灼熱炎吐ける至高の存在に転生しちゃいました   作:こまるん

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気づけばお気に入りがもう100……本当にありがとうございます。評価共々大きな励みになりまする。

さて、ようやくと言うべきか原作突入。最も愛していると言っても過言ではないこの世界を。持てる全力で今後も書いていきたいと思います。
今後ともどうぞよろしくお願い致します!





第4話

 

 

 この世界に紛れ込んでから、結構な時間が経った。

 この洞窟で出会った魔物はおおきづち、せみもぐら、ドラキーに、とげぼうず。そして、スライム。

 色々と探索してみたところ地上への道を発見した。大きな階段を登ると洞窟内を流れる川のところに出る。そこから川辺を下っていけば、外に出られるようになっているみたい。

 ただ……赤っぽい鎧に身を固めたおっちゃんがずっと見張っているんだよね。お陰で脱出は叶わなかった。

 

 けど、逆にその事が、私が今いる世界がドラクエVの世界であることの根拠の一つになる。それも、だいぶ前の時代……いわゆる原作開始前という奴か、始まって間もないという頃だろう。

 

 見覚えあるからね。幼年時代、ずっっと洞窟の前で見張り続けている鎧のおっちゃん。彼は確か、お父さんの仕事の邪魔をしてはいけないとか言って最後まで退いてくれなくて、青年時代に悲しくも村が滅んでから、ようやく居なくなる…………あれ?でも、物語開始直後に薬草屋さんのおじちゃん探しに洞窟入るよね。その時ってどうやって入ったんだっけ。

 

 駄目だ。記憶もだいぶ前の話。思い出せないや。

 それにしても、あの兵士のおっちゃん。じっと観察していたら、ずーーっと村の方に向きながら立って見張り番してるんだよね。

 見張るべきは洞窟なんじゃないかなっていつも思うんだけど……ま、まあ、魔物の鳴き声とか足音とかが聞こえたらちゃんと向き直るんだろう。きっとそうだ。

 

 

 話がそれたね。洞窟から出られなかった私は、暇を持て余しながら内部をひたすら跳ね回り、現れる魔物を倒していった。

 残念な事に、いくら私がスライムであっても、コミュニケーションを取れる存在はいなかった。倒したら消え、またいつの間にかどこかに新しく現れる魔物。

 やはり、魔王の魔力説が有力なのかもしれない。

 

 それにしても、結構お金……この世界ではゴールドか。溜まってきたんだよね。スライムの私じゃ手に余るので、1階の宝箱の陰に隠すようにして置いてある。いつか主人公くんと仲良くなれたなら、持って行ってもらいたいなって。まあ、すぐ退治されちゃう可能性もあるわけだけど……そこは、『魔物使い』の彼に賭けよう。

 

 さて、結局のところ、今やれるのは魔物を倒して強くなることくらいしかないね。洞窟を適当に徘徊する生活を続けよう。なるようになるさ!

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 原作が始まった。

 随分前のこと、ポピット?ドワーフ?どっちだったか忘れたけれど、例の小さなおっちゃんが急いだ様子で洞窟に飛び込んできて、そのまま駆け下りていったんだ。

 私の記憶が確かならば、これから間もなく主人公君がこの洞窟にやってくる。

 今走っていったおっちゃんは薬の材料を取りに行っているんだけど、その帰りが遅いから……ってことで、様子を見に来るんだ。

 それにしても、凄いよね。まだ幼い身であるのに魔物の出る洞窟に単身乗り込むんだから……

 

 さて。これは主人公君にとっては初めての冒険になるわけで、非常に大事な機会。

 彼に会ってなんとかコミュニケーションをとれないか試すってのは必須事項ではあるのだけれど、初冒険に割り込むという無粋な真似もしたくない。

 

 んーそうだな。一先ずは物陰から万一に備えて様子を伺っていて、帰り際にすがたを現すことにしようか。

 そうと決まれば、待機だ。一階の大岩の裏辺りで、来るべき時にそなえよう。

 

 ぽよんぽよんと身体を弾ませて、配置につく。

 いよいよ、ドラゴンクエストVが始まるわけだ。夢にまで見たこの展開。浮かれている部分があるとは否定出来ないが……まぁいいだろう。楽しんだ者勝ちって言葉もあるくらいだしね!

 

 

 それから待つことしばらく。ついに、外の方から小さな足音が聞こえてきた。

 逸る気持ちを抑えて、そっと岩陰から顔を覗かせる。

 小さな、けれど力強さを感じさせる足の音は少しずつ近くなっていき、ついにその姿が捉えられた。

 

 紫色のターバンを頭に巻き、若草色の服を包むように大きな紫のマントを羽織っている。

 その手には少々大きく見える樫の杖がしっかりと握られていて、一歩一歩、慎重に洞窟を進んでいるさまが見てとれた。

 

 これだけ特徴的な姿……間違いない。主人公だ。

 ここまで来れば、もう確信で良いだろう。

 国民的RPGにして不朽の名作、ドラゴンクエストV。どうやら、わたしはその世界にスライムとして紛れ込んだしまったらしい──

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 物陰からこっそりスライムが見守る中、主人公君の冒険はスタートした。

