佐久間大学?え、学校ですか?   作:佐久間大学

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不屈忠誠

 超圧縮された光は、物理的な破壊力を持って敵へと向かう。

 

「――――ッ」

 

 紙一重で半身になり躱したアサシンの真横を、縦に黄金の光が通過していく。翻った背中側の羽織の一部が斬り飛ばされた。

 振り下ろされた光剣は、石畳に当たる前に止まり、そのまま胴を払う横薙ぎへ。

 迫る死を、アサシンは背面跳びの要領で回避していた。

 

「シッ!」

 

 その状態からの蹴り。威力は乗らないが、そもそもガードさせることが前提であった。

 防がれる蹴り足を反動に、彼は大きく後ろに下がっていたのだ。

 聖剣の鞘が外れてから、戦局は五分にまで持ち込まれている。

 少なくとも、少し前までの勢いは今のアサシンには無い。押されてもいないが、先程までの突飛さを、奇をてらったかのような戦術は鳴りを潜めていた。

 だが、それはセイバーが攻めあぐねている事にも通じる。

 

「――――ッ」

 

 すべて防がれる。振れど、突けど、刀一振りで聖剣の進行方向は逸らされ、衣服こそ斬れどもその下に隠れる肉は、薄皮一枚切れていなかった。

 セイバーが聖剣を開放してから、アサシンはカウンター戦術へと切り替えていた。

 いなし、逸らし、躱し、流し、あらゆる防御手段を持って相手の力を直撃させない。仮に当たっても、被害は最小限以下に抑える事。

 王道である規律あり、正面からの戦闘にめっぽう強いセイバーの剣術が、通じない。

 場数や才覚以前の問題。

 セイバーは確かに最優のサーヴァントである。しかし、人生全てを剣のみに捧げてきたわけではない。

 そもそも、彼女の剣ですら剣の形状をしているとはいえ、その本質は超高密度の光を圧縮した光線を放つとんでも兵器。その一発は、容易に地形を変えてしまう。

 対するアサシンにそんな装備は無い。生前は、白兵戦のみで戦い抜き、万を優に超える敵を斬り続けてきた。

 斬って、斬って、斬って――――その果てがアサシンだ。故に、

 

「――――ぐっ…………!」

「遅いっ」

 

 一瞬の隙が、命とり。

 尽くを逸らされ続けたセイバーが、ほんの少しだけ振りが大振りになったその一瞬のうちに、彼女の細い首が万力によって絞められていたのだ。

 アサシンの左手。まるで食らいついた蛇のように放さないその腕は、指先をセイバーの首へと徐々に食い込ませていくように見えるほどの力が込められている。

 だが、窒息が狙いではない。

 元より殺すことが目的ならば、無駄に時間をかける事など不合理すぎる。

 右の刀が閃き、その切っ先が彼女の顔を――――

 

「ッ!?」

 

 瞬間、アサシンはその場を飛び退いていた。

 戦いの最中で磨かれた直感。飛び退いたアサシンは、山門を見上げる。

 

「ッ、キャスター殿!!」

 

 そして駆け出した。

 直後、キャスターの張った結界が揺れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 あらゆる英雄の中でも、最強の名を冠する存在は複数存在している。

 十二の難行を踏破した、ヘラクレス。最強の竜殺しである、ジークフリート。最強の聖剣を有するアーサー王。一つの時代で最強と呼ばれた、呂奉先。影の国の門番であり神殺しをなした、スカサハ。

 軽く挙げてもこれ位。

 だが、その中でも取り分け英霊殺しな存在が居る。仮に呼び出し、制御できたならば一日で聖杯戦争を終えられるとも言われる程に強い。

 その者こそ、

 

「――――いい加減、見世物にも飽きたからな。この我手ずから、貴様ら雑種共に終わりをくれてやろうではないか」

 

 金の波紋を背に、柳洞寺の屋根の上に立った金髪の青年。

 彼こそ、最強の一角にしてこの聖杯戦争での最強のジョーカー。

 英雄王、ギルガメッシュその人である。

 彼の背後に浮かぶ黄金の波紋は、軽く十を超えており。その波紋より顔を覗かせるのは――――宝具たち。

 

「死ぬが良い」

 

 ギルガメッシュの振り上げた右手が下ろされると同時に、放たれる宝具の雨。

 その先には、結界を張り、防壁にしようとしているキャスターとそのマスターである葛木宗一郎が居た。

 突然の襲撃であったのだ。まさか、あっさりと神殿の内側に入ってくるなど彼女も考えておらず、何よりも英雄王等という大物が居る事にも気づいてはいなかった。

 何より、足止めしたアサシンを利用して、上手くいけばセイバーとアーチャーを落とせたであろう状況での襲撃。発動させた魔術による罠も、宝具の壁に阻まれ届いてはいなかった。

 迫る死の砲弾。少なくとも、如何に堅牢な結界であっても数発防げれば御の字であると言ったこの状況を、キャスターには覆す手段が無い。

 令呪を使えば、アサシンを呼べたはずなのだがそんな暇が無い程の速度で相手は攻撃しているのだから後の祭りである。

 だが、

 

「――――ッ!」

 

