佐久間大学?え、学校ですか?   作:佐久間大学

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門番 完結
呼ばれて飛び出て


 第5次聖杯戦争。冬木の街で行われる大規模魔術的儀式は、サーヴァントが最後の一騎となって勝者が決まるまで行われるデスゲーム。

 七人のマスターと、七体のサーヴァントよりなるのだが、今回は相当に毛色が違うらしい。

 

「――――サーヴァント、アサシン。召喚に応じ、参上いたしました。何なりと御命じくださいませ」

 

 柳洞寺の山門を背にし、傅くようにして召喚サークルの中に現れる紋付袴姿の一人の侍。

 年の頃は、二十代前後だろうか。キリッとした顔には真面目の文字が貼り付いており、後頭部で纏めた黒髪が夜風に揺れている。

 本来ならば、聖杯戦争においてこの召喚はあり得ない。

 セイバーは剣士。アーチャーは弓兵。ランサーは槍兵。ライダーは騎兵。キャスターは魔術師。バーサーカーは狂戦士。

 これらのクラスには、それぞれの英霊が適性を持ち召喚する側の魔術師と触媒によって現れるサーヴァントが変わってくる。

 ただし、アサシンである暗殺者を除いて。

 このクラスを聖杯戦争で呼び出す場合、基本的にアサシンの元となった存在であるハサン・サッバーハがクラスその物を触媒として召喚される。

 それこそ、余程のイレギュラーが無い限りは十九人のハサンの内の一体が呼び出されることになる。

 なるのだが、彼女の前に跪くのは侍だ。

 

「貴方、私がサーヴァントだって分かっているわよね?」

「はっ」

「この時点で、貴方の願いは叶えられない。理解しているのかしら?」

「承知の上にござりまする」

「その上で、私に従う、と?」

「然様にございまする。小生、願いなど元より持ち合わせてはおりませぬ故」

「なら、どうして私の召喚に応じたのかしら」

「偏に、この土地が小生ゆかりの地と似通っているからにございましょう」

 

 キャスターはフードの下から、自身に傅くアサシンを見つめながら目を細めていた。

 彼女こそ、今回の聖杯戦争においてアサシンのマスターを予め消しておきマスター権を奪いサーヴァントの召喚を行った張本人。

 そも、聖杯戦争においてキャスターのクラスが生き残る事は稀。

 というのも、セイバー、ランサー、アーチャー、ライダーにはデフォルトのように対魔術のスキルが付与されているのだ。

 これらを抜くのは非常に難しく、仮に抜けても対魔術分だけ発動した魔術の威力や効果が削がれてしまう事になる。

 何より、キャスタークラスは遠距離型が多く白兵戦能力に欠ける者が多い。今回のキャスターも魔術の腕前は魔法に至りかねないほどなのだが、近中距離戦ではまず間違いなく瞬殺される。

 その点で言えば、彼女にとって目の前のサーヴァント(肉壁)が従順な姿勢を取っている事は都合がいい。

 キャスターからすれば目の前の男は、神秘が薄い事にすぐ気が付く。イコールとして、魔術への対抗手段が乏しい事にも繋がり、万が一反乱されてもどうとでもなる。

 そんな打算を以って彼女は決めた。

 

「貴方には、この門の守護を任せるわ。魔術師もサーヴァントも、誰も中に入れては駄目よ?」

「御意に」

 

 この日が始まりの夜だった。

 そして、短くも濃密な、聖杯戦争が始まる。

 

 

 

 

 

 

「人の営みも変わる、か。いやはや何とも、小生にはこの光景が懐かしく思えてしまいますな」

 

 山門の目の前。ど真ん中に正座で座り、傍らに愛刀を置いたアサシンは目を細めて階段の向こう遠く見える電飾の明かりを眺めていた。

 六十年以上の年月を生きてきた彼は、死して英霊の座へと導かれこうして現代へとサーヴァントの身で召喚された。

 そんな彼の擦り切れた記憶の奥底で、いつかもこんな光景を見た気がするのだ。

 無論、彼の生きた時代は電気など無い。ガスや水道も整備されておらず、行灯や松明が主な光源でありそれらも油の節約の為に長い時間の使用は出来なかった。

 何より、明度が違う。掌に収まる様な小さなガラス玉が、昼間の太陽のような輝きを起こした時には、腰を抜かしそうになったモノだ。

 一応、聖杯からの最低限の知識は与えられている。だが、その知識には実感が足りていない。

 記憶と、記録の違いだ。実体験をするか否かで、反応が変わる。

 

「――――貴殿もそうは思われませぬかな?」

 

 立ち上がる事も、況してや刀を手に取る事も無くアサシンは虚空へと言葉を投げかけた。

 普通ならば、単なる独り言だ。しかし、彼はサーヴァントという異常な存在であり聖杯戦争の大半は夜に行われる。

 つまりは、

 

「――――ほう、気付いてたか。まあ、サーヴァントなら当然だわな」

「隠すつもりのない隠形など、滑稽なだけでございましょう。元より、そのような荒々しい気配は早々見失う事などありえますまい」

「そうかよ。で?お前はいつまでそこに座ってるつもりだ?言っておくが、オレがこの距離を詰められないとでも思うか?」

 

