佐久間大学?え、学校ですか?   作:佐久間大学

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秩序的な中庸

 価値観相反する。

 現代社会ですら十人十色等と呼ばれる程に、人には人の価値観が存在している。時代が違えば、それは猶の事だろう。

 

「ふむ、これは何とも…………」

 

 上下黒のスラックスとジャケットを身に纏い、ジャケットの下には黒のカッターシャツ、更に朱のネクタイを巻いた青年が道を行く。

 現在、二月なのだが彼はコートも羽織らずに新都を歩き回っていた。

 彼、アサシンの目的は観光――――ではない。当然ながら。

 今回の外出も彼の仕事からだ。もっとも、自分が生きた時代より、数百年後の現代社会に興味が無い訳ではなく、その視線はあちらこちらに向けられていたが。

 事の発端は、つい数時間前にさかのぼる。。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――結界の破壊、にございますか?」

「ええ、そうよ。宗一郎様の勤め先に、命を削る結界を張っている者が居るの。貴方には、結界を維持してるサーヴァント及び、マスターの討伐を命じます」

「御意に」

 

 柳洞寺の書庫の一角にて、跪いたアサシンとそんな彼をフードの下から見下ろすキャスターの姿があった。

 山門を離れても良いのかと思われそうだが、既に“神殿”は完成したも同然。最早侵入すればそれだけで並みのサーヴァントであれば撃退、ないしは殲滅も可能かもしれないのだ。

 そもそも、キャスタークラスのサーヴァントは己の工房を構築できるかが勝利の鍵。工房さえ構える事が出来れば、三騎士と呼ばれるクラスにも対抗できる可能性が生まれ、礼装を作れば打倒する事も可能かもしれない。

 何より、キャスターは神代の魔術師。そこらの魔術師に術で劣る事は早々あり得ない。

 とはいえ、それは作成した陣地内での話。外に出れば、バックアップも幾らか弱まってしまう。

 そこで、目の前の(アサシン)だ。

 実力は、十分。冬木でも最大の霊地である柳洞寺を陣地としたことで魔力不足も解消し、アサシンに回してもお釣りで大魔術をマシンガンの如く連射も出来るかもしれない。

 何より、裏切らない。令呪で縛られているわけでもないのに、アサシンは律義にも圧倒的な戦力差のあったバーサーカーにも正面から挑んで撃退しきった。

 

「……………一つ聞かせてもらえるかしら?」

「何用にございましょうか」

「貴方が聖杯戦争に参加しているのは、いったいどういう理由が有るのかしら?」

「小生の願い?……………………会いたいお方が居ります故」

「会いたい?」

「はっ。そのお方に、小生は目を掛けていたただいておりました。小生もまた、主君として仰ぎ生涯を通して忠誠を尽くしてきた所存にございまする」

「…………それで?」

「返答を、返したいのでございます」

 

 跪いた姿勢のまま、膝の上に置かれた右手が軋むほどに握りしめられる。

 

「一家臣として、小生は幸福に過ぎる一生を送らせていただきました。それこそ、この身の全てを、魂の一欠けらでさえもあの方に捧ぐ事が出来たならば、それだけでも満足なほどに」

「……………」

「ただ一つ、心残りがあるとするならば、あの瞬間に掛けていただいたお言葉に返せなかったくらいにございまする。故に、聖杯戦争の召喚に応じたまでの事。数百にも及ぶ英霊の一人が呼ばれる確率など途方もない事は理解しております。しかし、小生らは既に死人。尋常な手段であろうとも、縋らざるを得なかったのでございまする」

「…………それを、聖杯には願わないのかしら?」

「なりませぬ。あのお方は、尊い方にございまする。小生から出向くならば未だしも、呼びつける等許されざる蛮行。自裁をしても足りぬ行いにございます」

「堅物ね…………なら、貴方はその人と敵対は出来るのかしら?」

「勿論にございます」

「どうして?貴方にとって命よりも大切な存在でしょう?」

 

