ミロスがクレタに併合された切欠である錬金術を研究する者はミロスで蔑まれていた。
クライトン一家もそのひとつであり、アメストリスが侵攻してきた際にクレタに亡命した。
そして5年前、クライトン一家が襲撃され父と母は死に、妹は行方不明になった。
そうして復讐に取り付かれた彼はクレタ軍に入り、復讐を決意する。
クレタ・ミロス・アメスリスその他大勢の思惑が絡み合い、ミロスで衝突する。
クレタ軍国境警備軍が駐屯してしる要塞。
この地はかつてミロスという宗教国家の領土だった。
しかし400年前にクレタがミロスを軍事的に占領。
その後、クレタは大地の力を自在に操れるように出来るというミロスの神話に登場する【鮮血の星】を求めて300年に渡り丘の周りをミロス人達に掘り起こさせた。
そうして丘を囲むように深い谷が形成された。
その間にクレタに星が渡ったという記録はないが上層部の反応を見るに幾つか見つかったのだろう。
現に父が研究用に持っていた星はクレタから提供されたものだ。
そして十数年前にアメストリスとの領土争いでアメストリスにミロスにとっての聖地である丘を奪われた。
そうした経緯でこの要塞には丘のアメストリス領を囲むように砲台が無数に配置されている。
「アメストリスへの不法入国者?」
「えぇ、見ておいた方がよいかと……」
グラーズ中尉が見せた写真を見て私は驚いた。
「ジュリア――!?」
写真には自分の妹が映っていた。
最後に見たのは5年以上前だがはっきりとわかる。
別れねばならなくなった決して忘れられないあの忌まわしい日だ。
両親の悲鳴が聞こえ、私は研究室の方に向かった。
研究室には血まみれになって絶命した両親が天井から吊るされていた。
そして研究室を荒らしながら研究書類を探すクレタの軍人。
奴は私を見ると狂気に歪んだ笑みを浮かべ近づいてきた。
私は咄嗟にジュリアに逃げろと叫び、奴に顔と脇腹の皮を剥がされた。
朦朧とする意識の中で私はあるひとつのものを求めた。
両親の研究の手伝いを少しながらしていた私は研究用に父が隠し持っていた【鮮血の星】を使って血を止めた。
そしてジュリアを助けようと家を飛び出した。
だがどれだけ探しても見つからず一度家に戻るとクレタ軍の兵士がいた。
曰く、警護隊がクレタ軍を裏切り私たちの家族を襲ったのだという。
警護隊長はどうなったか問うとクレタ軍が追撃したが谷に飛び降りて行方不明。
すでに捜索隊を派遣しており行方を追っているという。
まだ死んでいないことが口惜しいが仕方がないとジュリアのことについて尋ねた。
するとジュリアの行方についてはわからないと言われた。
文句を言ってやろうとしたが先に向こうから質問された。
両親の研究について知っているか?と。
手伝っていて内容も知っていると答えたら軍の基地に連れて行かれた。
そしてその研究内容について根掘り葉掘り聞かれ、私も錬金術が使えると知ると軍人にならないかと提案された。
そうすれば両親の敵討ちは軍が全面的に協力すると言って。
私はその条件を飲み、軍人となった。
そうして私の両親を殺した奴がアメストリスに密入国して隠れているとわかった。
特殊部隊を使役して排除しようとしたが奴は逃げ続けた。
なんでも奴も凄腕の錬金術師だそうだ。
やがて奴は罪を犯してアメストリスの刑務所に入った。
なんとも上手い手を使ったものだ。
幾らなんでも他国の国家施設に特殊部隊を送り込むことはできない。
最初の頃はなんとかしてその刑務所に干渉できないかと考えたが1年ほどたって諦めた。
結果としてその刑務所に見張りを配置させておくことが限界だった。
仕方なく国境警備軍としての仕事に従事することにした。
