恋愛のブシドー   作:火の車

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分岐1(TRUE END)

 八舞君に告白して、一晩が過ぎました。

 

 どんなに時間が経っても、心臓の動きが治まってくれることはなく、ずっと、激しく動き続けています。

 

紗夜(......)

 

 でも、私の気分は全く、舞い上がることはありません。

 

 だって、もう、分かっているんです。

 

 私は彼の目に写ることはないって。

 

日菜『おねーちゃん。』

紗夜「......日菜?」

日菜『少し、お話ししていい?』

紗夜「えぇ。入ってもいいわよ。」

日菜『ううん。このままでいい。』

 

 意外なことに日菜は扉越しに話すと言いました。

 

紗夜「どうしたの?日菜。」

日菜『おねーちゃん。栄君に告白したよね?』

紗夜「......えぇ。」

 

 日菜の静かな問いかけに、私は答えました。

 

日菜『そう。』

 

 日菜は意外にも淡白な返事をしました。

 

 いつもの日菜からは考えられないです。

 

日菜『おねーちゃん。』

紗夜「どうしたの?」

日菜『......最後まで諦めたらダメだよ。』

紗夜「!」

 

 日菜がそう言うと、ドアの向こうから足音が聞こえました。

 

 多分、日菜が部屋に戻ったんでしょう。

 

紗夜「......」

 

 日菜がいなくなると、室内は異様なほど静かになりました。

 

紗夜「......無理よ。」

 

 これのあの顔を見た後に、受け入れてもらえるなんて、思えないもの......

 

 こうして、私の時間はゆっくりと過ぎていきました。

__________________

 

 月曜日です。

 

 私はいつも通り、早めに学校に来ていました。

 

燐子「__おはようございます......氷川さん。」

紗夜「白金さん。おはようございます。」

 

 私が席に座っていると、白金さんが話しかけてきました。

 

 その時、私の携帯が鳴りました。

 

紗夜「!」

 

 画面にはメールを受信したという表示。

 

 そして、その内容は......

 

栄斗『今日、放課後に屋上に来てください』

 

 でした。

 

 私は携帯を握りしめました。

 

燐子「ひ、氷川さん......大丈夫ですか......?」

紗夜「え、えぇ。大丈夫ですよ。」

 

 口ではそう言うものの、実態は全く大丈夫じゃありません。

 

 治まりかけていた拍動がまた激しくなり、汗も止まりません。

 

紗夜(......最後の時、ですね。)

 

 私は大きく深呼吸をしました。

 

 フラれるのは分かってる、でも、もしかしたら......ありえないのに、そう期待してしまう。

 

 もしも、私が選ばれたら、どんなに......

 

紗夜(いえ、考えるのはやめましょう。......フラれた時、辛くなってしまうだけです。)

 

 私はそう自分に言い聞かせ、そう言う考えを振り切りました。

 

 今日の放課後までの時間は、昨日からは信じられないほどに早く過ぎていきました。

__________________

 

 放課後、私は廊下を歩き、屋上に向かっていました。

 

 今日の授業内容や会話内容なんて何一つ覚えていません。

 

 ただひたすら、彼の事で頭が一杯でした。

 

紗夜「__着いた。」

 

 着いてしまった。

 

 そうとも取れる声色で私はそう言いました。

 

紗夜(今からここで、私は......)

 

 今からでも泣いてしまいそうです。

 

 ここまできて、フラれたくない、その思いが強くなってしまいます。

 

 そう思っていると、屋上の扉が開きました。

 

栄斗「__お早いですね、氷川さん。」

紗夜「えぇ、好きな人を待たせるのは忍びないですから。」

栄斗「......そうですか。」

 

 目の前には、彼、私の好きな人がいます。

 

 本当ならさらに緊張が増すはずなのに、彼の声を聞くと逆に安心してしまいます。

 

紗夜「今日はあの時の返事と思っていいんでしょうか?」

栄斗「はい。間違いありません。」

紗夜「そうですか......」

 

 沈黙。

 

 私の口からも彼の口からも言葉が発せられることはありません。

 

 ですが、いつまでもこうしていられないので、私は意を決して話を切り出しました。

 

紗夜「......それでは教えてください。あなたの気持ちを。」

栄斗「はい......」

 

 彼は少し空気を吸って__

 

 ”分岐点"

 

栄斗「__俺は氷川さんと付き合うことは出来ません。」

紗夜「......やっぱりですか。こうなることは何となくわかっていました。」

栄斗「氷川さん......」

 