 キャスターは、目を細める。

 彼女にはアサシンが嘘を吐いていない事は分かる。分かるが、その上で敵対する事も厭わないと言われるのは予想外であったらしい。

 そんな相手の内心など知らぬと、彼は言葉を紡ぐ。

 

「小生が、全てを懸けると誓った主にございます。さりとて、その再会を果たしていただいたのは、偏に小生をサーヴァントとして呼び出していただいたマスター殿が居てこその事。裏切るなどという不義理を行う事など小生は致したいとは思いませぬ。何より、あのお方は楽しめる事がお好きなお方。二、三言葉を交わすことはあり得まするが、刃を交えることになる事もまたあり得る事にございまする」

「…………それで、斬れるのかしら」

「それが、上役よりのご指示に有れば」

 

 仮初であっても主従を守る。あくまでも、従う側の立ち位置を崩さないアサシンは顔を伏せたままだ。

 その姿は、人間が元となった英霊であることを差し引いても、どこか機械の様な印象を与える雰囲気を纏っていた。

 キャスターとしても、十全に理解した訳ではない。ただ、この聖杯戦争に限り彼が裏切らないという事が分かっただけでも十分というもの。

 であるならば、

 

「アサシン、これに着替えなさい」

「?それは…………」

「宗一郎様のスーツを真似て私が作ったモノよ。これで、街を観察しながら向かいなさい」

「御意」

 

 何故そんな事をしなければならないのか。そんな疑問を挟むことなく、アサシンは黒ばかりのスーツ一式を受け取っていた。

 ミッションスタートだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、場面は冒頭へと戻る。

 穂群原学園。それが、アサシンの目的地であり同時にキャスターのマスターの勤める職場でもある。

 

「――――成る程、確かに嫌な気配を感じますな」

 

 スーツ姿のままに、アサシンは学園の門をくぐった。

 血のように赤く、生き物のように鼓動が聞こえそうな結界を超えて、同時に常の紋付袴姿へと変わる。

 左手には、無銘刀。鞘に納めたまま、刃が上を向く形で鍔元を握っており脱力した歩き姿は、しかし一切の隙が感じられるものではない。

 暗殺者のサーヴァントが正々堂々正面から殴りこむなどお笑い種にも思える事であるが、これでいい。というよりも、これよりもさらに派手に動いて良いのだ。

 そもそも、アサシンには大きな弱点が二つある。

 一つは、言わずもがなマスターである、キャスター。もう一つは、キャスターのマスター。

 前者は他のサーヴァントも同じことであるのだが、後者はマスターが消えればキャスターが存在できず、キャスターが消えれば芋づる式にアサシンも現界していられないと言った具合。

 そこで今回だ。アサシンが派手に動いて、この結界を維持しているサーヴァントとそのマスターを討ったとする。

 そうなれば、当然ながらアサシンへの警戒度が上がり、その高まった警戒心はアサシンのマスターへと向けられる事になるだろう。

 そして、そのアサシンのマスターを特定するうえで今回の一件が意味を為す。

 というのも、この学園に張られた結界は、内部の生命力を削り取る。その結界が発動している中で、結界を発動したサーヴァントとマスターがアサシンに討たれる。イコールとして、その場に居合わせた他のマスターはアサシンのマスターが学園関係者であると誤認すると言ったわけ。

 元から居ないアサシンのマスターを探す為に、他のマスターは足が鈍る。アサシンというサーヴァントは、魔術師であるマスターには天敵であるからだ。

 

「――――こんにちは」

 

 人ならざる気配を追って、気配遮断のままにアサシンがやって来たのは教室の一つ。

 中に居たのは、長い髪の目元を拘束具で覆ったボンテージ姿の女性と、ワカメの様な頭の少年の二人組。

 

「いつの間に…………サーヴァントですか」

「それは、貴殿も同じことではございませぬか?」

 

