佐久間大学?え、学校ですか? 作:佐久間大学
アサシンにとって、自身を呼び出したマスターというのは、忠誠を尽くす相手でありそれ以上でも以下でもなく与えられた仕事を熟すことによって返していく。
だが、
「――――こんな所かな。僕の安全の為に死んでくれるよね」
ここまでの外道に尽くすというのは、少し眉を顰めるというもの。
彼のマスターである、相良彪馬は見た目だけならば軽薄そうな優男にしか見えない。
少なくとも、初対面で警戒心を抱かせることも少なく、人懐っこい仮面を被って誰かにすり寄る事も得意としている為、より一層得意とする魔術も生かせる。
そんな彼が今やっているのは、暗示をかけた空港職員を誘導し飛行機の安全の為に
既に代償となった職員だったものは、チリと消えておりユグドミレニアの息がかかった者たちにより隠蔽も終えてしまっている。
慣れた手つきだ。少なくとも、霊体化したアサシンにはそう見えた。
かといって、彼が何かを咎める様な進言をすることは無い。手段は違えども多くの命を奪ってきた事には変わりがないからだ。
有名な言葉に『一人殺せば殺人犯、十人殺せば殺人鬼。しかし、百人千人と殺せば英雄』というものがある。
マスターの安全が確保されるならば、とアサシンは目を逸らした。
空の旅は、実に快適。小型機ではあるが、贅の限りを尽くしたかのような内装にはかなりの金がかかっている事が確認でき、一般人ならば座りの悪さを覚える趣味の悪さがあった。
「ねえ、アサシン。君って、どんな願いがあって聖杯戦争に臨んでいるんだい?」
備え付けてあったグラスに、これまた備え付けのワインを注ぎゆっくりと仰ぐ彪馬は虚空へと問いを投げかけた。
単なる暇つぶしだ。既にサーヴァントは呼べた。その時点で彼は、ユグドミレニアにとって無視できない重要人物の一人となる。
元々虐げられる側であった、彼にとってそれは毒にも等しい甘露に他ならない。
悪く言えば、増長していた。
それに気が付かないアサシンではなかったが、主は主。元より、彼の生前の主も調子に乗るときは、乗り過ぎなほどに乗っていたこともあった。
要するに、こちらも悪い意味で調子に乗る主に慣れていたのだ。
不幸なのは、彼の過去の主は調子に乗れるだけの技量と、それら全てをフェイクに裏をかけるだけの強かさ持ち合わせた強者であったという点。
「…………小生に、聖杯にかける願いはありませぬ」
「へえ……それは何でだい?」
「小生の目的は、生前に果たせなかった主への返答にございまする。聖杯戦争に参加できたならば、戦地にて再会する事もございましょう。故に、召喚にも応じている次第にございまする」
「それって、信長の事?因みに、何を言うのさ」
「お答えできかねまする」
「はあ?なんで?」
「あくまでも、小生の個人的な事でございまする故。どうしてもとおっしゃいますならば、令呪を一画頂戴いたしましょう」
「……………………チッ、別に良いよ。そんな事に、令呪使えるわけないだろ」
下がれ、と彪馬は手を振ってアサシンを霊体化させる。
その内心は表情に苦いものを走らせるには、十分すぎるというもの。
正面戦闘も熟せて、尚且つ裏切らないアサシン。そう考えて選んだサーヴァントであるが、一から十まで妄信的ではない。それが知れただけ十分だ、と彼は無理矢理に思考を打ち切った。
対する、アサシンはと言うと霊体化したままジッと現マスターの観察を続ける。
従う事にも、戦う事にも、否は無い。むしろ、戦う事しか能が無いと本人が思っているのだから刃を振るわない事にも問題がある。
ならば、別の問題として。
この主は、アサシンが刃を振るうに足る存在なのか、否か。
端的に言って、相良彪馬は小物だ。少なくとも、アサシンの生前の主と比べれば、天と地、月と鼈程の差がある。
それでも、彼は付き従うだろう。その命令を果たすだけだが。
*
ヨーロッパ南東に位置する国、ルーマニア。
山脈に囲まれた平原、トランシルヴァニア。ブルガリアに接する、ワラキア。モルドバに接する、モルダヴィア。黒海に面する、ドブロジャ。以上四つの地方によって分けられている。
この国に置いて有名な英雄といえば、ヴラド・ツェペシュだろうか。
別な異名としては、串刺し公。もしくは、ドラキュラ公か。
「――――お前が、“黒”最後の一騎かアサシンよ」
