佐久間大学?え、学校ですか?   作:佐久間大学

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折れず曲がらず引き下がらず

「――――無茶したわね」

 

 山門の扉に背を預けて項垂れる紋付袴の(アサシン)

 彼の前に立つキャスターは、いつもの通り顔を隠すフードを被りその視線すらも悟らせない。

 ランサーとの一戦で、致命傷を受けていたアサシンであったがそれは神殿と化した工房に引きこもっているキャスターの手によって何の問題もなく再生されていた。

 今は、ダメージのショックから一時的に休眠状態に入ってしまっている彼が目覚めるのを待っている時間。

 普通の人間ならば、間違いなく再起不能のダメージだが生憎彼はサーヴァント。耐久は、低すぎず高すぎずという平均的な所ではあるが人間よりは圧倒的に丈夫。

 

「……………………ぐっ」

「目覚めたかしら?目覚めたのなら、食事になさい。態々、サクラが貴方の為に用意した物ですもの」

「…………御、意……」

 

 目覚めたばかりで、自分の現状すら把握できていないだろうアサシンであったが宙を浮いて自身の手元にやって来たいつぞやのおにぎりの二つ載った皿と、みそ汁の入ったお椀が乗ったお盆を受け取り、ぼんやりとしながらも手を付ける。

 注目すべきは、キャスターの鬼っぷりか。それとも、アサシンの魂にまで刻まれた忠犬根性か。

 傍から見れば鬼の所業でも、当人たちが納得していればそれは他者に介在する余地などありはしないのだ。

 

「食べながら聞きなさい、アサシン」

「…………」

「率直に聞くわ。貴方、バーサーカーに勝てるのかしら?」

「…………んぐ……確約は、しかねまする。一度殺すことは可能、しかし小生にはそれ以上の殺しの手段がありませぬ。バーサーカーは、狂いながらも小生の一生でも類を見ない怪物。まともに剣を合わせるならば数刻持たせられるかどうかといった所でございましょう」

「そう」

 

 因みに、これがランサーであったならばやりようによっては勝てる。その他サーヴァントもある程度削りを入れられるかもしれないが、その中でもアサシンの攻撃力という点では一歩出遅れていると言わざるを得ない。

 一撃必殺も、一度の戦闘で一回きり。蘇る敵には、あまりにも心許ない。

 仮に守勢に回り続けようとも、その先に待っているのは消耗の末の敗北。勝利など、どうやっても転がっては来ない。

 

「貴方の宝具でも勝てないのかしら?」

「………無理でしょうな。小生の宝具は、対象を誘い込んで閉じ込める宝具。そもそも、相手を物理的にも精神的にも傷つける様な代物ではないのでございまする」

「閉じ込める、ね」

「何より、小生の宝具は味方が少なく敵が多ければ多い程に恩恵を授けるもの。これは力量ではなく純粋な数によって左右されますので」

「使えないわね…………」

「申し訳ありませぬ」

 

 味噌汁まで飲み干して、アサシンは椀を置いた。

 彼の宝具は、防御向きの対軍結界型の宝具。効果的な使い方としては、アサシンの常道には反するものの最初から全開で宝具を発動し1VS6の状況を作り宝具の中に誘い込んで倒すというもの。

 アサシンの戦い方ではない。いや、そもそも彼の適性クラスはどちらかと言うとセイバー寄りだ。今回の召喚に関してイレギュラーが重なり過ぎてこうなっているだけで。

 因みに、彼がセイバーであったならばランサーと相打ちになっていた。幸運値と敏捷が下がってしまうからだ。

 残る敵対サーヴァントは、セイバー、アーチャー、バーサーカー。

 これが通常の聖杯戦争であれば、宝具を発動したアサシンが3VS1で勝ちを狙う方法が無い訳ではない。

 しかし、今回はバーサーカーが強すぎた。ステータス的にも逸話的にも宝具的にも。

 

「――――仕方ないわね」

 

 キャスターの選択。それは、どのような結果をもたらすのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊地である柳洞寺は、キャスターの根城だ。この地に侵入するのはサーヴァントですらも容易ではなく、正面の山道を登ってこなければならない。

