私は戦うエンジニア   作:かさささ

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休日はゲームを

「柚宇ちゃん来たよー」

 

 鬼怒田開発室長からお休みをもらった若菜は普段から仲良くしている友達のいる作戦室を訪ねていた。コンコンと扉をノックして自身の到着を主張する。

 

「ほいほ〜い。よく来たね〜若菜ちゃん。ではさっそく……」

 

 扉を開けて出迎えたのは国近柚宇。ここはボーダーが誇る精鋭のA級部隊、太刀川隊の作戦室だ。

 同い年や趣味も同じということもあってすぐに意気投合した二人は、こうして休みに遊びに街へ出かけたり、互いの部屋に遊びに言ったりしている。今日は若菜が国近の元を訪ねる番だった。

 

 若菜を出迎えた国近は彼女をさっそく室内へ案内しようとする。しかし彼女は扉との隙間から見てしまった。あらゆる物が床にまで散らかった太刀川隊の惨状を。

 

「柚宇ちゃん」

「……はい」

「先片付けよっか」

「…………は〜い」

 

 その有様を放っておくことなどもってのほかと若菜は笑顔で片付けを提案した。基本的に片付けない国近だが若菜の笑顔を見ると不思議と反発する気力がなくなってしまう。……別に彼女も反発したいわけではないのだが。国近の了解を得た若菜は本来の目的より、片付けのため部屋へと踏み込む。

 

「うわー相変わらずだね」

 

 中の有様は酷いものだった。ゲームの備品やら脱ぎ捨てられた上着に、本の束などあれこれが散乱。これらがテーブルやソファから溢れて床にまで侵食している。確かにここは基本的に親しい人たちしか訪れないが、それにしたってこの生活空間丸出しなさまはいかがなものかと若菜は首を傾げざるを得ない。落ち着いた空間を好む若菜にとってこの隊室の片付けは本来の目的より優先順位の高いものとなっていた。

 

「まったくなんでこんなになるまで放っとくかなー」

「いや〜ね? ゲームに夢中でついつい」

「そのゲームに対するやる気をもう少し他の部分に向けてくれたらなー」

「あはは〜……」

 

 国近に軽く説教を施しつつ片付けに着手する若菜。国近もばつの悪い表情になりつつも若菜にならって片付けに入る。若菜による抜き打ち隊室チェックは今に始まった事ではないのだが、国近にとって優先順位、というより生きがいであるゲームがどうしても優先されてしまい、その辺に出した物を片付けないため毎回チェックに引っかかってしまっている。その辺に置きっ放しにした物が積もりに積もって毎回部屋を散らかしてしまうのだ。

 しかも良いのか悪いのか国近自身あまり細かいことを気にしないタイプなのである。彼女と同じ隊のメンバーも片付けが得意ではないことも相まって自力で片付いたことは今まで一度もない。その有様は月一でボーダーの職員が大掃除に来ていたレベルである。

 

 因みに遊びや仕事で月一以上の頻度で隊室を訪れる若菜のお陰で、太刀川隊の隊室はギリギリ人様に見せられるほどには片付いている。というより悲惨になる前に若菜が片付けを指示しているわけだが、お陰で職員による大掃除無しでも大丈夫になった。この事実に大層感謝した職員が若菜の給料に少し色を付けて欲しいと上層部に進言したそうな。もちろん若菜はそれを目当てに片付けしているわけではないし、そもそも彼女はその事を知らない。

 

「ていうかなんで置き時計が床に落ちてるのさ」

 

 落ちてるカニ時計を手に取りぼやきつつも、それを棚の上に戻して片付けを進めていく。30分もしないうちに、太刀川隊の隊室は清潔感を取り戻した。慣れない作業でそれなりに疲労を感じる国近であったが、その疲労はゲーム機を視界に捉えたら綺麗に吹き飛んだ。本来の目的であるそれを手に取り、若菜に催促する。

 

「ほれほれ〜はやくやろ〜」

 

 終わって即ゲーム機の前にスタンバイする国近の熱量は相当なものだ。軽く呆れながらも若菜も国近の隣に腰を下ろしコントローラーを手に取った。そもそもこっちが本来の目的なのだ。

 

「何やる〜? やっぱレース?」

「それでいこう。今日こそ勝つからねー」

「ふっふっふ〜。まだまだ負けないよ」

 

