佐久間大学?え、学校ですか?   作:佐久間大学

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証明

 十四のサーヴァントがぶつかり合う聖杯大戦。

 その規模は、通常の聖杯戦争と比べれば単純計算でも倍となる。呼び出されるサーヴァントの格が上がればそれ以上の被害など容易く叩き出す事だろう。

 

「――――チッ、本当にムカつくなあのオジサン」

 

 その一体を使役している魔術師、相良彪馬は苛立たし気に舌打ちを零すと、質のいいカウチソファに寝転がり頭の下で手を組んだ。

 彼の機嫌が悪いのは、事あるごとに挑発というか嫌味というか、とにもかくにも神経を逆撫でしてくるゴルドに原因があった。

 セイバーのサーヴァントを呼び出した彼は、元の傲慢に更なる拍車がかかってきている。特に、彪馬に対してはマウントを取りたがることが多く、相性は最悪。

 更に気に入らないのが、己のサーヴァントの反応であった。

 

「お前も何か言い返せよ、アサシン。言われっぱなしじゃないか」

「小生の霊格がセイバー殿に劣るのは、事実にございまする故。何よりも、あの方も同じ陣営。味方同士でいがみ合えば敵に背を向ける事になりましょう」

「…………ケッ、仲良しこよし、か。僕はごめんだね。どうせ、この大戦が終わった後も僕らは戦うことになるんだろうし」

 

 だからこそ、お前を選んだんだけど、と彪馬は内心で続ける。

 予兆はあった。彪馬は魔術師としては二流だが、裏工作などの為に潜入などを行う事が多々ある。

 そこで重要なのが、情報を少ない手がかりから正確に読み取る事だ。

 聖杯戦争のマスターは、サーヴァントのステータスなどを見る事が出来る。その上で言うと、三騎士はバランスが良くかなり強いが、その逆でライダーからバーサーカーまでのステータスは特筆するほど高くない。むしろ低いとさえ言えるだろう。何せ、ステータスが平均値程度のアサシンのステータスが高く見えるほどなのだから。

 要は出来レース。最終的に、ダーニックが勝って終わりというシナリオであった筈なのだから。

 彪馬自身は、そこまで読み取れた訳ではない。訳ではないが、これから大戦に赴くには少々不安の残る戦力であることは否めない。

 

「なあ、アサシン。お前は、セイバーに勝てるか?」

「背中の一点を貫けるならば、勝機はございまする」

「背中?」

「セイバー殿は、歩く際に微妙に背中を気にしておられました。あの肉体は、正に鋼。少なくとも、小生の剣では薄皮を斬るのが精々にございましょう。ですが、背中の一点ならば小生の刃も貫けましょう」

「へぇ、お前って相手の弱点が分かるのか?」

「単なる、勘にございまする」

「はあ?勘?」

「小生は斬れるか斬れないかを勘で判断しておりますゆえ」

「……馬鹿らしい。そんな当て推量が当たるわけないだろ。もっと、論理的に話せよな。まあ、いいや。僕は寝る。呼ぶまでどっか行ってくれ」

 

 散々な物言いの末、彪馬は目を閉じた。

 すぐさま寝息を立て始めた為、暗示の魔術で眠りを早めたのだろう。

 アサシンは、眠った主を確認すると一礼して霊体化し、部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミレニア城塞内部は、かなり広々とした造りだ。それぞれ魔術師が与えられた部屋は工房と化しており、サーヴァントにもまたそれぞれに部屋を与えられている。

 もっとも、与えられた部屋を使わないサーヴァントも居るにはいる。

 その一人であるアサシンは、霊体化したまま城塞の内部を徘徊していた。気配遮断も合わせれば、彼が何処に居るのかは基本的に分からない。

 とはいえ、彼自身に暗殺の逸話は無い。スパイ行為が元となっている為、どちらかと言うと諜報に近いかもしれないのだ。斬りかかる瞬間どころか、手を出すだけでも気配遮断は解けてしまう。

