私は戦うエンジニア   作:かさささ

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私の気分転換にお付き合いください。


戦うエンジニア

 

 

 

 

 ゲートをくぐり世界の向こう側から来た怪物、トリオン兵が少女を目掛けて突進する。5メートルはあろうかという巨体が迫り来るその様は武器を持たない一般人からしたら卒倒ものだろう。いや、奴らには地上の兵器はほとんど効果がない。熟練の自衛隊員であっても絶望は避けられないかもしれない。

 

 しかし少女は違う。気絶することもなければ絶望することもない。それは何故か。少女は奴らを倒す手段を持っているからだ。街を守るためトリオン兵を一体残らず倒すことが彼女がここにいる意味であった。

 

「メテオラ」

 

 少女の言葉に呼応して掌に半透明のキューブが現れる。これがトリオン兵を倒す手段だ。

 向こう側の世界、近界(ネイバーフッド)にて用いられるエネルギーのトリオンで作られており、同じくトリオンで作られたトリオン兵に対して唯一にして最高の対抗手段であった。少女が使ったのは中距離戦用の弾だ。

 彼女は手元のトリオンキューブをそのまま分割することなく発射。発射された弾はそのままトリオン兵――ではなくそいつの足元へ。爆発の効果を付与されたそれが着弾し、音と光と衝撃を持ってしてトリオン兵を怯ませる。予想外の衝撃に一瞬だけ怯んだトリオン兵だったが、すぐに持ち直して再び少女を狙う。

 

 得られたのはわずか一瞬の硬直。しかし彼女が欲しかったのはその一瞬だった。

 もう片方の手に用意していたトリオンキューブを今度は細かく分割してから射出する。弾数、威力、角度。それぞれが絶妙に調節された貫通力に特化したその弾丸がトリオン兵の弱点である眼の部分へと真っ直ぐに向かい、的確に撃ち抜く。弱点をひどく損傷したトリオン兵は他に伏せ、再び動き出すことなく沈黙した。

 

 こうして流れるように鮮やかなトリオン兵討伐は僅か数秒で幕を閉じた。

 

「凄い……!」

「ていうか早すぎる」

 

 彼女の背後に控えていた少年二人組、茶野真と藤沢樹は少女のあまりの手際の早さに呆然としていた。二人とも今日の防衛任務で彼女と合同で組んでいる正隊員だ。

 しかし正隊員と言っても二人はまだまだ今期になって部隊を結成したばかりのルーキー。彼女から見ても駆け出しの彼らはお世辞にもまだまだ強いとは言えなかった。攻撃を当てるための技術であったり、戦況を理解する状況判断能力などの不足が目についてしまったのだ。しかしこれらは経験によって培われたりするものも多いのためこれ以上をルーキーたちに求めるのは酷である。

 とは言っても実戦で、トリオン兵を討伐するためには最低限そういった強さを身につけてほしいと彼女は考えた。そのためあれこれ口で言うより早いからと彼女なりの手本を彼らに見せたのだ。

 

「まあこんな感じかな。トリガーの組み合わせにもよるからこれが正解ってわけでもないけどね」

 

 トリオン兵が完全に沈黙したのを確認し彼女は振り返る。未だ呆然とする二人に彼女は話しかけた。

 

「いえ、でも凄かったです!あんなに鮮やかに」

「俺らもあんな風にできるようになりたいな」

「なりたい、じゃなくてなるの。君たちもそのために戦ってるんだし」

「え、でも」

 

 少女の言葉に茶野たちの表情が目に見えて落ち込んでいく。不安に思うのも無理はないが、しかしそんな表情にさせるために彼女は手本を見せたわけではない。さらに言葉を続けた。

 

「大丈夫。ちゃんと訓練積んでるんでしょ?できるよ」

「…………できるでしょうか、俺たちに」

 

 もう一声かける。

 

「できる。相手の隙を作り出して仕留めたり方法は沢山ある。君たちには君たちの正解があるから、焦らずそれを見つけるの。そうすれば私なんか目じゃないくらいに強くなれるよ」

「……俺、頑張ります!」

「俺も!」

 

 元気を取り戻した彼らを見て少女も笑みがこぼれた。

 

「力になれることがあったら言ってね。できる限り力になるから」

 

 まあそんなに時間取れるわけじゃないんだけどね。

 続きの部分は声にならず彼女の内にしまわれる。気合十分となった彼らにいまここで水をさすのは野暮というものだろう。

 

 そんな彼女を前にアイコンタクトで互いの考えを確認した二人はそれを完了させるや否や突然勢いよく切り出した。

 

「じゃ、じゃあもしよかったら俺らのチームに入ってくれませんか!?」

「……え?」

「先輩が入ってくれたら俺たちも心強いです!」

 

