栄斗「__えーと、湿布は......あった。」
私は彼に抱えられ、保健室に来ました。
彼は私をベッドに座らせるなり、治療の用意をしています。
紗夜「申し訳ありません......」
私はたまらずそう言いました。
初対面の人に助けてもらってしまって、迷惑をかけてしまいました。
栄斗「どうしたんですか?急に。」
紗夜「......今回、私はあの男子を止められませんでした。」
栄斗「まぁ、そうですね。」
紗夜「......はっきり言いますね。」
彼は私の言った事にあっさりと答えました。
この時の私は恐らく、悔しい、そういう感情を表した表情をしていたでしょう。
栄斗「でも。」
紗夜「......?」
栄斗「あなたは周りが見ているだけの中、貴女は一人で立ち向かったんだ。
それは、評価されるべき勇気ある行動ですよ。」
紗夜「......ありがとうございます。」
彼は私を擁護しようとしたのか、私の行動を褒めてくれました。
彼は手早く私の足の治療をしています。
栄斗「......正しいことを評価されない人間なんか俺だけで充分なんだ。」
紗夜「それはどういう__」
栄斗「はい!治療終わり!」
紗夜「え?」
私は彼の発言が引っ掛かり質問しようとしましたが、話をそらされてしまいました。
ですが、あの時の彼の表情はどこか悲しそうな顔をしていました。
栄斗「戻りましょう、多分向こうは混乱してる。」
彼にそう言われ、私たちは保健室を出て、体育館に戻る事にしました。
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私は体育館に戻る途中、彼に質問をぶつけてみることにしました。
紗夜「__さっきの話はどういう事ですか?」
栄斗「さっきの、とは?」
彼は話す気がないのか、完全にとぼけています。
ですが、私はあの表情の彼を放っておけるはずもなく、もう少し詰めてみようとしました。が
紗夜「だから__っ!」
痛めた足に体重がかかってしまい、激しい痛みを感じました。
彼はそんな私を見て、近づいてきました。
栄斗「足、痛むんでしょ?肩貸しますよ?」
イヴ「__エイトさーん!」
彼がそう言うと、体育館の方から若宮さんが走ってきました。
恐らく、彼を心配して追いかけてきたのでしょう。
栄斗「どうした、若宮?」
イヴ「サヨさんが心配だったので様子を見に!」
紗夜「そうですかありがとうございます。それと、若宮さん、さっきは止めてあげられなくて申し訳ありませんでした。」
若宮さんが心配していたのは私だったみたいです。
後輩に心配されるなんて、私は駄目ですね。
イヴ「とんでもないです!サヨさんの行動はまさしくブシドーでした!」
若宮さんは私を慰めてくれてるのでしょう。
ブシドーはよくは分かりませんが。
栄斗「あー、若宮?」
イヴ「はい!なんでしょう、エイトさん!」
栄斗「この人に肩を貸してやってくれないか?」
イヴ「はい!わかりました!」
若宮さんがそう言うと、彼から若宮さんに交代しました。
イヴ「でも、なんで交代したんですか?」
栄斗「流石に体育館に戻るのに男子と肩組んでたら奇異の目で見られるからな。」
彼が交代したのは、彼のためでもありますが、私への配慮の意味もあったのでしょう。
彼は紳士なのでしょう。
栄斗「まぁ、体育館に戻るぞ。」
紗夜「えぇ。」
イヴ「はい!」
そうして、私たちは急ぎ気味で体育館に戻りました。
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私たちが体育館に戻ると、顔合わせは問題なく進行されていました。
先生方がうまく対応したのでしょう。
紗夜「若宮さん、すいません。もう少し肩を貸していいでしょうか?」
イヴ「はい!」
紗夜「では、白金さんの所までお願いします。」
イヴ「はい!それでは行きましょう!」
体育館に着くなり、私は若宮さんに頼んで、白金さんの所に連れて行ってもらう事にしました。
白金さんは体育館の端の方にいました。
紗夜「__白金さん。」
燐子「あ、氷川さん......」
紗夜「あれから大丈夫でしたか?」
燐子「はい......特に問題なく進行できました。」
紗夜「それなら、よかったです。」
イヴ「取り合えず、そこの椅子に座りますか、サヨさん?」
紗夜「すいません、お願いします。」