 もっとも、今回はそんな事をする必要が無いためただ歩いているだけだが。

 

「――――おや、アサシン。こんな夜更けに散歩ですか?」

「アーチャー殿にございますか。ええ、その通り。マスター殿より暇を頂きましたゆえ」

「私もだよ。フィオレは休んでしまいましたからね。こうして城内を巡っていたという訳です」

 

 B+という千里眼スキルを持つ“黒”アーチャーは至極あっさりと、アサシンの気配遮断を見破り声をかけてきた。

 元より、彼は高い神性を有している。英霊の身に格を落とそうとも神秘の薄いアサシンよりは、格上の存在である為致し方なし。

 微妙な溝が感じられるのは、少し前の顔合わせの折にライダーが提案した自己紹介を彪馬が蹴ってしまった為。

 

「少し、歩きましょうか。極東の英霊。それも時代が違うとなれば、私も聞きたい話が幾つかありますし」

「構いませぬ…………が、その前に」

 

 アサシンは言葉を切ると振り返った。

 その先、廊下の突き当りの角よりピンク色の毛と、ひらりと揺れる白マントが覗いていた。

 

「ライダー殿。盗み聞きなどせずと、こちらにいらして構いませぬよ」

「……あ、あはは…………別に盗み聞きするつもりは無かったんだけどね。ついつい声が聞こえて隠れちゃってたよ。ごめんね?」

 

 現れるは、“黒”のライダー。少女の様な格好だが、れっきとした騎士であり男の娘である。

 

「それにしても、アサシンにケイローンもここで何してるのさ。空には星が出てる時間だよ?」

「小生は、夜の散歩と洒落込んだまでにございまする」

「私も同じく、散歩ですよ。ライダー、君は?」

「ボクはたんけ……じゃなくて、城塞内の探索だよ。ほら、始めてきた場所だし色々と確認しておかないと道に迷うかもしれないしさ!」

「それで?何か発見が?」

「そうだね。例えば、ランサーが刺繍してたとか?あ、バーサーカーが花の輪を作ってマスターに上げてたところも見たよ!いいよね、花の冠!ボクも欲しくなっちゃうよ!」

「ふむ、ランサー殿は刺繍がご趣味、と…………何とも、生産的な趣味で羨ましい事ですな」

「けど、眉間に皺が寄っちゃってるから見てみると、少し怖いけどね。あ、そういえば。アサシンは、何か趣味があったりするのかな?あの時には聞けなかったし」

「小生の趣味、にございまするか?」

 

 天真爛漫なライダーに、アサシンは返答に詰まったようにして顎に手を当て考え込んでしまう。

 そもそも、生前から何かにつけて鍛練、鍛練の日々。

 運よく、その全てが実を結ぶだけの才能を持っていた彼なのだが、万能であるがゆえに特定の趣味というものを持ち合わせてはいなかった。

 強いて挙げれば、

 

「…………鍛練、でしょうな。暇があるならば、生前は常に武技を高めるばかりにございましたゆえ」

「た、鍛練…………アサシンって真面目なんだね。話し方も変わってるし」

「そう、でございましょうか?」

「気にする事はありませんよ、アサシン。それも、君の個性である事には変わりが無いのですから」

 

 アーチャーの子供を見るような目に、アサシンは頭を掻き所在無さげに視線を泳がせた。

 生前より頼られる事の方が圧倒的に多かった彼にしてみれば、諭される側というのは幼少期以来の事であったから。

 因みに一番頼られていた事柄は、主の奇行と暴走を止める事と後輩の忠犬バーサーカーを鎮める事、ついでに相方であった同僚のバーサーカーの追従であったりする。

 控えめに言って、地獄。

 

  和やかな、三騎の会話。

 しかし、大戦の足音は直ぐ側にまで近づいてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――やはり、強い。キャスター殿の魔術が効果を為しておりませんな」