その過程でわかったことだがいかなる経緯かジュリアがテロ組織に身を置いていることが分かった。
なんとかして会いたかったが敵討ちをもっとやりやすくなるように軍内での地位を求めていたので時間がなく、狼キメラにジュリアを守るよう命じると同時にジュリアを賞金首(死亡させた場合無効)にした。
しかし今に至るまでジュリアを確保することはできなかった。
だが、手元にあるアメストリスの新聞によればクレタからの不法入国者としてジュリア・クライトン逮捕、国境のテーブルシティの刑務所に収容と書かれてある。
不法入国者としてアメストリスに捕まったのなら再会するチャンスではある。
「アメストリスにジュリアの引き渡しを打診しろ」
「ハッ!」
中尉はそう言うと部屋から出て行った。
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「なに!?それは本当か!!?」
「えぇ、あの男は刑務所から力づくで脱獄しました」
両親の仇――警護隊長だったアトラスが脱獄したと知って落ち着かせても心がざわめく。
5年前にアメストリスの刑務所に逃げられたばかりに今まで主だった対応ができなかったのだ。
しかし同時に不安もある。
なぜこのタイミングで脱獄したのか。
考えるまでもない。
ジュリアを――というよりはジュリアに焼き付けられた両親の研究成果がクレタ軍に渡らないようにするためだ。
「お前たちはあの男のなんとしてでも始末しろ。ジュリアは丘のアメストリス領だ。騒ぎを起こさず入ろうとすれば列車を利用するしかない。そこを重点的に警戒しろ」
そう言うと報告に来ていた狼キメラは唸り声をあげると基地から出て行った。
「殺す……今度こそ必ず……!!」
心の中で言っていたつもりが思わず口に出た。
ようやく仇を討てるのかと思うと口が歪んでしまう。
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結論から言うと面倒なことになった。
「鋼の錬金術師だと?」
「ああ、奴のせいでアトラスの奴を仕留め損ねた。アトラスは不法入国者と一緒に谷に落ちていった」
「クソッ!」
なんということだ!アトラスの始末をアメストリスの犬に邪魔されるなど!!
しかし鋼の錬金術師か……。
確かアメストリスの最年少の国家錬金術師。
国家錬金術師の資格を持つ者は軍人でなくても少佐相当官としての地位を与えられる。
所属としては大総統府直轄となる。
要は軍上層部に影響を与えられる立場にある。
こんな時期にこの地に来るとは面倒なことだ。
「それで?その錬金術師は今どこだ」
「アトラスを追って谷に降りた」
「それは好都合だ」
谷はクレタ領だ。
つまりは今の奴はクレタへの不法入国者に過ぎん。
不法入国者をどう裁いたところでアメストリスは文句を言えないだろう。
いや、仮にも国家錬金術師は軍属であることを考えれば味方の不祥事をもみ消す可能性の方が高い。
つまりこちらが排除しても問題はない。
「アトラスを追って始末しろ!その際に鋼の錬金術師が邪魔するならば殺しても構わん」
「わかった」
そう言うと狼キメラは基地を飛び出し谷底に駆け下りて行った。
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指令室で管を仮面に繋ぎ、目を閉じ耳を澄ませる。
――ォオーン!
狼キメラの遠吠えを機械がキャッチし、位置を伝える。
アトラスのいる位置がわかった。
「見つけた。谷底だ。西の大洞窟。次なるキメラを放て」
「ハッ!」
中尉は敬礼すると残りの狼キメラを放つ。
放たれた狼キメラ達はすさまじい速さで西の谷底に向かって駆け下りていく。
今度こそ……!
