佐久間大学?え、学校ですか? 作:佐久間大学
剣の戦いにおいて間合いは、特に重視される。
間合いの内に居れば、斬れるし斬られる。外に居れば、その逆だ。
特に、間合いを測るうえで指標となるのは、得物の長さ。
踏み込みなども考慮せねばならないが、得物の長さはそのまま当人の間合いになりやすい。
だが、それも達人と呼ばれる者達には関係が無い訳で。
「アイツ、見えない剣が見えてるって言うの……!?」
凜が驚愕する先では、今まさにセイバーとアサシンの二人が己の魂を切り開くような、痛烈な斬撃戦の応酬を行っていた。
彼女が言う様に、セイバーの得物には、透明化の風の鞘がかかっており目視は不可能となっている。
でありながら、アサシンは確りと刃の軌道を見ながら相手の対処を行っているのだ。
それだけではない。
「――――くっ、剣が……!」
「…………」
斬撃戦の応酬と前述したが、その本質は少し違った。
セイバーの斬撃は尽く、逸らされており彼女自身もまるで雲でも斬っているのではないかと錯覚するほどの手ごたえの無さを何度も味わっていた。
というのも、二人の筋力には差があるのだがそれだけではない。
彼女には、魔力放出というバフがあり。これによって小柄な体格でありながら正面からバーサーカーと斬り合えるだけの膂力を発揮できていた。
それ即ち、アサシンでは正面から剣を受け続ければ先に倒れるのは彼になるという事。消耗の度合いが違うためだ。
彼は、最初の激突で見た目不相応の馬力をセイバーが持ち合わせている事を確認していた。
だからこそ、受け流しへと切り替えたのだ。
西洋の諸刃の直剣と違い、日本刀には片刃に独特の反りがある。手首を柔らかく使う事によって切っ先を下げればそれだけで、相手の刃は刀身を滑って逸れていく。
反撃も受け流しから流れる様な切り上げや振り落としであり、今のところセイバーは直感スキルを駆使して躱しているもののその鎧には何度となく、金属が擦れ合う音が響いていた。
「…………ッ!」
仕切り直し。近距離での斬り合いでは分が悪いと、セイバーは後方へと跳んだ。アサシンも、その後を追うことなく、山門を空ける様子もない。
「貴方は、どうやら私の剣が見えているらしい」
「貴殿の構えを見れば、一目瞭然にございまする故」
「ほう……では、後学の為にその推理を聞かせてもらおうか?」
互いが互いに距離を測りながら、言葉を投げ交わせる。
「貴殿は、西洋の剣術家にございましょう。その構え、長物であるならば振りの利点を潰し、片手斧ならば窮屈。弓であったならば、そもそも弦を加味し振るう向きは一定。何より、その両手の籠手。弓を引くに不向き。近接戦闘に置いて両手で剣を振るうため盾の代わりにございましょう。その他、貴殿は小柄にございまする。見た目に反した膂力の持ち主であることは確かにございまするが、五尺と一寸前後の体格であるならば、三尺前後の剣が両手で振るうならば適性でございましょう。更に、貴殿は中段に剣を構えるとき僅かに重心を後方へと駆けておりますな。刀身が長く、柄の短い剣を支える為であると考えましたが、如何にございましょうか」
アサシンの分析。これも経験のなせる業。一応、直感的に剣の長さなどは感知していたのだが、その裏付けを与えるだけの眼力を彼は持ち合わせていた。
見えない事など、問題足りえない。
そもそも、剣そのものは見えないが高密度の風が振るわれる度に動くため軌跡は分かりやすいのだ。
ただ、彼の分析はセイバーの警戒心を上げる事には一役買っていた。
「…………」
油断のならない相手。下段に構え、風を圧縮していく。