 前世でいえばまだ小学校にすら行っていないんじゃないかと思うような、幼い外見。けれど、伊達に主人公を張っているわけでは無いようで。見かけによらず結構な力を備えているらしい。

 今も……ほら。襲いかかってきたおおきづちを杖の一振りで打ち払って見せた。

 初戦こそおっかなびっくりだったものの、次からは余裕さえ滲ませて魔物を蹴散らしていく。

 いくらここが初期ダンジョンで魔物も大したことはないとはいえ、弱冠六歳(私の記憶が確かならだが)の少年が杖を振り回し単身洞窟をくぐり抜けていることに、私は戦慄せざるをえなかった。

 道中の宝箱を幾つか回収しつつ、深部へ。ゆっくりと慎重に進んでいく。

 気付けば、なんら問題なく目的地まで辿り着いていた。

 岩の下敷きになっているおじちゃんを発見し、慌てて駆け寄っていく。

 

 いやー凄い。物語として知ってはいたけど、改めて目の当たりにすると本当にすごい。

 あんなちびっ子が、自分と同じくらいの体躯のモンスター相手に怯まず立ち向かい、それを退けていくなんて。スライム感動しちゃった。

 これがこの世界の子供として一般的なのか、はたまた彼が特別なのか。

 まあ、大人しいとはいえ地獄の殺し屋とも言われる魔物の幼体を虐める子供もいるくらいだ。少なからず、前世とは人類全般としての体の強さも違うのかもしれない。

 主人公君だって、これからお化け退治もひかえているくらいだもんね。この程度楽勝で当然ってわけか。

 

 それにしても……あれだな。道中何体もの魔物を屠っていた彼だけれど、起き上がってきた魔物は全くいなかった。

 どれも、私が倒してきた魔物と同じ。ただ敵意を持って襲いかかってくるだけの、まさに魔の者って感じ。

 まぁ、ゲームでも魔物を仲間に出来るのは馬車を入手して、お爺さんと話して以降だけだったからね。けど、仲間にできないってわけでもないとは思うんだ。事情があったとはいえ、ベビーパンサーを引き連れていたくらいだし。

 

 じゃあ、私はどうなのか……ってなる訳だけれど。

 何となく、大丈夫に思えるんだ。根拠はないけどね。

 主人公くんの澄んだ瞳を見ていたら、そんな気がする。彼なら、スライムとして産まれてしまった私でも受け入れてくれるって。

 

 さて、そうこうしているうちに、薬屋のおじちゃんは猛スピードで地上に駆け上がって行った。

 ってあの人、ほんとにこんなちびっ子を洞窟に置いて行っちゃったよ!?

 プレイ中も驚いたけど、実際目の当たりにすると唖然とする。そりゃあたしかに、一人でここまで潜ってきて見せた訳だけどさ……!

 

 ちょっとポカンとしている様子の彼が、少しだけ面白い。

 姿を現すなら、今だろう。

 駆除される立場でしかない身としては正直不安な気持ちも強いけれど……大丈夫。きっと上手くいく。

 それに……最悪今が上手くいかなくて攻撃されたとしても、逃げれば良いんだ。幸い、私だって強くなっている。逃げ切るくらい訳ないさ。

 

 さあ行こう。物語は既に始まっている。

 歴代でも稀に見る熾烈な人生を送ることが確定されている、主人公くん。

 そんな彼が少しでもより良い未来を歩めるように支えること。

 それこそが、こんな場所にこんな存在として生まれ落ちた、私の使命だと思うから。

 

 

 

 

 無事任務を終えた少年の前に、ぽよんと一匹のスライムが躍り出る。

 すぐさま武器を構えた彼は、あれ?と首を傾げた。

 邪気が、無い。これまでどの魔物にも感じてきた、人間を害そうという気持ち。もれなく向けられるはずの、悪意。そういったものが、全く感じられない。

 

 不思議に思いながらも、目の前の存在を改めて見やる。

 青く透きとおった流線型の魔物。最もくみしやすい存在であり、何ら障害にもなり得ない、最弱の存在。

 けれど、まんまるの大きな瞳から感じられる力は普通じゃない。それは、幼い彼の身にもはっきりと感じ取れた。

 

 どうしたものかと考える。邪気を感じない魔物。いや、それどころか、意思疎通さえ出来てしまいそうな、そんな不思議な感覚。

 思わず彼は口を開いていた。

 

「……えっと、スライムさん……一緒に来る?」

 

 ピキー!と、元気よく答えたスライムが、その場で飛び跳ねる。

 言葉は分からないはずだが……何故か、その了承の意思ははっきりと伝わってきた。

 

 

 後に世界を救うことになる、伝説の魔物使い。そしてその最初の仲間にして最高の相棒、スライム。

 そんな二人が紡ぐ冒険譚が今、始まった──

 

 

 

 

 

 

 






主人公はリュカで行くつもりです。
スライムちゃん……どうしようか。初期案だと定番のスラリんになりますけど、もっとしっくりくるものが浮かべば変えるかも知れません。


(どうでも良い小話)
スライムちゃんはちょーっと記憶違いをしています。『お仕事の邪魔をしては行けない』と言って通してくれない人。たしかに存在するんですけど、赤い鎧のおっちゃんではないんですよね。

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