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「逃げられた?」
またしてもアトラスに逃げられたと報告がきた。
「地下水脈に紛れて匂いを断ったようです」
中尉がそのように報告する。
なるほど匂いを消されては狼の嗅覚も役に立たないか。
しかし地下水脈に行きついたのは偶然か否か……。
偶然ならばそれでよい。
だがアトラスがテロ組織と協力関係にあるならば少々面倒になる。
谷の地の利はテロ組織の方にある。
また仕留めづらくなった。
「しかし……あの男、いつの間にクライトン夫妻の錬金術を」
「殺すには惜しい男だ」
おそらく私の部屋に置いてあった両親直筆の研究所から独学で使えるようになったのだろう。
許しがたい男だが有能であることは否定できない。
そんな逸材ならばたとえ犯罪者でも恩赦をだして軍に仕えさせたいところだ。
私の両親を殺した男でなければ。
「掘削作業完了しました」
「よし、次の工程へ」
「ハッ」
地熱プラントの方は順調だ。
谷底の連中が私と私の家族を裏切り者と呼び蔑んだことを私は許す気はない。
奴らがそんなことを言わなければ私たちはクレタに移住する必要もなかった。
両親が死なずにすんだのだ。
絶対に許しはしない。
我々を苦しめてきたもの……すべてを。
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アメストリスの国境基地に火の手があがる。
さらにその後、丘のテーブルシティにも火の手が上がり始めた。
おそらくアトラスがテロ組織に聖地の秘密を明かしたのだろう。
重要な点を隠して。
しかしアトラスは何処に【鮮血の星】が練成されるのかは知らないはずだ。
それに関する情報は私と妹に分けて焼き付けられている。
既にアトラスは私の面の皮ともに私に焼き付けられた情報を得ているが。
「谷底の者どもめ、自ら滅びの幕をあけるとはな」
「ハーシェル中佐、準備はできております」
「そうか」
おそらくアメストリス軍の管制塔にアトラスとジュリアはいるだろう。
はたしてジュリアの情報を手に入れたら後、ジュリアを奴はどうするか。
その場で排除してもおかしくはない。
「キメラを放ち、テーブルシティの管制塔に向かわせろ」
「ハッ」
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SIDEエドワード・エルリック
ジュリア達は管制塔のほうに向かっていた。
聖地の秘密はてっきり地下にあると思ってたんだが違ったみたいだ。
とりあえずジュリア達に追いつこうと管制塔の螺旋階段を駆け上がっている。
「兄さん!」
アルの叫びとほぼ同時に狼キメラが2匹飛び掛ってきた。
クソッ、こいつらもしつこいな!
「お前等に用はねぇんだよ!!」
「どけぇ!!」
こいつらもジュリア達が管制塔に向かったのを知って追いかけてんのか。
ミランダから聞いた話じゃそもそもクレタがミロスを併合した理由が【鮮血の星】だから当たり前って言えば当たり前だけどよ。
「どけって言われてどく奴がいるか!!」
「黙れチビ!!」
「誰がチビだ!!!」
決めた。
俺をチビって言ったこの狼キメラだけはボコボコにぶっ倒す!
「……お前なんか地雷ふんだんじゃね?」
「知るか!!」
(なんで兄さんはチビって言われたら怒るんだろ)
何故か話してないはずのアルの心の声が聞こえた気がするが無視だ!
しばらく狼キメラ達と戦っているとシティ自体が輝き始めた。
「練成反応!?」
「まさかアシュレイたちが星の練成を始めたの?」
アルがそんなことを言っていたが、それより狼共の会話に聞き捨てならない言葉があった。
「チィ、アトラスの野郎!」
「こうなると保護対象はもう生きてねぇんじゃねぇか?」
アトラス?保護対象?
「おい、アトラスって誰のことだ?」
「ああ?知らないねぇのか?クレタ軍の裏切り者だよ!!あいつがクライトン一家を襲撃したせいでテロ組織の連中に【鮮血の星】の情報が流れたんだよ!!」
「お、おい」
クレタ軍の裏切り者?情報を流した?
【鮮血の星】の情報を持ってたのはアシュレイのはずだ。
「おまけに面の皮を貼り付けた上にアメストリスの刑務所に逃げてた卑怯者のことだよ!!」
「おい言いすぎだ」
「うるせぇ!俺はこの5年間、常にアメストリスの刑務所の見張りをやらされてたんだぞ!!」
アシュレイが実はアトラスっていうクレタの元軍人で【鮮血の星】を奪おうとした本人!?
だとしたらジュリア達が危ない!!
