佐久間大学?え、学校ですか? 作:佐久間大学
いえ、書きたいところはあるんですよ。ブラド戦とか、バビロンでの戦闘とか。ただ、そこまでつなげる話が降りてこないんです、ハイ
という訳でこれからも不定期投稿とさせていただきます、ハイ
迷い子
近代的で無機質なカルデアの廊下。
「ふむ、小生に用事とはいったい何用にございましょうかね…………?」
全く足音を立てず、衣擦れの音すらも起こす事の無い歩法をもって彼、アサシン佐久間盛重は歩いていた。
人理焼却という異常事態を打破すべく行われるグランドオーダー。その初召喚として呼ばれた彼は、デミ・サーヴァントである少女の次に最後のマスターである橙色の髪をした少女に信を置かれている。
言うなれば古参も古参だ。座に記録された聖杯戦争においてクラス違いとは言え決死の戦闘を行ったキャスターよりも前から居るという事。
そんな彼は今回、カルデアの何でも屋であり同時に技術部門のトップでもあるダ・ヴィンチに呼び出されていた。
何でも、少々厄介な事になり彼の力を借りたいらしい。
ただ、このカルデアには盛重のみならず多くのサーヴァントが現界していた。それこそ、彼以上に高名で強力な者ばかりであり、刀しか能がない(自称)彼にしてみればなぜ自分が呼ばれるのか、という不思議が頭に満ちていた。
とはいえ、頼られればNOとは言えない。
「ダ・ヴィンチ殿。何用でございましょうか?」
「あ、盛重君。漸く来たね。実は君に―――――」
「だぁれ?」
右腕がごつい美女、ダ・ヴィンチの言葉を遮ったのは小さな幼い声だった。
所狭しと雑多に様々なモノが置かれた彼女の工房。その一角に置かれたベッドの上に座るのは、五歳ほどの小さな小さな少女であった。
幼いながらも溌剌とした顔立ちをしており、特徴的な橙色の髪をサイドテールに―――――
「…………まさか」
ギギギ…と錆びたブリキの人形のように元凶であろう存在へと顔を向けた盛重だが、その元凶には顔を反らされてしまう。
これで、彼も全てを察した。
カルデア内には愉快犯というのも多数存在している。主に悪魔や錬金術師や小悪魔系後輩AIなどが該当し、そしてこの美しさを求めるあまりにTSした万能の天才もその一人。
盛重は頭を抱えた。
愉快犯も多いカルデアだが、同時にマスターである少女に対して尋常ではない愛を向ける者も少なくない。
特に、恨みで竜となった少女や、全身毒の暗殺者、平安の神秘殺しなどがその筆頭として、その他様々なサーヴァントが大なり小なり彼女へと目を掛けている。
「…………ダ・ヴィンチ殿」
「なにかな?」
「気のせいでなければ、マスター殿の記憶が無いように見受けられるのですが?」
「…………うん、どうやら肉体に引っ張られてるみたいでね。内面も年相応になっていると思ってくれたまえ」
「因みに、何が原因でこのような事に?」
「…………さ、さあ―――――」
「然様にございますか…………それはそうと、ダ・ヴィンチ殿」
惚けるダ・ヴィンチに対して、盛重はしれっと、
「今夜の甘味は、小生が担当にございまする」
「ほほう、君がかい?」
「然り。しかしながら、このカルデアに居る方々は実に多いとは思いませぬか?」
「……ま、まあね?」
「故に、数を作り間違えても無理はありますまい?」
暗におまえの分は作らないと告げた盛重。
サーヴァントには食事は必要ない。だが、味覚などは確かに在る為彼らも飲食を行うのだ
その中でも、厨房担当が気まぐれで作るデザート関係は人気がある。
人数だけレパートリーがあり、尚且つ時代が違う事で様々な味を楽しむことが可能。
「むむ……卑怯じゃないか君…………!」
「卑怯で結構。小生は不意打ちの得意なアサシンでございます故」
「ぐぬぬ…………前に、ジャンヌ・オルタが小さくなったことがあっただろう?」
「ええ」
「その時の若返り薬を私なりのアプローチで完成させたものを置いておいたんだが…………誤ってそれを、彼女が飲んでしまったんだよ」
「つまり、貴殿の謀略ではない、と?」
「信じてくれるかな?」
「他の方は分かりませぬが―――――小生は信じましょう」
アッサリと言い切り、盛重は話の流れから放置していた彼女の下へと向かう。
突然近寄って来た大きな男に、その幼い体を震わせ逃げようとするも、それより先に彼は彼女の前へと訪れてその前でひざを折った。
「お初にお目にかかりまする、小さなお嬢さん」
「…………?」
「小生、名を佐久間盛重と申す者。宜しければ、名を伺ってもよろしいでございましょうか?」
「…………ふ、ふじまるりつか……よんさい、です」
「ほう!立香殿は実に立派にございますな」
「りっぱ…………?」
「然様です。貴殿と同じ年の子らでもここまで確りと自己紹介できる者は早々居りますまい。いやはや、実に見事にございまする」
万歳三唱でもしそうなほどにべた褒めする盛重。
彼の子育て理論は褒めて伸ばす。それはもう、小さな成功ですらも大喜びして見せる程だ。
