MALE DOLLS   作:ガンアーク弐式

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余興はもうすぐ終わる……真の恐怖はすぐそこまで来ているのだから


DAY~ Scorcher ~

第二商店区

 

PMCアイゼンの傭兵達は目の前の光景に言葉を失い、手にした。

彼らの眼前には、人間の死体に紛れて、多数の人工血液で真っ赤に染まった戦術人形の残骸が舗装された道路に散乱していた。それは、つい先ほどまで居住区の住人を虐殺し、友軍であるはずのアイゼンの傭兵達を蹂躙していた鉄血兵達のなれ果てであった

そして、彼らの視線は両手にそれぞれ人工血液に濡れた大剣とレーザーハンドガンを握りしめ、鉄血兵達の残骸を苦虫を潰したような顔で見る一体の鉄血ハイエンド――エクスキューシュナーに集中していた

 

「副官、助かったぜ!!」

 

傭兵の一人がエクスキューシュナーに感謝の言葉を言うが、エクスキューシュナーは苦虫を傭兵の言葉に笑みを浮かべなかった。

そして、彼女の足元に転がっている袈裟切りにされた上半身だけのリッパーの残骸に視線を落としながら、口を開いた

 

「俺はコイツラを助けられなかった……同じアイゼンの仲間だったのに」

「気にするなよ……ハイエンドの副官と違って、鉄血兵は消耗品。鉄血から新しく買えばいいだけさ」

「アンシール、副官の前で!」

 

アンシールと呼ばれた傭兵の言葉を隣の軽機関銃を持っている傭兵が諫めるが、エクスキューシュナーは首を横に振ると言葉を続けた

 

「消耗品でも……俺にとっちゃと同じPMCアイゼンの仲間だ」

 

エクスキューシュナーはそう言って、バイザーが外れたリッパ―の残骸に近づき、片膝をつくと見開かれたリッパ―の目を手で閉じた。その様子を見たアンシールの顔から薄笑みが消え、無言でエクスキューシュナーを見る事しかできなかった

 

そして、エクスキューシュナーは立ち上がって、アイゼンの傭兵達の方を振り向いた。

生き残っていた傭兵達は十数人で、その中でも戦闘を続行できるのは半分以下だったが、その目に闘志が消えていない事を確認すると口を開いた

 

「私から指揮権限を奪ったハイエンドが居住区に潜伏しているはずだ。動ける奴は、すぐに駐屯地から駆けつけてきた援軍と合流して、奴を探し出せ……リッパ―達の仇を討つぞ!」

 

彼女の言葉に傭兵達が頷いた瞬間、エクスキューシュナーの通信モジュールが彼女に聞き覚えのある男性……PMCアイゼンの隊長、シュリングの声を乗せた電波を受信し、電脳内に響せた

 

『聞こえるか、エクスキューシュナー!!!』

「隊長、こっちは俺一人で片づけた。そっちはどうなっているんだ!?」

『さすが俺の嫁だ、こっちは南区第二路地裏で騒動の主犯らしき鉄血のハイエンドと交戦中。数は少ないが相当な手練れだ……すぐに来てくれ』

「分かった……すぐに行く。敵は第二路地裏だ……お前らは援軍と合流してからこい!!」

 

エクスキューシュナーはそう言って通信機能を切ると傭兵達の方を振り向き、叫ぶと第二路地裏に続く小道に向かって走り出した。

それと同時に北区から続くメインストリートから制御を奪われていないリッパ―やイェーガー、ガードで構成された鉄血兵部隊を見て、生き残った傭兵達は安堵すると同時にまだ、戦える傭兵達は自分達の武器をチェックし始める

 

我らがPMCの隊長の副官であり、妻でもあるエクスキューシュナーに追いつくために

 

 

 

―――――――――――――――

 

「おっと……気を抜いたら、すぐに頭かコアを撃ち抜かれそうね」

「ちょこまかと……うわぁ!?」

 

俺は死角から飛んできたネームレスが放つレーザーを紙一重で避け、愛銃で反撃するが、

奴は俺と同じように弾丸を交わすと跳躍して、ガードの後ろ側に着地。

そして、同時に彼女を庇うようにぜガードやヴェスピドがレーザーの弾幕を展開し、俺はすぐに物陰に身を隠し、AK-47さんやシュリングさんを始めとする強化外骨格を装備した傭兵達が軽機関銃や自動小銃で反撃する