「おい、いったん戻るぞ!これ以上ここにいたら練成に巻き込まれかねねぇ」
「そうだな、俺たちは錬金術師じゃねぇから練成陣の範囲なんかわからねぇからな」
狼キメラ達はそう言うと管制塔の螺旋階段から飛び降り、谷底に向かっていた。
「兄さん、早くしないとジュリア達が!」
「ああ、急ぐぞアル!」
そう言うと俺たちは再び螺旋階段をのぼり始めた。
さっきよりも早く。
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狼キメラが戻ってきて私に報告した。
「なるほど」
最悪の場合、ジュリアは諦めるしかないのかもしれない。
今まで一度も会いに行く事はおろか生きていることを伝えずにいたこと謝らねばならないと思っていたのだが。
そう思っていると丘の方から鐘の音が幾つも聞こえてきた。
おそらく星が練成されとことを告げる鐘の音。
「星が生まれた。この忌まわしい谷を埋めるときがきた。新しい世界の幕開けだ」
自分が歓喜に震えているのが分かる。
忌まわしい谷を消し去る時がきたのだ。
「グラーズ、坑道を爆破する」
「ハッ、準備は完了しております」
そう言うと中尉はレバーを引いた。
すると地熱プラントが爆破され、溶岩が溢れ始めた。
さぁ谷を埋めるのだ、溶岩よ。
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谷が埋まる。
誰かが谷底で悪あがきをしているようだが時間の問題だ。
……一刻でも早く谷をこの視界から消しておきたいな。
「時は来た」
「中佐?」
「ここからは私が自分でケリをつける」
私は椅子から立ち上がりそう言った。
「ですが……」
「道案内に狼キメラを連れて行く。問題ないな」
「……ハッ」
中尉が認めたのを確認すると私は狼キメラと共に谷底へ向かった。
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谷底につくと予想外の光景を目にした。
ジュリアと動く鎧がおり、そして滑空してきた男がいた。
アトラスがジュリアに向かって攻撃をしながら地上に降り立った。
「見つけた、俺の星」
アトラスがジュリアの方を見ながらそう言った。
どういう経緯か不明だが【鮮血の星】はアトラスではなく、ジュリアに渡ったようだ。
実に好都合。
私は後ろからアトラスの頭を鷲掴みにした。
「な、なんだお前は!」
私の顔の皮を貼り付けたアトラスがそう言いながら手の錬成陣を使用しようとする。
掘削機の鉄を槍のように鋭く練成してアトラスの両手を貫いた。
苦痛に歪むアトラスの顔を見ながら話しかける。
「鮮血の星の練成ご苦労だった。私を覚えているかなアトラス警護長」
「まさか、お前……」
どうやら私の声を覚えていたようだ。
面頬をあげ、素顔を晒す。
といっても皮が剥がされ筋肉がむき出しになっているが。
「貴様に顔の皮を剥がされた、アシュレイ・クライトンだ」
私の顔を見てアトラスの顔が恐怖に歪む。
面頬を下げながら私は言った。
「あの日のことは一日たりとも忘れたことはない。貴様に顔と脇腹の皮を剥がされた私は父と母が研究用に隠し持っていた【鮮血の星】を使って生き延びた――!!」
語っている内に憎悪が湧き上がってくる。
そうだ、こいつを殺す為にどれだけ苦労したか。
この瞬間をどれだけ待ちわびたか……!!