 彼は今、とても悲しそうな顔をしています。

 

 多分、私も同じような顔をしているんでしょう。

 

紗夜「もう、私はあなたの近くにはいられませんね。」

 

 もう、私は彼と若宮さんの邪魔。

 

 もう、彼の前には姿を出せません。

 

 そう、思っていました。

 

栄斗「__そんな事はあり得ません。」

 

 彼は私の考えを全否定するように力強くそう言いました。

 

紗夜「え、な、なんで?私はあなたにフラれて__」

栄斗「フッったとしても。氷川さんは大切な友達です!」

紗夜「!!」

 

 彼は大きな声でそう言いました。

 

 友達、それは......

 

栄斗「俺には覚悟がなかった。断れば氷川さんが離れてしまうのではないのかと。でも、それは、間違いだった。」

紗夜「......」

栄斗「どんなことがあっても、氷川さんは大切な友達だ。だから、離れる必要なんかないんです。」

 

 離れる必要なんかない。

 

 彼はそう言いました。

 

 私が邪魔ではない、そう言いました。

 

紗夜「......あなたは優しいですね。」

栄斗「そんなことは、ないです。」

 

 彼はそう否定しました。

 

 でも、私は彼が誰より優しい事を知っています。

 

紗夜「ありがとうございました。」

栄斗「......いえ。」

 

 彼は苦しそうな声でそう言いました。

 

紗夜「でも、残念ですね。あなたみたいな人には、滅多に出会えないでしょうに。」

栄斗「買い被りです。氷川さんにはもっと素敵な人が現れます。」

紗夜「どうでしょうね。」

栄斗「俺は少なくとも、そう願ってますよ。」

紗夜「そうですか。」

 

 私は彼に笑いかけながらそう言いました。

 

紗夜「あなたは若宮さんが好きなんですよね?」

栄斗「な、なんでそのことを?」

紗夜「......ばれていないと思っていたんですか?」

栄斗「はい......」

 

 なぜあれでばれないと思っているのかは謎でしたが、まぁ、彼らしいですね。

 

紗夜「あなたも若宮さんに告白するんですか?」

 

 私はそう尋ねました。

 

 告白すると、答えてほしくて。

 

栄斗「......まぁ、その予定です。」

 

 彼は私の期待通りの答えを出してくれました。

 

紗夜「そうですか!なら、頑張りなさい!」

栄斗「氷川さん......」

 

 笑顔を保てない。

 

 もう、限界なのね......

 

紗夜「もう、いきなさい。」

栄斗「氷川さんは?」

紗夜「私はもう少し、風にあたっていきます。」

栄斗「......そうですか。」

 

 彼は静かにそう言って、屋上から出て行きました。

 

 私は一人、屋上に残っていました。

 

紗夜「__結局、フラれてしまいましたね...」

日菜「おねーちゃん......」

紗夜「あら?日菜?来ていたの?」

日菜「うん......」

 

 私は夕日を見ながら日菜と話しました。

 

 でも、日菜の声から気まずさが伝わってきます。

 

紗夜「やはり、私じゃダメだったわ。」

 

 今にも、涙があふれてしまいそう。

 

 もう、終わったの......?

 

日菜「お姉ちゃん!」

 

 日菜が抱きしめてきました。

 

 今の私には、色んな意味で苦しいわ。

 

紗夜「......放して、苦しいわ。」

日菜「嫌だよ、お姉ちゃん。悲しいときは泣いてもいいんだよ。」

 

 もう、ダメ......

 

 抑えられない......

 

紗夜「最初から分かっていたんです!八舞君が若宮さんを好きなことは...」

日菜「うん。」

紗夜「でも、諦められなかったんです!私を励ましてくれて、認めてくれた彼を!」

日菜「......うん。」

 

 この時、何を言ったかはよく覚えていません。

 

 でも、全てを吐き出せたような、そんな気がしました。

 

日菜「(栄君......お姉ちゃんをふったんだからね。イヴちゃんと幸せにならないと許さないから。)」

紗夜「日菜、ごめんなさい...」

日菜「全然大丈夫だよ!」

紗夜「仕事があって来たんでしょう?行きなさい。」

日菜「はーい!」

 

 私は屋上から遠くの景色を見て、こう願いました。

 

紗夜「お幸せに......八舞君。」

 

 さようなら、好きな人。

 

 そして、はじめまして__

 

紗夜「私の、大切なお友達。」

 

 私は笑顔でそう呟きました。

 

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