 その返しは全く予想していなかった。

 たしかに同じチームに入った方がより身近に教えを請うことができる。彼らのチームの戦闘員は二人だけだからオペレーターにもあまり負担はかからないし、純粋に戦力を増強することも可能だ。その勇気と思い切りの良さは素晴らしい。

 

「そっか、君たちB級に上がったばっかで知らないんだっけ」

「「??」」

 

 だがそれは叶わない。

 

「お誘いは嬉しいけど、ごめん。私は君たちのチームには入れない」

 

 何故なら彼女は――

 

「私はエンジニアだから」

 

 ボーダーでほぼ唯一の戦うエンジニア、冬月若菜(ふゆつきわかな)なのだから。

 

 そんな若菜の予想外の答えに彼らの叫び声が警戒区域に響き渡った。

 

 

 

***

 

 

 

 防衛任務の報告書を仕上げた若菜は開発室へと足を運ぶ。そこが彼女の本来の職場なのだ。道順も正確に記憶してあるため巨大なボーダー基地であっても迷う心配はない。

 

「けどホントにさっぱりしてるねーこの建物。入った当初は何度迷ったことか」

 

 若菜の言う通りボーダー本部の内装は非常にシンプルである。よく言えばスッキリ、悪く言えば殺風景といったところか。彼女も入隊当時は何度も迷ったクチだ。

 だがボーダー本部は一般的な建造物とは違いトリオンを用いて作られている。使用できるトリオンが限られているためどうしてもこのような内装になってしまうのだ。因みに彼女は開発室に配属されて間も無くにこのことを理解している。理解はしているのだが。

 

「トリオン量の問題なのはわかってるけどこうも広くて同じ景色だったら迷った時抜け出せそうにないなー。看板とか増やせないのかな。開発室持ちで」

 

 問題の根本がわかったところで迷わなくなるわけではない。上がりたてのB級なんか困るだろうなーと考えた若菜は看板という具体的手立てを講じてみる。費用を上司に任せるなどサラッととんでもないことを言ったが、残念ながら彼女に突っ込む人間が周りに誰もいなかった。

 

 なんて考えていた彼女はようやく開発室に到着。扉をあけて自分の職場へと入る。

 

「お疲れ様でーす。ただいまもどりましたー」

 

 男だけの寂しい空間に若菜の声が響き渡る。仕事詰めの彼らも彼女の声に幾らか活気を取り戻したようだった。彼らも単純である。

 

「お疲れ若菜ちゃん」

 

 任務上がりの若菜をチーフの寺島雷蔵が労う。就職しているわけではないので厳密には違うが形式上雷蔵は若菜の上司にあたる。

 

「お疲れ様です雷蔵さん。早速で悪いんですけど鬼怒田さんいますか?」

「ああ、この後の仕事の件だね。いつも通り奥にいるよ」

「ありがとうございます」

 

 雷蔵にお礼を言い若菜は更に奥へと脚を進める。ちょうど俺も用があるからと彼が先導し奥を目指す。

 

「防衛任務はどうだった?」

「問題なかったですよ。一緒に組んだ茶野隊もいい人ばっかでしたから」

「茶野隊……、新人かな?」

「はい。力量はまだまだでしたけど、やる気もあるし真面目な子でした」

 

 雷蔵の問いかけに若菜が返す。

 

「あとチーム組んでください!って言われました」

「おーその場でスカウトかー凄いね。まあでも」

「……そうですね。これはわ」

「君のせいじゃない。こればっかりは違うよ」

 

 スカウトを断ってしまったことに罪悪感を感じる若菜。しかし雷蔵はこれを一蹴する。彼の言葉通り、今回の件は彼女に一切の非がないからだ。どんなに彼女が否定しようともそれは揺るがない。ある意味、仕方のないことだった。

 

「……はい。すみません。ありがとうございます」

「うん。さ、入るよ」

 

 彼女が持ち直したことを確認した雷蔵は開発室室長である鬼怒田本吉の部屋へと踏み込んだ。

 

「失礼します」

「ん? ああ雷蔵と冬月か」

「俺はトリガーの件です。若菜ちゃんの方は」

「この後の仕事の話だな。こっちを先に済ますぞ雷蔵」

「構いません。俺のは時間かかりますし」

 

 そう言って雷蔵を下がらせ、中々に散らかっているデスクを物色する鬼怒田。代わりに若菜が前に出る。鬼怒田はまだ探し物だったが、待たせるのも悪いからと彼はそのままで話しかけた。

 

「冬月の仕事の事なんだが……」

「はい。定期診断ですよね」

「そうだ、おったおった。これが質問のリストだ」

 