 

この鉄血人形暴走の主犯らしき鉄血ハイエンド、ネームレスはハッキリ言って戦いづらい相手だ。

 

奴のの戦い方は一言でいうなら、一撃離脱戦法。

 

イェーガーのそれよりも射程距離は短いが、連射性能と精度に優れたレーザーライフルを数発撃った後で、遮蔽物や護衛のガードの後ろに隠れる。その後、イェーガーやガード達兵の援護射撃で俺達の隙をできると飛び出して、再びレーザーを浴びせてくる

 

これを10回近くを繰り返したせいで、俺とAK-47さんは先の奇襲での一撃を除いて被弾はしていないが、PMCアイゼンの強化外骨格部隊は隊長を除くと半分近くの傭兵が奴や配下と化した鉄血兵達の餌食となり、シュリングさんも先のネームレスの狙撃で右太ももから血を流していた。

 

それに対して、奴に目立った被弾は無いのに加え、頭数も向こうの方が上……完全にこっちが不利だ

 

「モグラのようにすぐ隠れてやがって、堂々と戦え!!!」

「そうだ、俺達の備品達を盾にしやがって、このポンコツ人形が!!!」

「すぐにここに副官が来れば、お前なんかすぐにスクラ……グワァ!?」

 

AK-47さんはをヴェスピドを撃ち殺しつつ叫び、それにつられるようにアイゼンの傭兵達も強がり同然の叫び声を上げながら、機関銃を乱射するもネームレスはそれに応じず、叫び声を上げる傭兵の一人の頭をレーザーで撃ち抜く。

それを見たシュリングさんは怒声を上げながら手にした軽機関銃を乱射し、ネームレスを牽制する

 

「お前ら感情的になるな、奴の思うつぼだ!!」

「あらあら、人間の傭兵はともかく、ツクモ君達は期待外れもいいところね」

 

ネームレスは裏路地の建物の物陰から物陰に跳躍しながら、シュリングさんの銃撃を紙一重でかわすと奴は冷ややかな目で俺の方を見ながら、レーザーライフルの引き金を引く。

 

すぐに物陰に隠れてレーザーを凌ぎつつ、弾切れになったM16A4の弾倉を最後の予備弾倉に交換すると同時に着前のネームレスの言葉に引っかかった。奴の狙いは一体なんだ?

俺は無意味だと思いつつも壁から少し顔を出して、ネームレスに向かっ力いっぱいて叫んだ。

 

「アイゼンの鉄血兵達を暴走させて、お前の狙いだ!?」

「あら……それを聞くなんて意外ね。あなたの憎悪はその程度だったのかしら?」

「そいつは、一体どういう意味だ?」

 

俺の言葉を待っていたかのようにネームレスは口が裂けるほどの笑みを浮かべると同時に、鉄血兵達が手にした銃器を俺に向けると同時に閃光の弾幕が俺達に迫り、俺達はとっさに物陰に身を隠した。

 

が、その隙を狙って、ネームレスが俺が身を潜める建物のすぐ近くまで近づいた。俺はとっさに愛銃の引き金を引こうとした瞬間、彼女が面白げに口を開いた。

 

「だって、あなたが作られた工場を襲撃した鉄血兵達を差し向けたのはこの私よ」

「なぁ!?」

 

俺はネームレスの言葉に俺の電脳は処理しきれず、俺は引き金を引く事が出来ずに奴の顔を目を見開いて見た。

 

 

 

コイツが工場を襲撃し……爺ちゃん達を皆殺しにした……鉄屑共はコイツの差し金……すべての元凶……ぶっ殺してやる!!!!!!!