「よくも父と母を殺してくれたな、アトラスよ!!」
「くそう、ここまできて……!」
右手でアトラスの顔を鷲掴みにする。
「あの世で父と母にわびてこい!!」
右手でアトラスを分解する。
アトラスは悲鳴をあげ、頭が敗れた水風船のように血を撒き散らして破裂した。
残ったアトラスだったものの体の部分を投げ捨てる。
「……兄さん?本当にアシュレイ兄さんなの?」
ジュリアが話しかけてきた。
「ジュリア、久しぶりだな」
「あなたが兄だと言うのなら訊かせて。どうして今まで私に生きてる事を知らせてくれなかったの?」
確かにジュリアからしたら当然の疑問だ。
しかしそうする時間がなかった。
「許せ、父と母を殺した男を始末する為だ。お前の事は狼キメラに守らせてきた」
「守ってた?」
ジュリアがポカンとした顔でそう返してきた。
いったいどういう風に守ってたのか後で狼キメラ達に訊いておいたほうがよいか。
「ジュリア、私とクレタに帰ろう」
「クレタは私の故郷じゃないわ。私を育ててくれた場所はここよ!」
「忘れたのか、この谷の連中が両親を裏切り者呼ばわりしたことを!こんな谷に未来はない」
「あるわ。私たちが創るの。造ってみせる」
「無駄な事を。この谷を埋めて軍を送り込む」
「埋めるって?なにを言ってるの?」
「聖地を我が手に。ジュリア、我々兄妹で【鮮血の星】を造り続けるんだよ」
「そいつは無理な相談だな」
場違いな子供の声が聞こえた。
声がした方を見ると少年とアメストリスの軍人がいる。
「兄さん、大佐!」
なるほど、ジュリアの隣にいるのが鎧がエルリック兄弟の弟で少年が鋼の錬金術師。
そして軍人の方が大佐か。
「おやおや、アメストリスの将校様か」
「残念だがミロスの遺跡は壊れちまったぜ」
「ん?ハハッ、それはご苦労だったな。星の練成陣は私の頭の中にある。再建するまでのことだ」
「なぜそこまで星に拘る?なにがしたいんだ!?」
「星を使って真理の扉を開く。そして未だ誰も知り得なかった新しい世界を手にするのだ」
それこそが私の目的だ。
その為だけに両親を殺され、皮を剥がされたあの日を生き延びたと言っても過言ではない。
「聖地も星も手段に過ぎん。真理こそが唯一手にするに値する。さぁジュリア、私とともに――!」
「いい加減にしろ!あんたは神にでもなったつもりか。星を飲み込んで心を喰われちまっているんだ。自分を取り戻せ!」
「ふん、禁忌を犯したものがどの口でそれを言う?」
私がそう言うとほぼ同時に溶岩が壁を越えてきた。
「壁が持たない!」
鎧が叫ぶ。
「谷は埋めさせない!力を貸してください。溶岩を止めます!」
「おう!」
「うん!」
「やらせるかッ!」
錬金術でジュリア達の体勢を崩す。
「テメェ!妹を殺す気か!!」
「お願い止めて!!」
「やれ!!」
狼キメラ達にジュリアの周りの奴等の相手をさせる。
だが、それでもジュリアは溶岩を止めようとする。
何故だ?
ジュリアの前に立ち、話しかける。
「ジュリア、我々を苦しめてきたこの愚かで醜い世界をどうしてお前は拘るのだ?」
ジュリアの肩に手を置いて優しく言う。
「さぁ、一緒においで」
「いかない。たとえゴミの山でもここは醜い世界なんかじゃないわ。私にはあなたの方が愚かで醜く見える」
ジュリアの言葉に耳を疑った。
何故だ?ジュリアもここに苦しめられ続けてきたのではないか!
「邪魔をしないで!!」
そう叫んでジュリアは錬金術で大地に接していた溶岩を固めた。
「星の力か……」
たとえ凄腕の錬金術師だとしてもこれだけの溶岩を固めるのは不可能だ。
改めてジュリアを見る。
私を睨みつけるように見ていた。
「お前だけはわかってくれると思っていたが……所詮はゴミくずどもと同じか!」
嗤いながら、溶岩を操り、谷ぞこの奴等の住居を狙った。
「ダメッ!!」
ジュリアが星の力を使って溶岩の向きを逸らす。
「ジュリア!」
「やめろアシュレイ!!」
鋼の錬金術師が溶岩を防ぐ為に壁を練成した。
だが、私が操っている勢いのある溶岩を止めるには厚みがなさすぎる。
溶岩は容易く壁を貫通した。
「ジュリアよ、兄の気持ちがわからぬのならお前も谷と共に沈むがいい!!」
「わからねぇのはそっちだろうが!!」
鋼の錬金術師が右腕の機械腕を刃物のように練成して斬りかかってきた。
咄嗟にサーベルを抜き、攻撃を防ぐ。
「ちょこまかと……」
「テメェ、本当にジュリアの兄貴なのか!?」
やかましい!