 ゲーム機にソフトを差し込み、レースゲームを立ち上げる。2人の実力はほぼ同等。しかし国近がやはり一歩抜きん出ているため、勝負は毎回1位国近2位若菜の順番となっている。あともう一息で追いつけそうな若菜は毎回苦渋を飲み、次こそはとリベンジに燃えているのだ。重度のゲーマーにそこまで追い縋れる時点で凄いのだが、本人としてもそこで満足するつもりは毛頭なかった。因みに若菜が国近に張り合えるジャンルはこれだけである。

 

「うそー!青いの避けた!?」

「へへ〜ん。これくらいできなきゃゲーマーは名乗れないのですよ〜」

 

 若菜の休日はここで一日中ゲームをする事で消費される。文字だけ読むとダメ人間だが、2人とも楽しそうにしているのでこれで問題ない。一日はまだまだ始まったばかりだ。

 

 

 

***

 

 

 

 ぶっ続けでレースゲームをしていた若菜と国近は若菜の集中が切れ始めたタイミングで一度休憩をとった。

 

「あーくやしー。また一回も勝てなかったー」

「中々良い勝負で楽しかったぞ〜若者よ」

 

 若菜は伸びをして凝り固まった筋肉をほぐしながら悔しがる。結局今日も惜しいところまでは何度も持っていったにもかかわらず1度も勝てなかった。運と実力を遺憾なく発揮した国近に勝つことはやはり相当難しい。

 

「あと私の方が誕生日早いよー」

「は〜い」

 

 茶番を挟みつつ休む2人。次は何やろうかな〜と国近が考えゲームソフトを漁り始めたところで、隊室の扉が開いた。入り口から二人の少年が入ってくる。

 

「結局何もせずに戻って来ちまったじゃねーか」

「だから言ったじゃないですか!僕の力は!チームプレーでこそ発揮されるのだと!!」

「ああもう散々聞いたってそれ。つうかいい加減うるさい。少し黙っとけ」

「出水先輩!?」

 

 フサフサした前髪を払いつつ激しく主張する唯我尊。千発百中とプリントされたシャツを着こなし、そんな彼を軽くあしらう出水公平。2人とも太刀川隊のメンバーであり、この隊室の主だ。

 

「どしたどした〜? 騒がしいね〜」

「聞いてよ柚宇さん。唯我にそろそろソロランク戦やれって連れてったんだけどさー」

「フェアなチーム戦こそ僕の本領なのです!」

「う〜む。若菜ちゃんなんか一言」

「えー?ここで私に振る?」

「うん」

 

 状況を把握しようとした国近だったが、二人の主張はやはり正反対。鎮めようにも鎮められないため国近は若菜にバトンパスで擦りつけた。国近の無茶振りを引き受け、しばし考えた若菜は一言。

 

「唯我くんハウス」

「どぅ!?」

 

 独特な悲鳴とともに唯我は撃沈。有無を言わせぬ物言いに流石の出水もこれはちょっとばかし引いた。

 

「こんちわっす冬月先輩。今日はゲームの日ですか?」

「そうそう。出水くんたちもやるー?」

「ガチマッチは終わったし出水くんたちもやろ〜」

 

 唯我の哀れな姿を見届けてから出水は若菜に挨拶を済ませる。こう言うところを疎かにしないあたり出水もそれなりに人間ができていると言えるだろう。

 

「じゃあ俺らも混ざりますわ。おいこらいつまで寝てんだ起きろ唯我」

「厳しい!? 僕は今心に傷を……」

「トリオン体だから大丈夫だろ」

「人権団体を呼んでくれぇぇ!!」

 

 お言葉に甘えてゲームに混ざることに決めた出水は隣で沈んでいた唯我を叩き起こす。4人プレイのためとは言え些か乱暴すぎるのではないかと思わないこともないが、どうやら叫んでる唯我もまだまだ余裕がありそうなので問題ないだろう。出水もその辺のさじ加減はわかっている。

 

「じゃあ四人でパーティーゲームだね〜」

 

 叫ぶ唯我を放って国近はゲームソフトをセットする。ゲームを立ち上げていたところ、部屋の扉がもう一度開いた。入ってきたもじゃもじゃの頭で髭を生やしたその男こそ、この隊室の利用者の最後の一人である。

 

