佐久間大学?え、学校ですか?   作:佐久間大学

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終極

 花開く。目の前に開いた七枚の花弁を、霞む視界で確認しアサシンはほんの少しだけ体の力を脱く事が出来た。

 脱力は、あらゆる場面で重要視される要素の一つにして次の一手につなげる為に必要になる要素ではあるのだが、如何せん体が傷つくと自然と肉体は強張っていく。いまのアサシンはまさにそれだった。

 

「――――ッ、雑種、いや、贋作者(フェイカー)風情が舞台に上がるか…………!」

 

 宝具の斉射を防がれてしまったギルガメッシュは、怒気をその全身から立ち上らせ盾の持ち主である紅い弓兵へと鋭い目を向けた。

 とはいえ、怒気を向けられた側のアーチャーの反応は柳に風、豆腐に鎹。皮肉気に肩を竦めてみせる。

 

「機嫌を損ねたようだな、英雄王。だが、私としてもこれは不本意ではあるのだがね。アサシンがこのまま無為に倒れてしまえば、次に貴様を相手にするのは、私達という事になる。であるならば、少しでも消耗がある方が勝算につながるとは思わないかね?」

「ほざくな、贋作者風情が……!貴様の頭蓋、一片たりとも残しはせんぞ!!」

 

 ギルガメッシュは、一騎打ちに拘る様なタイプではない。しかし、その実傲慢不遜であり慢心が服着て歩いているような彼は、一度認めた相手であれば全力を持って叩き潰す事もある様な男だ。

 そして、彼の目にアサシンは留まった。

 圧倒的な技量。唯一の武装を振るい、幾百幾千もの宝具の斉射をたった一人で切り抜ける度量。そして、主の為ならば、文字通り死地に向かい、一片たりとも鈍ることなく前進してくること。

 ある種“王に向かってくる”存在としての完成形。相手がいかな身分、力を有していようとも己の主の為に牙を剥く忠誠心。

 仕留める気でもあったギルガメッシュだが、その内心ではアサシンが更なる技を見せてくれるのではと期待している面もあった。事実、アサシンは倒れなかっただろう。倒れるはずが無いのだから。

 そこに水を差された。元より、精神的に自己中の権化のような男だ。相手が、自身の宝物を真似るという事実すらも嗅ぎ取ってしまえば我慢ならない。

 

「――――そこをお退きくださいませ、アーチャー殿」

 

 あと一歩で、ギルガメッシュが噴火する――――その瞬間に静かな声が響いた。

 

「小生の相手にございまする。貴殿らに、手を借りるいわれは――――ありませぬ」

 

 既に満身創痍でありながら、アサシンは己の足でアーチャーよりも前に出た。

 手に持った刀の柄には血が染み込み、吸いきれなかった残りが刃を伝って地面を濡らす。

 

「君は、自殺志願者かあるいは、他人の為に燃え尽きる事を良しとする偽善者なのかね?そんなものを戦場に持ち込んでどうする。無駄なだけだ」

「無駄…………ええ、確かに無駄な事にございましょう――――――――ですが、小生というこの矮小な身を作る礎は、この無駄な事に端を発するのでございまする」

 

 アーチャーの皮肉に、アサシンは振り返らない。

 

「あの方にお仕えし、この身が果てるその瞬間にまで小生はお供する事をお許しいただけました。心残りは、最後の言葉に小生自身が明確な返事を返せなかった事。故に、こうして聖杯戦争に呼んでいただけるマスター殿は、小生にとっては恩人にございまする」

 

 刀を構え、半歩引いて半身を引く。

 

「それだけで、小生にとっては十分、この身、この仮初の命、魂を懸けても報えるかも分からぬ恩に他なりませぬ。故に、小生の戦う理由などそれだけで十分。マスター殿が聖杯を所望するならば、この刃を持って障害を尽く切り倒して御覧に入れまする」

「ッ…………」

 

 アーチャーにとって、その背はあまりにも眩しい。

 夢を追い続け、しかし現実に打ちのめされて、やがては自身が追いかけたモノすらも間違いではなかったのかと思えてしまう程に記憶も摩耗してしまった彼にとって、死んでなおもたった一人を求めて忠義の旗を掲げ続けるその姿を直視できなかった。

