灼熱炎吐ける至高の存在に転生しちゃいました   作:こまるん

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スライムに産まれたい人生だった。

反響があれば続くかも知れません


第1話

 

 やあみんな、初めまして。

 突然だけど、ドラクエ5を知っているかな?

 親子三代にわたる壮絶な冒険劇を描いた、不朽の名作。発売から二十年以上経つ今に至ってもその人気は衰えず、近いうちに映画化までされるらしい。

 

 かくいう私も、この作品にはどハマりしたもので、プレイ時間は1000時間オーバー。仲間に出来るありとあらゆるモンスターを仲間にした。

 息子娘だけによるラスボス撃破や、ライオネックっていうモンスターの初期レベル2体だけでの裏ボス撃破。スライム3匹旅など、縛りプレイの数も枚挙にいとまがない。

 

 そんな中でも特に思い出深いのが、スライム3匹による地獄の帝王戦かな。

 たかがスライムと侮るなかれ。彼らは確に初期能力こそ最弱で耐性も皆無だけれど、育てると輝く子なのだ。スクルトルカナンといった補助呪文に始まり、ザオラルも覚える。更に鍛えあげれば、瞑想や灼熱炎といった第一線級の特技まで習得してみせる。

 

 レベル99にしてスライムの服ととんがり帽子を身につけ、(どう持っているのかわからないけど)メタルキングの剣を装備したスライム。瞑想で自らの傷を癒し、灼熱炎とドラムの乗ったメタキン剣で敵を蹴散らす…………これこそ下克上、ロマンというものだろう。

 

 おっと、話が逸れてしまったね。

 とにかくドラクエ5を愛していた私だが……いや、愛していたからこそ、どうしてもなっとくできなかったこともあった。

 

 ──父パパスの死。

 

 これは、幼年期における最後にして最も重要なイベントで、これらが主人公達の精神に大きな影響を及ぼしたのは言うまでもない。

 ゲーム上でもこの時期では有り得ない強さになっていて、どう足掻いてもたおせないようになっていた。

 しかし、当時の私は、現実を受け入れられなかった。絶望的な程に効率の悪いレベリングをこなし、圧倒的なステータスでなんとか例のボスを倒して見せた私。

 そこに待っていたのは、『あくまでストーリー上は負けた扱いになっている』という現実だった。

 

 私は泣いた。こんなに理不尽なことがあって良いのかと、幼いながらに三日は泣いた。

 今にして思えば当然のこととはいえ、当時の私には到底納得出来なかったのだ。そしてその名残は、今も燻っている。

 

 もし万が一、なんでも好きな世界に転生できるといわれれば、私はまず間違いなくドラクエ5を選ぶ。

 主人公のあまりに不憫な体験を少しでもなんとかしてあげたい。パパスに対して一言でも諌めたい。生き延びさせてやりたい。

 エゴに過ぎないそんな感情があるのは否定出来ないが、とにかく、私はあのゲーム、あの世界を愛しているんだ。

 もし本当にそこに行けるなら、なんだって受け入れるしやってやる。

 

 

 そんな私の願いは、ある日、唐突に叶えられることになる。

 

 

 

 それは、苦しかった受験生活も終え、無事春からの大学進学が決まった頃のことだった。

 

 夜遅く。バイトで疲れきった身体を引きずるようにして歩いていた私。

 そこへ、なんの前触れもなく、猛スピードで突っ込んでくるものがあった。

 居眠り運転の、暴走トラック。

 

 私の人生は、あまりにも呆気なく。幕を下ろされた。

 

 

 ──そう、人生は。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 ゆっくりと意識が浮上する。

 あれ、私は確かバイトを終わって…………

 

 ずきりとした痛みと共に、一気に意識が覚醒し、記憶が呼び起こされていくのを感じる。

 そうだ、あの時、轟音をあげて向かってくるトラックに気づいた時にはもう手遅れで。

『あーこんなにあっさり終わっちゃうんだ』ってどこか達観した気持ちで死を感じてしまったんだ。

 両親に申し訳ないと思いながらも、私は成すすべもなく宙を舞った…………

 

 ……はず、だったんだけど。

 意識があるってことは、奇跡的にも生き延びたのだろうか?

 

 周囲を確認してみる。

 見渡す限りのゴツゴツした岩壁。目線の何倍もの高さに茂った草。そして、視界の端に映る大きな湖。

 ……うん、間違いなく病室じゃない。

 いや、そもそも、日本全土見てもこんな光景ある?

 

 一旦理解出来ないものは置いておこう。

 ここはやっぱり……身体の確認、かな。

 実はさっき軽く起き上がってみようとして出来なかったから、怖くなってそれっきりだったんだけど……そうもいかないか。

 

 まずは手足を一本一本…………うーん、無い。動かないとかいうより、そもそも存在を感じられない。

 そもそも、これ顔以外ほとんど残っていないような……

 ……これ、想像をはるかに超えて不味い?

 

 いやいや、まさか。そんな状態だとそもそも生きていられるはずもない。何か、種があるはず。

 そう言い聞かせて、自身の状態に集中する。

 

 うーん…………わからん。どうも流線的というか、全体的に丸っこいような気がするんだよな…………

 

 そうだ、こういう時こそ湖を見れば!

 湖なら、鏡のようにして自分の姿を投影できる。それなら、客観的な事実がハッキリするだろう。

 

 でも、どうやってあそこまで行こう?。視界の端とは言ったものの、わりと結構な距離がある気がする。

 どうにかして……前に…………湖に…………

 

 ずりっ

 

 おっ?動いた?

 

 ずりずりっ

 

 おー!!動いた!

 よかった。とりあえず一生動けないっていうわけでは無いみたい。

 

 ずりずりっ、ずりずりっ……

 

 うーん……もうちょっと早く出来ないかな。思った以上に遠い……

 えっと、こう……意識をもっと前に、ぐいーっと……おおっ、浮いた!!

 

 ぽよん、という軽快な音ともに、地面で弾んだ感触がある。

 これは浮いたというより、跳ねた……かな。目線の高さが急に二倍以上になったから浮いたと錯覚しちゃったみたい。

 と、とにかく、これで結構速くなった。

 

 ずりずりっ、ぽよんっ。ずりずりっ、ぽよんっ……

 

 ……ふう。なんとか着いた。

 すすっと湖に体をすり寄せ、移り込む姿を…………

 

 ──は?

 

 湖に投影させた自身の姿を見た瞬間、思わず思考が停止するのを感じた。

 

 つるんと纏まった流線型ボディ。くりくりっとした大きなおめめ。口は顔の大きさの割にはかなり大きい。そして極めつけに、全身は透き通った青色に彩られている。

 

 ……いやいやいや!

 

 思わず、意識して体を跳ねさせる。湖に映るイキモノも、同じ動き。

 ゆらゆらと体をなびかせてみる。もちろん結果は同じ。

 

 ……残念ながら、映っているのは紛れもなく私だ。

 どうやら、とんでもないことが起こったらしい。

 

 お父さんお母さん、ごめんなさい。私、なんかスライムになっちゃったみたいです──

 

 

 

(つづく?)

 

 


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