佐久間大学?え、学校ですか?   作:佐久間大学

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終結

 “赤”のライダーと“黒”のアーチャーの戦いは前者へと軍配が挙がった。

 だが、その代償は決して小さくは無い。

 最大の弱点である踵を撃たれ、宝具は二つ使用不能。五つの宝具の内、二つが封じられ一つは“黒”のライダーへとアーチャーとの盟約により譲渡。実質、残った宝具は二つのみ。

 英雄としての矜持にこだわる彼にとって、今この状況は実に退屈。かといって、態々生かした“黒”のライダーを追いかけてまで仕留めるのは、気分が悪い。

 だが、運命の女神はどうやら彼に微笑んだらしい。

 風を切る音が彼の耳を掠める。

 粉砕される外延部。そこはちょうど、ライダーが立っていた近くであり何かがすさまじい勢いで降ってきたのだ。

 そして、その魔力は彼の求める敵の物に他ならない。

 

「ぐぅ………ゴホッ!………どうやら、落ちずに済んだようですな」

 

 瓦礫を掻き分けて姿を見せるのは常に羽織っていた黒い羽織を脱いだ姿の“黒”のアサシン。

 その頬には引き攣れを起こした跡が残っており、口の端には黒い汚れの後が目立つ。

 割と満身創痍なのだが、それでも倒れないのは精神が肉体を凌駕しているからだろう。逆に、その糸が切れればまず間違いなく彼はその場で力尽きていた。

 彼がここにいるのは、“赤”のアサシンが放った間際の一撃のせいだ。

 元々、毒に蝕まれてガタのきていた体は一瞬も耐えることが出来ずその場にいた獅子劫を押し退けてその場から逃がすのが精々だった。

 それでもまさか、中央辺りから外延部にまで吹き飛ばされるのは彼も予想外。落ちなかっただけマシというものだが、戦線復帰は難しいだろう。

 何より、

 

「よお」

「………“赤”のライダー殿」

 

 目の前の最速の英雄がこんなチャンスを逃すはずもない。

 

「このまま不完全燃焼で終わるかとも思ったが…………どうやら俺は、運がいいらしい」

「……であるならば、小生は運がありませぬな」

 

 そんな言葉を交わして、どちらからともなく構えをとる。

 満身創痍?宝具使用不可?そんな事は関係ない。そもそも聖杯戦争など、名前ほど高尚なものではないのだから。

 

「この大戦もこれが最後の戦いになるだろう。どうだ、アサシン。ここは名乗りを上げようじゃねぇか」

「お好きにどうぞ。小生は、構いませぬよ」

 

 ひゅるり、と一陣の風が両者の間を駆け抜けた。

 

「“赤”のライダー、真名アキレウス」

「“黒”のアサシン、真名佐久間盛重」

「いざ」

「尋常に」

「「勝負ッ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弱点である踵を撃ち抜かれたライダーの機動力は、七割削がれている。

 だがそれでも、元々最速の英雄と呼ばれるだけはありその機動力は並み居るサーヴァントでは目で追う事すらも難しいだろう。

 

「セイッ!」

「ッ!」

 

 まるで、空中で花開くようにして弾ける無数の火花。

 その武勇はかのヘラクレスにも勝るとも劣らないとされるライダーと、ほぼ無名も同然であるアサシン。

 ギリシャと日本という、ある意味では聖杯戦争らしい二騎の戦いは、一定の均衡を保って平行線の一途を辿ろうとしていた。

 文字通り王道で相手を踏みつぶさんとするライダーに対して、体のダメージが深刻すぎるアサシンは流水の動きを以って対応していく。

 さながらそれは陽炎のよう。目の前に確かに存在しているはずでありながら、触れることが出来ない。

 だがそれは、裏を返せば真面に受けることも出来ないほどに、アサシンが追いつめられている事にも繋がる。

 とはいえ、このまま斬り合いが続いても千日手。時間切れになる公算の方が高い。そして、ライダーはそんな決着を望むことはしなかった。

 一際強く、槍と刀がぶつかり合い距離が空く。

 瞬間響くのは、甲高い指笛だ。

 現れるのは二頭立てとなった戦車。

 

「俺がライダーとして召喚された意味、それをアンタに見せてやろう!」

 