「あーきな粉餅食いてー」

「お疲れっす太刀川さん。てかきな粉は前に禁止されたじゃないっすか」

「食いてぇもんは食いてぇんだよ」

 

 やたらときな粉餅を欲しているこの男こそ、出水たち太刀川隊を率いる隊長、太刀川慶その人である。他者を圧倒できるほどの強さを持っているのだが、その私生活はかなり酷い。特に学力がものすごく悲惨であり、いつも大学の単位がヤバいと知っていながらランク戦に入り浸っている。ヤバいのはお前だ。

 

「お? 冬月も居たのか。早速トリオン兵早狩り対決」

「やりませーん」

 

 若菜を見つけ早速勝負を吹っかける太刀川。そこには歳上としての体裁などなく、ただただ冬月と勝負したいという欲望で動く男の姿がそこにあった。

 しかしいくら部類の戦闘好きである太刀川でも防衛任務専門の若菜に合わせて直接対決を避ける位の配慮は持っていたらしい。若菜の()()を知っているというのもあるが。

 

 だからといって若菜がこの勝負に乗るわけでもない。そもそも、太刀川は人間として非常に面倒くさい。特に勝負事となればそれはもう相当に手を焼くほどだ。こういうのは最初から断るに限る。

 

「頼むって冬月。久しぶりにやりたいんだよ俺は」

「……とか言いますけど、つい先週に勝負したばっかですからね」

「あれ、そうだっけ? まぁ細かいことはいいだろ」

「良くないでーす」

 

 一度断られたくらいで諦めるほど太刀川は賢くないが、若菜の言う通りつい先週勝負したばかりなのだ。彼女が折れるかたちで。既に彼女は十分譲歩しているのだ。国近も出水もそれを知っているため二人は若菜の味方である。とても心強い。

 

「ダメだよ〜太刀川さん。今日若菜ちゃんはお休みの日なんだから〜」

「ちぇー。ま、しょうがないか」

 

 国近の援護射撃で流石の太刀川も勝負を諦めた。その熱意をもっと勉強に向けて欲しいと彼のチームメイトはいつも思っているのだが、残念ながらそれが太刀川に届いたことは今まで一度もない。

 

「だから太刀川さんもゲーム混ざろ〜」

「けど柚宇さん。そうすると五人になっちゃいますよ?」

 

 国近は太刀川にもゲーム参加を呼びかけたが、出水が待ったをかけた。いま彼女が準備していたパーティーゲームは同時にプレイできるのが四人までなので一人余ってしまうのだ。

 

「いや俺はいいや。お前らだけでやっとけよ」

 

 そう言いつつ部屋を出ようとする太刀川。さっき入ったばっかじゃね? と疑問に思った出水は太刀川を慌てて呼び止める。

 

「あれ太刀川さんどこ行くんすか?」

「ランク戦だよ。冬月見たら身体動かしたくなってきたわ」

 

 言うや否や太刀川はいそいそと扉を開け飛び出していく。そこにはゲームを譲るという大人な考えではなく、早く()りたいという純粋な気持ちしかなかった。大学へ行け。

 

「私見てとか……酷いこと言うなー」

「まあまあ冬月先輩。早くゲームしないと貴重な休日潰れちゃいますよ? それに見てください柚宇さんの方」

 

 太刀川の失礼なセリフに口を尖らせる若菜を出水が落ち着かせようとする。ダメ押しとして視界に入った国近を見るようにお願い。応えて国近の方を見ると、既にゲームの起動準備を終えた国近が満面の笑みで待っていた。

 

「めちゃめちゃゲーム開始待ってますよ」

「若菜ちゃん。いつでも良いよ〜」

 

 ゲームに懸ける情熱が凄い。

 彼女もその熱意をほんの少しでも勉強の方に向けて欲しいものだ。彼女も割と成績やばめな学生に分類される。

 

「もう柚宇ちゃんは……。わかった、ゲームやろ」

「そうこなくっちゃ〜」

 

 

 

 ここから4時間後。活き活きとした若菜と国近、げっそりとした出水と唯我が発見されたとか。

 

 

 

 

 




書いててとても楽しかったので、その楽しさが少しでも皆様に伝わってほしいなと思います。こういう日常系はすいすい書けることが多いんですけど、ネタがなくなると速攻で手が止まるのが難点。止まらない様に頑張ります。

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