 虚空に滲み出すようにして現れたのは、蒼い槍兵。その手には、真紅の槍があり紅の眼光がアサシンを貫く。

 

「さて、小生には分かりかねますな。何分、世間知らずなモノでしてね」

 

 ランサーの手にする槍の様な鋭い視線も、アサシンには柳に風。全くもって堪える等という事は無い。

 ただ、端然とした正座を崩すことなく真面目という言葉をそのまま形にしたような無表情で前を見続けるばかり。

 普通ならば、毒気を抜かれそうだが歴戦の戦士ならばそうもいかない。

 何故なら、ただ座っているだけのアサシンに一切の隙が見つからなかったから。

 実際のところ、山門の前に伸びる長い階段の十段以上下までしかランサーは進んでいないのだが、正確にはそれ以上足を無防備には踏み込めないのだ。仮に踏み込めば、問答無用で首と胴体が泣き別れる。

 ただ座っているだけで、その圧力。自然と戦闘狂の気質があるランサーの期待も高まってくる。

 もっとも、今回はそこまでの激闘は不可能だろうが。

 

「――――まあ、良い。構えな。サーヴァント同士が顔を突き合わせてんだ、やる事は一つだろ」

 

 魔力を巡らせて、ランサーは槍を構えた。朱槍が怪しく一瞬輝き、元に戻る。

 対するアサシン。構えず、立ち上がらない。それどころか目を閉じて、その姿は眠っているかのように静かであった。

 

「…………」

「坐して構えず、か。相応の覚悟はあるんだろうな?」

 

 言うが早いか、ランサーの右足が石段の一つを踏み砕く。

 常人ならば影すらもその目に捉える事が出来ないであろう、サーヴァントでもトップクラスのスピードを以って彼の体はアサシンの眼前に。

 最速最短距離を刺し貫く朱槍。それは真っ直ぐに、アサシンの心臓へと向かい。

 

「――――ほう」

 

 金属音と火花が散ると同時に逸れていた。

 いつの間にか、アサシンは右ひざを立てた膝立ちとなっており左手には鞘が、右手には刀が抜かれその刀身が朱槍を弾いたのだ。

 感嘆の声を漏らしたランサーであるが、その太刀筋を眺める前に後ろへと飛び下がる。

 

「テメェ、猫被ってやがったな?」

「何のことか、分かりかねますなランサー殿。小生はただこの門を守るのみの衛兵。小生如きを抜けぬものを、この先に進ませることなどある筈も無いでしょう?」

「吹きやがって」

 

 抜刀術。居合とも呼ばれる技術だが、アサシンのソレは瞬間加速という点において全サーヴァントの中でも上位に食い込めるかもしれない。

 刀一振りで生き抜くための術だ。その中でも、最も無防備に見える座っている状態から一撃必殺に持っていくこの技術は彼の骨身にまで染みていた。

 それこそ、最速の英霊が選ばれるランサーをして辛うじて視界の端に銀閃を捉えたかどうか、といった所。

 警戒の度合いを一段階上げたランサーだが、彼の内心など知らぬとアサシンは鞘を捨てて八相に構えて待ちの姿勢を取っていた。

 上と下。この位置関係は、アサシン有利。とはいえ、ランサーはその程度の不利は経験で補ってしまうのだが。

 

「行くぜ?」

 

 再び仕掛けたのは、ランサーから。

 彼の槍術は、必殺が基本。常に急所を狙っており、所々に遊びがあれども最終的には殺しへと帰結する。

 烈火の攻め。しかし、アサシンはそれらを正面から斬り捌いていた。

 放たれる突きも払いも、その全てを受け流してしまう。切って落としてしまう。足運びによって動きを制限してしまう。

 アサシンの戦い方は、陣取り合戦だ。決して鍔迫り合いには持ち込ませず、力比べをしない。刀を振るうだけでなく、目線や殺気のフェイントを織り交ぜて相手が踏み込んでくる場所を先に封じて攻撃を鈍らせる。

 火花が散り、しかし一筋たりとも血の流れない我慢比べの様な打ち合いが続く。

 だが、

 

「――――フッ」

 

 アサシンの刀とランサーの槍が絡まり、石畳に打ち付けられる。互いが互いの得物を押さえ込むことによって膠着状態へ。

 

「手抜きでしょうか、ランサー」

「…………なに?」

「貴殿の槍は、必殺を旨とした戦場の槍術。何度か小生の晒した隙で十分致命傷を与えることも出来た筈でございましょう」

「…………ハッ、狸だな、お前」

 

 互いの殺気が霧散していく。どちらともなく押さえる得物から力を抜いて、距離を取り合っていた。

 

「そこまでの剣の冴え。お前がセイバーか?」

「さて、どうでしょうか。小生は単なる衛兵。抜けぬ貴殿に語る口は持ち合わせてはおりませぬ故」

「ケッ、愛想のねぇ野郎だ」

 

 石突で一度石畳を突いたランサーは、霊体化しその場から去っていった。

 両者ともに全力には程遠い戦闘であったが、アサシンは一つ息を吐くと鞘を呼び出して刀を収め最初と同じように山門の目の前に陣取り正座で座り込んだ。

 もしも、次があるならば間違いなく死合になる。そんな予感を胸の内に秘めながら、彼は夜空を見上げるのであった。
















続きませぬ
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