佐久間大学?え、学校ですか? 作:佐久間大学
舞い上がる粉塵と巻き起こる爆風。
通常の英霊の宝具、その五倍の力を有するとされるギルガメッシュの放つ剣群は容易く柳洞寺の地形を粉砕していく。
既に穴だらけの庭。
「――――――――ッ!」
巻き起こっていた土煙を転がり出るようにして、アサシンは飛び出していた。
頬には赤い線が刻まれて血が流れているものの、全身含めて大きな怪我は見受けられない。視界を埋める様な攻撃に、最小限の手傷で四肢を欠損することなく彼は乗り切ったのだ。
「ほう、少しは見せるか雑種。そら、もっと踊って見せろ」
攻撃を回避されようとも、ギルガメッシュの余裕は健在。
彼にしてみれば、放っている宝具は己の財の中でもありふれたモノばかり。何より、押している事には変わりが無いのだから焦る必要も無い。
むしろ、余裕が無いのはアサシンの側だ。
やはり、距離が問題。そして、立ち位置としてギルガメッシュは屋根の上に居り、アサシンは未だに庭より上に上がれていない。
そもそも、高ランクの千里眼持ちに心理戦などやるだけ無駄だ。
ギルガメッシュ自身は、好んで使う事は無いがその知性は怜悧にして明瞭。相手の行動を見て先読みする事など造作も無かった。
その上で、アサシンは距離を詰めねばならないのだ。
直線では、ダメだ。相手の宝具は、ほぼ無限に間断なく射出され続けている。突っ込めば、ハチの巣になってしまう。
だからこそ、彼は弧を描く軌道で駆けていた。
最高速度ではない。彼の敏捷は、A。あえて今は速度を落として様子を見ている。
再三距離を詰めねばならないと述べたが、無策で突っ込んでどうなるかなど考えずとも分かる。ミンチか何かに変えられて、座に還されるのがオチだ。
その上で、攻めあぐねる。守らなければならないという意識が、彼の足を引く。
そう、キャスターとそのマスターだ。二人を守れなければ、そもそも彼にこの場でギルガメッシュと単体で戦う理由などありはしない。
しかし、剣を取った。絶望的な戦力差など歯牙にもかけず、彼は唯一の武器を片手に戦場に立ったのだ。
「――――アサシンッ!!」
戦場に響く、キャスターの声。
「令呪を持って命じます、この戦いに勝利しなさい!さらに令呪二画を貴方の為に!」
彼女の手の甲に輝いていた令呪三角が消失する。
同時に、アサシンの速度が跳ね上がった。
変化は、彼のステータス。膨大な令呪の魔力と、キャスターの神殿に溜め込んだ魔力を注ぎ込むことで全てのパラーメーターをワンランク、最低でも持ち上げたのだ。
これによって、彼の敏捷はA+。最速の英霊にも至る敏捷性を、この一回きりに獲得したことになる。筋力、耐久も上がり、より生前に近づいた。
消えるようにして剣群を躱し、アサシンは遂に屋根へと到達する。
「我と同じ舞台に立つか、アサシン」
寺特有の大きな屋根だ。独特の傾斜があり、未だにギルガメッシュが上に立っている。同時に、先程の地面よりも脆い足場は、容易く彼の剣群掃射で瓦礫へと変わる事だろう。
勝負は――――一歩の距離。そこまで詰めれば、アサシンの勝ちだ。
「――――参ります」
筋力と耐久へのバフは、大きい。これによって、今のアサシンは直進策を採れるようになった。
両の手で刀の柄を握り、真正面から突っ込んでくる宝具の弾幕を叩き落す。
「令呪のバックアップか。成る程、貴様の技量ならば後は足りなかったのはその身の力。故に、キャスターは貴様の強化に令呪の全てを回したか。――――良いだろう。貴様の忠義を見せて見ろ、アサシン!!」
口角を上げ、ギルガメッシュは更に黄金の波紋を増やしていく。その中には、Aランク相当の宝具も混じっており、一撃弾く度にアサシンの両手を痺れさせていた。
それでも、屋根が何十メートルもあるわけではない。着実に、アサシンとギルガメッシュの距離は詰められており、強化された敏捷の副次効果で上がった脚力により、間もなく一歩圏内に、
「――――ッ!」
入れない。
あと一歩。そして次の一歩で魔剣を発動できたのだが、その直前に鎖が軋む音が響いた為だ。
反射的に、その場を跳んだアサシンに数瞬遅れて無数の鎖が襲い掛かって来ていた。
空中では身動きが取れない。
「ぐっ――――ッ!」
アサシンは、素早く向かってくる鎖の先端へと刀をぶつけその反動で空中を移動していく。
正に変態機動とも言うべき動きだが、当の本人は至極真面目だ。
その証明とでもいう様に、彼の体は着実にギルガメッシュへと迫っている。しかし、それがいけなかった。
「――――この我に技量のみで食らいつくか、雑種」
黄金の波紋が彼の手元近くに現れ、そこから顔を出すのは――――――――一つの鍵。
「光栄に思うが良い。貴様の忠義を示す絶好の機会だぞ、アサシン」
愉悦に顔を歪ませ、ギルガメッシュは鍵を握り捻った。