 結界が揺れる寸前に二人は横からの何かに抱えられてその場を離脱していた。

 玉砂利を押しのけて滑る音。

 

「――――参上仕りて、ございまする」

 

 ここ最近聞きなれた声に、キャスターは顔を上げた。

 

「アサシン…………!どうしてここに…………」

「嫌な予感に従い、やってきた次第にございます。そして、申し訳ございませぬ。門番の任を果たせず、推参いたしました」

 

 葛木とキャスターを小脇に抱えたアサシンは、申し訳なさそうな声色で、ギルガメッシュを睨み上げていた。

 彼にとっては、場所が悪い。

 寺、狙われる主、圧倒的な敵。彼が死んだときの状況に酷く酷似していた。

 英霊にとって、死因は明確な弱点だ。何故ならば、同じ手順を踏まれてしまえば運命として死の結果が訪れる為。

 例えば、頑強不死身な肉体を持つジークフリートは、唯一竜の血を浴びる事の出来なかった背中の一点が弱点となっており、守るどころか布で覆うことも出来ない。

 例えば、神性を持たねば傷つける事すら不可能なアキレウスは、唯一アキレス腱の身が弱点として穿たれてしまえば不死性を失ってしまう。

 このように、世界的に知られた大英雄であっても弱点を突かれてしまえばこの有様。

 普通ならば場所を変える。若しくは不利にならぬように、立ち回る。

 しかし、実直馬鹿真面目なアサシンは背中に守るべき主を背負った時、あらゆる不利をおして正々堂々前に立つ。

 例え、死ぬことになろうとも。

 

「貴殿、名を問わせていただきまする。何者か」

「雑種風情が、王たるこの我に問いを投げるのか?痴れ者が……貴様に名乗ったところで何の益がある?」

「確かに、貴殿には何の益もありませぬ。されど、これから死ぬ小生には重要な事にござります故」

「死ぬ、か。ふんっ、存外立場の分かった犬ではないか」

 

 うしろ向きなアサシンの言葉を、ギルガメッシュは鼻で嗤う。

 彼にしてみれば、自分よりも後の時代の人間など全てが雑種の犬畜生でしかない。

 それこそ例外的に、昼間に仕留めたギリシアの英雄などおも存在しているが、ほんの一握り。

 基本的に見下すことがデフォルトであった。

 

「興が乗ったぞ、アサシン。そこの雑種を捨て、我に忠を尽くすというのならその命、使い潰す程度はしてやろうではないか」

「お断りいたしまする」

「ほう――――貴様風情が我の勧誘を蹴る、か?」

「小生は、負けるから裏切る、等という下らぬことは致しませぬ。この仮初の今生、小生は小生を呼び寄せたキャスター殿の為に使い切りまする」

 

 愛刀を、霞に構えアサシンはギルガメッシュに相対する。

 圧倒的な不利。相手は遠距離の攻撃手段が豊富であり、逆にアサシンは距離を詰めねば傷一つつける事など出来はしない。

 故に、最初に行うのは接近。

 刀を下段に下ろし、前へ。彼の敏捷のステータスは、A。ランサーと同じ値であり、その加速は影すら真面に残すことが無い。

 

「フハハハハハ!せめて、散り際でこの我を興じさせよ、雑種!」

 

 対するギルガメッシュの攻撃は、自身の宝具【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】からの絨毯爆撃にも勝る宝具の集中豪雨。

 これこそ、彼が英雄の王たる証明の一つでもある。何せ、この宝具の中には数々の、宝具の原点が存在しているとされているのだから。

 これによって、相手の宝具の弱点を突ける。不撓不屈不死身の英雄にも優位に立てたのも、この宝具に起因するところが大きい。

 ただ、弱点を挙げるならば射出速度と接近を許してしまうと自身の技量で戦わねばならない点か。

 速度に関しては、撃ちだす宝具のランクにも変動するのかもしれないが低ランクであるならば、魔術使いが外部のバックアップを受けた状態で発動した固有結界内で憑依経験を読み取っているとはいえ未熟者に撃ち落される程のモノ。

 今のところ、ギルガメッシュはアサシンを舐めている。撃ちだす宝具も、Bランク止まりであり何発かはアサシンの手によって撃ち落されていた。

 一発でもその身に受ければ、受けた箇所が消し飛ぶ。

 今のアサシンは、宝具の雨という激流に漕ぎだした一艘の小舟。しかし、窮地であるからこそ彼の剣技はより一層の冴えを見せている。

 単純な左右上下の振りですら空を切り裂き、音を置き去りにする。それどころか宙返りやスライディングなど明らかに不安定な姿勢ですらその斬撃に揺らぎは無いのだ。

 宝具の射出を続けるギルガメッシュも、若干ながら目を細める。

 有象無象でしかない、敵とすらも認識するには到底足りない小さな存在であるが、その身に宿した技術は確かなもの。

 そんなもの(技術)を修める気には、到底ならない彼であるが王の中の王を自負するだけに見る目は確か。

 

「面白い。そら、追加だ雑種。貴様の足掻きを、もっと我に見せて見ろ!」

 

 瞬間、アサシンの視界が黄金に染まる。
















そろそろ、エタる可能性が出てきたので展開早めました
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