八舞君に告白して、一晩が過ぎました。
どんなに時間が経っても、心臓の動きが治まってくれることはなく、ずっと、激しく動き続けています。
紗夜(......)
でも、私の気分は全く、舞い上がることはありません。
だって、もう、分かっているんです。
私は彼の目に写ることはないって。
日菜『おねーちゃん。』
紗夜「......日菜?」
日菜『少し、お話ししていい?』
紗夜「えぇ。入ってもいいわよ。」
日菜『ううん。このままでいい。』
意外なことに日菜は扉越しに話すと言いました。
紗夜「どうしたの?日菜。」
日菜『おねーちゃん。栄君に告白したよね?』
紗夜「......えぇ。」
日菜の静かな問いかけに、私は答えました。
日菜『そう。』
日菜は意外にも淡白な返事をしました。
いつもの日菜からは考えられないです。
日菜『おねーちゃん。』
紗夜「どうしたの?」
日菜『......最後まで諦めたらダメだよ。』
紗夜「!」
日菜がそう言うと、ドアの向こうから足音が聞こえました。
多分、日菜が部屋に戻ったんでしょう。
紗夜「......」
日菜がいなくなると、室内は異様なほど静かになりました。
紗夜「......無理よ。」
これのあの顔を見た後に、受け入れてもらえるなんて、思えないもの......
こうして、私の時間はゆっくりと過ぎていきました。
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月曜日です。
私はいつも通り、早めに学校に来ていました。
燐子「__おはようございます......氷川さん。」
紗夜「白金さん。おはようございます。」
私が席に座っていると、白金さんが話しかけてきました。
その時、私の携帯が鳴りました。
紗夜「!」
画面にはメールを受信したという表示。
そして、その内容は......
栄斗『今日、放課後に屋上に来てください』
でした。
私は携帯を握りしめました。
燐子「ひ、氷川さん......大丈夫ですか......?」
紗夜「え、えぇ。大丈夫ですよ。」
口ではそう言うものの、実態は全く大丈夫じゃありません。
治まりかけていた拍動がまた激しくなり、汗も止まりません。
紗夜(......最後の時、ですね。)
私は大きく深呼吸をしました。
フラれるのは分かってる、でも、もしかしたら......ありえないのに、そう期待してしまう。
もしも、私が選ばれたら、どんなに......
紗夜(いえ、考えるのはやめましょう。......フラれた時、辛くなってしまうだけです。)
私はそう自分に言い聞かせ、そう言う考えを振り切りました。
今日の放課後までの時間は、昨日からは信じられないほどに早く過ぎていきました。
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放課後、私は廊下を歩き、屋上に向かっていました。
今日の授業内容や会話内容なんて何一つ覚えていません。
ただひたすら、彼の事で頭が一杯でした。
紗夜「__着いた。」
着いてしまった。
そうとも取れる声色で私はそう言いました。
紗夜(今からここで、私は......)
今からでも泣いてしまいそうです。
ここまできて、フラれたくない、その思いが強くなってしまいます。
そう思っていると、屋上の扉が開きました。
栄斗「__お早いですね、氷川さん。」
紗夜「えぇ、好きな人を待たせるのは忍びないですから。」
栄斗「......そうですか。」
目の前には、彼、私の好きな人がいます。
本当ならさらに緊張が増すはずなのに、彼の声を聞くと逆に安心してしまいます。
紗夜「今日はあの時の返事と思っていいんでしょうか?」
栄斗「はい。間違いありません。」
紗夜「そうですか......」
沈黙。
私の口からも彼の口からも言葉が発せられることはありません。
ですが、いつまでもこうしていられないので、私は意を決して話を切り出しました。
紗夜「......それでは教えてください。あなたの気持ちを。」
栄斗「はい......」
彼は少し空気を吸って__
”分岐点"
栄斗「__俺は氷川さんと付き合うことは出来ません。」
紗夜「......やっぱりですか。こうなることは何となくわかっていました。」
栄斗「氷川さん......」
彼は今、とても悲しそうな顔をしています。
多分、私も同じような顔をしているんでしょう。
紗夜「もう、私はあなたの近くにはいられませんね。」
もう、私は彼と若宮さんの邪魔。
もう、彼の前には姿を出せません。
そう、思っていました。
栄斗「__そんな事はあり得ません。」
彼は私の考えを全否定するように力強くそう言いました。
紗夜「え、な、なんで?私はあなたにフラれて__」
栄斗「フッったとしても。氷川さんは大切な友達です!」
紗夜「!!」
彼は大きな声でそう言いました。
友達、それは......
