佐久間大学?え、学校ですか?   作:佐久間大学

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開戦

 個人の戦いである聖杯戦争に対して、聖杯大戦は総力戦。

 構図としては、“赤”が侵略側で“黒”が防衛側となるか。

 どちらも狙いは大聖杯。その手に収めれば、その時点で勝敗が決してしまうとも言えるが願いを叶え聖杯の魔力が消失するまではまだわからない。

 

「これは、何とも…………」

 

 アサシンの見据える先。“黒”の陣営が想定したルートのどれも該当しない空からの進攻。

 空中要塞(・・・・)。少なくとも、アサシンの宝具との相性は最悪と言う外ない。

 もっとも、そんな事で二の足を踏むならば英霊になど成ってはいない者揃いであるのだが。

 特に、ランサーの気合はかなりのものだ。彼にしてみれば、生涯をかけて抗い続けた侵略者が、今また目の前に現れた形なのだから当然と言えば当然か。

 数の上では、“黒”が勝っている。しかし、質という点では劣ることは確か。

 セイバーが脱落し、近距離戦闘を高レベルで行えるのは実質アサシンのみ。一応、アーチャーも無手の戦闘法は修めているが、そもそも彼は弓兵だ。あくまでも遠方からの狙撃が基本であり、態々相手の土俵に上がるような愚を犯す必要はない。

 そして、ランサーは王であっても戦士ではない。武技こそ一流に近かろうとも、究極の一には程遠い。

 そもそも、彼は宝具となりえる様な槍を有しているわけでも、技を体得しているわけでもない。しかし、ランサーとして呼ばれるのは、彼のサーヴァントとして呼び出されるクラスにおいてその地がルーマニアであるならば相応しいものであるから。

 

「――――さあ、我が国土を踏み荒らす蛮族たちよ!懲罰の時だ!慈悲と憤怒は灼熱の杭となり、貴様たちを刺し貫く!」

 

 王として、大国を相手に奮戦し続けそして紡がれた逸話の顕現。

 

「そしてこの杭の群れに限度は無く、真実無限であると絶望し――――己の血で喉を潤すがいい!」

 

 猛る魔力が荒れ狂い、地鳴りが響く。

 

「――――【極刑王(カズィクル・ベイ)】!」

 

 変化は、空中庭園より吐き出された竜牙兵。その足元であった。

 幾百、幾千、幾万と数える事すらも馬鹿らしく思えるほどの、大量の杭の森。それらすべてが地面より無数に突き上がり、等しく青い骨格を貫き砕いていく。

 効果範囲一キロ。最大同時出現数二万本。彼の領土に侵攻してきた侵略者たちは物言わぬ屍と成り果て、同時に他の侵略者たちへと見せしめとして未来を叩きつけてくる。

 開戦の引き金はこうして引かれた。

 それぞれが、それぞれの敵を討ち果たす為に地を駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 “赤”の陣営は粒ぞろいだが、その中でも飛びぬけた武威を誇るのがライダー並びにランサーの二人だろう。

 このうち、前者は生前にも関わりの深かった“黒”のアーチャーが相手取っている。元より相手方もそのつもりであったらしくこの戦闘はすんなり決まった。

 であるならば、残りのランサーをどうするのか。

 相手できるとすれば、同じく大英雄としてこの地(ルーマニア)での知名度トップクラスのランサーか、あるいは、

 

「――――お前が、オレの前に立つかアサシン」

「然り。小生の役割は露払い、そして足止めにございます故。ランサー殿が“赤”のアーチャー殿を潰すまで、しばしの間興じていただきたく」

 

 杭の森に囲まれた半径数十メートル以上の即席闘技場。

 向かい合うのは、黄金の鎧と漆黒の羽織。

 “赤”のアーチャー、並びにランサーからの襲撃に対して、“黒”のランサーは杭を無数に展開することで分断するという手段に出た。

 その過程で、“赤”のランサーには杭が刺さらないことを確認し、先に倒せるであろうアーチャーを隔離し、アサシンにランサーの足止めを任せた次第。

 英霊の格ならば話にもならない。それでもアサシンは、目の前の敵をあわよくば打ち取らねばならないのだ。

 

「言葉は、不要にございましょう。小生らは所詮は、武によって示すしかない粗忽物であります故に」

 

 アサシンは、腰を落とすと鯉口を切った。ランサーもまた余計な口を開くことなく黄金の槍を構える。

 両者の間に流れる一陣の風。

 ビリビリとした緊張感が、まるで空間に電流でも流したかのように漂っており仮に同じ空間に一般人が居たならば一秒も持たずに気絶している事だろう。

 周囲の景色が消え、耳が戦場の喧騒を排除し、互いが互いにしか見えないまでの集中へと至り――――

 

