佐久間大学?え、学校ですか? 作:佐久間大学
夜闇一色の世界に、火花が何度となく散り、石畳へと降り注ぐ。
ぶつかり合うのは、二騎のサーヴァント。
一人は夜闇にも紛れる黒い紋付袴姿で刀を振るう極東の英霊である、“黒”のアサシン。
対するは、最優のサーヴァントであり白銀の鎧をまとった、“赤”のセイバー
本来ならば、正面からぶつかり合う事などありえない組み合わせであり、少なくともその場に留まって斬り合えるような者達ではない。
理由としては単純で、セイバーが万能であるがどちらかと言うと白兵戦寄りのサーヴァントであるのに対して、アサシンはマスターの天敵といわれる程に不意打ち騙し討ちを得意としており、搦め手が基本で直接戦闘能力は劣る者が多い。
しかし、
「――――てめぇ…………!」
「…………」
状況は拮抗していた。
セイバーの剣は、騎士としての基本を残しながらも荒々しく戦場を生き抜く狂戦士の様な獰猛さが垣間見える。正に、戦場を生き抜く剣だ。魔力放出も相俟って、実に花がある。
それに対して、アサシンの刀は只管に頑丈なだけ。ビームも出なければ、炎や氷、雷を発する事も無い、少し人外に対して強く出れるだけの刀だ。肉体からも魔力放出など出来るはずもないし、人外の血が流れている訳でも、況してや龍の心臓など持ち合わせていない。
でありながら、拮抗している。
どれだけセイバーが雷を猛らせようとも、人間の挙動を超えた動きをしようとも、アサシンは正面からそれら一切合切を受け流してしまう。
途中で蹴りなどが混じったりもしているというのに、彼は刀の刃だけでなく柄頭や鍔も使って全てを捌く。
その表情は、完璧な無だった。
必死さも、焦燥も、浮かべる事無く。余裕そうにも、必死そうにも見える顔。
それが、セイバーは気に入らない。自身の剣には絶対の自信があるのだ。
その剣が、暗殺者風情に掠り傷の一つも付ける事が出来ない。それどころか、余裕を持って流されている気配すらある。
「――――ふっざけんなッ!!!」
「む」
一際強く雷光が走り、振り下ろされた刃が加速する。
怒りの籠った一撃は、しかし甲高い金属音と共にアサシンではなく石畳を割っていた。
炸裂する魔力の奔流。逆らうことなく、黒衣の彼は後方へと跳んで一回転し石畳へと降り立ち、下段の構え。
「てめぇ、本当にアサシンか?このオレの剣をここまで止められる奴は、そうは居ない筈なんだが?」
「…………さて、小生には答える言葉がありませぬな。小生は、アサシンのサーヴァント。それ以上でも以下でもなく、ただ主の敵を斬り伏せるのみでありますれば」
「主、ね。アサシンをセイバーにけしかけるとか、随分と個性的な主じゃねぇか」
「どうとでも、申されるが宜しい。貴殿が小生を打倒できず、こうして小生が生存しているのです。故に采配違いとも言えぬのではありませぬか?」
「…………ハッ、言うじゃねぇか」
言葉と共に、セイバーは飛び出す。
放たれるは、斬撃――――――――ではなく前蹴り。魔力放出と当人の脚力を合わせた一撃は、巨岩すらも粉々に粉砕する事だろう。
「――――」
蹴りに対して、アサシンは刀を空へと手放していた。
右足で放たれた前蹴りを最小限の動きで躱し、完全に蹴り足が伸び切ったところで足首の後ろに手を回し上へと押し上げる。
「なっ!?」
蹴りの勢いのベクトルが、そのまま空へと向けられセイバーの体は背後へと倒れて顔が空を向く。
そこをアサシンは、仮面越しに鷲掴みするとそのまま勢いよく石畳へと叩きつけていた。
合気。柔術の奥義にも該当する、相手の力を相手に返し、そこに己の力を加える事で強烈なカウンターにする技だが、彼はこれを組討として体得していた。
組討とは、相手を組み伏せて首を取る技なのだが本来は一騎打ちに際して用いられたもので、足軽などが出現した戦国時代には廃れてしまった技術とされている。
首を取る技術だ。当然ながら、叩きつけてそれでお終いとはいかない。
上に放っていた刀は縦に回転しながら、ピタリと持ち上げられた彼の右手に収まっていた。
ただ、淡々とその首を刎ね飛ばす。
「――――ッ、舐めんじゃねぇ!!!」
刃が振るわれる直前、爆発が起きる。
その下は、セイバー。その上で刀を振りかぶっていたアサシンは、衝撃をいち早く察知してその場を跳びあがっていたのだが、彼の予想以上に破壊力があったのか想定以上に吹き飛ばされていた。
再び二人の距離が開く。だが、戦局は明らかにアサシン優勢だ。少なくとも、このままならば白兵戦で彼に軍配が挙がるのは時間の問題。
しかし、それで納得できるほどセイバーの気性は緩くない。
「てめぇ、手抜きかアサシン!?さっきの一撃も、オレを殺せただろうが!」
「…………」
「だんまりか?その面、気に入らねえなァ…………!」
怒りと憎しみ。負の感情の中でも取り分け強い二つの感情が、魔力となって雷へと変換されて宝具でもある剣へと絡みついていく。
宝具の開帳。それ程までに、アサシンの対応はセイバーの逆鱗に触れ、怒りの火に油を注いでいた。
だが、それをやってしまえば真名がバレる事にも繋がるという訳で。
「そこまでだ、セイバー」
セイバーの背後から、何発かショットガンより“弾”が飛び、アサシンはそれらを斬り払う。
「止めるなよ、マスター」
「止めるだろ、セイバー。こっちは、相手拠点の一部を削れたんだ。お前の宝具見せちまえば、相手に殆どただで情報をくれてやることになる」
「アサシンを消し飛ばせば、良いだろ」
「消し飛ばせるのか?相手は、刀一本で幾つもの戦場を渡り歩いてきた奴だぞ?」
「はあ?そんなのオレも――――」
「いいや、違う。少なくとも、日本の武士って言うのは違う」
断言する口調の獅子劫に、セイバーは猛らせた魔力を一旦沈めてマスターを横目に見る。
仮面越しであるが、彼は続きを促していると悟ったらしく口を開く。
「奴らには、神秘が薄い側面がある。分かるか?生前のお前らみたいな、魔力に物を言わせた蹂躙なんて出来なかったんだ。だが、そんな中にも一騎当千の猛者が居る。奴らは、自分の技術で、研鑽でその高みにまで上がってきた生粋のたたき上げだ。あの
「…………で?」
「宝具は却下だ。奴は俺たちに付き合う理由が無い。撃つ直前に逃げられるのがオチだろうな」
「………………………………………………………………チッ」
長い葛藤の末、セイバーは剣を収めた。
聖杯大戦は始まったばかり。そんな序盤で真名がバレてしまえば、後の戦闘にも支障をきたすことになるのは明らかであるから。
だが、その内心の収まりがついたわけではない。現に仮面の下から、鋭くアサシンを睨みつけていたからだ。
「お前も、それで良いだろ。そもそも、
「…………」
返答は、収められた刀。気配が薄れ、その姿も夜闇の中へと溶けて消えていった。
聖杯大戦第一戦
アサシンVSセイバー ドロー