 だが、一つハッキリしているのはここから先、第三者が介入して良い状況ではないという事。

 故に、

 

「…………アサシン。君への謝辞だ。一つ君の言う事を聞こうじゃないか」

「では、キャスター殿並びにそのマスターである宗一郎殿の助命を頼みまする」

「即答か。君は、私が嘘を吐くとは思わないのかね?」

「嘘であるならば――――」

 

 そこで言葉を切ったアサシンは首だけで流し見るように振り返る。

 

「――――貴様らの首を刎ね飛ばしてやる。この身が消え去るその瞬間まで、確実に塵殺しだ」

 

 敬語も外れ、純粋過ぎる殺気をぶちまけたドスの利いた言葉は例え英霊であってもその背に冷たいものを走らせるに十分すぎるものであった。

 しかもそれが、セイバーや士郎、凜にも向けられているのだから徹底している。

 

「お待たせいたしました」

「フンッ、貴様一人かアサシン」

「勿論にございまする。貴殿と事を構えたのは、小生のみ。彼らとの同盟関係はございませぬので」

「そうか……面白い、自らの勝ちの芽を摘むか。それもまた、良しとしようではないか。だがな――――」

 

 ギルガメッシュは、目を細める。

 

「貴様、あれほどの殺気を放てるのならば我にも向けてこい。貴様のソレは、武器足りえる。全てをさらけ出して踊れ。我を飽きさせるな」

「…………」

 

 傲岸不遜なギルガメッシュではあるが、アサシンも思う所があったのか黙り込むと次の瞬間には全身から膨大な殺気を放ち始める。

 ただ、殺すことにのみ終始する、彼の最終形態とでも言うべきか。

 

「………っ」

 

 一瞬の間を置いて、アサシンは前へと飛び出した。

 正面から突っ込む、無謀な特攻。案の定、ギルガメシュの宝具が彼へと降り注いでくる。

 だが、

 

「…………!やるではないか、アサシン!」

 

 機嫌良く、ギルガメッシュが叫ぶ。

 何が起きたのか。それは、殺気によるフェイントの応用であった。

 というのも、宝具の斉射が彼の影法師を突き抜けて地面へと突き刺さり、その後から爆風を抜けるようにして本物のアサシンが飛び出してきたのだ。

 殺気と歩法によって気配を誤認させ、結果として相手に幻覚を押し付ける。

 

「この我に幻を見せる殺気。そして、その技量!貴様は、この我が治めるに値する民として認めてやろうではないか!」

「小生の主は、あの方のみ。貴殿の誘いには乗れませぬな!」

 

 死兵と化したアサシンは、この戦闘が始まって最も素早い接近を果たしていた。

 既に屋根の上に足をかけており、直進するのみ。体からは血が溢れ続けていたが、それすらもう流れる気配もない。

 ただ一歩の距離に詰め切れればそれで良いのだ。そうすれば、勝てる。

 その一心でアサシンは歩を進め、宝具を捌き、遂にその足は禁断の一線を乗り越えた。

 魔力が昂る。刀に宿った宿業に従い発動されるは、一撃必殺の対人魔剣。

 

「――――貴殿の首を献上いたす」

 

 両手で柄を握り、脇構えになるとより強く前へと踏み込んだ。

 

「――――【首狩り一文字(絶対先制)】!」

 

 必殺の一撃。因果逆転の槍よりも更に早く、相手の首を刎ね飛ばす事にのみ特化しているこれを防ぐ手立てなどまず、存在しない。

 普通ならば。

 

「――――成る程、それもまた貴様の逸話を昇華した技という事だな、アサシン」

「なっ…………」

 

 止められた。硬質な電光を纏う複数枚の円盤の盾。

 それら全てが真っ二つになり機能停止しているのだが、確かにアサシンの魔剣は止められていたのだ。

 

「我が自動防御用のこいつを発動せねばならぬほどの一撃だ。何より、立った一振りで全てを破壊するそれは実に見事。褒めて遣わす。だが、」

「くっ…………!」

 