「然様にございまする。小生こそが、“黒”のアサシン。人斬り包丁を振るう他には、能の無い男にはございまするが、死力を尽くさせていただきまする」
トランシルヴァニア地方に存在するトゥリファス最古ににして巨大建造物、ミレニア城塞。
あらゆる魔術礼装のみならず、防衛の術が施されておりサーヴァントですら落とすのも一苦労という鉄壁の要塞。
その一室にて、“黒”に属する者達の顔合わせが行われていた。
玉座に座るは、“黒”のランサー。傍らには、彼のマスターでありランサーを
左右一段下がって固めるのが、“黒”のセイバーとそのマスター、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアと、“黒”のアーチャーとそのマスター、フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。
その他、部屋の中に散らばるようにして各々集まっているのだが、等しくその目は“黒”のアサシンと彼のマスターである彪馬の元へと向けられていた。
好意的なものもあれば、興味本位のもの、無関心なもの、見下す様なもの等々様々。
一つ言うなら、アサシンの容姿は奇抜な鎧などに身を包んだサーヴァント含めても一人だけ和装という事で浮いていた。
その一つ、ゴルドは見下すように彪馬とアサシンを見やっていた。
「フンッ、極東の侍とでもいう奴か。相良、お前はジャック・ザ・リッパーを呼ぶのではなかったのか?」
「こっちにも事情があったんですよ、ゴルドさん。それに、アサシンも日本じゃ腕利きの一人さ。知名度補正が無くても十分に活躍してくれるんじゃないかな」
「辺鄙な島国で名を馳せようとも、こちらでは名無しも同然だな。やはり、二流か」
散々な物言いだ。だが、周りが止める様子はない。
一つは、彼自身がこのような人間だと知られているから。
もう一つは、アサシン自身が日本でもマイナーな武将でしかなく、当然ながら外国人が知っている訳が無いからだ。知らなければ、実力が高いといえども口から出まかせにしか聞こえない。
だが、それ以上に彪馬が聞き捨てならないのがゴルドの二流発言。
事実ではある、何せ、ゴルドは魔力パスの分割などの功績を残しておりホムンクルスを大量生産及び、サーヴァントを暴れさせるための魔力タンクとする役目を担っている。
同じマスターであるが、アサシンと三騎士の一角であるセイバーを呼んだ彼では、その点でも重要度が違う。
「…………」
言い返すことは出来ない。ただし、彼のプライドはズタズタだった。
何より、
「…………」
傍らで、端然と佇むアサシンが気に入らない。
彼にしてみれば、ゴルドの口の悪さなど右から左に聞き流している。ランサーからの圧倒的な覇気は、真正面から受けても冷や汗は愚か、内心で焦る事すらあり得ない。
(ほう、単なるアサシンではない、か…………)
ランサーは内心で、アサシンへの評価を上げる。
無論、威圧に怯む様な英霊は彼自身もサーヴァントとして認めようとは思わないのだろうが。その中でも、威圧とも言えるほどの圧力を涼しい顔で受けとめる目の前の、極東の英雄は傑物だと彼は感じていた。
気になるとすれば、彼からは一切の臣下としての気が感じられない点。
この場に置いて、マスターもサーヴァントも等しく彼を“黒”の王として一定の敬意を払って対応していた。
「一つ聞こう、アサシン。汝の主は、余を上回る王であったか?」
故の問い。同時に覇気が彼限定に叩きつけられる。
「…………小生の主は、後にも先にもただ一人。貴殿は、さぞや名のある王にございましょう。しかし、小生の忠誠を誓う事は出来かねまする」
「それは、離反する、という事か?」
「否。この陣営で小生の仮初の命を使い切る所存にございまする。刀を振りましょう、この身を盾といたしましょう、敵陣を駆け抜け大将首を挙げましょう。しかし、貴殿に忠誠は誓えませぬ。その点を平にご容赦いただきたく思いまする」
頭を下げたアサシン。その手は、腰の愛刀に伸びる様子もないがその姿は戦士として一級品の姿勢の正しさだった。
まさしく、忠臣。
「……………………汝の様な者が臣下に居たならば」
ランサーは回顧する。
彼の最後は、臣下であった貴族の反乱、裏切りであったのだから。
「良かろう。汝の願いを聞き届けた。余の信頼、裏切ってくれるなよ」
「御意に」