デイジィとアベル(一)決戦前の蜜月   作:江崎栄一

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〇九 海中の闘い

 反撃する暇もない、一瞬のことだった。膝の力で防御するのがせいぜいだった。下から物凄い力で突き上げられ、オイラの身体は宙を舞った。

 こんな港の近くで巨大な海洋モンスターに襲われるなんて、予想外だった。オイラが甘かった。十分考えられることだ。ここにラーミアの神殿があったのだから、オイラたちがここに来るということは、当然バラモスも想定していただろう。

 そうであれば、この辺りの海に強力なモンスターを配置し、オイラたちを始末しようとするはずだ。

 海面に飛び出したモンスターは、オイラが落ちるより先に海に潜った。

 オイラの身体は宙で回転しながら、落下を始めた。これでは海面に脚で着地することはできないだろう。

 身を丸めて、落下の衝撃に備えた。

 海面にぶつかった。今度は海に身体が沈んだ。どうやらオイラの意思に合わせて、海面に立てるようだ。

 落下した勢いに任せて海の中を進む。かなりの速度で落下したから、随分深いところまで潜ってしまった。

 身体がびりびりと痛んだ。ここは死せる水の中だ。早く海上に出なければ。

 いや、あのモンスターは当然水の中でオイラを始末するべく、チャンスをうかがっているはずだ。絶対的に有利なこの状況であれば、すぐにでもオイラに襲い掛かってくるはずだ。

 体勢を整えモンスターの姿を確認しようとしたが、死せる水の海は濁っていて、よく見えない。あれだけでかい相手だ。気配でわかる。オイラは眼を閉じて、自分の感覚に集中した。

 一直線に突進してくるモンスターの気配を感じた。もの凄い速さだ。この体当たりを受けたら、ただじゃ済まないだろう。でも、オイラだって泳ぎは得意だ。

 両腕を頭の上に掲げ、衝突の寸前、思い切り水を掻いた。

 わずかに身体を上昇させた。

 巨大な生物が身体の下を通過した。

 よし。

 うまい具合に激突を回避することができた。すれ違いざまにオイラはモンスターの背びれを掴み、背に跨った。

 こうなったらオイラが絶対的に有利だ。

 背中の鞘から稲妻の剣を抜いて、モンスターの頭部へ叩きつけた。肉が切れる手ごたえがあった。モンスターが身悶えする。オイラを乗せた背が激しくうねった。

 しかし速度が緩むことはない。身を回転させながら、さらに加速した。

 だめだ。振り落とされそうだ……。

 そう思った次の瞬間、凄まじい衝撃があった。

 オイラは堪え切れず、前方に放り出された。

 どうやら暴れるモンスターが海底にぶつかってしまったようだ。モンスターは、目の前で痺れたように固まっている。これはチャンスだ。

 オイラは再びモンスターの背中に乗って、背びれを切りつけた。

 手ごたえあった。モンスターは覚醒して悲鳴をあげた。そしてオイラを背に乗せたまま海面に向かって上昇し、そのまま一気に空へ飛び出した。

 周囲を確認してから、オイラはモンスターの背中を蹴って、宙で体勢を整えた。海面まで五メートルはあるが、大丈夫だ。問題なく着地できる。

 海岸沿いに集まる群衆が眼に入った。デイジィ、バハラタ、ユリカの姿もある。

 デイジィと眼が合った。そんな不安そうな顔をするな。オイラも成長したんだ。こいつを一人で片付ける姿を、しっかりと見ていてくれ。

 オイラは海面に降り立ち、剣を構えてモンスターの出現を待った。


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