爆発オチ同然の結末で終わった修理工場の護衛任務から約1週間ちょっとが経ち、いよいよ指揮官の引退を翌日に控えたその日、俺達は司令室に集められた
「さて、G01地区南部の居住区に存在する芸能事務所を護衛していた鉄血製戦術人形の指揮権が何者かに奪われ、事務所を占拠したとの情報が伝えられた」
指揮官は普段と同じように副官の漢陽さんと指揮官代理を側において、今回の任務を説明している。けど、これが実質最後の俺達の指揮官としての任務だからか、普段よりも気合が入っているようで……彼から放つ気迫が歴戦の老兵としてのソレだ。
「そこで我々G01前線基地の戦術人形を二個小隊を派遣し、鉄血製人形を排除して囚われている事務員と所属しているアイドル人形達を救出する」
指揮官が一息つくとスクリーンを使ってで今回の作戦についての具体的なプランを説明し始めた。
今回の敵は、何者かに制御権を奪われた警護用の鉄血製戦術人形……具体的には、前衛型のリッパ―とヴェスピドが3個小隊(15体)ずつと後衛狙撃型のイェーガーが2個小隊(10隊)、小型四脚ボットのダイナーゲートが20機……これらがすべてを敵に回ったのだから、指揮官も滅多に出さない全力出撃を判断せざるえなかったらしい。
それに対して、俺達グリフィンの戦術人形部隊は二個小隊をそれぞれ、排除隊と救出隊に分けて、事務所を解放し、人形達や事務員を救出する。
具体的には事務所に正面から強襲をかけて排除隊が鉄血人形達を引き付ける。
その間に、裏口から救出隊が内部に残った敵を排除しつつ、人形や事務員達を救出する……やり方としては、初任務の時と基本は同じだ。
けど、今回は救出任務……囚われているアイドル人形や事務員達を絶対傷つけずに救出しないといけない。
敵対象は鉄血製人形とハッキリ言って作戦の危険性は桁違いに高い。G01前線基地での警備組を除けば、最大出撃数の二個小隊でダミーもフル出動させなきゃいけないのも納得だ
もしも、アイドル人形が破壊されることがあったら、彼女達のファンが黙っていない。最悪、一部の過激派がテロリスト化し、G01前線基地へ殴り込みに来る可能性があるという。
芸能事務所に過剰なほどの鉄血人形が警護についていたのも「暴徒化したアイドルファンやアイドルアンチに対する備え」と指揮官は言っていたけど、そのが制御を奪われるというのも皮肉な話だ……
「以上が今回の作戦だ……質問はあるか?」
指揮官が任務の説明を終えると俺の隣に座っている明るい茶髪をセミロングにしたAR型戦術人形……ガリルさんがゆっくりと手を上げた
「鉄血の指令設備がある警備室を制圧したほうがいいと思うやけど、そっちの方がアイドル達を安全に救出できると思うけど?」
「確かに、うちもそっちの方がいいと思いますが指揮官、どう思いますか?」
ガリルの質問に、小柄な学生服を着たHG戦術人形…Gsh-18さんも彼女の意見に同調して指揮官に疑問をぶつけると指揮官は顔をしかめて答えた。
「はっきり言うと……こちらの戦力と敵の数と配置で難しい」
指揮官がそう言って、手元のコンソールを操作するとスクリーンが芸能事務所の見取り図に切り替わると指揮官は言葉を続けた。
「見てのとおり、鉄血の指揮端末が設置されている警備室に繋がる通路が一本道な上に、制御を奪われた鉄血人形達の半数が配置されているのが確認されている」
「グランファ、下手に指揮端末を無力化しようとしたら、敵の猛反撃で逆にこっちが危険と言う事なの?」
「こちらの被害も大きくなる……少なくともここにいる誰かが一時的にいなくなるだろう」
それを聞いて、皆が黙り込んでしまった。人形とはいえ、一度死ぬのは誰だって嫌だろう
俺達戦術人形はメンタルモデルにバックアップを残しておけば、新しいボディーにそれをダウンロードして復活できる。俺のボディーも基本はIOP社製自律人形のノックダウンモデルに独自改装を加えた物で、IOP社の工場で同仕様で製造できると猫耳オバサンは言っていた
けど、バックアップが残せるという事は人形には死ぬ自由が無いともいえるが
Mk23さんの質問に指揮官は頷くと今度は指揮官代理が言葉を続けた
「ハッキリ言ってこのG01地区前線基地の戦術人形達の練度と数じゃ荷が重すぎる任務だ……普通ならな」
「指揮官代理の言葉からするとなにか俺達でも成功できる策でもあるのでしょうか?」
「もちろんだ……今からアラマキ指揮官がそれについて説明する」
指揮官達は何の策もなく任務を請け負う人達じゃないのは分かっているから、指揮官が作戦を円満に進めるための裏工作かと思っていたが……指揮官が言ったソレは俺の常識を無視していた策とすらいえない物だった
「戦術人形部隊の指揮はサクラ・カスミ指揮官に全面的に委任し、救助隊が事務員を救出すると同時にワシも事務所に突入し、警備室の指揮端末を無力化する」
指揮官の口から出た無謀としか言いようがない作戦に俺達は言葉が出なかった……指揮官、加齢で前線勤務が辛いから引退するんじゃなかったですか!?