 

 

俺の感情モジュールが俺のメンタルモデルを憎悪と怒り一色に染めると同時に、俺はM16A4の引き金を引いた。絶対に逃がすか……この場で撃ち殺してやる

 

「あらあら、随分と怖い目をするのね……っと!」

「この鉄屑ババア、よくも爺ちゃん達を!!!!!」

「その顔が見たかったのよ……ほら、こっちよ」

 

だが、俺が放った弾丸は無常にも引き金を引くと同時に後方に飛びのいたネームレスにかすりもしなかった。

俺はネームレスに追撃するべくフルオートで斉射するが、奴は弾丸を軽々と避けると同時にスカートの中から黒いナニカを取り出し、俺に向かって投げつけた。

ネームレスが投げたソレが手榴弾だと気付くには時間はかからなかった

 

「まちやが……手榴弾!?」

「M16A4、危ない!!!」

 

AK-47さんの叫びに俺は、脚部の出力を全開にして、投げられた手榴弾から飛びのき、近くの瓦礫の影に隠れようとしたが、遅かった。

 

俺が飛びのくと同時にソレは強力な爆炎と轟音と衝撃を伴って炸裂すると同時に周囲ごとを俺の身体を爆風と衝撃はで包み込むと同時に強力な衝撃を感じると同時に俺の意識は闇へと落ちていった。

 

そして、俺の意識が闇へと落ちる直前に見た物のは、侮蔑と優越感を秘めた目で「これで終わりにするつもりはない」と言いたげな笑みを浮かべるネームレスの顔だった

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

M16A4がネームレスの手榴弾に吹き飛ばされるよりも少し前の事

 

北区の空き缶や何に使った容易に想像できる割れた注射器が転がる薄汚れた路地裏でM4SOPMODⅡこと、SOPは自身が撃ち殺したリッパ―の残骸を後目に、自分の姉である二人の戦術人形達を探していた

 

「ここにイカレた鉄屑がいるの!? 早く、M4とAR15を……「「SOPⅡ!?」」

 

SOPは背後から聞こえた声にふりかえると彼女の眼前には、ピンクの長髪をワンサイドヘヤ―にした人形と一房だけ黄緑色のメッシュが入った黒髪の人形が目を丸くしていた。

彼女達を見たSOPは顔に笑みを浮かべると黒髪の人形に勢いよく抱き付いた

 

「M4、AR-15、二人共無事だったんだね!!」

「SOPⅡ、あなたも無事でよかったわ」

「M4、安心するのはまだ早いわ」

 

お互いの無事を喜ぶSOPと彼女にM4と呼ばれた黒髪の人形にピンク髪の人形が二人を諫める

 

「例の未確認の鉄血ハイエンドがこの騒動の首謀者に違いないわ」

「AR-15、それは間違いないの?」

 

SOPの質問にAR-15と呼ばれた人形――STAR-15が頷くと代わりにM4が口を開いた

 

「この居住区に設置されている監視カメラのログにこの地区で多発しているテロの現場で目撃された鉄血ハイエンドと同じ人形を写っていたの」

「つまり、例の奴をバラバラにしたら……!?」

 

SOPがM4の説明に納得した瞬間、少し離れた所で爆発音がひときわ大きな爆発音が鳴り響いた。それと聞いたSOPは爆発音が聞こえた方を振り向き、ひときわ大きな声で叫んだ

 

「南部の路地裏で爆発……!? M4、急がないとお兄ちゃんが危ない!!!」

「「お兄ちゃん?」」

「詳しい話は後、とにかく……!?」

 

SOPの言葉に目を丸くするM4達を爆発があった南区の路地裏へ案内しようとしたSOPは、背後から殺気を感じ振り返るとリッパ―を中心とした鉄血兵部隊がレーザー銃を手に彼女達に迫っていた。

 

SOP達三人はさきほどまで制御不能になっていた鉄血兵とは違い、バイザー等に隠された目から自分達に対しての敵意を向けている事に気づいた。ネームレスに制御を奪われた鉄血兵達から感じられなかった意志を彼女が宿している事に

 

それを見たM4は両手に抱えたM4A1の銃口を鉄血兵に向けると同時に叫んだ

 

「二人共、話は後! まずは眼前の鉄血兵達を倒しましょう!」

「了解、お兄ちゃん待っていていね!!!」

「分かったわ!!!」

 

M4――AR小隊長の言葉がゴングとなり、彼女達と鉄血兵達の銃撃戦が始まった

 

そして、今……鉄血の蝶が羽ばたいて、鉄血人形達が人間の手を離れた事を、彼女達を統括する存在が目覚めた事を

 




左手に怒りの火を灯したランタンを、右手に憎悪の短剣を握り占めて、彼は夜道を進む時、夜空には鉄の蝶が待っていた


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