 

 三騎が対談した翌日の夜。ミレニア城塞南方の一角にて、敵サーヴァントの襲撃が起きていたのだ。

 襲撃者は“赤”のセイバー。赤雷を纏い、今も迎撃用のゴーレムやホムンクルス相手に蹂躙劇を披露していた。

 白銀に赤の差した全身甲冑。フルフェイスの兜まで被り素顔も伺う事が出来ず、ステータスなどに関しても一部隠蔽が施され何処の英霊なのかは分からない。

 そんな相手を遠方から眺めるアサシンであるのだが、彼の仕事は威力偵察だった。

 発端は、アサシン本人が英霊としてどの程度戦えるのかを測る為、ランサーが提案し、その提案に彪馬が乗ってしまった事にある。

 本来ならば、アサシンのサーヴァントに正面戦闘を強いる等愚の骨頂と言わざるを得ない。

 しかし、アサシン本人はと言うと周りの言葉など意に介す事無く、一つ返事で了承していた。

 当然だ。彼は、元より暗殺などよりも正面戦闘が得意な英霊。

 最初の一撃こそ、気配遮断を利用してかますかもしれないが相手がセイバーならば見切られる可能性も高い。

 

『アサシン、聞こえてる?』

「良好にございまする」

『んじゃ、さっさとセイバーに当たって来てくれよ。あ、宝具は使うなよ』

「御意」

 

 それだけ。念話は途切れ、アサシンの意識が前を向く。

 

「――――まずは、手並みを拝見」

 

 腰の刀に左手をかけて、鯉口を斬る。

 殺気は、発さない。気配遮断を発動したままに、A評価を得る敏捷を用いて街を駆け抜ける。

 取るのは、セイバーの頭上数十メートル。羽織が大きくはためき、落下による加速によって後頭部で括った髪が蛇の様に空に揺れた。

 頭から落下するように天地逆転し、右手は刀の柄へ。

 

「――――ッ!マスター!!」

 

 距離にして数メートル。そのタイミングで、セイバーは近くに居た強面のマスターを突き飛ばし、反射的にその手に握る白銀の剣を持って防御の構え。

 直後、火花が散り甲高い金属音が鳴り響いた。

 

「てめぇ…………!」

「…………」

 

 ギチギチと噛み合う耳に障る金属音をBGMに、セイバーは仮面の下で頭上からの襲撃者を睨む。

 数秒の鍔迫り合いは、魔力放出と単純な筋力数値で優っているセイバーの勝利で幕を閉じる。

 弾かれたアサシンは、空中で一回転し危うげなく着地。右手に刀を持ち無構えを持って、セイバーと相対する。

 

「侍、か?」

 

 サングラスの下、呻くように呟き目を細めて獅子劫界離は目の前のアサシンをそう呼んだ。

 

「てことは、セイバーか?」

「おいおい、マスター。あの男がセイバーに見えるってのか?」

「見えねぇな。とすると、アサシンか。さっきのが気配遮断からの不意打ちなら、奴は何でお前を狙った?」

「知るかよ。それよりも、アイツもやる気らしい。下がってな、マスター」

 

 セイバーは剣を構え、アサシンと相対する。サーヴァントの敵は、同じサーヴァントだけだ。

 

「“赤”のセイバーだ。名乗りぐらいは聞いてやろうじゃねぇか」

「…………“黒”のアサシンにございまする」

「やっぱり、アサシンか。暗殺者風情が、このオレに正面から挑んで勝てるとでも思ってるのか?」

「生憎と、小生は勝算があって戦った事など一度もありませぬ故。これは単なる――――証明にございまする」

「…………ハッ、まあ良い。ぶっ殺してやるよ、アサシン!!!!」

 

 聖杯大戦第一戦。

 セイバーVSアサシンという異色の対決が始まる。
















書きたかった所に漸く手が届きました
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