この風こそ、彼女の魔術的要素の強い宝具の一つ、
高圧縮された風の鞘であり、透明化する事によって間合いを悟らせないなどの、副次効果を得る事が出来る。もっとも、その用途は有名過ぎる彼女の剣を隠すために有るのだが。
とはいえ、今注目すべきはそこではない。重要なのは、圧縮された風の塊であるという点だ。
空気の屈折を起こさせるほどの高密度の風の塊。
言うなれば、鉄箱の中に無理矢理中身を詰めまくって破裂寸前とでも言うべきか。
そう、破裂だ。高圧縮した風を炸裂させれば、その爆発は瞬間的なブースターにも、相手を粉砕する一撃にもなりえるという事。
「――――ハァアアッ!!!!」
風の開放による加速と、魔力放出による加速。この二つを合わせる事で、セイバーの体は砲弾の様に前へと飛び出していた。
対するアサシン。霞の構えの様に刃を空に向けた形で刀を構え待ちの姿勢。
激突まで、一秒。
「――――フッ」
「なっ!」
下段に構えられたセイバーの見えざる剣は、正確に柄頭を蹴られ一瞬の硬直を許してしまっていた。
何のことは無い。アサシンが剣を振られる前に足を突き出して止めただけの事。
いつの間にか、構えは解かれており放たれた前蹴り。力で言えば、セイバーに分があるとはいえアサシンにとっては僅かな硬直でも十分すぎる隙であった。
「シッ!」
上体のみ、右手一本で放たれた突き。狙いは顔面。碌な溜めこそ出来てはいないが、その柔肌を穿ち頬から脳梁へと貫く程度は出来るだろう。
直感など使わずとも分かる、コンマ先の未来。セイバーは、後ろに倒れていた。
位置が良い。アサシンは石段の上方で、セイバーは下方。倒れれば、体は重力に引かれて階下へと落ちていく。
鼻先を掠める様な突きを眼前で躱し、再び二人の距離が空いた。先程と違うのは、セイバーの体勢が崩れている点か。
様子見は終わっていた。
「…………」
無言の跳躍。上段で構えたアサシンは、そのまま真っ直ぐにセイバーへと向かっていく――――だが、
「――――ッ!」
瞬間、顔を上げた彼は構えを解くと飛来する複数本の矢を撃ち落しにかかっていた。
向かい来る、六発の魔弾。
一発目、叩き落しその反動で上へ。二発目、斬り上げ反動で上に行き過ぎるのを防ぐ。三発目、四発目、神速の二段振り落としによって払う。五発目、左手逆手に持って薙ぎ払う。六発目、左薙ぎ払いの反動のままに回転し、右順手に持ち替えて斬り払った。
この間に、セイバーは体勢を立て直してしまったがアサシンには武芸十八般のスキルがある。戦う場が、足場のない空中であってもその技量が翳る事など無い。
「セェアッ!」
未だ風の鞘に収まった剣での斬り上げ。防げなければ切り捨てられ、仮に防いでもその体は魔力放出の後押しも受けて再び空へと舞う事だろう。
であるからこそ、
「…………」
「――――ッ、軽い…………!」
受け流し。柄頭を地面に向けて頭から地面へと落ちていたアサシンは、互いの刃が触れ合った時点で横に回転する事で刃同士を滑らせて衝撃を空へと流していた。
剣を振り上げた状態のセイバーと、姿勢悪く着地し間合いが近すぎて刀の振れないアサシン。
普通ならば距離をとる。だが、武芸十八般は伊達ではない。
「ぐっ……!」
セイバー、咄嗟の防御。その小柄な体格が吹き飛び森の木に叩きつけられる。
彼女が先程までたっていた場所では、刀の柄頭より薄く白煙を昇らせたアサシンの姿があった。
刀一振り。刃が鈍れば突き殺す。切っ先折れれば殴り殺す。刃が折れれば鞘と柄にてぶち殺す。
その信念の元、彼の技術はあるのだから距離を詰め切ってもそう簡単に安心などさせるはずもなく、出来るはずもない。
