これTS? 憑依?   作:am56x

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T/A29:すっごい英雄に会えました。

 

 

朝、私がいつものように日課のジョギングに向かおうと起きると珍しく既に奈緒さんが起きて家事に手を出していた。

 

「おはよう奈緒さん、今日は早いね」

「お、おはようフィエーナちゃん」

 

 キッチンで背を向けていた奈緒さんはびくりと肩を震わせてから、私と顔を合わせるとホッとしたように安心した笑みを浮かべる。

 

「ごめん、びっくりさせちゃった?」

「そんなことないわよ~」

 

 何だか奈緒さんが緊張しているように見えて、一体どうしたんだろうかと首を傾げていたら朝食の席で原因が判明する。

 

「そういえば、今日はお義母さんたちが来るんだったね」

「え、ええ……」

 

 仁悟さんは神妙な顔つきをしていて、奈緒さんは気まずそうな顔つきで俯いてしまう。そうだ、そういえば奈緒さんは事件の影響で親密な関係を取っていた人であればあるほど恐怖を覚えてしまう後遺症がまだ残っていたんだった。

 

「いつ来るの?」

「六時くらいに……」

 

 気遣うような表情の遥へ気が重たげに返答する奈緒さんが提示した時間は仁悟さんが帰って来るあたりの時間だった。今日は道場に行く予定があるけれど六時前には帰ろう。

 

 

 

 学校では先週行われたテストの返却が行われ、問題の解説が実施された。結構手ごわい問題ぞろいだったけれど、それなりに出来ていて嬉しく思っていると鈴子が寄ってきてじいと見つめて来る。

 

「なあに?」

「完璧超人だね、フィエーナちゃんは」

「どうしたのさ、突然」

「うう~、国語以外フィエーナちゃんに敵わなかった……私、日本人なのに日本史で負けた~」

 

 そう言って椅子に座る私の横からへたり込んで来る鈴子に私は伸し掛かられる。小さいので全然重たくなくて、むしろ軟らかくていい匂いがした。

 

「広瀬先生も褒めてたわね~。というか、授業範囲外の趣味問題は勘弁してほしいわ……」

 

 そう言いながら反対側から寄りかかって来るのは雪夜だ。

 

「二人ともなんなのさ」

「でも流石に国語はアタシらが勝ってたよな。つか、負けてたらシャレになんねえよ」

「智恵まで?」

「へへへ~」

 

 背後からやってきた智恵は鈴子と雪夜もろともぎゅうと抱きしめて来る。

 

「ずるい。私も」

「遥も~?」

 

 流石にスペースがなくなってきたと思ったら机の下から潜り込んできて正面からくっついてくる。

 

「ちょっとー、暑いよ~」

 

 割かしのんびりとした時間を過ごしてたのだけれど、ガラッと勢いよくドアを開けて入ってきた宗一先輩が現れたことで一気にクラスルーム内が緊張に包まれる。

 

「フィエーナ・アルゲン。来てもらおう」

「宗一先輩」

「何を……している?」

 

 抱き付き合っている私たちを前にして流石に戸惑っているみたいだ。険しい目から鋭さが消え、困惑が残る。

 

「あ、あははー。五分だけでもいい?」

「構わん」

 

 遥がちょっとしつこかったけれど、どうにか言いくるめた私は宗一先輩と空き教室で二人きりになる。その私の前で宗一先輩は何やら見たことのない札を制服の懐から取り出し、空中に浮かせる。

 

「それは?」

「人避けの結界だ」

「結界? 大げさじゃない?」

 

 そこまでして聞かれたくない話題、私には心当たりがあった。結界を展開してからいつになく目を鋭くさせて私を睨んでいた宗一先輩は宗一先輩としてではなく、ハリアとして口を開く。

 

『……本当にあなた、ヴェイルなの?』

 

 それは私の中にあるヴェイルの記憶で幾度となく聞いた異世界の言葉。それも、ハリアの口調に瓜二つの帝國語だった。それにしても、その体で使うにはちょっとずれているような気がしないでもないけれど。

 

『ヴェイルじゃないんだ。ごめんなさい』

『どういうこと? あの力、確かにヴェイルの滅魔だったわ! というか帝國語を解しているじゃないの!』

『私の中に確かにヴェイルの記憶はある。けど、私はフィエーナであってヴェイルそのものではないんだ』

『そん、な……』

 

 縋るような視線が絶望に変わる。もしハリアだとしたら、私の存在は邪魔なのかな。どちらにしてもヴェイルの存在をあてにしていたのだろうから、私の返答は宗一先輩にとっては喜ばしくないものであるのは確かだ。

 

『それより、あなたは本当にハリア、なの?』

『……ええ。あなたと違って私は私そのものとしてこの世界に生まれたわ。はあ……折角昔の仲間に会えたのかと思ったのに……!』

『あー……と、一応、たまーにヴェイルの人格も復活したりはするよ』

『どういう、こと?』

 

 ちょっと希望の灯った目線を向ける宗一先輩に私とヴェイルの不可思議な共同生活を説明した。もし本当にハリアなら、尊敬するヴェイルのこれまた尊敬すべき仲間なのだ。一欠片でも嘘を吐いては失礼にあたる。

 

 私が一通りの事情を話すと、ようやく宗一先輩は平常心を取り戻してくれた。宗一先輩というより、私がかつてヴェイルとして会った頃に体験したハリアのような物言いを始める宗一先輩に私の心は高鳴り出す。伝説が目の前にあるのだ。興奮しない方がおかしい。

 

『面倒ね。苦労してないの?』

『何で? ヴェイルと肉体を同一してるなんてこれ以上名誉なことなんてないよ!』

『……変わってる子ね。それで、ヴェイルを今呼び出せないの?』

 

 どうしてか呆れられてしまった。理由は分からないけれど、それでもこんな反応を確かにハリアはしたとヴェイルは教えてくれる。うう~……高まる!!

 

『んー……結構気まぐれに現れるから……週に一回は出て来るんだけれど』

『そう……それならその時話したいって伝えておいて』

『あ。記憶は共有してるからもう伝わってる。安心して』

『ふうん……ま、いいわ。連絡先は渡しておくから、ヴェイルの人格が出て来たらすぐ連絡して。いいわね?』

『うん! 絶対するよ!』

 

 そう言い切ると宗一先輩は結界を解除し、空き教室から去っていく。その背に向けて私が興奮に任せてぶんぶんと手を振ると、宗一先輩は呆れの表情をそのままにしながらも手を振り返してくれた。

 

 その反応が正に気を許した相手にするハリアの態度そのままで、私は思わず口の端が緩むのを抑えきれなかった。

 

 

 

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