「グランファ、年齢を考えてよ!!」
「指揮官、腰が逝っちゃいますよ!?」
「指揮官、自殺行為やで!!!!」
「指揮官……まさか、死ぬなら立ったままという風にこの任務で囮になるつもりなの!?」
指揮官の爆弾発現に指令室にいた人形達は騒然とするが、指揮官は俺達の反応を予測していたのか冷静に静かに話し始めた
「これはワシにとって最後の任務じゃ、ワシ本来のやり方……兵士のやり方で任務を遂行したいのじゃ」
「けど、いくらなんでも単独で警備室を制圧なんて無茶です!!」
「M16さんの言う通りよ、素直に本部に援軍を頼みましょう!!」
遠い目をしながら静かに語る指揮官に俺は不安を感じ、異を唱えた。いくら歴戦の戦士と名乗っても指揮官は老人だ。
一人で鉄血人形達を相手にしつつ、警備室を制圧するのは無謀すぎる。M3さんの言う通りに本部に援軍を頼むべきだ。
、指揮官は今までの静かの口調から一変して、強い口調で俺達に向かって言った
「
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アラマキは作戦領域に向かうヘリの中で自分の装備であるM1911の最終チェックを行っていた。その脇には彼の装備であるMP7と黒塗りの斧が掛けられて、出撃の時を待っていた。
そして、それらの主であるアラマキも臙脂色の制服ではなく、黒光りするボディーアーマーを身に付けていた。
「拳銃もサブマシンガン共に動作に異常なし……うん?」
ピピピピピ、ピピピピ!!!
彼はヘリ機内に取り付けられていた通信装置が電子音が鳴っているのに気づいて、通信装置を起動させるとアラマキより少し年下でヒゲを生やした壮年と表現できる男性の姿がホログラムで映し出された。
アラマキは銃のチェックを続けつつ、ホログラムに視線をずらした
「社長、この引退間際の老兵に激励の挨拶でもしにきたのかね?」
「アラマキ……本当にグリフィンを去るつもりなのか?」
アラマキが社長と呼んだ男は名残惜しそうに言うとアラマキは手を止め、顔を上げた。
「社長……それはワシに対するイヤミか?」
アラマキは口調を強めて小さく呟くとホログラムに投影された社長を睨み付けた。
社長は一瞬、殺気を感じるも冷静を言葉を返した
「アラマキ、あなたには現状の指揮官から上級代行官に出世するという選択肢もとれたはずだ……なぜだ?」
「社長、ワシは戦術指揮官のフリをしていた兵士に過ぎないよ……今のグリフィンに人間の兵隊の居場所は無いじゃないか」
アラマキの諦念ともとれる台詞に社長は何も反論はしなかなった。
アラマキも社長が戦術人形を主戦力にした理由を理解していたが、それでも前線から人間を完全に排除する事には最後まで反対した。
それが原因でアラマキはグリフィン古参の一人として。グリフィンの重役や上級代行官に就任してもおかしくない経歴にも関わらず、
ふと、アラマキは思い出したように自身が身に付けているボディーアーマーを見て、呟いた
「だが、退職祝いに贈られた強化スーツはいい物だ。全盛期とまではいかないが
「ペルシカに伝えておく、武運を祈るぞ」
社長がそう言い残すと通信が切れるとヘリのローター音がヘリの機内にBGMのように響く中で、アラマキは一人つぶやく。
「ワシに兵士として出撃する最後の機会をくれて、感謝するぞ……クルーゼ」
作中ではぼかしていますが、アラマキ爺さんはドルフロ(及びパン屋の娘)の世界観の根幹ともいえるとある事件の当事者です……そして、この作品ではレアな人外枠でもあります
次話でかつて、ELIDの群れを相手に斧と銃で渡り合ったアラマキ爺さんの最後の出撃とM16A4の初鉄血人形戦である救出作戦編です