佐久間大学?え、学校ですか?   作:佐久間大学

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助勢

 アサシンが実力を示したその日。マスターである彪馬の機嫌は、すこぶる良かった。

 特にゴルドの苦虫でも噛み潰したかのような表情などは、格別で他のサーヴァントたちも口々にアサシンの技量の高さを褒めていたのだから、その喜びもひとしおだ。

 しかし、気付いているのだろうか。これはあくまでもアサシンの評価であって、彪馬自身の評価には程遠い評価であるという事を。

 彼は未だにアサシンのマスターであるという以外には、辛うじて情報収集に向いている二流魔術師という結果しか持ち合わせてはいない。それ以上ではなく、場合によってはそれ以下へと評価を落とす様なそんな存在なのだ。

 だが、今も酒を煽ってアルコールに酔っている彼に、その部分に気づく脳味噌は無い。

 

「お~い、アサシンー……このワインをもう一本取って来てくれよー」

「…………ダーニック殿が招集をかけたようにございまするが、宜しいのでしょうか?」

「あー………確か、おっさんがルーラーを引き入れろって言われた奴だっけ?」

「然様にございまする」

「良いじゃん、別に。僕は、仕事は熟したんだ。休んでても良いじゃないか」

「…………」

「ほら、ワインを持ってきてよ」

「御意に」

 

 一礼し、部屋を後にするアサシンを見送り、彪馬は思考する。

 酒で鈍った頭だが、自身のサーヴァントは想定以上の強さだったことは確かだ。それこそ、三騎士クラスにも正面から戦えるのでは、と彼に思わせる程度には強かった。

 であるならば、夢想するのはその後の事。即ち、聖杯大戦が終わった後の話。

 ユグドミレニアでは、本来ならば身内での聖杯戦争に留め、ダーニックが勝つという出来レースを想定していた。

 ゆえに、“黒”のランサーは、ここルーマニアにおける大英雄であるし、本来ならば他クラスのサーヴァントは二流から三流のモノが呼ばれるはずであった。

 結果的に、三騎士は化物揃いとなってしまったのだが、残る四騎士は若干ながらも頼りない。少なくとも、一つの指標であるステータスは軒並み低めだ。

 そんな中で引けた技量最強のサーヴァント。二流魔術師の野望も膨らんでくるというものだ。

 

(多分、ライダー、キャスター、バーサーカーには負けない。セイバーも殺し方が分かってるみたいだし、問題はランサーとアーチャーか。確か、アーチャーはヒュドラの毒が付いた鏃から召喚されたならケイローンか。そして、ダーニックが呼んだのはこのルーマニアの王、ヴラド三世。ケイローンはともかく、ヴラド三世には武術的な逸話なんてあったっけ?)

 

 大海に揺れる小舟の様な思考ではあったが、そこまで考えたところで彪馬の意識はぷっつりと切れてしまった。

 僅かに、ワインの残ったグラスが床に落ちて毛並みの良いカーペットに染みを作るが彼は気が付く様子も無く夢の世界へ。

 その後、ワイン片手に戻ってきたアサシンはソファに眠るマスターに若干眉を顰めて、毛布を彼の上にかけ、部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーヴァントとマスターの関係性というのは、主従というには複雑な要素が絡み合っている。

 そもそも、“根源”という一種の到達点へと至ることを至上として、その為ならば他の一切合切をかなぐり捨てる事も厭わないのが魔術師だ。

 それが例え、他人の、家族の、恋人の、友人の命であろうとも必要ならば斬り捨てる。

 対して、サーヴァントは過去の英雄だ。

 モノにもよるが、彼らは一定の矜持を持って聖杯戦争へと臨んでいるし、基本的には非道を受け入れる事は無い。それこそ、無関係な人々が巻き込まれる事を良しとする者はそう多くは無いだろう。

 要するに、価値観が違い過ぎるのだ。時代やら何やらの前に、形成された人格的にも生粋の魔術師と英雄の思想は反りが合わない。

 だからこその、令呪と聖杯の願望機としての効能だろう。まあ、完璧ではないが。

 

「――――ライダー。小生の部屋は逢引の為に存在するわけではありませぬぞ」

「まあまあ、そう言わないで。他に行く当てもなかったし……あ、いやあったかな?まあ、良いや!アサシンも部屋は使ってないんでしょ?少しの間でいいんだ、匿ってくれないかい?」

「…………はぁ」

 

 マスターが酔い潰れたことを確認し、少し時間を潰したアサシンが部屋に戻ると既に先客が居た。

 元よりサーヴァントは、睡眠なども必要ないため座禅でも組んで時間を潰そうと考えていた彼だが、その予定も先客によって流れ、頭を抱える事となった。

 

「せめて、理由をお聞かせ願いたい。何ゆえ、貴殿は人造人間をこちらに?戦闘型ではない様に見えまするが」

「廊下でぐったりしてたから、拾って来たんだよ」

「犬猫ではないのですから、人間を拾わないでいただきたい」

 

 破天荒というか天衣無縫というか、自由な人種には慣れているとはいえ相手にするのが疲れないという事にはならない。

 嫌いではないのだが。

 アサシンは、自身のベッドを占拠するホムンクルスへと目を向けた。

 

「…………随分と、細い。この体では、歩くことすらも儘ならぬのでは?」

「えっと?」

「廊下で倒れていた、と申されましたな。恐らくは、生まれたばかりで歩いたことすらなかったのでは?この体つきでは、己の体を支える事すら難しい」

「ふぇ~、まるでアサシンはお医者様みたいだね。君って、医療の知識もあったの?」

「いいえ。体つきなどで判断したまでにございまする。外傷の治療ならば未だしも、体内は…………何より、小生には魔術の知識がありませぬ故」

「魔術……うーん、それってやっぱりマスターに頼らないと駄目だよね?」

「そうとも限りませぬな。魔術が得意な方ならば、キャスター殿等でも診断などは可能かと思われまするが」

「キャスターは駄目だね。彼、この子をバラバラにしちゃうだろうし。うーん…………あ、そうだ!医療の知識とか、とにかく頭が良ければ良いんだよね?」

「そう、なのでしょうか?ま、まあ、知識が幅広い方ならば――――」

「ちょっと待ってて!」

 

 珍しくも若干どもったアサシンを無視し、ライダーは部屋を飛び出していった。

 正に、嵐の様な気性だ。周囲を巻き込み振り回すパワフルさというのは、付き合っていて疲れるというもの。

 もっとも、その疲労に関しても彼は既に経験済み。むしろ、懐かしさを覚える様なものであったが。

 

「――――ッ…………?」

「目が覚めもうしたか」

「ッ!?」

「そう、怯える事などありませぬよ。小生に、貴殿を害する気など毛頭ございませぬ故。ただ、この部屋を出る事は勧めませぬ。貴殿の体は、しばらくの休養が必要にございまする故」

「………あ、なたは…………」

「小生は“黒”のアサシン。訳あって、貴殿に床を貸している者にございますれば」

 

 

 

 

 

 

 

 

 暴威が駆ける。

 ただ、己の思考が決めたことを遂行するためだけに、体は前へと進み、思考は一切巡らない。

 ただただ、前へ。己の敵を、自身の手で討ち果たすために。あるいは、己そのものが討ち果たされるまで、その進撃は易々と止まる事は無い。

 

「フハハハハハッ!!!!さあ、圧制者よ!この私を蹂躙して見せろ!この身に刃を突き立てろ!槍を向けろ!弓矢を射掛けろ!私の愛を向けてやろうではないか!」

 

 聖杯大戦第三戦。それは目前にまで迫っていた。

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