世界が収束していき、現れたるはこの世の宝具の中でも頂点の一つにして神造兵器である【
【乖離剣 エア】。究極の無銘の剣であり、その一撃は世界をも切り裂く。
「あの剣は――――ッ!」
アサシンに、それに該当する知識は無い。しかし、本能で悟った。
アレは不味い、と。
向かってきた鎖の一つを弾き、その反射で彼が向かったのは――――キャスターの元であった。
穴だらけの地面を滑り二人の前に立つと、切っ先を下に刀を地面に突き立てる。
「――――我が身を礎として、貴殿の道を塞ぎ奉らん」
左手を右肘に添え、腰を落とし祝詞を紡ぐ。
鳴り響く地響き。魔力が走り、アサシンの全身から放出されていく。
「小細工だ!目覚めろ、エアよ!仰ぎ見よ――――【
三つの円筒が回転し、巻き込んだ風が圧縮されせめぎ合う事で発動される最強の一撃。
対するアサシンが振るうのは、彼自身の宝具に他ならない。
「主に刃は届かせませぬ――――【
それは彼の持つ最大の守りにして、忠誠の証がそのままに形となった宝具。
現れるは、巨大な城門。見上げるほどの大きさであり、固く閉ざされたソレは外界からの接触を拒む実直さを表しており、門に接続されるのはこちらも巨大な白塗りの壁。
彼が守護してきた、“砦”という概念そのものを呼び出すこの宝具。
本来ならばこの中に敵を誘い込んでアサシンの手で殺すのが基本となるのだが、今回はまた別の用途としてこの場に召喚された。
砦とは、外敵からの守りだ。外部からの脅威をシャットアウトし内側を守る事こそが、働きであり、概念であった。
断絶の風と、鉄壁の守り。
ランクで表せばEXと、バフ込みでA+++。
果たして――――――――世界が弾けた。
*
世界が軋むかのような衝撃は、当然ながら寺の外で様子をうかがっていた者達にも届いていた。
彼らがアサシンを支援しなかったのは、単純に彼とは未だ敵対しており、突如現れたギルガメッシュとの戦闘にも割って入れなかった為。
士郎がマスターを務めるセイバーは、ハッキリ言って弱体化していると言ってもいい。そして、凜がマスターを務めるアーチャーはトリッキーな戦いで格上にも勝ちを修められるが、如何せんステータスが低い。
神話の決戦に思える様な光景が目の前で繰り広げられ、そこに突っ込むには勇気がいる。
「どっちも化物じゃない…………!」
呼び寄せたアーチャーに庇われながら、爆風を耐える凜はその光景を信じられないものとして見るしかない。
アサシンの砦もすさまじかった。守りという言葉をそのままに、形にしたような荘厳さを感じさせるような代物であったから。
だが、それ以上にギルガメッシュの一撃はあり得ない。
正に、評価規格外の名に相応しい破壊力を誇っており、柳洞寺周辺の地形が更地になっていない事が最早、彼の手加減を表しているのではないかと思われそうな程であった。
「――――貴様といい、ヘラクレスといい。我の持たぬ宝具を持つか」
エアを収めたギルガメッシュは、未だに粉塵の上がる庭を見つめ、目を細めた。
彼の財宝には、過去、現在、未来にかけて様々な代物が収められている。だが、それでも全てではない。
神造兵器である【
粉塵が風によって去れば、そこに残るのは――――不自然に抉れ、割断された地面と無傷のキャスターと葛木の姿。
そして、二人の前に膝をつき、刀を支えに辛うじてその場に残るアサシンの姿であった。
「――――――――ごふっ!…………っ!」
あふれる鮮血。堪える事すら出来ず、アサシンの口から吐き出され、彼の体は左手が地面につき右手が鍔に引っかかることで辛うじて支えられている状態。紋付袴は、裾が解れ最早上着は襤褸切れの塊のような有様であった。
まさしく、満身創痍。それでも彼は、耐えきった。少なくとも、主を守り切った。
「フッ……フハハハハハッ!良いぞ、実に良い。あの男と同じように、貴様もまた、余分なものを背負って果てるというか。それも良かろう。この我にエアを抜かせ、それでも原型を保つその忠義は褒めてやろうではないか」
「っ…………!」
「良い目だ。ボロ雑巾の様に無様を晒しながらも、我に楯突く気概がまだあるか」
「当然に……ございまする……」
高々と嗤うギルガメッシュに対して、アサシンは襤褸となった羽織を脱ぎ捨て袴と着物のみの姿となり立ち上がる。
一挙手一投足に血が溢れる。治癒の魔術が働いているものの、穴の開いてしまった神殿では焼け石に水の様な治癒しか働いてはくれない。
だが、まだ令呪は働いている。であるならば、忠誠の徒として果たさねばならない事がある。
「小生は、貴殿に勝つ。この身全てを懸けて」
「――――フッ、ならば楽に死ねるとは思っていまい」
震える体に鞭を打ち、それでも構えたアサシンに、無情にも黄金の波紋はこれまで以上の規模を持って彼を狙う。
そして、
「――――――――【
七枚の花弁が花開く。