サーベルで斬りかかる。
復讐を成し遂げんが為、この5年間体を鍛え続けてきた。
たとえ人間兵器と称されるような国家錬金術師相手でも遅れはとらん!
それに私には【鮮血の星】もある!
「人の命を犠牲にして、真理を手に入れて!何が楽しいんだ!?」
楽しいかだと?
楽しいに決まっている!
我々を苦しめてきた世界を終わらす為に私は今まで生きていたのだ!
それが後もう少しで手に届く……
楽しくないわけがないだろう!!
そもそも軍属という時点で私とある種同類であるお前に言われる筋合いはない。
「では、お前の国がやってきた戦はなんだ?愚劣な殺戮を繰り返し、それを正義とする!そんな人の世など残す価値はない。俺は心理を得て!一掃してやる!!」
「テメェは単に今の現実から逃げたいだけじゃねぇか。新しい世界だと?真理は現実をぶっ壊す為の道具なんかじゃない!!」
「知ったようなことを!!」
くだらない!
なんという唾棄すべき感情論だ。
強国でなにひとつ不自由せず幼少期を過ごしてきた者の戯言だ。
サーベルで斬りつけ、鋼の錬金術師をふっとばした。
奴は立ち上がるとまたなにか言い始めた。
「新しい世界があるとしたらなぁ!それは真理の扉を開いた先にあるんじゃない。いまお前が立ってる足下にあるんだよ!!」
そう言って、斬りかかってきた。
避けたものの仮面の一部が破壊され、素顔が晒される。
するとまるで仮面で感情を抑制していたかのように激情が溢れ始めた。
「貴様!いわれのない不幸を負わされた痛みが、お前にわかるか!!」
激情がそのまま力になったかのように鋼の錬金術師の反撃を許さず、一方的に攻める。
機械腕の刃物もサーベルと破壊した。
「この私が世界を……!造り直してやる!!!」
鋼の錬金術師をふっとばし、次いで溶岩を操って攻撃する。
空中に逃れたようだが、空中では逃げ場などない。
錬金術でそのまま凍結させた。
「もうやめてぇ!!」
叫び声と同時にジュリアが私に向かって錬金術を使ってきた。
私も錬金術でそれを防ぐ。
「聖地の秘密を守りぬいた、両親の気持ちがわからぬか!?」
「守ろうとしたのは聖地じゃないわ!ミロスの皆よ!!」
谷底の奴等を守る為だと?
ありえない。
自分たちを蔑み、追いやった奴等の為になどありえない!!
互いに【鮮血の星】を取り込んだ者どうしでは純粋な錬金術の力量お勝負となる。
必然的に徐々に私の方がジュリアを押し始めた。
するとジュリアが妙な動きをした。
そして耳から外した耳飾りを見せるように前にだした。
なんだ、あれは?
なぜか見覚えがある……。
その感覚は私を幼き日の記憶に誘った。
クレタに移住する前、思い出すのも忌まわしくてこの5年間省みることもなかった谷底にいたころの記憶。
周りの人間から錬金術を研究していると蔑まれていた為、私達は危険な夜にゴミ漁りをしていた。
そんな時、ジュリアが見つけた綺麗なもの。
それで私は覚えたての錬金術を使って耳飾りを作ってあげた。
耳飾りをつけたジュリアは暫くははしゃいでいたっけ。
だが、突然左耳の耳飾りを外して私の右耳につけた。
なんでもお揃いでつけたかったようだが、なんだか気恥ずかしくてすぐ外した。
でもなにか妹に悪い気がしたので首飾りに練成しなおしてつけるようにした。
……今でも私はその首飾りをつけている。
そうだ。
あの頃は周りから蔑まれ、底辺の生活を送っていた。
だが、心は今のように復讐に取り付かれることはなく、穏やかで……幸せだった。
そのことを思い出すと夢から目覚めたように、この5年間私を駆り立ててきたどす黒い感情が消えた。
そして自問する。
私はなにをしている?