「…………」
無音の踏み込み。右手を左脇腹へと引き込んでからの突きは一直線にセイバーの胴を狙う。
「…………ッ!」
幅広の刀身が、その危機を救った。火花を上げて、刀の切っ先は透明な壁に止められていたのだ。
だが、これで終わりではない。アサシンは捩じれた体をそのままに後ろに引いていた左手を掌底に構える。
放たれるは腰などの関節の回転を組み合わせた加速する掌底突き。その目指す先には刀の柄頭が。
「――――フッ!」
刀を握っていた右手を放し、引手としながら左手を前へと突き出す。
突進という全身運動に加えての、関節と震脚、引手によって発生する螺旋運動を余すことなく刀に伝える事によって成立する必殺の突き。
セイバーが膨大な魔力の上で力を発するならば、アサシンは積み上げた研鑽の上でポテンシャル以上の力を引き出す。
一瞬の間。
「カッ………ハッ!?」
吹き飛ぶセイバーの体。木に叩きつけられ、一度跳ねる。
この間に、アサシンの刀は衝撃によって宙を舞っており彼の手元にはない。
しかし、彼にはそれが関係ないらしい。
「…………」
その手に呼び出したのは、刀の鞘。鞘口付近を掴み、体の後方へと置き左手を前に。
突進、からの突き。
「ッ、ハァッ!」
だがそこはセイバー、辛うじて鞘を切り払う事でその突きを防いでいた。
弾かれるアサシンの右腕。しかし、彼はそちらを一瞥する事も無く、突進の勢いを揺るがせる様子もない。
狙うは、剣を振るったセイバーの腕。振った事により、体よりも前にあった右手首を鷲掴みにして鞘を捨てた右手が彼女の、胸倉を掴む。
引き寄せられるセイバーの体と、アサシンの体。
それぞれの前面と、背面がぶつかりその瞬間―――――――セイバーの視界は天地が逆転していた。
「カッ――――ッ!」
息が詰まる。セイバーは背中から、石段途中にある踊り場に叩きつけられていたのだ。
驚くべきは、鮮やかな一本背負い。そして、刀一本に固執しないアサシンの戦闘スタイル。
更に追撃として、落ちてきた刀を左手で逆手に掴み倒れるセイバーの首めがけて振り下ろした。
だが、その直前に風を開放したセイバーにより命には、一手届かない。硬質な音が響き、石畳の一部が砕けるのみだ。
仕切り直し。かなり派手に吹き飛ばされていたセイバーであったが、見た目が派手なだけで再起不能のダメージは一つも負っていないのは、無意識のうちに致命傷に至る行動を阻害できていたからだろう
「ふむ、中々の強者。小生もここまで手札を切って仕留めきれなかったのは随分と久方ぶりにございまするな」
それはこっちのセリフだ、とセイバーは内心で返していた。
膂力、剣の重さなどは彼女が勝っている。速度に関しても特段差は無い。しかし、技量に大きな開きがあったのだ。
技量が高ければ、効率のいい動き方も可能となり、効率のいい動き方という事はそのまま回転効率に直結し、次の手に移るまでが早まる。
結果的に、直感で先読み出来ようとも体が後手に回らざるを得ない。
「…………ふぅ、貴方はさぞや名のある戦士なのでしょう。であるならば、」
セイバーは、風の鞘を解いた。瞬間的に周囲の空気が爆発的に弾かれて、暴風が吹き荒れた。
「私も、全力を尽くしましょう」
光り輝く刀身を持つ聖剣。これぞ、彼女が英霊として名を刻んだ証明。
「…………」
無言で、アサシンは構えた。
先程までの、風を纏った状態の剣を振るっていた彼女とは比べ物にもならない、覇気。剣そのものから貫禄の様なものが沸き立っているのでは無いのだろうかと、彼に錯覚させるほどの存在感。
人の手ではなく、神造兵器として星より齎された“
伝説の降臨であった。