私は会場の端に置かれていた椅子に座らせてもらいました。
燐子「それで......今回、氷川さんを助けた......男子は?」
紗夜「彼なら友人の人と話しているはずですか。」
燐子「一応、お話を聞かないとなので......」
紗夜「そうなのですか?」
イヴ「なら、私が呼んできます!」
紗夜「え?いいんですか?」
イヴ「はい!行ってきます!」
若宮さんは彼を呼びに行きました。
紗夜「......はぁ。」
燐子「大丈夫ですか......?」
紗夜「はい......」
燐子「足を挫いたと聞きました......」
紗夜「はい、不覚を取りました。彼がいなければ、あの男子を止められませんでした。」
燐子「氷川さんは......すごいです。」
紗夜「え?」
燐子「私じゃ......怖くて、近づけなかったと思いますから......」
紗夜「止められなければ、同じですよ。」
燐子「氷川さん......」
私たちが話していると、女子からある声が聞こえてきました。
女子「あー、あの止めに入った男子、かっこよかったねー!」
女子2「だよねー!セクハラの男子を見たときは男子ダメーとか思ってたけど。」
女子3「止めに入った子はほんっとかっこよかったー!」
女子4「その後、氷川さんを抱きかかえて行ったのも、王子様みたいだったよね!」
女子5「分かるー!私もあこがれるなー!」
女子6「確か、あの子は2年の八舞栄斗って名前だよ!二年だって!聞いてきた!」
女子「八舞君って言うんだー!」
女子3「2年!?やっばい、ドストライク!」
女子4「あんな子が彼氏がいいなー。」
彼はかなりあの件で注目を浴びたようで、女子の話題は彼の事で持ちきりになっていました。
紗夜(......かなり注目されてますね。)
栄斗「__お待たせしました。」
私が考えていると、彼が来ました。
紗夜「いえ、大丈夫です。」
栄斗「そちらの方は?」
紗夜「あぁ、この人は。」
燐子「白金燐子......です。この学校で......生徒会長を......しています。」
栄斗「生徒会長さんですか。よろしくお願いします。」
燐子「今回は......トラブルへの対処......ありがとうございました。」
栄斗「いえ、むしろ大事にして申し訳ないです。」
彼は申し訳なさそうに白金さんに頭を下げました。
本当に申し訳ないと思っているのでしょう。
栄斗「あのー、紗夜さんの上の名前は?」
紗夜「え?あ、名乗ってなかったですね、氷川です。」
彼は突然、私の名字を聞いてきました。
栄斗「氷川さんって、三年生ですよね?」
紗夜「はい。」
彼は私の学年を尋ねてきました。
彼の顔には困惑の色が見えます。
そう思っていると、すぐに彼の表情は切り替わりました。
栄斗「......それで、俺は何で呼ばれたのでしょうか?」
紗夜「......話をそらしませんでしたか?」
栄斗「いえ。で、本題は?」
紗夜「あぁ、今回は助けてくれてありがとうございました。」
燐子「私からも...ありがとうございました。」
栄斗「いえ。」
私がお礼を言うと、白金さんも続いてお礼を言いました。
彼はどこか安心した表情です。
紗夜「あ、でも。」
栄斗「うん?」
紗夜「今回の件で、あなたは注目を浴びました・」
栄斗「まぁ、結構目立ちましたしね。」
紗夜「まぁ、すぐにわかります。」
栄斗「?」
私は説明するのは面白くないといたずら心が働いてしまい、言葉を濁しました。
彼は気づいていないのでしょう、彼を見ている女子たちの視線に。
イヴ「栄斗さーん!」
栄斗「ん?なんだ?」
イヴ「一緒に料理をいただきましょう!」
栄斗「え、でも...」
紗夜「いいですよ行っても。
私には白金さんがついててくれますし。」
栄斗「あ、そうですか。では、失礼します。」
イヴ「いきましょう!栄斗さん!」
栄斗「あぁ。」
そう言って、彼は若宮さんと料理を食べに行きました。
私はそんな彼の後姿を見て、こう思いました。
紗夜(あなたが苦労するのはここからですよ。八舞栄斗君。)
燐子「氷川さん?何で笑って......?」
私は気づかないうちに、頬を緩ませていました。
横で白金さんが若干引き気味だったのが印象的でしたね。
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