 戦車に飛び乗ったライダーは声高々に空を駆け、そして猛然とした勢いのままに構えるアサシンへと襲い掛かった。

 

「―――――【疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)】!」

 

 本来は三頭立てなのだが、“黒”のアーチャーにより霊格を砕かれ一頭を失った戦車なのだが、その速度は凄まじく、破壊力は削岩機の様に衰えなどほとんど感じさせない。

 迫りくる戦車。

 アサシンが選択したのは、回避だった。

 

「ぐっ!」

 

 だが、どうやら目測を誤ったらしい。

 アサシンから見て右側へと跳躍して躱したのだが、その余波までは躱せない。

 間に刀を割り込ませることで直撃こそ阻んだが、空中にあった体は踏ん張ることなど出来ず大きく吹き飛ばされていた。

 そして、吹き飛ばされながらアサシンは見た。

 

(空を駆けるとは…………!)

 

 日本には馬が引く戦車の歴史は先ずない。これは、起伏の多い地形である日本の各地の戦場で戦車を走り回らせるだけの利点などが無かった為。

 故に、アサシンにはいまいち迫ってくる戦車の対処法が分らなかった。

 馬を討てばいいのか、戦車を壊せばいいのか、騎手を殺せばいいのか。どれも正解に思えるし、逆に不正解にも思える、その繰り返し。

 彼が迷っている間にも、戦車は加速し続けていた。そして、この戦車は加速すればするほどにその破壊力を増していく。

 アサシンが吹き飛ぶ間にも、戦車の速度は増していき今は出現した時から凡そ二倍ほどだろうか。もはや余波ですらも、下手をすれば致命傷となるだろう。

 そのまま、左右縦横無尽に攻めてくるライダー。もはや、弄られているのと何ら変わらない状況。

 ただ、

 

(当たってねぇな?)

 

 ライダーは気づいていた。加速していく戦車の上で、何度も空中を吹き飛ぶアサシンの体には一度として戦車が直撃していないという事を。それどころか、態と余波へと刀を振るいその勢いで吹き飛ばされ躱している始末。

 確かに突進と加速には目を見張るものがあった。

 だが、戦車は基本的に直線の動きであり、同時に直角には曲がれない。曲がるとすれば、緩やかな弧を描きながら。

 アサシンは、回避の先を戦車に対して直角、もしくは斜め後方へと逃れるように限定した。

 どれだけ速かろうとも、どれだけ力強かろうとも攻撃には必ず一定のリズム、呼吸が存在する。

 

「―――――貴殿らの首を、献上致す」

 

 三度目の回避で、漸くアサシンは足場へと着地することに成功した。

 振り返れば、ちょうど戦車は弧を描きながら曲がろうとしている所で、ちょうど背が見える。

 ここで初めて、アサシンが()()をとった。

 自ら足場のない空中へと跳び上がり刀を構えたのだ。

 突然の奇行、しかしライダーはその背に冷たいものが走るのを感じていた。

 まず間違いなく、このまま突っ込めば良くない事が起きる。それこそ、今この優勢な状況が瓦解してしまうかもしれない、そんな予感。

 だが、彼はあえて突っ込んだ。回避を選択しなかった。

 逃げる事を良しとしなかった、というのもある。何より、敵の隠し玉を前にして逃げるなど彼の矜持が許さない。

 果たして、

 

「―――――【首狩り一文字(絶対先制)】」

 

 放たれた横一閃。舞う鮮血。

 本来、ライダーの戦車を引く馬たちの内、二頭は不死身だ。だが、聖杯戦争においてはサーヴァント並みの耐久力に落ち着いている。

 つまり、殺せるという事。

 アサシンの対人魔剣は四つのプロセスを踏むことで発動することが出来る。

 その内でネックになりやすいのが、彼自身の一歩で詰める事が可能な距離に敵が居るという状況を作る事なのだが、今回は彼が一歩踏み出し相手が態々その範囲に近づいてきたことにより条件を満たした。

 もっとも、馬を仕留めたからといって直ぐに戦車が止まるわけも無く、最後の最後でアサシンは撥ね飛ばされてしまったが。

 

「やってくれるな…………!」

 