その問いに自答する。
妹を殺そうとしている。
妹との思い出の場所を消そうとしている。
迷いが生じたのがあだとなった。
錬金術の制御が乱れ、ジュリアの錬金術の光が私を襲った。
「……ジュリア」
ジュリアの攻撃によって致命傷を受け朦朧とする意識の中、首飾りが千切れてとんでいくのを見た直後、私の意識は闇に沈んだ。
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暖かい明るい光に刺激され、私は目を覚ました。
顔を手で触ると皮膚があることに驚いた。
両親を殺され、アトラスには逃げられ、ジュリアが行方不明になった戒めとして【鮮血の星】を使って皮膚を治さなかった。
しかし治療されて私は面の皮を取り戻していた。
誰がやったのだろう?
そう思い顔を横に向けると隣のベットでジュリアが眠っていた。
ベットから腰をあげようとしてようやく自分の左腕がないことに気づいた。
しかしそんなことを気にせずにジュリアに近寄り、寝顔を見ながら髪を撫でる。
この5年間、復讐に取り付かれ、ずっとほったらかしにしていた可愛い妹。
……おそらくだが私を治したのはジュリアだろう。
あれだけの致命傷を負って放置されていたら私が生きているわけがない。
となると錬金術で治療ということになるが、アメストリスの将校やエルリック兄弟が治療できるような傷ではない筈。
【鮮血の星】を取り込んでいたジュリアなら治せただろう。
……こんな風になってしまってもまだ兄として認めてくれているのか。
あれだけのことをしてなおこの妹は。
「……ジュリア」
罪悪感からジュリアから目を背ける。
すると目を背けた先に見覚えのあるものがあった。
私の首飾りと壊れたジュリアの耳飾り。
私が造った耳飾りをつけてジュリアは故郷の為、必死に頑張っていたのか。
ジュリアにとって私はずっと昔の優しい兄のままだったのだろうか。
ますますジュリアにあわせる顔がないな私は。
そう思いながら錬金術で首飾りと耳飾りを直す。
そして首飾りをつけて外に出る。
ここはクレタ軍の国境基地だな。
残ってあったクレタの軍服とその辺のものを練成してハーシェル中佐の姿をする。
あの時、鋼の錬金術師はミロスの遺跡は壊れたと言っていた。
そのことをクレタに伝えればミロスを諦めるまではいかなくても異常な執着はしなくなるだろう。
それが……私がしたことに対するせめてもの罪滅ぼしだ。
仮面で顔を隠し、私はクレタへと向かった。
【説明という名の言い訳】
>現に父が研究用に持っていた星はクレタから提供されたものだ。
オリ設定です。
そもそも【鮮血の星】が1個も見つかってもないのに300年も発掘作業をやらせるほどクレタが馬鹿とは思えないので。
>ジュリアの行方についてはわからないと言われた。
クライトン夫妻の研究内容をまったく知らなかったから谷に放り投げたとは言えませんよ。
>谷はクレタ領だ。
>つまりは今の奴はクレタへの不法入国者に過ぎん。
本当に劇場版のソユーズはいったい何を考えているのでしょう?
仮にも軍属の国家錬金術師のクレタへの密入国を黙って見ておくなど。
誰だ?こんな無能を国境の街に配置した大馬鹿野郎は。
>狼キメラの遠吠えを機械がキャッチし、位置を伝える。
どうやってアトラスの位置を特定したのかまったくわからないのでこうしました。
>SIDEエドワード・エルリック
狼キメラにジュリアを守らせてたって言ってるのに一番やばい時に来ないとは何事だ!?
それになんでエドとアルは会話を聞いてない筈なのにアトラスをこそ泥と断定してる!?
そういった原作への私の疑問を私なりに解決させてみました。