これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A27:遥に堕ちました。

 

 当主様との会談後に二時間ほど状況説明を有江さん相手に済ました私たちは屋敷にまだ残るという有江さんに別れを告げ、迎えに来た吉上先生の車で帰宅した。

 

「まさかフィエーナに力が宿っていたなんてね」

「私もびっくりですよ」

「それも新型魔之物への特効効果があったとは……これも天の思し召しなのかな」

 

 状況説明の最中、私には明かされていなかったいくつかの情報が明かされた。何でも今回発生した魔之物は姿かたちこそ従来の魔之物と同じなのだけれど、在り方が異なるのではという報告が相対した退魔師から早くから挙げられていたのだとか。

 

 その報告を元に退魔の力にある程度の抗堪性を有する新型に対し、対抗策が練られてはいて。けれどそのどれもが実現に数年はかかるため即効性はなく国主導の対策チームに参画した面々は徹夜徹夜徹夜の毎日に絶望していたそうなんだとか。

 

「幸運にも遥を心配してフィエーナが来てくれたから事態は解決したんだ。まあ、表向きには天河家に収蔵されて埃を被っていた神器が特効性能を持っていたことにするんだっけ?」

「うん。フィエーナには日常を送ってほしいから」

「色々脅されちゃったもんね」

 

 魔之物災害が特筆して多い日本だからか、他国と比較して日本だけが人口当たりの退魔師人口が多いのだとか。世界でも有数の人口を誇る中国でも日本とほぼ同数に過ぎないそうで、もし私の存在が露見したらどういう扱いを受けるかが分かったものじゃない、とのこと。

 

「さて、到着だ。奈緒さん、随分心配されていたよ。早く顔を見せてあげるといい」

 

学校を帰宅途中で戦闘になったのだ。一応、屋敷にいる間に有江さんが一度無事だと連絡はしたとは言っていたけれど……帰宅した私たちは無言で飛び込んで来る奈緒さんに出迎えられた。

 

「よかった……二人とも無事だったのね」

 

 ぎゅうと私と遥をまとめて抱き付いて来る奈緒さん。その背に遥は腕を回し背中をゆっくりとさする。

 

「心配かけてごめんねお母さん。でももう多分大丈夫」

「有江さんに聞いたわ」

 

 奈緒さんの背後には吉上さんの奥さん、佳織さんが立っていた。私たちが帰還するまでの間、奈緒さんを励まし続けてくれたのだろう。

 

「終わった……のよね?」

 

 佳織さんの微かに不安の混じった質問に吉上先生は笑みを浮かべ頷いて見せる。

 

「うん、遥が放った銀の風は僕も見たよ。あれほど清浄な力は初めて見たね。あれで周囲に一帯の魔之物は全て浄化されたとみて間違いない」

「やっと、ね……遥ちゃん」

 

 ようやく自分の子供を襲っていた試練が終えたからか、奈緒さんは気の抜けたようなほわりとした笑みを浮かべ遥とついでに私を抱きしめ続ける。

 

「うん……ね、フィエーナいいよね」

 

 同意を求める遥に私は肯定の意を示す。奈緒さんには真実を知る権利がある、と思う。

 

「実は……」

 

 リビングに移り、佳織さんにお茶を淹れてもらいながら話すこと数十分。一通りの説明を終えた遥は話し疲れたように一息を吐く。

 

「へええ……まさかフィエーナにそんな力が眠ってたなんて」

「だから、フィエーナのおかげでもあるんだよお母さん」

「フィエーナちゃん……ありがとう、遥ちゃんをありがとう」

 

 遥を挟んで一緒のソファに座っていた奈緒さんが遥も纏めて私を抱きしめて来る。私は涙を流す奈緒さんの肩を優しく叩き、受け入れた。一緒になって抱き付いて来る遥もぼそりとありがとうの言葉を胸に顔を埋めて囁く。

 

 三人で抱き合って数分。奈緒さんの様子が落ち着いてきたのを見計らって佳織さんがにこやかにお祝いしないかと提案する。

 

「奈緒さん。折角だし、お祝いしましょうよ」

「いいかもしれないわね。遥ちゃんはどう思う?」

「ん。いいと思う」

 

 愛娘からの賛同を受けてすっくと立ちあがった奈緒さんはグッと右手を天に掲げ高らかに宣言する。

 

「よし! それじゃあ今日はご馳走にしましょう! 佳織さんたちも食べて行ってね!」

 

 奈緒さん、昨日から暗い顔つきだったから今浮かべている笑顔がキラキラと輝いて見える。

 

「お手伝いしますよ奈緒さん」

「私もお母さんと一緒にお料理する」

「いいねえ、僕もちょっとロートキイル料理でもお披露目しようかな」

「えー、吉上先生がー?」

 

 吉上先生が料理しているトコ、見たことないなー。私が懐疑的な目を向けると、ムキになった吉上先生が腕まくりをしてから大仰に指を振る。

 

「おー? 怪しげに見てるが僕を甘く見ちゃ困るよ」

 

 みんなでわいわいやっていると、事前に報告を受けて上機嫌に帰ってきた仁悟さんがケーキ片手に帰って来る。

 

「ただいまー! 魔之物の事件が収束したんだって!?」

「私とフィエーナがやったんだよ」

「何だって! それは本当かい!?」

 

 みんなでスーパーに行って食材を買い込み、みんなで料理を作り合い、賑やかに催された夕食の席もすっかり夜遅くになってしまった。あんまり強くないくせにお酒を呑み過ぎへべれけになった吉上先生を支えながら佳織さんが支えながら帰っていき、少し家の中は静かになる。

