないと並立しただろうけれど、さっきの戦いで遥のカッコよさに魅入られてしまった私は遥に守られることに喜びを覚えてしまった。

 

「何のつもり」

「貴様こそ、何故邪魔立てする」

 

 じいいと上を向いて宗一先輩とにらみ合う遥、そういえば二人ともそんなに口が上手い人でもない。やっぱり私が前に出ようと思いなおしたところで公園の前に停車した車から有江さんが猛烈な勢いでこちら目掛け駆け寄って来る。

 

「おい! どうなってるんだ! 何故二人がにらみ合っている!?」

 

 有江さんが二人の間に無理やり割り込んで来たので宗一先輩はあっさりと数歩後退した。そのまま有江さんの脇を抜け、公園の出口へ足早に歩き去っていく。

 

『私のことを忘れたとは言わせないわよ馬鹿』

 

 その間際、ぼそりと呟かれた寂し気な帝國語は私にはっきりと聞き取れてしまった。

 

「フィエーナ?」

「ううん、何でもないよ」

 

 まさか、似た性格だとは思っていたけれど……そんなことってあるのかな。

 

「この件は先代様に報告する必要がある。天辺有江、分かるな」

「は、確かに」

「俺も同行する。貴様に運転してもらうぞ」

「では、行きましょう」

 

 全員で車に乗り込んで天河家のお屋敷に向うことになった。後部座席では遥が中央に座り込んで、私と宗一先輩を隣り合わせないよう睨みを聞かせる。そこまで警戒しなくてもいいのにと思うのは、私が彼にかつての存在を重ね合わせ始めているからだろうか。

 

「俺だ。先代様に繋いでくれ」

 

 祖父と電話するのに秘書か何かを経由しなければいけないような話しぶりだ。かなり偉い立場にいる人なのかな。

 

「すぐに会う、だそうだ」

 

 宗一先輩の言葉を聞いた有江さんの背がいつになくピンと立った。やっぱり緊張するほどの相手みたい。私も会うことになるかもしれないので、ちょっと情報収集することにする。

 

「ねえ先代様っていうのは……」

「天河重蔵様のことだ。宗一様の祖父君にして今の天河家の実質的な支配者をされておられる」

「退魔師でもあるの?」

「うむ、老齢ながら今もかなりの実力者だぞ?」

「へえ」

「頼むから勝負を挑んだりするなよ?」

「あはは、そんなことしないよー」

 

 有江さんに本気じみた口調で言われて、苦笑してしまう。私のこと、有江さんはどんな風に見ているんだろう?

 

「それより遥さん。その、先程の力についてそろそろ説明してくれてもいいだろうか」

「うん」

 

 遥らしく、手短かつ過不足ない情報量の説明はそう長くならずに終わる。

 

「そんなことが……フィエーナさんに異常はないのか?」

「今のところ何ともないかな」

「ふうむ……力の保有者はフィエーナさんだが、使えるのは遥さんとは」

「一ヶ宮遥だけにしか使えないのか? 貴様しかまだ使おうとしていないだけだろう」

「確かに……ちなみにフィエーナさんが指輪を手にすれば力を使えるようにはならないものかな?」

 

 宗一先輩越しに指輪を遥が渡してくれる。しばらく触ったり念じたりしてみるけれど、うんともすんとも言ってくれなかった。

 

「んー、私にはただの指輪でしかないみたい。力とか全然分からないよ」

「そっか」

「俺にも貸してみろ」

 

 遥に返そうと伸ばした私の手が宗一先輩に握られる。途端に目を不穏な調子でギラつかせた遥を見て私は急いで遥を宥めにかかる。

 

「遥、貸してあげてよ」

「フィエーナが言うなら……」

 

 渋々と言った顔つきの遥の了承を一応待ってくれた宗一先輩は、私の手から指輪をそっと取り上げる。しばらく私同様に試行錯誤するも、何も起きる様子はなかった。

 

「駄目か」

 

 大きな落胆の垣間見える声を期限と見たのか、遥はすぐに指輪を自分の手に取り返してしまった。

 

「宗一様でも駄目なのか」

「私には力とか分からないけど、あの時私は遥の力になりたいって想ったんだ。だから遥にしか使えないのかも」

「フィエーナが私を想った結晶だもん」

「想いの結晶化か……それでは私にも扱えそうになさそうだな」

「そうだよ。有江さんでも使えないよ」

 

 断言する遥は何だかとっても嬉しそうだ。私も遥の力になれて心から嬉しい。お互いに目線を遣り合い微笑みあった。

 

 

 

 やがて屋敷に到着した私たちは大広間に案内される。

 

「来たか。ま、そこに座れ」

 

 そこでであった天河重蔵様は精悍な顔つきをした未だ衰えをちっとも見せない長く伸びた白鬚が特徴的なお爺さんだった。何処か宗一先輩にも似通った鋭い目つきは興味深げに細められ、私と遥の指にはめられた指輪に向けられている。

 

「まずは魔之物を一掃した礼を言っておこう」

 

 袴っていうのかな? 日本の伝統的な衣装に身を包んだ老齢の強者は私たちの目の前に確かな存在感を持ってどっしりと座っている。

 

「一ヶ宮遥、それにフィエーナ・アルゲンと言ったな。この地を治める天河の者として感謝する」

 

 そんな厳かな雰囲気を纏った方が、拳を畳に付けて頭を下げて来られると逆に畏れ多くてこちらがどうしていいか分からなくなってしまう。

 

 共にいた有江さんも宗一先輩もまさかの行動だったのだろう。ぴしりと表情が固まり動かなくなってしまった。

 

「私は退魔師の使命を果たしただけ、です」

「はっはっは! そうかい! そりゃあ頼もしいじゃないか!」

 

 ひとしきり豪快な笑いを上げた先代様は、その後事情を説明するように要求され私たちはそれに応える。

 

「そうか。その指輪、儂にも見せてはくれんか」

 

 遥の手から差し出された指輪を先代様は興味深げに片目をつぶって天にかざしながら見つめる。

 

「ほう。綺麗な指輪だ。力……は儂には知覚できんか。だが清らかな気配がある」

「金属じゃねえ、未知の力の塊か」

「滅魔」

「滅魔? ほう、そりゃどういう由来だ?」

 

 遥ったら、こういう場面では失礼のない様にした方が……先代様が気にされてなくてよかった。何だか冷や冷やする遥と先代様の会話は私の執筆した本の話にまで及ぶ。

 

「はっはっは! なるほどねえ! そちらのお嬢さんはベストセラー作家だったか!」

 

 やがて事情を聴き終えたと判断した先代様は私たちにお茶を奢りながら、険しい顔立ちを優し気な笑顔で和らげる。

 

「この地を守ってもらった礼だ。それを手放さずに済むよう手配してやろう。それに、そうだな……お嬢さんの身の上を考えたら、出所もあまり公にしない方がいい。天河家からの譲渡物ってことにしておくか。もちろん、所有権は放棄済みって形にしておくから奪われる心配はしないでいい」

 

 

 

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