 そして、山道の先に待つのは山門。守るのは、既に二騎のサーヴァントを仕留めたアサシン。

 今回この地を襲撃するのは、同盟を組んだ二騎のサーヴァントとそのマスターであった。

 既にキャスターは、使い魔を通じて知りえておりアサシンにも伝えて迎撃の準備は終えている形だ。

 

「――――むっ」

 

 今回は山門の前で鯉口を切った体勢で待っていたアサシン。

 彼の聴覚が遠方から風を切り裂き進んでくる飛行物体を捉えた。

 次に視覚が、夜空を切り裂く一条のラインを発見し、彼の体は加速する。

 

「フッ」

 

 一息のままに木を足場に跳び上がったアサシンは、不自然なほどに捩じれた矢の迎撃の為に腰の居合抜きを放っていた。

 一瞬の間、そして鍔鳴り。

 六度の銀閃が空を撫で、捩じれた矢は中ほどからへし折れる。螺旋回転していたソレは、急な横殴りに対して出鱈目な軌道を描いて柳洞寺を取り囲んだ結界へとぶつかり、弾かれて森の中へと落ちていった。

 出鱈目にも思えるが、アサシンは居合の斬撃すべてを一点に集中させることによって矢をへし折ったのだ。

 何故六度であったのかと問われれば、彼の主が第六天魔王であったから。最大で十発放てるというのに、六発で押さえているのは癖になってしまったからだ。

 兎にも角にも襲撃だ。刀を鞘に納めたまま、アサシンは落下しながら木の先端に足がついた直後に斜め下に跳躍。

 地面に着くと同時に加速し、山門の前へと戻って来ていた。

 

「陽動にしては、お粗末が過ぎると小生は思いまする」

「本当に、キャスターの手駒なのねアサシン。アンタ、自分の願いはどうしたのよ」

「それを問うて何と致しますのか。小生の願いなど、貴殿らには何の関係もありますまい」

「いいえ、あるわよ。アンタの願いをわたし達が叶えられるなら、戦う意味も無いでしょう?」

「ふむ…………」

 

 赤いコートにマフラーでありながら、下はミニスカートといういでたちの少女が問う。

 この場に居るのは、アサシンを除けば三人。

 金髪の少女、黒髪の少女、赤銅の少年。

 サーヴァントは金髪の彼女であると、アサシンは当たりを付けていた。見るからに、ドレスアーマーなど纏っているのだから当然か。

 ついでに、彼からすればこの会話は意味が無い。

 

「戦う理由は、小生にとっては一つのみにございまする」

「それは?」

「この魂に刻んだ誓いを果たすのみ。故に、貴殿らに助力するか否かは、小生が決める事ではございませんな」

 

 言いながら、アサシンは刀の切っ先を三人へと向けた。

 何のことは無い動作だ。呪いも無ければ、そもそも攻撃ですらないような動き。

 しかし、空気は徐々に張り詰め始めている。

 サーヴァントである少女が気圧される事は無い。だが、後の二人は違う。サーヴァントがどれほどの存在であるのか知っているからこそ、自然と無意識のうちに体を強張らせていた。

 それでも、黒髪の彼女は毅然とした態度を側だけでも崩さない。

 

「……その誓いを、教えてもらえるのかしら?」

「主への絶対的な忠誠にござりまする」

「主…………ッ、まさか貴方!」

「お気づきになられましたか。小生の主は、キャスター殿にございまする。あの方こそ、小生を召喚した魔術師にございまする故」

「サーヴァントがサーヴァントを召喚したって言うの!?」

 

 少女、遠坂凛は悲鳴を上げるように声を上げた。

 この場の三人の中で、彼女が最も生粋の魔術師であり人情と、魔術師の観点、その二つを持ち合わせているのだが、同時に冬木の街に置いて統治者的な面を持ち聖杯戦争にも一家言を持っている為その事実は衝撃であったらしい。

 文字通りの絶句。固まってしまった彼女を引き継ぐように、彼、衛宮士郎が口を開いた。

 

「おまえは、アサシン、で良いんだよな?」

「その通りにございまする」

「…………ライダーを倒したのも、お前か?」

「肯定いたしまする」

「…………慎二を殺したのも、お前か?」

「肯定いたしまする」

 