 

「フィエーナ、フィエーナ。一緒に寝よ」

「ん」

 

 くいくいと袖口を曳いて来る遥に誘われた私は、いつになく上機嫌にリビングで身を寄せ合っている奈緒さんと仁悟さんにおやすみを告げて、遥の部屋のベッドに体を横たえる。

 

「ふふー」

 

 ぐりぐりと胸に頭を押し付けて来る遥の顔はとても幸せそうだ。

 

「やっと、終わったんだね」

「うん……」

 

 私にとっては二週間足らずのどたばたした日々だったけれど、遥にとっては半年近く続いた多忙な戦いが終わったのだ。やっと訪れた平穏を前に遥は目を閉じ、安らかな表情で私にくっついてくる。

 

「これからは一杯遊ぼうよ、遥」

「うん!」

「お祭りも一緒に行こう」

「んー……いまさら連絡しても大丈夫かな?」

 

 遥の浮かべていた眩い笑顔が少し陰る。一回断ったことを気にしているのだろうけれど。

 

「あはは、みんなそんな狭量じゃないよ。ちょっと待ってて」

 

 くっついていた遥を一旦退けて傍に置いていたスマホから連絡を取ると、みんなから楽しみに待ってる旨のメッセージが次々に届いてきた。リアルタイムに届くメッセージを遥と一緒に眺める。

 

「ほら。みんないいって」

「あ……」

 

 ポップしてくるメッセージを前に、遥の陰っていた顔に明るさが戻っていく。いいんだよ、遥。これからは遥は笑っていなくちゃいけないんだ。

 

「だからさ、日曜日は目一杯楽しもうよ」

 

 目を潤ませながら、遥はこくりと小さく頷いて見せる。よしよしと頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細め一層強く抱き付いてきた。

 

「ありがとうフィエーナ」

「なあに?」

「これ……この指輪のおかげで解決した」

 

 左手の薬指にはめられた白銀の指輪を遥は愛おし気に撫ぜる。ヴェイルの力の詰まった滅魔の指輪。もう私には使えない力。

 

「いいよいいよ。遥になら、ううん遥にこそそれは相応しいと思うから」

 

 私自身で使えないことに不思議と後悔はなかった。遥に使ってもらえて嬉しかった。力になれない私が、遥の為になれたことがとても嬉しかった。

 

「フィエーナ……ね、私はこれが婚約指輪でもいいよ」

「あはは、仁悟さんの冗談?」

 

 ついさっきのお酒の席で、遥の左手の薬指に嵌っていることから仁悟さんが発した言葉だ。あの時は上機嫌な大人たちの冗談の嵐のせいで、遥も私も話題を捌くのに精いっぱいだったけ。みんな、とても上機嫌だった。

 

それだけ今回の事態が終わったことが喜ばしかったのだろう。それにしたって少しはしゃぎすぎだったんじゃないかなとは思うけれど。特に、吉上先生。

 

「私も遥なら一生のパートナーにしてもいいかも」

「本当!?」

 

 心の中に浮かんだ言葉をポツリと呟いだだけのつもりだったけれど、思いのほか勢いよく遥は食いついて来る。

 

「冗談なんかじゃないよ」

 

 その勢いに気圧されながらも私は肯定の言葉を返した。遥となら、きっと一生涯に渡るいい友情が築けるんじゃないかと思えたから。ただ何となく、今私は言葉の選択を致命的に間違えたような気がした。

 

「フィエーナァ……♥」

「は、遥……?」

 

 嬉しそうにすり寄って来る遥の笑顔。時折見る満面の笑みに近しいけれど、何かが違う。濡れた瞳が妖艶に煌めき、白い頬には朱が差している。艶めいた唇に、どうしてかとても意識を奪われる。

 

 漏れ出る荒い吐息が吹きかかる。何だかこの息、甘い。遥の肺を介して出て来た空気がそのまま私の中に入って来る。おかしいな、何だか私まで平静を保てなくなってきた。

 

 このままだと遥の唇と私の唇が当たると分かっているのに、私は頭が真っ白になってしまって動けない。ううん、動こうと思えないんだ。このまま触れ合ったら気持ちいいんじゃないかって微かに期待してしまっている。

 

このまま……遥とキスしてしまおうか。

 

けれど、こつんと額が当たった瞬間に私は最後に一言抵抗する。

 

「遥……近いよ」

 

 ここで止まってくれたら、私も止まれる。じいと遥と見つめ合う。互いに荒く乱れた呼吸の中、どれだけの時間が経ったのかも分からない程に遥の顔を見つめ続ける。ああ、遥はやっぱりとっても可愛らしい。もう、遥とならいいのかもしれない。

 

 私が覚悟を決めたあたりで遥の妖艶な据わった視線が可愛らしく挙動不審にブレ始める。あ、すっごく動揺してる。

 

「お、お休みっ!」

 

 あ、逃げた。遥は瀬戸際になって勢いよく背を向けてシーツを被って私の目の前から消えていなくなってしまった。

 

「んふふ」

 

 そんな肝心なトコでへたれて逃げ隠れてしまった遥がどうしようもなく愛おしくて、私はシーツに潜り込んで背中からぎゅうと抱きしめる。

 

「おやすみ、遥」

「……うん」

 

 バクバクと脈打つ遥の心音を聞きながら、私は一人で先に寝入ってしまった。もしかしたら遥は寝付けないかもなとは頭の片隅で思ったけれど、翌朝寝不足でフラフラしてる遥を見て後悔したのは後の話しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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