 言いながら、アサシンは鯉口を切った。

 チリッとした独特の一触即発寸前の空気に女性、ライダーは腰を落として臨戦態勢を取らざるを得ない。

 情報の無いこの状況。相手の手札が分からず、更にライダー自身も弱体化している状況では何が起きても構えていなければ対処が遅れてしまう。

 もっとも、アサシンとしては関係ない。

 例え相手が全力を出せずとも、子供であったとしても、彼が上役より与えられた命令を無視する事などありえない事であるから。

 気配を探れば、現在校舎に動く存在が三つある。そのうち一つは、自分たちと似通った気配であるとアサシンは察していた。

 今は、結界の解除に動いているのか教室に近づく様子はない。

 仕留めるならば、今。

 

「――――貴殿の首、上役殿に献上いたす」

 

 手首が内側に曲げられ、逆手に右手が刀の柄を掴んだ。

 

「これぞ、死出への手向けなり」

 

 一瞬沈んだ、アサシンの体は真横へと跳んでいた。

 鈍ったライダーでは、この動きに反応できない。況してや宝具の発動など以ての外というもの。

 故の、その結果は当然の帰結といえた。

 

「――――【首狩り一文字(絶対先制)】」

 

 閃く銀閃。美しかった浅紫色の長髪が空間に舞い、天上に何やら固いものがぶつかってその後、重力に引かれて床に落ちて転がった。

 直後、首を失ったライダーの胴体、頭の無くなった体の傷痕より勢いよく血が噴水のように吹き上がり天井を真っ赤に汚してしまう。

 崩れ落ちる胴体。首を刎ねた張本人であるアサシンは、そちらを一瞥する事も無く腰を抜かしてへたり込んだ少年へと顔を向けていた。

 

「な、何なんだよ……お前…………ライダーをこんなあっさり…………」

「ライダー…………成る程、この地は彼女の戦法には不向きであったのですね。ふむ、小生の運も捨てたモノではありませんな」

 

 うんうん、と頷きながらアサシンは少年へと足を向けた。

 まるで、散歩でもするかのような軽い足取りに、しかし少年、間桐慎二は薄ら寒いものを覚えた。

 無意識のうちに後ろへ、後ろへと尻餅をついたままに後退していた彼であるが、ここは広くも狭い教室内でしかない。

 直ぐに角という名のどん詰まりに追い込まれてしまい逃げ道は完全に断たれていた。

 

「く、来るな!来るなぁあああああ!」

「…………」

「ぼ、僕はこんな所で死ぬって言うのか…………!?こんな、誰にも見向きもされないような所で、死ぬていうのかよ…………!」

「…………」

「お前も何か言えよ!僕は――――――――――――あ?」

 

 喚く慎二であったが、次に口から零れたのは言葉ではなく、鮮血であった。

 同時に激痛。下を見れば胸の中央に一本の刀が突き立っていた。

 

「貴殿がどう思おうと、小生には関係ありませぬ。貴殿は、小生の前に立ち。貴殿は小生の敵であった。ただ、それだけの事にござりますゆえ」

 

 心臓を正確に貫いていた刀を刃の向きであった右方向へと振り抜き、切り裂く。刀を振って、血を払いアサシンは刀を鞘へと収めた。

 一斬りで絶命させたのは、唯一の彼の慈悲だ。必要以上に甚振る趣味はない。

 慎二を殺し、ライダーを殺したアサシン。彼が次に見たのは、死んだ慎二の手の甲であった。

 

「む?令呪が、無い?」

 

 キャスターからの命で敵マスターの令呪を持ってくるように言われていたアサシンは、困ってしまった。

 ポリポリと頬を掻き、仕方なくも死体漁りの真似をするものの見つかったのは一冊のハードカバーの本のみ。

 

「…………仕方がありますまい」

 

 何かしら持っていけねば、アサシンとしても不義理を感じてしまうというもの。何の役に立つかも分からない本であっても土産が有るか無いかでは反応が変わるというものだ。

 流石に、首級を持って歩くほど気が狂ってはいなかった。

 任務は完了、後は消えるのみ。

 

 

 この後、扉の開閉の刹那、アサシンは他のマスターに見つかることになるのだが、そしてその結果新たなる火種を呼び込むことになるのだが、それはまた別のお話。

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