 機械のように淀みなく帰ってくる返答。

 夜闇のせいで、周りの明かりも少ないためアサシンの表情は分かりにくいが、狂人のように嗤うでもなく、善人の様に悲嘆にくれるわけでもないのは、士郎にも確認できていた。

 その上で、拳を握る。

 

「何で、殺したんだ?おまえの目的は、ライダーだったんじゃないのか?」

「否定いたしまする。小生に与えられた命令は、ライダーの討伐。並びに、ライダーのマスターが有した令呪の確保。結界の消去にございましたゆえ」

「だからって……!慎二は戦えなかったはずだ!あいつは…………魔術師じゃなかったんだから……!」

 

 士郎の血を吐くような声。それは、後に遺体を調べた凜より知らされた事実であった。

 彼、衛宮士郎は正義の味方に、成らなくてはいけない。なりたい、ではなくだ。

 そんな彼からすれば、抵抗手段を持たなかったであろう友人にまで手を掛けたアサシンに思う所があるのも仕方がない事であった。

 だが、

 

「――――それが、何の理由になりましょうか」

 

 アサシンには、響かない。

 刀を下ろした彼は、心底不思議そうに士郎を見返していたのだ。

 

「何を…………」

「魔術師ではなかった。抵抗できなかった。そんな事は、関係ないのでございまする。彼は、ライダー殿を従えて、小生の前で敵対した。敵は、殺す。戦争の常識にござりましょう」

「だ、だからって無抵抗の相手を殺すのかよ!」

「そのような些事、理由にはなりませぬな」

 

 彼は語る。彼の理を。

 

「敵であるならば、小生は等しく殺しましょう。男でも、女でも、老人でも、怪我人でも、病人でも、子供でも、犬畜生でも、小生らに敵対行動をとるならば等しくこの手に掛けましょう。それが戦争にございます故。何より貴殿ら――――」

 

 そこで言葉を切り、アサシンは彼らを睥睨する。

 

「――――殺す覚悟も、死ぬ覚悟も無く戦場に立つのでございまするか?それは何とも、中途半端な事にございまするな」

「……ッ」

「戦争は、人が死にまする。人と人が、互いに互いの存亡を懸けての殺し合い。聖杯戦争などと、上品な言葉で飾っておりますが、所詮は血生臭い殺し合い。理解しなされ」

 

 彼の言葉に、子供二人は生唾を飲み込むしかない。

 アサシンの狙いは、これだった。

 確かに彼は、敵対者には容赦しない。それこそ、言葉通りに子供であっても等しく殺す。

 しかし、本質的に好き好んでそんな殺生をするようなタイプではない。むしろ、顔は無表情のままに心の中で泣いているような、そんな男だった。

 彼は、子供たちの精神を折りにいった。それこそ、バキボキにへし折って再起不能になってくれれば、それは最早敵対者とは言えない。サーヴァントの首を刎ねて、それで終いにできる。

 その論から行くと、慎二を切ったのはおかしいようにも思えるかもしれない。

 だが、アサシンの経験上、力を持って冗長するようなタイプは見逃してしまうと、力が無い状態では大人しいが、一度でも力を得直すと再び増長し、更に復讐を企てるようになるのだ。

 ついでに、自己顕示欲と承認欲求の強い者は派手さに拘るあまり、周囲への被害を考えない。

 

 話を戻そう。

 少なくとも、アサシンは二人が足を引くことを期待していた。期待していたのだが、

 

「…………上りまするか」

 

 二人は前に出た。

 顔色とて宜しくない。自分たちが参加するものが何なのか、再確認させられたのだから。

 それでも彼らは進むことを選んだ。打倒し、勝者となる道を選んだ。

 二人に呼応するように、金髪の彼女が前に出て来る。

 

「小生の相手は、貴殿にございますかな、セイバー殿」

「ええ、貴方の相手は私です、アサシン」

 

 互いが、互いの得物を構えて睨み合う。

 

「――――我が一刀、馳走いたす」

「――――参ります!」

 

 そして、ぶつかった。















後数話で終わる――――――――筈です
誤字に関しては、報告下されば幸いです
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