 消えていく戦車より飛び降り、外延部に降り立ったライダーは犬歯をむき出しに笑みを浮かべた。

 愛馬たちを殺されたことには、思うところがある。だがそれは、彼に言わせれば敵が乗り越えたに過ぎないという事に他ならない。 

 自分の不死性すらも、全てが戦闘を引き立てるためのスパイス。苛烈な戦いを求める英雄としての性なのだ。

 対して、外延部へと落ちたアサシンはというと、かなり不味い。致命傷こそ避けてきたが、先程の最後っ屁でひび割れていた霊格の亀裂が決定的なものとなった。

 もはや精神云々の話ではない。戦闘続行のスキルを持っていないアサシンの消滅は最早秒読みといったところだろう。

 それでも、ここで逃げるようなことはしない。

 仮に逃げてしまえば、戦闘欲求のままにライダーは先に進んだであろう“黒”の陣営に突っかかりかねない。

 

「ふーっ…………」

 

 息を吐き出し、構えるのは正眼。

 たとえ刹那の時間であろうとも、間を稼ぐ。あわよくば討ち取る。

 崩壊していく体を引きずって、向かってくるライダーを迎え撃つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩壊していく空中庭園。それは、この大戦の終結を意味していた。

 

「はぁー!はぁー!…………ッ!」

「…………」

 

 肩で息をし、頭から血を流して何より左腕を失ったライダーはふらつく体を抑えながらその二本の足で立っていた。

 彼の眼前では、大き目の瓦礫に凭れ掛かるようにして項垂れ沈黙したアサシンの姿が。

 左足は失われて赤い線を引き、その胸の中心には大きな穴が穿たれている。

 健闘したといえるだろう。何せ、かのギリシャの大英雄を相手に片腕を持っていくという快挙だ。

 ライダーも、まさか片足を失ってもう片方の足も骨を砕いて立てない状態で、心臓もろとも胸を抉り抜いたというのに、そこから片腕を斬り飛ばされるなど思ってもみなかった。

 だが、そこまで。アサシンの手から刀は零れ傍らに転がり、彼の体は光の粒子となって消えていく。

 仕留めた。歴戦のサーヴァントであろうとも、確実にそう判断する状況。

 例にもれず、ライダーもまた仕留めたとアサシンより視線を外してしまった。

 

「がっ!?な、にぃ…………?!」

 

 一切の殺気を感じさせず、ライダーの胸から刃が生える。

 それは見間違うはずもない、つい先ほどまでアサシンが振るっていた刃に他ならなかった。

 錆びたブリキ人形のように、背後を振り返ったライダー。だが、そこに居るであろうアサシンは既に消滅しており瓦礫に大きな血飛沫の後が花開くように残っているだけ。

 刀だけがライダーの霊格を貫いて、そこにあった。

 彼は知る由もないが、それはアサシンの第三の宝具【復讐の怨刀(主亡き亡霊)】の効果だった。

 己を殺した対象へと、アサシンの意思関係なく刀が一人でに動き出して斬り殺すというもの。

 ライダーを貫いた刀は、まるで見えない誰かに振るわれるようにして横薙ぎに動いた。

 

「ごふっ!…………はぁ……最後の最後に、かましてくる奴、多すぎだろ…………」

 

 彼の師然り、そしてアサシン然り。倒したと思えば、最後の最後で致命傷を貰ってしまう。

 一応戦闘続行のスキルで動けない事も無いのだが、ライダーは仰向けでその場に横になっていた。

 この空中庭園が崩壊している時点で、大戦が終わってしまったことは明らかだ。最早戦う相手も居ないし、魔力供給が途切れたことから、戦う意味も無くなってしまったのだから。

 

 邪竜が飛び立ち、大聖杯を連れて行く。長かった夜は明け、世界にはほんの少しの幸運が撒かれ、ほんの少しだけ優しくなった。

 最後の逃げ道()は未だに、人々を受け入れるのだ。
















漸く、終わりました…………
お気づきの方もいるとは思いますが、最後らへんはかなり力技です。特に“赤”のアーチャーとライダーは“黒”のアサシンが居なければ同士討ちはしませんでしたし

とはいえ、ここまでの閲覧ありがとうございました
もしも次があるなら今度はFGOでしょうかね。というか、セイバーの主人公をどこかで書きたいです(願望
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