 魔剣を止められ、一瞬思考に空白が出来たアサシンであるが、すぐさま再起動し右手で刀を振るう。

 しかし、

 

「――――あっ」

 

 誰が漏らした言葉か、鮮血が舞った。

 黄金の波紋が揺らいでおり、宙を舞うのは銀の月。

 

「貴様に、勝利はあり得んな、アサシンよ」

 

 二つ目の波紋。無防備なアサシンの左肩付近を抉り飛ばす。

 両腕を失ったアサシン。それでも、彼はその首に食らいつかんと大口を開けて前へと踏み出し、

 

「――――――――がほっ……………………」

 

 その胴体、胸部に大きな風穴が空けられる。

 仰向けに倒れていく体。顔が空へと仰け反り、重力に引かれて後方へ。

 最初に着ものが光の粒子となって消え始め、同時に手足が薄くなっていく。

 

(……………ま…………………だ…………)

 

 掠れて光の消えた視界の先に、銀を見た。

 それは真っ直ぐにアサシンへと回転しながら落ちてくる。

 ギルガメッシュの意識は、既に消えかけているアサシンには向けられていない。彼にしてみれば、残るのは気に入らない贋作者と、十年前から執着するセイバー、そしてキャスターと各サーヴァントのマスターのみ。

 取るに足らない相手でしかない。纏めて相手取っても、彼ならば余裕の勝利を収める事が出来る。

 そして、ギルガメッシュは千里眼を使ってはいなかった。更に、彼は生粋の王ではあるが、戦士ではない。故に見逃した。

 

「――――む?何だと!?」

 

 焦った彼の声。異音が耳を掠めたために振り返ったその先に、

 

「ぅううううッッ!!!!」

 

 口で刀の刃を噛んで振りかぶったアサシンの姿がそこにはあった。

 接近は十分、自動防御宝具も先程の一撃で破壊された。王の財宝より、宝具を射出する暇も取り出す暇もない。

 

「――――――――見事だ」

 

 ギルガメッシュは確かに見た。力の差すらも踏み越える、忠誠心。そしてそれを果たすのだという圧倒的なまでの執念を。

 赤が舞う。

 袈裟斬りに切り裂かれたギルガメッシュと、倒れていく彼の先で屋根へと俯せに転がったアサシンの両名。

 

「ゴホッ………………よもや、この我が読み違えるとは……………………」

 

 口から血を吐いたギルガメッシュは目だけで己の先に倒れたアサシンを見る。

 既に、彼は事切れていた。少なくとも、胸の霊核を完全に破壊した時点で彼自身のダメージ許容量を遥かに超えた傷を受けており死んでいた筈であった。

 そんな彼を動かしたのは、彼自身の思いもあったがそれ以上に、キャスターが使った令呪が未だに利いていたというのもある。

 彼女は命じた、この戦いに勝利しろ、と。

 だからこそ、令呪は彼を動かした。たった一つの命令を遂行するために。

 

「………フンッ、業腹だが………………勝ち取ったのは、アサシンだ……………………その、主である貴様にこれを……………くれてやる」

 

 事切れる寸前、ギルガメッシュはキャスターへとある物を送り込んだ。

 それは、

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――では、行ってくる」

「ええ、行ってらっしゃいませ。そ………旦那様。今日は、遅くなりますか?」

「いや、大丈夫だ。お前も身重だ。体を大事にしろ」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 柳洞寺の山門で一組の男女が朝のやり取りをする。

 お腹の大きくなった女性は、愛おしそうに新たな命が宿るそんな場所を撫で、無表情が常であった男性はほんの僅かだけ口角を上げて笑えるようになった。

 新たに宿った命は、男の子。二人は、既にどんな名前にするか決めている。

 

 その名前は――――――――
















長々と拙作にお付き合いいただきありがとうございました。
ええ、まあ無理矢理感は否めませんがお終いです。
生き残ったサーヴァントたちがどうなったかは、皆様のご想像にお任せしますという訳で

次作という訳ではありませんが、もしも書くならばApocryphaかFGOですかね
どちらもセイバーではなく、アサシン枠になるとは思いますけれども

えーでは、長々と続けるのもあれですのでこれにてお終い
読んでくださった方々に感謝を
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