栄斗「俺には覚悟がなかった。断れば氷川さんが離れてしまうのではないのかと。でも、それは、間違いだった。」
紗夜「......」
栄斗「どんなことがあっても、氷川さんは大切な友達だ。だから、離れる必要なんかないんです。」
離れる必要なんかない。
彼はそう言いました。
私が邪魔ではない、そう言いました。
紗夜「......あなたは優しいですね。」
栄斗「そんなことは、ないです。」
彼はそう否定しました。
でも、私は彼が誰より優しい事を知っています。
紗夜「ありがとうございました。」
栄斗「......いえ。」
彼は苦しそうな声でそう言いました。
紗夜「でも、残念ですね。あなたみたいな人には、滅多に出会えないでしょうに。」
栄斗「買い被りです。氷川さんにはもっと素敵な人が現れます。」
紗夜「どうでしょうね。」
栄斗「俺は少なくとも、そう願ってますよ。」
紗夜「そうですか。」
私は彼に笑いかけながらそう言いました。
紗夜「あなたは若宮さんが好きなんですよね?」
栄斗「な、なんでそのことを?」
紗夜「......ばれていないと思っていたんですか?」
栄斗「はい......」
なぜあれでばれないと思っているのかは謎でしたが、まぁ、彼らしいですね。
紗夜「あなたも若宮さんに告白するんですか?」
私はそう尋ねました。
告白すると、答えてほしくて。
栄斗「......まぁ、その予定です。」
彼は私の期待通りの答えを出してくれました。
紗夜「そうですか!なら、頑張りなさい!」
栄斗「氷川さん......」
笑顔を保てない。
もう、限界なのね......
紗夜「もう、いきなさい。」
栄斗「氷川さんは?」
紗夜「私はもう少し、風にあたっていきます。」
栄斗「......そうですか。」
彼は静かにそう言って、屋上から出て行きました。
私は一人、屋上に残っていました。
紗夜「__結局、フラれてしまいましたね...」
日菜「おねーちゃん......」
紗夜「あら?日菜?来ていたの?」
日菜「うん......」
私は夕日を見ながら日菜と話しました。
でも、日菜の声から気まずさが伝わってきます。
紗夜「やはり、私じゃダメだったわ。」
今にも、涙があふれてしまいそう。
もう、終わったの......?
日菜「お姉ちゃん!」
日菜が抱きしめてきました。
今の私には、色んな意味で苦しいわ。
紗夜「......放して、苦しいわ。」
日菜「嫌だよ、お姉ちゃん。悲しいときは泣いてもいいんだよ。」
もう、ダメ......
抑えられない......
紗夜「最初から分かっていたんです!八舞君が若宮さんを好きなことは...」
日菜「うん。」
紗夜「でも、諦められなかったんです!私を励ましてくれて、認めてくれた彼を!」
日菜「......うん。」
この時、何を言ったかはよく覚えていません。
でも、全てを吐き出せたような、そんな気がしました。
日菜「(栄君......お姉ちゃんをふったんだからね。イヴちゃんと幸せにならないと許さないから。)」
紗夜「日菜、ごめんなさい...」
日菜「全然大丈夫だよ!」
紗夜「仕事があって来たんでしょう?行きなさい。」
日菜「はーい!」
私は屋上から遠くの景色を見て、こう願いました。
紗夜「お幸せに......八舞君。」
さようなら、好きな人。
そして、はじめまして__
紗夜「私の、大切なお友達。」
私は笑顔でそう呟きました。