そんな相手の様子に警戒心が薄れたのか、最後のマスターである彼女、藤丸立香は微笑を向けてくる盛重へと手を伸ばした。
小さな手が頬に触れる。
「もりー?」
「盛重、にございます」
「うっ、も、もりしげっ!」
「言いにくいのであれば、サクと呼んでいただければ」
「しゃく?」
「サク」
「しゃく!」
「……ええ、ではそのようにお呼びくださいませ」
子供特有の舌ったらずな呼び方を認め、盛重は立ち上がる。
「それでは、ダ・ヴィンチ殿…………どうされましたかな?」
「あ、いや。君って子供慣れしてると思っていたけれど、それ位の子でも大丈夫なんだな、と」
「ええ、まあ。昔取った杵柄というものですな―――――では、小生は皆にこの件を伝えてまいりましょう」
「お願いできるかい?私からじゃ、火種が起きそうだからね」
「それでは…………む?」
工房を出ようとする盛重。だが、彼の羽織が弱弱しい力によって引き留められる。
振り向けば、
「いっちゃうの?」
うるうると瞳に涙をためた立香が彼を見上げていた。
小さい子との会話では基本的に目線を合わせる盛重は、再びその場に膝をついて彼女と向かい合う。
「これから、立香殿の事を皆に説明してまいります。直ぐに戻りますので―――――」
「やっ!りつかもいく!」
「し、しかし…………」
「やーっ!」
駄々をこねるその様子に困った盛重。
彼とて、何も意地悪したいから置いていくわけではない。だが、その手の説得というのは子供には難しいのが実情だ。何より、一度駄々っ子になってしまうと我儘が通るまで泣き喚く事になりかねない。
「…………ダ・ヴィンチ殿」
「良いじゃないか。どうせバレてしまうのなら彼女も連れて行ってあげれば」
「しかし、万が一があれば…………」
「そこは君の腕の見せ所さ、頑張りたまえよ」
*
無機質な廊下。空調の利いた通路は、基本的には寒くない。
「よろしいですか、立香殿。小生の羽織を放さぬようにお願いいたしまする」
「ん!」
右腕に座らせるようにして立香を抱えた盛重は、音も立てずに廊下を行く。
向かうのは食堂。仕込みは終えているとはいえ、今夜のデザート担当である彼。出向かないわけにもいかないし、何より誰かしらが居るのは確定である為足を向けていた。
その道すがら、顔なじみに出会う。
「ん?よぉ、アサシン。何してんだ」
「ああ、ランサー殿」
前からやって来たのは、朱槍を用いる蒼い槍兵。ケルトの大英雄であるクーフーリンだ。
過去の聖杯戦争で紙一重の勝負を行った二人は、このカルデアに召喚されてからも何度となく矛を交えており、同時に轡を並べて共闘したりもしてきた戦友。
そんな彼は、盛重の腕の中で自分を凝視してくる幼女に気づく。
「あん?その嬢ちゃんは…………」
「ええ、恐らく貴殿の想像通りかと。自己紹介、出来ますか?」
「あい!ふ、ふじまるりつか、よんさいです!」
満面の笑みで自己紹介をして見上げてくる立香に、盛重は笑みを返して彼女の頭を優しく撫でる。
「この通りにございまする。数日と掛からずに元に戻るという話ですが、その間のレイシフト並びに戦闘に関するすり合わせなどを行いまする」
「ほーん。面倒はお前が見るのか?」
「いいえ。小生だけでなく、他の方々にもご助力を願おうかと…………不安もありますが」
目を逸らす盛重に、クーフーリンもまた一部サーヴァントを思い出して顔をひきつらせた。
こんな幼児に何かをするなど信じたくはないが、それでも何かしらをやってしまいそうな雰囲気がある面々なのだ。
「頑張れよ?」
「…………お手伝い願います」
「オレはアレだ、現場至上主義だからな。ガキの面倒なんざ見た事ねぇよ」
「…………まあ、良いでしょう。いざとなれば、メイヴ殿をけしかけます故」
「おおい!?ちょっと待て、それは洒落にならねぇからな!?」
「問題ありませぬ。オマケとして、スカサハ殿にもご助力願います故」
「待て待て待て待て!マジで洒落にならねぇからな?!」
「問題ありませぬ」
「問題しかねぇわ!おい、ちょ、待てや!」
背後でクーフーリンが吠える様を聞き流し、盛重は縮地まで使ってその場を離脱。腕に抱えた立香には欠片のダメージも与えることなく、食堂の入口までやって来ていた。
「しゃく、はやいねぇ」
「然様にございますか?ふふっ、それは何とも。しかしながら立香殿。小生よりも、否古今東西いかなる英雄よりも素早い者も居ります故」
「しゃくよりー?」
「無論にございますよ」
盛重とてサーヴァントとしてはかなり速い。しかしそれでも、最速の英雄には遠く及ばないし日本という限定で見れば上から二番目といったところ。
トップサーヴァントには一歩以上遅れるステータスというのが盛重の現状であった。
もっとも、そんな話は立香には関係ない。
車よりも速く流れていった視界の景色と、それでありながら欠片も揺れなかった腕の中。
彼女からしてみればそれだけで興奮の坩堝に立つだけ十分であったと言える。
かくして、二人は食堂へ