 そう言って鬼怒田が若菜に探し当てたリストを渡す。質問としては体調が優れているか、から寝不足以外で寝起きはスッキリしているかなどの細かいものまで幅広く多様だ。そしてタイトルには『サイドエフェクト持ちの定期診断』とある。

 

「あと1時間ほどでそれを受けにやって来る。それまでは休んでていいぞ」

「わかりました」

 

 リストと説明を受けた若菜は失礼しましたと言って部屋を後にする。

 『サイドエフェクト持ちの定期診断』

 これが今回若菜が受け持った仕事だった。

 

 副作用(サイドエフェクト)

 高いトリオン能力を持った人間に稀に発現する特殊能力のことであり、発現する原因としてトリオンが脳や感覚器官に影響を及ぼす事が原因であるとほぼ突き止められている。特殊能力と言っても火を吹くなどというファンタジーのような能力ではなく、耳が良くなったり物覚えが良くなったりする、というあくまで人間の能力の延長上にあるものだ。

 しかしこのサイドエフェクトは発現者に必ずメリットをもたらす、というわけでもなくむしろ健康被害等デメリットが生じることもある。よって開発室はトリオン、サイドエフェクトの研究も兼ねてサイドエフェクトを持つボーダー隊員に定期的に診断をしているのだ。

 

 若菜自身が研究室所属だから、あとはまぁ彼女の方が歳も近いしリラックスできるだろ、という理由からこの診断は彼女が受け持っていた。

 

 さて、あと1時間どう過ごそう。

 

 彼女はまず暇を持て余した。

 

 

 

***

 

 

 

「来たぞ冬月」

「お、いらっしゃい影くん。早かったねー。座って座ってー」

 

 あれから1時間。今回診断を受ける影浦雅人が予定より10分早く若菜の元を訪れた。

 因みに彼女が持て余した暇だが、時間を潰す方法をタブレットを見ながら考えていたところ、気がついたら時間だったというオチである。勉強はできるのにこの子はそういう方面でアホなのである。

 

「早く済ませたかったからな。……ああん?」

 

 ソファに座りながらそう答えた影浦は未だ立ったままの若菜からの視線を、いや感情を受けとった。

 目をキラキラさせてまるで買ってきてもらったおもちゃを眺める子供のような、そんな感情がまるで目からビームのように――といってももっとふわふわとしたものだが――刺さっているように感じる。あくまでその表情のせいでそう感じるだけだが。

 

「そんなこと考えてねぇで早くしやがれ!」

「ありゃ、やっぱわかっちゃうか。どうだった?」

「どうもなにも。撫でられてるみてぇで逆に気持ち悪い」

「ええー」

 

 影浦隊を率いる隊長、影浦雅人。サイドエフェクト持ちであり、今回の診断の受診者だ。

 彼のサイドエフェクトは「感情受信体質」。文字通り自分に向けられる感情を肌でキャッチできる。キャッチと言っても肌に刺さる感覚のようで、恐れや怒りなどと言った負の感情ほど不快に感じるらしい。らしい、というのはあくまで本人の口からの情報しかないからである。

 因みに彼女は今影浦が不快に感じない感情を模索中なのだ。今回ドキドキワクワクの感情をぶつけてみたのだが、逆に不快と言われてしまった。まだまだ先は長い。

 

「まあしょうがないか。じゃあ始めるねー」

「早く終わらせろよ。この後あいつらとウチで食うんだから。お前も来んだろ?」

「もち!ではちゃっちゃといきまーす!」

 

 同い年というのもあってお互いに軽口を叩きながら進めていく二人。時々おふざけも交えるが、そこに負の感情はない。仲のいい友達、仲間という言葉がよく似合う二人だ。

 

 若菜がボーダーに来てから、楽なことだけじゃなかった。たくさんのことがあった。けどそれでも、彼女のボーダー生活はとても充実している。

 

 戦うエンジニア、冬月若菜。

 彼女は今日も戦い、仕事に打ち込む。

 

 

 

 

 




簡単なプロフィールを載せておきます。
冬月若菜(ふゆつき わかな)
18歳 
好きなもの:落ち着いた空間、ゲーム(enjoy勢)、フルーツジュース各種


ビビッと閃いた設定をその場でメモ帳に殴り書きして、ある程度まとまったらその勢いで本文を、と言う流れで生まれたこの作品。雑なところもあると思いますが温かい目で見ていただけると嬉しいです。ほっこりするような日常を目指して頑張ります。

もう一つの作品についての意見もまだまだ募集してるので、暇もしくは優しいお方がいらっしゃいましたらぜひ活動報告まで来てください。
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