「「ッ!」」

 

 両者同時に飛び出した。

 敏捷の値は、どちらもA。数値上で見れば、互角であり同時に踏み出したならばぶつかり合うのは二人の丁度中間付近。

 ランサー選択は、突き。人間が扱うには、大きすぎ同時に重すぎる黄金の槍を用いて放たれるのは、七十を超える神速と称する速度と、針の穴を穿つような精密さを持ち合わせた槍の極致とも言うべき攻め。

 その全てが、敵対者の急所を穿たんと襲い掛かる。

 対するアサシン。彼の前には、斬撃の壁が編まれていた。

 彼は、一合を居合で合わせた時点で膂力において自分が敵対しているランサーに劣る事を理解していた。だが、それで終わってしまっていれば、そもそも彼はここまで生き残ってはいない。

 “赤”のセイバー戦と同じこと。一撃で足りなければ、二撃、三撃と重ねればいいのだ。

 神速の居合。幸いなことに、アサシンの刀は宝具でありその強みは“不壊”。どれだけ相手の宝具の格が高かろうとも、言うなれば“(終わり)”のない代物だ。

 一突きに対して、平均3~4の斬撃が逸らす為に襲い掛かる。

 傍から見れば、横から降り注ぐ突きの雨の真っ只中にありながら、周囲に赤い火花を走らせて留まり続ける黒がそこにある状況。

 正に、究極の一のぶつかり合い。ワールドクラスの技量は伊達ではない。

  

「――――フッ」

 

 黄金の槍が翻る。一際鋭く放たれた一撃は、アサシンの顔面を穿つべく穂先が牙を剥く。

 

「――――ッ」

 

 居合は終わり。一瞬で正眼に構えたアサシンは、右斜め下へと潜り込みながら突きを躱すと同時に擦れ違いざまランサーの胴薙ぎを狙った。

 だが、手ごたえは硬質なもの。まるで、鋼でも斬りつけたような手ごたえをアサシンに覚えさせるだけ。

 互い違いにすれ違う。

 次に仕掛けたのは、ランサー。すぐさま向き直ると、消えたと錯覚するような速度で正面からアサシンへと向かっていったのだ。

 放たれるのは、やはり突き。空気の壁を突き破り、その一撃はAランクの宝具にも匹敵するほど。

 突き技は、本来隙を晒す事にもなりかねないため。突きのイメージが強い槍であっても専ら遠心力を乗せる事が可能な薙ぎや振り落としが基本でありアサシンもまたカウンター狙いをするところ――――なのだが、相手の技量が高すぎた。

 叩き落とすことは叶わず、辛うじて逸らして柄頭の殴打を狙うに留まるレベル。

 しかも、その一撃もダメージは見受けられず、ただ鋼を打ったような衝撃だけがアサシンに返ってきただけであった。

 

「…………随分と頑丈な体をお持ちの様で」

「オレの体には、黄金の鎧が纏ってあるからな」

「成る程」

 

 短い会話。それだけ交わして二人は距離をとった。

 決定打の無いアサシンが仕切り直しを求めるのは、当然だ。だがそれは、ランサーにも言える事ではあった。

 というのも、それこそ気のせいと言われれば、それまででしかないほどに僅かなものだが二人の技量には差があったのだ。

 明暗を分けたのは、両者の防御力。

 宝具である【日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ・クンダーラ)】によって、概念、物理問わずにダメージが軽減されるランサーと、一撃食らえば間違いなく再起不能のアサシン。

 気の張り方と、防御そして反撃に関する意識の違いが今回の明暗を分けていた。

 故に、事態は動く。

 

「――――認めよう、アサシン。お前は、オレが出会ってきた戦士の中でも間違いなく随一の技量の持ち主であると」

 

 ランサーの魔力が高まった。同時に、その全身から膨大な魔力が太陽の爆発の様な炎として放出される。

 

「故に、オレは、今この場で出せる全力。その全てを出し切ろう」

「…………それは、何とも光栄なことにございまする」

 

 最早極光を放つのではないかと見まがうほどのランサーに対して、アサシンは心を深く沈めていた。

 深く、深く。太陽の光も届かない、深海の様な漆黒の世界。

 

「――――」

 

 言葉は紡がず、閉じた目を開ける。

 それは、魔力ではない。アサシンにそのようなスキルなど存在しないから。

 解放したのは――――――――純粋な殺意。敵を殺す一点に固定された漆黒の衝動とも言うべきもの。

 

「それがお前の、本気か」

「さて、小生自身。小生の底など知りませぬよ。ただ、貴殿とは本気で戦うべきだと思った、それだけにございます故」

 

 紅蓮と純黒。太陽と殺意がぶつかり合う。

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